「──いい加減に……しろおぉぉッッッ!!!」
響き渡る怒声に、ボルテージが最高潮に達しつつあった場がしいんと静まり返る。何故ならその声の主が怒鳴るのは、戦場を除いてはめったにないことだったから。
「い、」
「いず、」
「デクくん……」
「ティラァ……」
デク──イズク。疾風の騎士・リュウソウグリーンであり、カツキの幼なじみでもある少年。コタロウを除けば最年少にも見える幼い容貌と穏和な振る舞いは、チームの清涼剤と言っても良い。
そんな彼が今、楕円形の大きな翠眼を怒らせ騒擾の中心を睨みすえていた。
「……かっちゃん」
「ン……だよ」
「まずきみがいちばん悪い」
端的にも程があるひと言に、うぐ、と唸るカツキ。イズクがこうまで怒鳴るのは臨界点を踏み越えてしまったときなのだと、付き合いが長い以上よく存じていた。それがどんなに恐ろしいことかも。
「ちょっと気に入らないことがあるからってさあ、きみはひとに突っかかりすぎなんだよ。それでどれだけ要らない災難に巻き込まれたと思ってんの?自分ひとりでケツ拭けるなら良いよ、でも散々僕やみんなに迷惑かけてるよね?しょっちゅう解決も押しつけてるよね?それでごめんもありがとうもないっていったいどういう神経してるの?木偶の坊なの??」
「……ッ、」
たまに見せる独り言のようなマシンガントーク。しかしその言葉ひとつひとつが毒の塊である。カツキが反論せずに黙りこくっているのを目の当たりにして、エイジロウたちもこれはいよいよ大変なことになったのだと思い知った。
「それとショートくん」
「!」
「きみの責任は10のうち1くらいだけど……さっきから聞いてると、言葉選びがあまり良くないよ。普通の人ならまだしも、蛮族相手にはもっと考えて喋らないと」
「お、おう……悪ィ」
「──モサレックス、ディメボルケーノ」
「!!」
豆粒のようなリュウソウ族相手に、激していた二体はぎくりと身体を揺らした。
「きみたち、かっちゃんとショートくんにかこつけて喧嘩してるけど……いったい、何があったの?」
彼らに対してのそれは、叱責ではなく問いかけに近いものだった。カツキの感情は単に気に入らないというものだろうし、対するショートは良くも悪くも天然なのだろうことも察しがつく。しかしこの騎士竜たちの相剋については、多少の想像は及ぶにしても本当のところはわからないのだ。
そういえばディメボルケーノは先ほど、モサレックスを"元兄弟"と呼称していた。
「きみたちは元々、親しい関係だったんじゃないの?」
「!、………」
「……ああ、その通りだ」
一転、落ち着いた声で答えたのはモサレックスだった。
「かつての戦いの頃……私とこのディメボルケーノは肩を並べてドルイドンに立ち向かう中で、義兄弟の契りを結んだのだ」
いずれも騎士竜の中ではとりわけ深い思考の持ち主であるだけあって、意気投合するに至った。それにしても義兄弟とは──なんというか、とりわけエイジロウの心に刺さるワードではあるが。
「しかし……おまえたちも聞いたかもしれないが、この星に隕石が落ち、ドルイドンが去り……残されたリュウソウ族たちは、互いに争いはじめた」
確かにそれは、レイ女王から聞いた話だった。結果としてリュウソウ族は陸と海に分かれ、6,500万年もの間、交わることはなくなったと。
「私はおまえたち陸のリュウソウ族に失望し、海の側についた。だが此奴は……ディメボルケーノは、陸についたのだ!義兄弟であるはずの私に、何の相談もなく!!」
声を昂らせるモサレックス。これにいったんは沈黙したディメボルケーノが噛みついた。
「なんの相談もなかったのは貴様が先だ!だいたい貴様は、陸と海の間を取り持とうともせず、一方的に海に肩入れをした……!陸の連中は争いを好むと言いながら、争いを助長するような真似をしたではないか!」
「貴様……!言うに事欠いて!」
「それはこちらの台詞だ、愚か者めがぁ!!」
再びヒートアップする二匹の騎士竜。流石にまずいとティラミーゴたちが間に入ろうとするが、その必要はなかった。
「だから……いい加減にしろって言ってるだろっ!!!」
イズクの怒りが再び爆発し、二大騎士竜も──当然、カツキとショートも──姿勢を正さざるをえなかった。
「……そんなに喧嘩したいなら、すればいいよ」
「何っ?」
「お、おいイズク!?それじゃあ──」
「──ただしッ!!」
ビシィ、と効果音をつけたくなるような声だった。
「やるなら、ちゃんとしたルールで勝敗を決めること。そして勝ったほうが負けたほうになんでもひとつ命令できる!その代わり、どちらが勝ってもお互いを仲間と認めること!──良いね?」
「ア゛ァ!?ンなモンー「 良 い ね ? 」………」
笑顔の圧に、ふたりと二匹は敗北したのだった。
*
と、いうわけで。
「東ィ、カツキ&ディメボルケーノチーーーム!!」
「そもさん、汝に問う……なんだこれは?」
「俺に訊くなや」
あたふたしているディメボルケーノと死んだ魚のような目をしているカツキ。それに対して、
「西ィ、ショート&モサレックスチーーーム!!」
「本当になんだこれは?」
「わかんねえ」
流石は元義兄弟と言うべきか、ディメボルケーノと同様の当惑を見せるモサレックス。ショートは相変わらず涼しい顔である、感情が見えない。
「実況はスリーナイツの皆さんとコタロウくんです!よろしくお願いしまーすッ!!」
「よ、よろしく」
「………」
「オレも、やるティラ〜!!」
"騎士竜代表"と古代語で書かれたのぼりを背負って──どこから出してきたかは突っ込んではいけない──飛び出してきたティラミーゴ。彼も実況に加え、イズクは司会進行を続けた。
「それでは第一試合を始めたいと思います!種目は魚捕り!制限時間は十五分、多く獲ったほうの勝ちです!!」
「ハァ!?デスマッチじゃねえのかよ」
「それはもうやったでしょ」
確かに邂逅の当初、早速反目しあったカツキとショートは模造剣を使った剣闘を行った。カツキが騙し討ちキックでショートの仮面を弾き飛ばしたところで水入りとなり、決着はついていないのだが。
「ただでさえ徒歩で南の大地へ向かわなきゃならないんだから、万が一にも怪我人が出るようなことは避けたいの!だから当然、相手陣営の妨害も禁止ね。あくまで自分たちの捕獲数を増やすことだけ考えて!」
「チッッッ!!」
「わかった」
反応は対照的だが、もはややらざるを得ない流れ。幸いにしてここは海の中である、魚はそこらじゅうに泳いでいる。
「では位置について!用意……」
「……徒競走?」
「──ドン!!」
そして、両陣営が動き出した。
「ディメ公てめェが追い込め、俺がまとめて分捕る!!」
「!、カツキ……」
「こうなりゃ絶ッ対勝つんだよ!!」
カツキ少年の負けず嫌いは、剣戟以外でも常に発揮される。ディメボルケーノもまた、それにあてられた。
そして対立陣営の殿下も、やはりそういった性質はきっちり持っていて。
「魚捕りなら昔から散々やってる。モサレックス、いつも通りいくぞ」
「うむ……!」
敵陣への妨害が禁じられている以上、まずはお互い手当たり次第に数を稼ぐ手段に出た。東軍はカツキの言った通りディメボルケーノが魚群を捉え、カツキのもとへ追い込んでいく。そこに、
「オモソウル!!」
『オモソウル!ドーーン!!』
次の瞬間、魚たちが海底に叩きつけられた。這いつくばるような状態になったまま、再び泳ぎだすことができない。
「ムッ、カツキくんはオモソウルを使って魚たちを縫い付けたか……!」
「流石やなぁ……」
「あ……でも、ショートさんたちも」
コタロウが指差す先では、ショートとモサレックスも順調に数を稼いでいた。
「ヌゥン!!」
力の入った掛け声とともに尾を振るうモサレックス。と、波がまるで旋風のように揺らいで泳いでいた魚たちを巻き込んでいく。彼らは逃げることかなわず、水流の檻に閉じ込められてしまった。
「──リュウソウチェンジ」
『ケ・ボーン!──リュウ SO COOL!!』
すかさずショートがリュウソウゴールドに竜装し、
「ビリビリソウル、」
『ザッバァァァン!!──ドンガラ!ノッサ!エッサ!モッサ!』
『めっさ!ノッサ!モッサ!ヨッシャ!!──この感じィ!!』
黄金の鎧が、リュウソウメイルをさらに上から包み込む──
「強竜装……!?いったい何をする気なんだ、彼は?」
竜装のさらに上を行く力、この局面でどう使うつもりなのか。実況一同、まったく想像がつかない。
そういう"特別な力"あるいは"仰々しいもの"と捉えているのだから、想像のしようがなかったのだ。
「──はっ!」
モサレックスによってつくり出された渦潮めがけ──電光弾を発射する。途端に魚たちは感電し、やはり海底へ墜落してきたのだった。
「うわっ……」
「えげつねえ、ティラ〜!」
「安心しろ、峰打ちだ」
「峰打ち……?」
ともあれ、
「──終〜了〜!!」
十五分などあっという間に経過した。イズクの声が響き渡り、そこから開票……もとい捕えた魚の勘定作業が開始される。
結果は、
「44対36で、ショート&モサレックスチームの勝利〜!!」
「……勝った」
「当然の結果だな」
ショート&モサレックスチームがどや顔でハイタッチ──と言えるかは微妙だが──を決める一方で、
「ふ、不覚……っ」
「ク、ッッッソがぁぁぁぁ……!!」
白目を剥き、これでもかと吊り上げるカツキ。こめかみに浮かんだ血管が今にも切れてしまうのではないかと、エイジロウなどは要らぬ心配をした。
「お、落ち着けってカツキ!まだ次があるだろ?」
「完ッ璧に勝ち殺さねえと意味ねえんだよッ、だぁってろクソ髪!!」
「……もうこの人の敗けでええんちゃう?」
「人格で大きく水を開けられているのは……確かだな」
ともあれ、時局は第二試合へと移った。
「第二試合はぁ〜、料理!対決ゥ!!」
テンションのおかしいイズクによって、試合内容が宣言された。
「両チームには先ほど獲った魚で今日の夕ごはんを作っていただきます!制限時間は三十分!審査員のつけた点数を合計して高かったほうの勝ちです!」
「審査員って……俺たち?」
「今度は僕も参加するよ!」
夕食にありつきたいだけなのではないか。
「ってわけで、両チームとも位置について!」
「だから、徒競走?」
いつの間にか用意されたおあつらえ向きの調理場にて──対決が、開始される。
先に動いたのは、カツキだった。
「チーサソウル、」
『ミニミニっ!』
彼がチーサソウルを使用したのは、ディメボルケーノに対してだった。その身が肩に乗るほどのサイズにまで縮小していく。
「ぬおっ、いきなり何をする!?」
「でけェままだと邪魔になンだよ、いーから手伝えや」
「……まったく。それで、何をすれば良い?」
「この魚ァ焼くんだよ。海ン中じゃ弱まるっつっても、出ねえことはねーだろ、火ィ」
むしろ丁度いい塩梅になるのではないか──カツキはそう考えた。
「なるほど……。良かろう、任せろ!」
カツキたちのプランが決まった一方で、
「……どうする?」
「何故……私に訊く?」
「だって……」
料理など、ショートはしたことがなかった。カツキの見よう見真似でやろうにも、"焼く"という肝心要の調理法がこちらは使えない。結局彼らは少し相談して、モサレックスの切れ味を活かした刺身にすることにした。
「おお、ショートくんたちも始めたか!」
「カツキはカツキで、やっぱ手慣れてんな……流石、才能マンだぜ!」
カツキは明確なプランを立てるだけでなく、きっちり持ち歩いていたらしい調理道具を活用して魚を捌いている。先ほどまでキレ散らかしていたとは思えない器用で落ち着いた手つきである。
「ショートさんたちは……豪快ですね」
コタロウの物言いはかなりオブラートに包んだものだった。ショートが魚をぶん投げ、モサレックスが目にも止まらぬ尻尾の薙ぎでそれを切り裂いていく。ただその手腕?は見事なもので、切り刻まれた魚は綺麗な刺身に変わっていく。
「愚か者めがぁああああ!!」
叫ぶミニディメボルケーノが火を吐くと、捌かれた魚の切り身がこんがりと焼ける。水中ゆえに威力が弱まっていることが、かえって幸いしているらしい。
「何が愚か者なんだよ」
「こう叫ぶと火を出しやすいのだ!」
「あっそ」
鼻を鳴らしつつ──今度は荷物から、調味料を取り出す。どうせ食うならと、カツキは味にもきっちりこだわるタイプであった。
「どっちも、うまそうティラ〜!!」
叫ぶティラミーゴ。彼の視線の先には──左に焼き魚、右にお造りの皿が並べられている。
「でもショートくんチームのやつ……め、めっちゃ豪華や……!」
「色とりどりの切り身が並んでいる……!こんな料理、見たことがない!」
「確かに……あっ、でも俺はシンプルな焼き魚も好きだぜ!」
「フン、そーかよ」
鼻を鳴らしつつ……ニヤリと笑うカツキ。勝利を確信していたショート&モサレックスチームも、すぐにその意味を理解することになる。
「うまい、ティラ〜〜!!」
刺身を食して喜ぶティラミーゴ以下騎士竜たちに対し、
「ムッ?これは……」
揃って微妙な表情を浮かべる少年たち。見た目は抜群だし、風味は悪くない。総じて不味いわけではないのだが、
「なんつーか、魚まんまって感じだなぁ……」
「ちょっと生臭いね……」
「あかん、これ私あかんわ……」
「僕は好きですけど……何か調味料が欲しいですね」
そう──何も加工をしてない以上、魚独特の臭みはそのまま発揮される。それを消すのが調味料なのだが、ショートたちは何も持っていなかった。海のリュウソウ族たちは魚介を生食する機会が多く、味付けを軽視していたのだ。
結局、ショート&モサレックスチームに与えられた点数は28点──10点満点×6(騎士竜たちはティラミーゴが代表)なので60点満点中である──にとどまった。
そしてカツキ&ディメボルケーノチームの焼き魚はというと。
「──美味いッ!!」
「もっとうまい、ティラ〜〜!!」
皆の箸……もといカトラリーを持つ手が、震えた。
「外はホクホク、中はジューシー……!」
「味も絶妙に香ばしくて……」
「──最ッ高だぜ!!」
「シンプルイズ、ベスト……」
皆の称賛に、カツキとディメボルケーノは顔を見合わせて……笑いあった。
──結果は、54点vs28点。カツキ&ディメボルケーノチームの、圧勝であった。
*
夕食を食べれば、あとは休んで翌日に備えるだけである。皆、岩肌の陰にて野営の準備を始めていた。
「てめェ魚捕りで勝ったからってチョーシ乗んなよ、次で完膚なきまでに叩きのめしてやる!!」
ビシィ、と効果音をつけたくなるほどの勢いで宣言するカツキに対し、ショートは淡々と「敗けねえ」と応じる。温度差……と言うよりは、性格の問題だろう。その証拠に、料理対決のあとはショートもそれなりに落ち込む様子を見せていたので。
「つーかよイズク、第三試合は何やらせる予定なんだ?」
問題はそこだろうと思い、訊くエイジロウ。しかしあれほど熱を入れて司会進行をやっていたイズクは、えへへと苦笑いを浮かべて頬を掻いた。
「実は、まだ考えてなくて……」
「ええっ!?」
「なんだかんだ、かっちゃんが完封するかなぁと思ってたんだけど……ショートくんとモサレックス、思った以上にすごかった」
「……やっぱカツキへの信頼がスゲェなぁ、おめェ」
あれだけ怒ったりぞんざいに扱われたり、そもそも失礼極まりないあだ名で呼ばれ続けていたりしても、幼少期から行動をともにしているゆえの感情の重みというのは厳然と存在しているのだ。──エイジロウ自身にも、そういう存在はいた。
「ふむ……ならばちょうど寝るところでもあるし、熟睡対決というのはどうだ?」
「平和的だぞ!」とテンヤ。それは否定しないが、平和的……というか牧歌的すぎて勝負にならないのではないか。
「じゃあじゃあ、寝たら起きない対決がええんんちゃう?寝てるふたりをくすぐったり、顔に落書きしたりして、起きなかったほうの勝ち!」
「……それ、あなたがやりたいだけじゃ?」
「ちょっとまつティラ!ディメとモサのこと、わすれてるティラァ!!」
そういえばそうだ、これはあくまでチーム対抗戦なのだ。
「あはは……やっぱり、寝ながら考えるよ。皆が最終的に納得できる形じゃないと、意味ないもんね」
いちばんの問題はディメボルケーノとモサレックスの対立である。6,500万年の積み重なった想いを、少しでも吐き出させてやらなければ。
イズクはイズクなりに考えていた。ただ、怒りを爆発させたわけではないのだ。
──とはいえ皆、慣れない海での生活に疲れてか、いざ寝床に入るとあっという間に熟睡してしまっていた。
「くかあぁ……」
「うぅむ……」
「おもちがいっこ……おもちがにこ……」
「………」
一方のショートは妙に目が冴えてしまい、眠れずにいた。旅立ち初日の夜、このように野宿?するのは初めてでもある。慣れない環境に神経を逆立てる程度の繊細さは、彼にもあった。
「……はぁ、」
ため息をつきつつ、彼は結局寝床を抜け出した。──それに気づいた者がいたけれど、彼
向かった先は、同じように黄昏れている相棒のところだった。
「眠れぬのか、ショート?」
「ああ……。あなたもだろ、モサレックス」
「まあな」と曖昧に頷くモサレックス。実際騎士竜にどの程度の睡眠が必要なのか、ショートにもよくわかっていない。食事にしてもそうだが、"できる"というだけで実際にはその必要もないのかもしれない。鋼鉄の身体である以上は。
「なあ、モサレックス。……まだ一日だけだけど、俺はあいつらと一緒に旅に出て良かったと思ってる」
「……あのカツキとかいう小僧に、邪険にされてもか?」
「ああ」即答だった。「あいつとは、もっと仲良くできればと思ってる。……でも、先に突き放したのはこっちだ。信頼してもらえるように、これから頑張るしかねえ」
「………」
「あなたも本当は、モサレックスと仲直りしたいんじゃねえのか?」
モサレックスは沈黙したままだった。明確な肯定はないけれど、否定はしない。迷うところもあるのだろう。
「……6,500万年ぶんの溝を埋めるのは、容易いことではない。元々水魚の交わりをしていれば、尚更だ」
「……そうかもな」
「でも……時間がかかったとしても、いつかちゃんと、仲直りできると良いな」
そう言って、ショートは微笑んだ。──ああ、やはりそうだ。この少年はズレたところもあるけれど、他人のために心を砕ける優しさをもっている。ただ自分の思想を吹き込みやすいからではない、そういう英雄の資質をもつ子供だと思ったから、
「………」
そんなひとりと一匹の様子を、岩陰から伺う少年と騎士竜がいた。今しがた名前を出された彼らは、揃って複雑な表情を浮かべている。
相手の本音に、初めて明確に触れた。
もとより冷徹な振る舞いはつくったものだとは薄々理解してはいたけれど、どうしても受け入れられなかった。その意地めいた感情が、ゆっくり融けていくのをカツキは感じていた。それはディメボルケーノも同じだろうと思う。"仲直り"という言葉をぽつりと復唱するのを、カツキは聞き逃さなかった。
そうして暫く経った頃、不意にショートが踵を返した。
「そろそろ寝るか、明日は第三試合もあるしな」
「うむ……おやすみ、ショート」
「ああ、おやすみ」
こちらへ向かってくる。となれば当然、カツキたちのいる岩陰も視界に入るわけで──
「お、」
「ッ!」
視線がかち合い、カツキは縫い留められたかのようにその場から動けなくなった。
「……聞いてたのか?」
「ッ、てめェがどこ行く気かわかったもんじゃねーからな!!」
今となっては心にもない発言だった。案の定、ショートの表情が寂しげに曇る。
「……俺のこと、そんなに信用ならねえのか?」
「………」
「最初におまえたちを疑っていたのは俺たちのほうだ。だからもちろん、文句を言う筋合いがないのはわかってる。でも──」
信じて、ほしい。ゆれるオッドアイが、声にせずともそう主張している。
「……俺ぁ、簡単に他人を信用しねえことにしとる」
「……そうか」
「ま……てめェに限ったハナシじゃねーけどな」
「!」
はっと俯いていた顔をあげるショート。この男は馬鹿ではないと、カツキは頭に刻み込んだ。
「戻んぞ、ディメ公。──それとも、モサ公と居てェか?」
「!」
カツキのひと言で、義兄弟の契りを結んだ二大騎士竜が互いを意識しあう。彼らの本心は、既に互いを向いている。あとはきっかけひとつだった。
「……モサレックス、俺は──」
「………」
心を燃やしたディメボルケーノが、何かを口にしようとしたときだった。
「────ッ!?」
「!、どうしたモサレックス?」
突然モサレックスの様子が変わる。──彼が海水を通して異変を察知できる能力持ちであることは、皆すでに知るところだった。
「この気配……マイナソーだ!」
「何ッ?」
「イズクたちが危ないぞ、戻れ!」
最後まで聞き終わらないうちに、彼らは走り出していた。