【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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16.深き絆 2/3

 

「ぐ……うぅっ……」

 

 ほとんど真っ暗闇と化したファイブナイツの体内で、エイジロウは目を覚ました。いったい、自分たちの身に何が起きたのか──努力するまでもなく、記憶が甦ってくる。

 

「!、そうだ、マイナソー……。──皆!」

「ウルセェ!!てめェ待ちだったわクソ髪!」

「カツキ……!」

 

 いつもながらの響く罵声に、エイジロウはほっと胸を撫でおろした。ファイブナイツ──つまり、騎士竜たちの息遣いも伝わってくる。

 

「どうやら俺たち、瓦礫の中に埋もれてしまったらしい」今度はテンヤの声。「今、どうにか崩さず脱出できるよう、試みているところだ」

「崩さず……?なんで?」

 

 瓦礫は瓦礫なのだから、構うことはないではないか──そう言いかけて、はっとした。

 

「ショート殿下が……生身で埋もれてるんだ」

 

 イズクの声は、わずかに震えていた。

 

 

「ッ、う……」

 

 指一本たりとも動かせない中で、ショートはうめいていた。身体が瓦礫の隙間と隙間にちょうど嵌ってしまっている。潰されなかったのは幸いだが、このままでは窒息なり衰弱なりしてじわじわ死んでいくことになるだろう。

 

(ッ、せめて、竜装……できれば……)

 

 リュウソウメイルのパワーにモノを言わせて瓦礫をずらし、ビリビリソウルを装填して一挙に破壊する──そのプロセスを思い描いて……今となってはそれが、絵空事でしかないことを自覚した。

 

(俺は……見捨てられちまったのか)

 

 モサレックスはもとより、陸から嫁婿を迎えるという母の方針に猛反発していた。ゆえに母に賛同する姉や次兄、賛同どころか海を捨てた長兄ではなく、末弟である自分を相棒に選んだのだ。

 その自分までもが、陸の……よりによってリュウソウ族の面々に、接近しようとしている。酷く裏切られたように感じたのだろう。ちょうど自分が、父に対してそういう感情を抱いてきたように。

 

「モサ、レックス……」

 

 発声とともに、脳内でもまた呼びかける。しかし返事はない。あるいは契約が切れたから、聞こえてすらいないのかもしれないと気づいて、ショートは眉根を寄せた。

 

 

 *

 

 

 

「連れてきやしたよぉ〜っ、ガチレウスさま!」

 

 努めて陽気な声を発するクレオンの背後から、ドルン兵に半ば引きずられるような形で女王・レイとフユミ王女が現れた。マイナソーにエネルギーを吸われて弱ったレイはともかく、彼女を守ろうと抵抗を試みたフユミの顔には痛々しい青痣が浮かんでいる。女性の顔に、というのはヒトの考え方であって、ドルイドンに性の分別などはない。

 

「……ガチ、レウス……」

 

 レイがか細い声で名を呼ぶ。そのアッシュグレーの瞳にはまだ、力がこもっていた。

 

「オイ、今日からこの御方はお前らの支配者だぞ!"さま"を付けろよデコ助女ァ!」

「クレオン、黙れ」

「!?」

 

 思わぬガチレウスからの攻撃に絶句するクレオンだったが、ある意味これは彼が悪い。おもねりや媚びの類が一切通じないのだ、この男は。

 

「直接相まみえるのは初めてだな、女王よ」

「……ッ、」

「!!」

 

 その声に母娘は揃って反応した。前者は懊悩に満たされたかのように、後者はただただ驚愕を露にするかのように。

 

「その、声……お父さん……?」

 

 フユミの口から零れたのは、ショートなどが聞けば色を失いかねないような言葉だった。──ガチレウスは彼女らの父であり、レイの夫であるエンジとまったく同じ声をしていたのだ。

 

「"お父さん"?我らドルイドンに子はいない」

 

 そう──ドルイドンには性の分別どころか性別そのものがない。"男"と形容しているのも声や体格などから推定されるというだけの、便宜上の話だ。ならば彼らが何より出でた存在なのか……ガチレウスはそもそも、興味もなかった。

 

「……そうよ、フユミ。この者が、私の夫であるはずがない……!」

 

 偶然、声や口調が似ているというだけのこと。──後者にしても、夫は不器用ではあるが家族に対して深い情を持ち合わせていた。このドルイドンにはそれがない。まったくの、別物だ。

 

「そんなことはどうでもいい」

 

 女王の確信を裏付けるかのように、ガチレウスは無機質な声で言い放った。

 

「ここに引き立てられた理由はわかっているだろう。降伏を宣言しろ」

「……そんなことしなくても、その椅子に座れば十分ではなくて?」

 

 人間の国家同士の戦争ならいざ知らず、力のみを尊ぶドルイドンがそのような体面を気にする必要があるのか。

 実際、命ぜられた当初はクレオンでさえそう思ったのだ。しかし行きすぎた合理性が染みついているこの男にも、プライドとそれに伴う屈辱の記憶が残されていた。

 

「かつて貴様らごときのために、我らは一度この星を放棄せねばならなくなった。その怨讐をこのガチレウスこそが果たしたと示すのだ、貴様らの屈伏を以てしてな……!」

「……ッ、」

「今一度だけ言う。降伏を宣言しろ、さもなくばその小娘から始末する」

 

 ドルン兵たちが、刃をフユミに向ける。女王本人ではなく娘を害しようというあたり、肉親のないドルイドンもヒトの急所というものを心得てはいるらしい。

 それを無視して強硬姿勢を貫けるほど、レイは女王として据わっているわけではない。しかし同時に、唯々諾々と頭を垂れるほど甘い覚悟で玉座に座っていたわけでもなかった。

 

「いずれも、させません」

「何?──!」

 

 レイの足下が光り始めて、ガチレウスはようやく異変に気づいた。──この謁見の間には、床の模様に見せて巨大な魔法陣が描かれていた。いざこういった事態に直面したとき、国民だけでも守るために。

 

「エンジさん……──私に、力を!」

「貴様!!」

 

 ガチレウスが玉座を蹴り、迫ってくる。しかしもう遅い。

 

──レイの顕現させた魔力の束が、巨大な氷山となって宮殿を呑み込んだ。

 

 

 *

 

 

 

 宮殿で途轍もない転変が起きる一方で、瓦礫の中の彼らが置かれた状況もまた悪化の一途を辿っていた。

 

「はぁ、は……ッ、く……」

 

──息が、苦しい。

 

「瓦礫にみっちり埋まってるせいで……っ、酸素が、薄くなってきてるんだ……!早く、なんとかしないと……っ」

「ッ、クソが……!」

 

 何も考えず、ただ自分たちが助かろうと思えば脱出は不可能ではない。しかしそれは、身を守る鎧すらなく埋もれているショートを犠牲にする選択でもあるのだ。

 

「何か、何かあるはずだ……!叡智の騎士として、考えなければ……!」

「アンキローゼ、皆……大丈夫……?」

 

 騎士竜たちもまた生き物──同じ危機を迎えていることは、言うまでもなかった。

 

 

──そして、ショートも。

 

「ッ、は……はぁ、は……っ」

 

 彼もまた、喘ぐようにしながら懸命に酸欠と戦っていた。ここで自分がこのまま死ねば、家族の身柄も危うい。そしてその果てに、海の王国はガチレウスによって不可逆的に征服される──見るまでもなく、それは確信しうる現実だった。

 

 それを覆すには……自分を、この国を見捨てたモサレックスの力が、どうしても必要だった。

 

(モサレックス……俺は、)

 

 ショートは今一度、モサレックスの心を思った。物心ついたとき既に父がいなかった自分に、何かと目をかけてくれたこの国の守護神。幼かった自分を騎士に選び、厳しくも温かく鍛えてくれた。

 

(俺はあなたを、父のように思っていた。あなたと同じものを信じて、戦ってきたんだ)

 

 けれど今日……自分は初めて、彼の記憶とは異なるものを見てしまった。

 

(聞いてくれ、モサレックス……!)

 

 再び、力を込めて念を送る。もう届かないとしても、一縷の望みにかけて。ショートはあきらめなかった。

 

(あなたのつらい記憶を、否定するわけじゃない……。でも俺の見たあいつらは、戦うために戦うだけの蛮族じゃなかった……!あいつらはなんの縁もないこの海の王国を、そこに生きる俺たちを、命がけで守ろうとしてくれていた!俺は……俺は…信じてみたいんだ!自分の目で見たものを……あいつらの言葉を!!)

 

(もしそれが間違っていたら、俺は全力であいつらを止める……!だから一度、俺に……俺たちにチャンスをくれ!初めて出逢った未来への希望を、信じさせてくれ!!)

 

 それは声にならないものでありながら、文字通り血を吐くような叫びだった。酸素不足も手伝い、強烈な頭痛が襲ってくる。身体から急速に力が抜けていく。──なんとしても生きて脱出しなければと思うと同時に、言うだけのことを言ったのだという爽快感があった。あとはもう、モサレックスの心ひとつに身を任せるだけだ。

 そうして、どれほどの時間が経ったか。

 

『──愚かな』

「!!」

 

 朦朧とした意識の中にモサレックスの声が響いて、ショートは目を見開いた。

 

 

「は……っ、は……はっ」

 

 ファイブナイツの中に閉じ込められたも同然のエイジロウたちは、いよいよわずかな酸素を求めて喘ぐばかりとなっていた。そんな状態では、この危機を脱する良策を──叡智の騎士といえども──思いつけるはずがない。悪循環の中で、彼らはそれでも皆が助かる道を模索し続けていた。

 

(絶対、あきらめねえ……っ。俺たちも、ショートも……っ、たす、か……)

 

 そこで、エイジロウの意識がふっと落ちかける。もはや一刻の猶予もないとなった直後、()()()は響いた。

 

『──強・竜・装!!』

 

 刹那、電光が瓦礫の中までもを照らし出す。──分厚い瓦礫が、一瞬にして砕かれていた。

 

「皆、まだ生きてるか……!?」

「ッ、ショート……殿下?」

「無事、だったのか……!」

 

 無事──それだけではない。ショートは再び、リュウソウゴールドにその姿を変えていた。昏い海底にあってもきらびやかに輝く黄金と、高貴な青の入り混じった鎧。その背後には、同じ色の身体をもつ騎士竜モサレックスの姿もあって。

 

「瓦礫を完全に打ち砕く、少し衝撃があるかもしれないが耐えてくれ」

 

 そう言って、モサチェンジャーの銃口を向ける。いずれにせよ、今は動けない。彼を信じるほか、ない──

 

「──サンダー、ショット!」

 

 放たれた電光球が、瓦礫の束に吸い込まれていく。そのエネルギーが着弾箇所からヒビを広げていき、

 

 それが完全に消散する頃には、瓦礫のほとんどが塵と化していた。少なくとも、ファイブナイツの巨体の動作を制限できるほどのものはもう、ない。

 

 ファイブナイツがゆっくりとその身を起き上がらせていく。と同時に、それぞれの体内からリュウソウジャーの面々が飛び出してきた。このまま再戦に向かうなら必要なかろうが、やはり直接ショートやモサレックスと相対したかったのだ。

 

「……待たせちまってすまねえ。モサレックスに、認めてもらった」

「!、モサレックス……!」

 

 皆の視線が集中するや、モサレックスは「勘違いするな」と言い捨ててそっぽを向いた。

 

「おまえたちを認めたわけではない。……ただ私は、ショートに過去の昏い記憶を植えつけるばかりで、明るい未来というものを教えてやることができなかった。にもかかわらず、この子は自らそれを見出したのだ」

 

 それは与えられるばかりだった幼子の成長にほかならない。結果として道を違えたとしても、その独り立ちを喜び祝うべきなのだ……親代わりで、ある以上は。

 

「おまえたちのことは……まあ、保留だ」

「ほ、保留……」

「けっ、エラそーに」

「へへっ、良いじゃねーか。もう実質、認めてもらったようなモンだぜ!」

 

 ショートの希望を、自分たちが裏切ることは絶対にないのだから。

 

「っし、行こうぜ。この国を──守るために!」

「……ああ!」

 

 ただ、そのために。

 

──六人のリュウソウジャーと騎士竜たちが、ともに走り出した。

 

 

 *

 

 

 

 凍りついた宮殿の、その外郭。アスピドケロンマイナソーはすぐ傍までもを覆う氷山に見向きすることもなく、静かに佇んでいた。受けた命令に、この状況への対処は含まれていない。

 命令を忠実に執行する駒であること。ガチレウスが配下に求める条件であった。その切札たる彼、あるいは彼女は徹底的に教育され、結果として今、主人の異変に際しても微動だにしない。

 

 アスピドケロンマイナソーが命じられているのは、宮殿周辺の監視──そして、外敵の"処理"だけだ。

 

 その"外敵"が、姿を現した。

 

「うおおおおおッ、リベンジだティラミーゴぉ!!」

「ティラアァァ!!」

 

 急迫するキシリュウオーファイブナイツの姿を前にして、アスピドケロンマイナソーは甲羅から首を突き出し、浮上を開始した。

 

「ギイィエェアァァァァ!!!」

 

 そして威嚇するように、耳を劈くような咆哮を発する。大きく開いた口から超高温の炎弾が放たれることは学習済みである──そのうえで、真正面を突き進むのだ。

 

「トリケーンカッター!!」

 

 実際に放出された赤熱の塊を、トリケーンカッターで弾き返す。少なからず衝撃が、体内のレッドたちをも揺さぶった。

 

「ッ、やっぱきちィぜ……!」

「ファイブナイツも先程の戦いでかなりのダメージを受けている……。長くは保たないぞ!」

「大丈夫……!──今度は"彼ら"と、一緒に戦えるんだから!」

 

 そう──ファイブナイツの背後から、黄金の騎士竜が急接近しようとしていた。

 

「宮殿が、氷漬けに……」

「レイの魔法によるものだろう。ガチレウスの力を考えると、破られるまで猶予はないぞ」

「なら、その前に倒すしかねえな」

「………」

「モサレックス?」

 

「……ショート。今こそおまえに、我が真なる姿を見せるときかもしれん」

「!、……真なる、姿?まさか──」

 

 半ば伝説として、聞いたことはあった。モサレックスには七つの海の守護者たる、海神の姿があるのだと。

 

「──我がもとへ集え、騎士竜アンモナックルズ!」

 

 その勇ましき呼び声に呼応するようにして……海底が、揺れた。

 

「これは──」

「………」

 

 地を割るようにして、飛び出すふたつのシルエット。それらは見るからに硬い漆黒の殻に身を覆った、鏡写しの騎士竜たちだった。"竜"と形容するには、頭足類にしか見えない姿かたちをしてはいるが──

 

「ショートよ。我らの力、おまえの騎士たる源とひとつにするのだ!」

「……わかった!」

 

 ゴールドリュウソウルを手にとり──突き上げるようにして、掲げる。

 

 

「竜装……合体!!」

 

 

 巨大化したゴールドリュウソウルを呑み込み、モサレックスがその姿を変えていく。長く逞しい四肢をもつ、人型の巨人──キシリュウオーと似た姿。接近するアンモナックルズは、巨大な拳となって融合を遂げる。

 そしてモサレックスの頭部が大きく開き──内部から、巨人の顔が現れた。

 

「これが、モサレックスの真の姿……」

「──"キシリュウネプチューン"。それが我の名だ」

「……そうか」

 

「──ともに行こう、キシリュウネプチューン!」

 

 海の平和を守るため、今、海神が立ち上がった。

 

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