【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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20.二人のゴールド 1/3

 

 リュウソウジャー一行、そして勇者デンキとハンタの同盟(アライアンス)により、サルカマイ村はゾンビの呪いから解放された。

 

 しかしそれは、村に平和が戻ったことと同義ではない。──彼らは未だ、ドルイドン・ゾラの脅威に晒され続けているのだ。

 

 

「──村人たちに聞き込みしてきた。あのドルイドン、ここ最近突然現れて勢力を拡げてるらしい」

 

 「俺らが通ってきた森はほとんどあいつの勢力下になってるって」と、ハンタ。彼らは確保した宿の広間に集まり、今後のことを相談している真っ最中であった。

 

「……ゾラか。あいつを倒さないことには、オウスの街へは行けないな……」

「でもあいつ、不死身だって……ホンマなんかな?」

「………」

 

 オチャコの疑問に対し、沈黙を保つカツキ。「どうせはったりだ」と戦場では叫んだが、それは士気を保つための行動だった。今となっては、それを否定する材料など何もないのだ。

 

「事実だよ、……多分な」

 

 確信のこもった声音に、皆の視線が集中する。──声の主は、報告に続けてのハンタ少年だった。

 

「アンデッドの王は何しても死なない。燃やして塵にしようが、地中深くに生き埋めにしようが、必ず甦ってくる。倒すっつーのは……まァ、まず無理だね」

「……やけにアンデッドに詳しいじゃねーかよ、しょうゆ顔」

 

 探るような目つきで睨むカツキに、ハンタはへらりと笑いかけてみせた。

 

「言ったろ、俺は情報屋だって。アンデッドのことに限らず、なんでも詳しいのよ?」

 

 水を打ったような回答に、カツキはやはり沈黙した。ハンタの言葉に否定できる要素は何ひとつ見当たらない──そういうとき、彼は口を閉ざすのだ。心から納得したわけでないことは、その表情を見れば一目瞭然にしても。

 ただゾンビマイナソー撃破にあたって、ハンタの功績は大きい。今は彼の"秘密"を追及するより、すべきことがある。

 

「倒せないなら……どうする?」

「!、そうだ、今ハンタくんが言った"生き埋めにする"ってのええんちゃう!?ものすっっっごぉい穴掘って埋めちゃえば、死ななくても出てこられないでしょ!」

「お!ティラミーゴのドリルならでけえ穴、掘れるぜ!!」

 

 ふたりで盛り上がるエイジロウとオチャコだが、

 

「根本的な解決にはならないよ、残念だけど。ドルイドンの攻撃が激しくなるのと前後して、世界中で地殻変動が頻繁に起きてるんだ。何かの弾みで飛び出してくるってことも考えられる」

「そ、そっか……」

「しかし、倒せない以上……根本的な解決方法があるのか?」

「………」

 

 今度は場そのものに、重苦しい沈黙の帳が降りる。不死の敵を、実質的に倒す──困難な課題に、彼らは直面していた。

 

「──命は無理でも、心を折ることはできるんじゃないですか?」

「!」

 

 末恐ろしい言葉を声変わり前の声で言い放ったのは他でもない、コタロウ少年だった。

 

「こ、心を折るって……たとえば?」

「方法は色々ありますけど……動けなくして捕まえて、生きたまま解剖するとか」

 

 「体内(なかみ)を見られれば弱点も探れますし」と、ニヤリ。わっるい笑みである。

 

「どこで覚えてきたの、そんなこと……」

「け、けどまあ、良いんじゃねえの!?解剖はともかく……ココロ折れるまで、ボッコボコにしてやろうぜ!!」

「は、蛮族かよ」

「……おまえにだけは言われたくねえんじゃねえか?」

「ア゛ァ!!?」

 

 無自覚に毒を吐くショートに、喰ってかかるカツキ。既に定番となった光景に、どこからともなく笑いが洩れる。奇しくもコタロウの過激な言葉が、場を明るいものへと変えてしまった。

 

「デンキ、ハンタ、もう暫く力ァ貸してくれるか?」

「トーゼンっしょ!な、ハンタ?」

「まァね。倒せねーまでもアイツにも効くだろーし……聖水入り弾丸、量産しとくよ」

 

 そう言うと、ハンタは軽やかに踵を返した。「今日は寝るわ、おやすみ〜」と手を振りながら。

 

「あ、ハンタ!……わりィ、また明日な!」

 

 デンキもあとを追っていく。まあ、今日のところはもうお開きという雰囲気ではあった。明確な打開策というわけではないが、いちおう方針は見いだせたのだ。

 

「じゃ、僕らも寝よっか」

「ふぁ……せやね」

「うむ。日の出には起床して、哨戒に出たいところだからな!」

 

 夜間はティラミーゴたちが町の周囲を監視してくれているが、彼らにも休養は必要だ。マイナソーが巨大化すれば、自分たち以上に激しい戦いを演じることになるのだから。

 そうしてばらばらと自身に割り当てられた部屋へ皆が戻っていく中で、

 

「──カツキ、ちょっと良いか」

「ア゛?」

 

 不意にショートに呼び止められ、カツキは不機嫌を隠そうともしない表情で振り返った。

 

「よかねえ!……ンだよ?」

「いや……。──ハンタのこと、何か疑ってるのか?」

 

 率直な問いに、カツキは顔を顰めた。やはりこの男の物言いはいちいち癇に障る。まぁ、今さら言っても詮無いことだが。

 

「言ったろーが。俺ぁ簡単に他人を信用しねえって」

「それはそうだが、疑念があるなら皆に共有したほうが良いだろ。チームなんだから」

「ッ、……チームになった覚えはねえ」

「え、どうしてだ?」

 

 切れ長のオッドアイをまんまるに見開くショート。だぁからその顔をやめろ!と叫びたくなる。

 

「うるっせえな!……てめェ明日アホ面とセットだろ、ちゃんと見張れよ」

「……わかった。別に俺は疑ってねえけど」

「ちったぁ俺を蛮族呼ばわりしとったときのカン取り戻せや!じゃあな!!」

 

 これ以上苛立つと眠れなくなりそうだったので、強引に話を打ち切った。納得はいっていないのだろうが、ショートももうあとを追ってはこない。彼も部屋に戻るからついてきても不自然ではないが、少し間を置いて……という気遣いはできるのだ、一応。それはそれで、なんとなく腹が立つカツキなのだった。

 

 

 *

 

 

 

 森の奥深くに佇む洋館。かつてワイズルーが本拠としていたそこは、今ではゾラに乗っ取られていた。

 その前の主が、館の中で怒りを露にしていた──しょうもない理由で。

 

「うぬ゛ぅぅぅ……!なんて、なんてッ!悪趣味な内装なんだッ!!」

 

 館じゅうを彩る血糊や魔術品の数々、果ては壁から吊り下げられた髑髏。自分が使っていたときのきらびやかな品々は欠片も残されていないではないか!

 

「キヒヒヒッ……悪いけど、ここはもうオレのものだからねェ。好きにさせてもらったよォ?」

「ぬぬぬぬぬ……!──痛ッ、あ、痛!腹が……腹の古傷が……!」

「わ、ワイズルーさま!?ああもう興奮するから……」

 

 傷が開いてしまったワイズルーを介抱するクレオンだったが、そのためにゾラの急接近に気づくことができなかった。

 

「クレオン?」

「えっ?──ヒッ!」

 

 目の前に濁った黄色い眼と裂けた口が迫り、クレオンは思わずワイズルーの背に隠れた。

 

「な、なんでしょう……?」

「オシゴトを頼みたい……ヒヒヒッ」

「お、オシゴト……マイナソーの創造っスか?ご希望は?」

 

 仕事となれば怯えている場合ではない。クレオンは自然と居住まいを正した。リュウソウジャー打倒がすっかり主目的になってしまっているが、本来のお役目はこちらである。

 

「ご希望、あるよォ。良いマイナソーを生んでくれそうな子、見つけたんだよねェ」

 

 「キヒヒヒ」と、ゾラは下卑た声で嗤った。

 

 

 *

 

 

 

 翌朝。まだ日が昇りきらないうちから、エイジロウたちは動き出した。

 

「サンキューな、ティラミーゴ。何かあるまでゆっくり休んでくれ!」

 

 エイジロウの労いの言葉に、ミニティラミーゴは「ティラァ!!」と応えて村の中に入っていく。流石に宿の部屋はとれなかったが、昨夜一時避難した小屋を休憩所代わりに使わせてもらえることになっている。沼にいるモサレックスを除く騎士竜たちには、何もなければそこで夜まで休息もらうことになっていた。

 

「っし、行こうぜ。テンヤ!」

「うむ!」

 

 エイジロウとテンヤ、ふたりがティラミーゴに代わって森の中へ分け入っていく。彼らは単独行動を選んだ──動くのが七人なのでどうしても余りが出るのだ──カツキを除いてツーマンセルに分かれ、それぞれ巡視する区域を決めていた。

 たとえば、このふたりも。

 

「あのドルイドン、次はどんな手で来るかわからない……。気をつけて回ろう」

「う、うん」

 

(で、デクくんとふたりきり〜〜っ)

 

 これまでだって、そういうシチュエーションはないではなかった。しかしイズクに対する気持ちを自覚してしまった今、これは些か刺激が強すぎる。

 オチャコが思わず赤面していると、

 

「オチャコさん、どうかした?顔赤いけど……」

「!?」

 

 イズクが心配そうに覗き込んでくるものだから、いよいよ彼女は慌てた。

 

「な、なななななんでもございませんことよ!とっても良いお天気やでしかし、オホホホホホ!!」

「本当どうしたの!!?」

 

 「なんか今日変だよ!?」と突っ込むイズクは、その理由を想像だにしていないのであった。

 

 

 そして、ショートとデンキ。彼らは村の中にとどまり、見回りを行っていた。といっても、小さな村なのですぐに一周できてしまうのだが。

 

「ハァ……今日も天気悪ィなぁ」

「そうだな」

「ただでさえ皆元気無ぇのに、これじゃ余計に気ィ滅入っちまうよな」

「ああ」

「………」

 

 デンキは思わず苦笑した。見目麗しいショートだが、会話のキャッチボールはあまり得意でないようだった。尤も、する気があるだけ黒鎧の爆発騎士よりはマシだが。

 

「かっちゃんもさー、ソロで動くなら自分が村にいりゃ良かったのに。危険度ダンチなんだから」

「あいつ、そういうヤツだからな。俺もまだ、大した付き合いじゃねえけど」

 

 大したどころかまだ五日ほどしか経っていない。そこへいくと、昨日会ったばかりで既に溶け込んでいるデンキは大したものだと思う。「見張れ」とカツキは言っていたが、彼にしてもデンキが懐に入ってくることは少なくとも不快ではないようなのだ。

 

──しかしデンキの相棒については、なんらかの不審というか、疑念がある。それがなんなのか、ショートにはわからない。

 

 ならばここはひとつ、思い切ってみるべきか。そう考えてショートは口を開いた。

 

「なぁ、ハンタのことなんだが」

「ん、あいつがどうかした?」

「カツキが何か気にしてるみたいなんだ。心当たり、あるか?」

「いや漠然としてんな……」

 

 呆れつつも、デンキにはカツキの気持ちが理解できた。

 

「……ハンタが何か隠してんのは、事実だと思う。あいつと出会ったのはここ一年くらいの話でさ、まァ意気投合して、なんでも相談しながら一緒にやってきたわけだけど……お互い、過去のこととかは探り合わないようにしてた」

 

 それは暗黙の了解のようなものだった。成人しているとはいえ、少年にして半ば無頼の身でふたりは出逢った。お互い過去に良からぬことのひとつやふたつは抱えていてもおかしくないし、それを知って傷の舐め合いのような関係にはなりたくない。ただお気楽な旅の仲間であってくれればと、そう思っていた。

 

「でも……最近、それで良いのかと思うこともある」

 

 過去が、今を蝕むことがあるとするなら。

 

「ハアァ……こんなことでウジウジ悩むの柄じゃねーんだけどなぁ、俺」

「悩むのは悪いことじゃねえと思うぞ。大事な友だちのことだろ」

「友だち?……友だちかぁ。へへっ、そうだな」

 

 照れくさそうに微笑むデンキを見て、ショートは彼が軽薄なのは表向きの態度だけなのだと思い知った。ただ放蕩するだけでなく勇者(ヒーロー)として人々を救けようと思える時点で、彼は情深い少年なのだ。

 尤も、評価を改めたのはお互い様のようだった。

 

「おまえも、良いヤツだな。腹立つほどイケメンだし、もっとスカしたヤツなんだと勝手に思ってた」

「……イケメンっつーのよくわかんねえけど。お互い、誤解があったみたいだな」

「早めに解消できて良かったぜ、へへっ」

 

「──宿に戻ったらさ、ハンタと話してみるよ。一生一緒にいても良いって思うくらい、俺……あいつのこと、信じてっから」

 

 そう言って、デンキは天を仰いだ。重苦しい鈍色の雲で覆われてはいるが、かすかに太陽の光が差し込んでいる。それを掴むように、手を伸ばした。

 

 

 *

 

 

 

「っし、こんなもんかな……っと」

 

 その頃、宿に残っていたハンタは聖水入り弾丸を完成させていた。昨夜とは異なり、十分な時間で十分な弾数を用意することができた。これだけあれば、あのドルイドン相手でも動きを止めるくらいの役には立つだろう。

 

「よりによって、アンデッドタイプと遭遇しちまうなんてなぁ……」

 

 つぶやきつつ、癖になっている皮肉めいた笑みを浮かべる。"不死の王(キングオブアンデッド)"──自称かもしれないが、その二つ名にふさわしいだけの脅威たる存在には違いない。そしてあの、すべてを見透かすような濁った黄色い眼。

 

(俺のことも、バレちまってるかもな……)

 

 だとしたら──潮時か。ハンタは弾丸(これ)が、デンキに渡してやれる最後の贈り物になるかもしれないと思っていた。それを望んでいるわけではないけれど、仕方がないのだ。ハンタがその身に抱える"秘密"を知れば、きっとデンキのほうから離れていくだろう。

 

「……もう少し、な……」

 

 郷愁に浸るハンタは、天井から少しずつ緑色の液体が滲み出していることに気がつかなかった。

 

 

 

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