【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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温泉でいちゃいちゃする少年少女…イイよね


18.秘湯の死闘 3/3

 

「死ィねぇぇぇ──ッ!!」

 

──BOOOOM!!

 

 振り下ろされる刃。それと同時に爆ぜる炎によって、ドルン兵たちが悲鳴をあげて吹っ飛ばされる。

 一方で、

 

『ハヤソウル!ビューン!!ビューーーン!!!』

 

 目にも止まらぬ速さで戦場を駆ける青。鍛えあげられたその肉体と剣技は、やはり敵の物量を削るのにひと役買っていた。

 

「よし……!──カツキくん、同時に決めよう!!」

「命令すんなッ、元々そのつもりだわ!!」

 

 背中合わせになり、リュウソウケンの柄に手をかけるふたり。恐竜の強面が、鋭い牙を覗かせた。

 

「ダイナマイトォ、」「フルスロットル、」

 

「「──ディーノ、スラァッシュ!!」」

 

──そして、ドルン兵たちは跡形もなく消滅した。

 

「ふぅ、片付いたか……」

「チッ、ムダに頭数揃えやがって」

 

 陽動という目的は果たせただろうが、随分時間がかかってしまった。今頃、中へ侵入した面子はどうしているか──

 

「──おぉーい!テンヤ、カツキーー!!」

「!」

 

 と、そこにエイジロウが現れた。サミダレのほか、揃ってカエル顔の面々が続くのを見て、ひとりを除いた家族を救け出せたのだとすぐにわかった。

 

「エイジロウくん!作戦はうまく行ったようだな!」

「へへっ、まぁな!」

「ンなことより、クソデクどもは?」

「そのままツユちゃんを救けに行った!俺たちも行こうぜ!」

 

 そのまま踵を返そうとするエイジロウだったが、

 

「待てやクソ髪。それよかミルニードルたちと合流すんぞ」

「へっ?でも──」

 

 中にはマイナソーやワイズルー、おそらくクレオンもいるのに。

 

「マイナソーの巨大化に備えるということか?」

「おー。で、そン前にデクがヤツらを追い出す。外で待ち構えとるヤツがいたほうがいい」

 

 カツキにしては珍しく、丁寧で論理立った説明だった。いやいつだって彼は、理不尽なようでいてきっちり考えた戦い方をするのだが。

 

「……やっぱ幼なじみだな、おめェら」

「ア゛ァ?なに言ってやがる」

「ヘヘッ、ほら急ごうぜ!サミダレくんたちも連れ出さなきゃだしな!」

「うむ、急ごう!!」

 

 噛み合っていないようで、自然と上手く回っている──なんだか不思議なチームだと、傍観するサミダレ少年は思った。

 

 

 *

 

 

 

 浴場内での戦いは、滑る床を考慮した形で行われていた。

 

『ノビソウル!ビロ〜ン!!』

『オモソウル!ドーーン!!』

 

 リュウソウケンを鞭のようにしならせるグリーンに、オモソウルから顕現した鉄球を操るピンク。それらの同時攻撃を、ワイズルーはなんとかステッキひとつで受け流していた。

 

「Shit……!そんな戦い方もありとは!」

「まだ終わりじゃねえぞ」

「!」

 

 すかさずゴールドがモサチェンジャーの引き金を引く。放たれる電光の塊に驚きつつも、華麗なステップでかわしていくワイズルー。──しかし、

 

「あらぁッ!?」

 

 見事に足を滑らせた彼は、そのまま温泉の中にリダイブした。

 

「し、しまった……!私も滑る!」

「……馬鹿なのか、おまえ?」

 

 王子の毒舌がぐさりと突き刺さる。強靭な精神力ですぐさま立ち直ると、ニの矢を撃ち出した。

 

「そろそろスペシャルゲストにご登場いただきまショ〜タァイム!──ヴォジャノーイマイナソー!!」

「!」

 

 男女の湯を分ける垣根の上に、大ぶりな翳が差す。はっと顔を上げた瞬間にはもう、ぬるついた液体が三人に浴びせかけられていた。

 

「ッ!?」

「これは……!」

 

 しゅうぅ、とリュウソウメイルが音をたてながら白煙をあげる。同時に、全身に痺れが襲いかかってきた。膝をつきそうになるのを、かろうじて堪える。

 ワイズルーが嗤った。

 

「HAHAHAHA、大☆成☆功!ヴォジャノーイマイナソーの放つ毒液には、全身の神経を麻痺させる効果があるのだ!」

「何……!」

 

 カエルに似た姿のマイナソーが、ワイズルーの隣にやって来てゲコゲコと嗤っている。姿かたちからして、こいつがツユから生み出されたマイナソーであることは間違いないようだった。

 

「さあ、これで坊やたちは動けナッシング!ヴォジャノーイマイナソー、彼らをたーっぷり毒液の染み込んだ温泉に引きずり込んでやりナサ〜イ」

「ゲコ……!ハイ、ッテ!!」

 

「入って」──そんなふうに鳴くと同時に、マイナソーの肉厚な舌が勢いよく伸びてきて、三人もろともに巻き付いてしまった。

 

「ぐ、うう……!」

「ッ、このままじゃ……!」

 

 今のワイズルーの口ぶりからして、温泉はすっかり毒沼と化している。水中でも活動できるゴールドを含め、浸けられたら一巻の終わりだ。

 

(考えろ……!何か考えるんだ、イズク!!)

 

 いつでもそうだった。カツキとふたりで戦っていたとき、もっと幼かったからピンチなど容易く訪れた。そのたびにふたり智慧を出しあって、今日まで生き抜いてきたのだ。

 ましてこの"かえらずの湯"で、こんな奴を相手に、無様な敗北を晒すわけにはいかない──!

 

(……そうだ!)

 

 グリーンは一計を案じた。拘束されている腕を可動域限界まで動かし、リュウソウケンの柄に手をかける。一回、二回……三回、

 

「ッ、………」

 

 手に痺れが走り、力が抜けかかる。あと、あと一回──

 

『その、調子ィ!!』

 

──やった!

 

「スイングバイ……ディーノ、スラァッシュ!!」

 

 刃が蛇のようにうねり、獲物に喰らいつくがごとき勢いで敵に向かっていく。予想だにしない攻撃に、ワイズルーとマイナソーの反応は遅れた。

 

「ゲコォッ!?」

「アウチッ……あ」

 

 ずるりと滑り、温泉の中に揃って落下する二体。舌による拘束が外れ、皆、かろうじて自由の身となった。

 

「さ、さすが……デクくん」

「……やるな」

「ッ、それより、この痺れをなんとかしないと……!──オチャコさん、きみの水魔法でリュウソウメイルを洗うんだ!できるよね?」

「えっ……あぁうん、やってみる!」

「ショートくんはビリビリソウルを!今なら雷の攻撃がよく効くはずだ」

「わかった」

 

 海のリュウソウ族の体質ゆえか、彼の麻痺の度合いはイズクたちのそれよりは弱い。ビリビリソウルをモサチェンジャーに装填し、黄金の鎧を"強竜装"する。

 それとワイズルーたちが湯から飛び出すのが同時だった。

 

「『ザッバアァァン!!』……あれ?」

 

 口で擬音を表現してみたら、同じ音が聞こえたものだからワイズルーは間抜けな声を発した。そう、ゴールドがまさしくモサブレイカーの引き金を引こうというところだったのだ。

 

「サンダー……ショット!!」

 

 稲妻の塊が放たれ、水中に着弾する。そうなれば当然、逃げ場はない。

 

「あばばばばばばばばばば!?」

「ゲコオォォォォォォォ!!?」

 

 電流をもろに浴び、悶え苦しむ二体。同時に踏ん張りのきかなかったゴールドも盛大に転んで頭を打ってしまったのだが、それはご愛嬌である。

 

「ショートくん!?だ、大丈夫……?」

「……痛ぇ、けど、大丈夫だ」

 

 そんなやりとりをしていたらば、ピンクの魔法使いの詠唱が完了した。頭上に水の珠が現れ──弾ける。

 

──ばしゃあ、

 

 大量の水が降りそそぐ。リュウソウメイルを侵す毒液を清浄なるそれが洗い流していく。温泉を前にして、冷水を浴びるというのは皮肉ではあったが。

 

「よしッ……これで動きやすくなった!」

「オチャコさん、ありがとう。このまま一気に──」

 

 相手はまともに感電してどざえもんのようになっている。──と思ったら、うめくヴォジャノーイマイナソーが水中から顔を出した。

 

「ハイ……ッテ……!────ッ、」

 

 

「ハイ、ッテェェェェ!!!」

「──!」

 

 マイナソーの感情が、爆発した。垣根の向こう──つまり女湯のほうから、大量のエネルギーがかの怪物に注ぎ込まれていく。

 

「!、まずい、巨大化する!!」

 

 ここで巨大化されたら、宿が破壊されてしまう!焦るイズク。と、そのときピンクがさらなる働きを見せた。

 

「──カルソウルッ!!」

『カルソウル!フワフワ〜!!』

 

 カルソウルの力が作用する。強制的に水揚げされ、そのまま浮かんでいく二体の魔物。

 

「デクくん、今のうちにブン投げて!」

「!、そうか……ありがとう!」

 

 ノビソウルで伸びた刃を二体に巻きつけ──そのまま、投げ飛ばす!

 

「ノォオオオオオ──!!?」

 

 彼方へ消えていく二体。しかしワイズルーはともかく、ヴォジャノーイマイナソーは既に成長間近である。

 一寸の静寂のあと、巨大化したマイナソーの姿が竹垣の向こうに現れたのだ。

 

「ふー、危なかったぁ……」

「でも、これであとは倒すだけだな」

「そうだね……!」

 

 と、そんな会話をしていたら早速キシリュウオーがマイナソーに挑んでいくのが見えた。既に準備は万端だったらしい。

 

「やばっ、急ごう!」

 

 ともあれ、三人は竹垣を越えて外へ飛び出していった。

 

 

 *

 

 

 

「──竜装合体!!」

 

 赤き騎士竜の王のもとに、()()の騎士竜が矛、あるいは鎧として寄り集まっていく。漆黒を基調とした重厚かつ攻撃的な姿へと、生まれ変わる。

 その名も、

 

「「「「キシリュウオー、ミルニードル!!」」」」

 

 そして、

 

「待ちかねたぞショート!」

「ああ、行こう」

 

 騎士竜モサレックスと従騎士竜たるアンモナックルズが、キシリュウネプチューンとなって並び立った。

 

 

「──タイガランス、ディメボルケーノ。僕らは万一に備えて待機だ、ミルニードルのこともあるからね」

 

 前回の戦闘で蚊帳の外だったこと、そしてカツキとディメボルケーノが距離を縮めたこともあって、ミルニードルの機嫌は直らないままだった。ここは彼に華をもたせてやるのも、戦略上必要な対応である。

 

 

「ハイッテェェ!!」

 

 咆哮とともに、巨大化したヴォジャノーイマイナソーは毒液を噴出させた。鋼鉄の身体とはいえ、騎士竜たちも生物である。まともに浴びればどうなるかわからない。

 

「ナイトトライデント!!」

 

 すかさずキシリュウネプチューンが前に出、突き出したトライデントを高速回転させる。それが毒液を吹き飛ばした。

 

「前に出んな半分野郎!!」

「ミルニードルは攻撃重視なんだろ、なら俺たちがディフェンスに回ったほうが合理的だ」

 

 確かに理にはかなっている。カツキも舌打ちをしただけで、それ以上の口撃はしなかった。

 口撃より攻撃すべきときだと、彼もわかっているのだ。

 

「おら行くぞッ、クソキモガエルがあぁッ!!」

 

 前進を開始するキシリュウオーミルニードル。そのアーマーから鋭い針が射出され、マイナソーの周囲を覆い尽くしていく。

 

「ゲコッ!?」

「よ〜しッ、これでもう逃げらんねえぜ!!」

「あとはブチのめすだけや!やったれ!!」

「言われるまでもねえわ!!」

 

 ナイトメイスを構え、がむしゃらに振り下ろす。鋭い突起の生えた重厚な鈍器は、それだけで甚大なダメージを発生させる。ヴォジャノーイマイナソーが文字通り、蛙の潰れたような悲鳴を発した。

 

「ゲコォ……ッ、ハイ、ッテェェ!!」

「!」

 

 叫んだかと思うと、舌を勢いよく伸ばして巻きつけてくる。先ほどと同様、拘束して動きを封じようというのだろう。毒液で麻痺させていなくても。

 並みの相手なら、それで通用したかもしれない。しかしキシリュウオーミルニードルは、言うまでもなく並みの相手などではない。

 

「は……馬鹿がぁッ!!」

 

 キシリュウオーの全身に力がこもる。ミルニードルの部分がぐぐ、と音をたてて隆起し、

 

「──ギアァァァァァァッッッ!!??」

 

 舌が、引きちぎれた。

 

「ザマァミロ、クソキモガエル!!」

「うわぁ……えぐっ」

「だ、だが好機には違いない!──ショートくん!」

「ああ」

 

 ナイトトライデントを構え、ネプチューンが前進してくる。カツキはかなり高揚しているのか、下がれとも言わなかった。あとは獲物に喰らいつくだけなのだ。

 

「終わりだ、」

 

 

「「「「──ニードルクラッシャー!!」」」」「キシリュウネプチューン、トルネードストライクッ!!」

 

 メイスが振り下ろされ、トライデントが突き上げられる。

 

「ハイ……ッテェェェェ────!!??」

 

 頭を叩き潰され、串刺しにされれば、マイナソーはひとたまりもなかった。断末魔の悲鳴とともに、あえなく爆散する。

 

「っしゃあ、完全勝利!……だよな?」

「ンで俺に訊く」

「いやぁ……なんとなく?」

「──待って!」イズクの声が割り込む。「クレオンがまだ残ってるかもしれない、宿に戻ろう」

「あ、そうだった!」

 

 戦闘では身体をスライムにして逃げまわるくらいしか能のないクレオンだが、マイナソーをつくり出すという厄介極まりない力の持ち主である。一家の誰かがまた襲われて宿主にされては立つ瀬がないのだ。

 そういうわけで、もう一戦交える覚悟で一同再び地上に降り立ったのだった。

 

 

──結論から言えば、その心配は杞憂に終わった。

 

「皆さ〜ん!!」

「!」

 

 サミダレと、いつの間にか合流していたらしいコタロウが駆け寄ってくる。少し遅れて、サミダレの両親と母に抱かれた妹も。

 

──そして、もうひとり。

 

「お久しぶりね。イズクちゃん、カツキちゃん」

「!、ツユちゃん……」

 

 ようやくの再会。相変わらずのカツキはともかく、イズクはまろい頬を綻ばせてそれを喜んでいる。ツユも、また。

 

「救けてくれて、どうもありがとう」

「ううん……無事で良かった、ほんとうに」

 

 穏やかな雰囲気のふたり。その光景はどこか微笑ましいものである。──にもかかわらず、オチャコは胸のうちにあったもやもやが余計に拡がるのを感じていた。ツユの立ち振る舞いにけっして悪印象を抱く部分はないにもかかわらず。

 

「お礼と言ってはナンだけど、温泉、すぐに入れるようにするわ。よかったら泊まっていってちょうだい」

 

 ともあれ、彼女のひと言で当初の予定は遂げられそうだった。

 

 

 *

 

 

 

 一方、宿から早々に姿を消していたクレオン。沼のほとりにて、彼は護衛のドルン兵とともにワイズルーが戻るのを待っていた。体育座りで。

 

「あぁ……またやられちゃったなぁ、マイナソー」

「ドルッ」

「ワイズルーさま、せっかく湯治してたのに、また怪我増えたらたまったもんじゃねえよなぁ。そう思うだろ?」

「ドルドルッ」

 

 とはいえワイズルーのことだ、この程度であきらめはしないだろう。合流したら、早速次の作戦を相談しなければ。

 

 そんなことをつらつら考えていたら、背後でべしゃりと濡れた足音が響いた。

 

「あっ、ワイズルーさま!おかえりなさ──」

 

 意気揚々と振り向いたクレオン。──しかし、

 

「え゛ッ、あ、()()()は……!?」

「………」

 

 そこに立っていたのは、予想だにしない人物だった。

 

 

 *

 

 

 

「お、」

「お!」

 

 

「温泉、だぁーーーーッ!!」

 

 琥珀色の湯がざばあ、と音をたてる。水飛沫とともに、勢いのままに全身沈んだエイジロウが珍しく垂れた頭を出した。

 

「ぷはッ、きんもちイイぜっ!!」

「てめェクソ髪ィ、飛び込むんじゃねえ!!」

「悪ィつい勢いで!でもホント、サイコーだな!な、テンヤ?」

 

 やはり珍しく眼鏡をかけていないテンヤが、力強く頷く。

 

「うむ!心まで洗われるようだ……!」

「あ、今の良い表現ですね。いただきました」

「いただきました、ティラ〜♪」

 

 首まで浸かるコタロウの周囲で、ティラミーゴとディメボルケーノがはしゃいでいる。彼らもばしゃばしゃとお湯飛沫をあげているのだが、小さい身体で影響が少ないためか特に咎める者はいなかった。

 

「ふふ、喜んでもらえて良かった」

 

 そう言って微笑むイズク。肩に緑色のボディを赤らめたタイガランスがちょこんと乗っている。どうやらのぼせてしまったらしい。

 

「………」

 

 そんな彼だが、ふと背後から視線を感じて振り返った。湯に膝から下だけ浸けたショートが、岩べりに座ってじっとこちらを見下ろしていたのだ。

 

「な、何かなショートくん?」

「おまえ結構ボロボロ……傷だらけだなって思って」

「言い切ってから訂正してもダメだよ……」

 

 やんわり窘めつつ、イズクは苦笑した。確かに自分の素肌は、他人が見て気持ちの良いものではないだろう。特に右肩から肘のあたりにかけては、皮膚が引き攣れてショートの顔の火傷と同じような色になってしまっている。程度で言えば、彼よりよほど酷いかもしれない。

 

「僕の戦闘スタイル、速さを重視してるから……駆け出しの頃はどうしても防御がおろそかになっちゃって、気づいたらこんなだよ」

「結構、無茶してるんじゃねえのか」

「あはは、図星だ」

 

 困ったように笑うイズクは、その顔立ちから柔弱な印象を受けるのだけれど……そうでないことは、既にショートもよく知っている。特に、危機にある人を前にしたときの姿は。

 

「けっ、ドルイドン関係ねートラブルにまでホイホイ首突っ込みやがるからだ。付き合わされる身にもなれや」

「な!?」

 

 そしてカツキの罵詈雑言に対してだけは、やたら沸点が低いのである。

 

「自分でトラブル引き起こすヤツに言われたくないよ!」

「ア゛ァ!?ンだとコラ!!」

「ちょっ、癒やしの場でまで喧嘩すんなって!」

 

 こいつらよくふたり(+騎士竜)だけで五十年もやっていけたな、と内心思うエイジロウ。まぁ、幼なじみというのはそんなものかもしれない。自分もトモナリやケントとは、それなりにやりあっては仲直りを繰り返してきた。とはいえ成人──リュウソウ族の成人は150歳である──する頃にはもう、そういうこともほぼなくなっていたが。

 

 もう二度と逢えない親友と、使命を遂げるまでは逢えない親友。ふたりの顔を思い出してセンチメンタルな気分になるエイジロウとは裏腹に、幼なじみコンビはヒートアップしていく。それを見かねたテンヤが、勢いよく湯から立ち上がった。

 

「いい加減したまえきみたち!!貸切とはいえここは公共の場、過度な乱痴気騒ぎはご法度だぞ!!」

 

 スモウのときもそうだったが、メンバー一大柄な身体はむしろ何も身につけていないほうが迫力を発揮する。ただ、そのまま目の前に迫ってこられると別の問題が発生するわけで。

 

「て、テンヤくん前隠して、前……!」

「距離とれやマジで……!」

「……そういや、モサレックスどこ行った?」

 

 

「──向こうは賑やかやねぇ、アンキローゼ」

 

 オチャコがそうつぶやくほど、女湯は静かだった。彼女とアンキローゼしかいないのだから当然といえば当然である。四六時中ほとんど一緒にいるとはいえ、流石に異性である。こうして分けられてしまうのも無理からぬことだった。

 

「……はぁ、」

 

 しかし静寂の中にいると、昼間のことが思い起こされる。イズクとツユの様子を見ていて抱いた胸のもやもや。少し覚えがあると思ったら、カサギヤの街でマシラオとトオルを見送ったときだ。あのときも自分は、そんなもやもやと胸をちくりと刺されたような小さな痛みを感じていた。

 今となってはもう、ふたりが幸せであれと祈るだけだ。しかしイズクに対してはそうではない。あの優しい笑顔と、戦士としての勇敢な姿──

 

──と、がらがらと音をたてて浴場の戸が開いた。

 

「おまたせ、オチャコちゃん」

「!」

 

 入ってきたのはツユだった。オチャコもひとりでは寂しかろうということで、一緒に入浴をする約束をしていた。

 身体をささっと洗ってから──最初にそうするのが温泉でのエチケットらしい──湯に入ってくる彼女を、オチャコは笑顔で迎え入れた。繰り返すようだが、彼女自身に対して含むところはないのだ。

 

「何度も言うけれど……きょうは本当にありがとう、オチャコちゃん。貴方たちが来てくれなかったら、今ごろどうなっていたか」

「え、えへへ……いやそんな──」

 

 つい照れてしまうオチャコだが、騎士としては気にかけねばならないこともある。

 

「でも……その、私たちもずっとここにいられるわけちゃうし……。──またドルイドンが襲ってきたら、どうするん?」

「………」

 

「──"全滅は、避ける"」

「えっ……」

「皆、覚悟はしているわ。ドルイドンに襲われたら、誰かひとりでも逃げて、生き延びる。それが私たち家族の約束なの」

 

 今回サミダレが逃げたのも、その約定に従ってのこと。逃げた先に偶然オチャコたちがいて、家族も救けることができた──それだけのことだった。

 

「そんな顔、しないで」ツユは笑っていた。「私たち、この通りケロケロ家族なの。いざというときは沼の底に張りついてでもやり過ごすわ」

「ケロケロ……家族?」

「ケロ。"トード"っていうカエルの神さまと、人間のお母さんの間に生まれた子供が、私たちの先祖だと言い伝えられているの」

「……それ、ホンマなん?」

「ケロ、わからないわ。でも特殊な体質なのは確かよ。だから街で暮らすにも、周りの目が気になって」

「そう……なんや」

 

 ちいさな村で助け合って暮らしてきたオチャコにしてみれば、そういった差別というのは体験したことのないものだった。ツユたち家族の体質にせよマシラオの尻尾にせよ、立派な個性だと思うのだが。オチャコの怪力だって、怖がるそぶりを見せる街びとがいないではなかった。

 

「私は……素敵やと思うな。ツユちゃんたちの、個性」

「ふふ、ありがとう。お世辞だとしても嬉しいわ」

 

 そう言って微笑むツユは、柔和だが心の強い少女だと感じる。──そういうところ、イズクに通ずるものがある。

 

「イズクちゃんとカツキちゃん、本当に良い仲間に出逢ったのね。ふたりとも、前に来てくれたときよりずっと生き生きとしてる」

「……ツユちゃんはふたりのこと、どう思ってるん?」

「良いお客様で、お友だちよ」

「それだけ?……デクくんとは──」

「ケロ、イズクちゃんは初心で優しくて……同じ年ごろの男の子にこんなこと言うのは失礼だけど、とても可愛らしいと思うわ」

「ッ、せやね……」

 

 それは全面的に同意するところである、口惜しいが。

 

「ケロ、大丈夫。オチャコちゃんが心配しているようなことはないわ。──私、お友だちになりたい人には"ツユちゃんと呼んで"ってお願いしているの。イズクちゃんは律儀にそれを守ってくれているだけよ」

「わ、私それ気にしてるって言ったっけ……!?」

「色々なお客様を見ているもの、なんとなくわかるわ」

 

「あなたの恋、うまくいくと良いわね」──そう励まされて、オチャコはようやく自覚した。マシラオに対して芽生えかけ、イズクに対して明確に抱いたこの思いは、そのように名付けうるものなのだと。

 

「……うん。ありがとう、ツユちゃん」

「ケロ!」

 

 オチャコは嬉しかった。胸のもやもやを煌びやかなものに変えられたことが──そうして、ツユとの曇りなき友情を得られたことが。

 

 少女ふたりの温かな夜は、まだまだ終わりそうもなかった。

 

 

──直後、男湯から漂流してきたモサレックスが彼方へぶん投げられる事件が発生するのだが……それはまた、別の機会。

 

 

 *

 

 

 

 その頃、温泉を追い出されたワイズルーは生まれたての子鹿のような足取りで逃亡を続けていた。

 

「はわわわ……湯治のつもりが、プラマイゼロだぁ……」

 

 こうなったらかつての本拠に戻って、態勢を整えなければ。幸いリュウソウジャーは追いかけてきていないようだし、今なら。

 そう思っていたら、前方の木陰からひょこりと飛び出す影があった。

 

「わ、ワイズルーさまぁ……」

「!、おぉクレオン!このまま館に戻る、すまないが肩を貸してくれ」

「………」

「……どうした、クレオン?」

 

 そのときだった。クレオンの背後の暗がりからぬっと手が伸びて、その肩を掴んだのは。

 

「ヒィッ!?」

「な!?き、貴様は……!」

 

 

「キヒヒヒ、ヒヒヒ……」

 

 下卑た笑い声とともに、黄色い眼が奇しく光った──

 

 

 つづく

 

 





「夜こそオレの時間だ。たぁっぷり、愉しませてもらうよォ?」
「俺、ホンモノの勇者見んの初めてだぜ!」

次回「撃て!アンデッド」

「この一発は、外さねえ……!」


今日の敵‹ヴィラン›

ヴォジャノーイマイナソー

分類/アクアン属ヴォジャノーイ
身長/197cm〜47.5m
体重/211kg〜749t
経験値/395
シークレット/水場に棲むカエルに似た妖精"ヴォジャノーイ"の名を冠したマイナソー。毒液で麻痺させた獲物を長い舌で捕らえ、水中へ引きずり込む。気に入った獲物は奴隷に、気に入らなければ食糧にしてしまうと言われているぞ!
ひと言メモbyクレオン:カエルってなんか親近感湧くんスよね……。えっ、キモカワイイ仲間だからだって?オレはストレートにカワイイだルルォがァァァ!!

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