【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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この前のゼンカイ入れ替えネタは秀逸でしたね。
個人的には声まで入れ替わらないほうが好きですが。


20.二人のゴールド 2/3

 鳴り響く半鐘の音が、村に緊急事態が起きたことを知らせている。

 

「怪物だあッ、怪物が出たぞ!!」

 

 叫びながら、逃げまどう村人。澱んだ空気の流れていた村は、このときばかりは烈しい突風に突き動かされていた。すべてを破壊(こわ)し、後々の退廃を深めるような嵐ではあるが。

 それを食い止めるために、彼らは村人たちと逆向きに走る。ショートとデンキ。ただ、ふたりの表情にも揃って当惑が浮かんでいた。

 

「どうなってんだよっ、村の周りみんなで警戒してたってのに!」

「……多分、クレオンだ。アイツは液状になって地中に潜り込める……らしい。それで侵入されたら、気づくのは難しい」

 

 だが、そういう事態を想定して自分たちが村に残っている。騒ぎが起こってから、そうまだ時間は経っていない。

 

(誰も、やらせねえ……!)

 

 静かに心を滾らせながら、彼らは村の広場へとたどり着いた。

 

「え……何コレ?」

 

 そして──当惑を、露にした。

 

「わんわん、わん!」

 

 吠えながら四足で走るのは、どう見ても人間の、いい歳をした男だった。そのあとを、後ろ足だけで立った犬がとてとてと追いすがっている。

 それだけではない。木の真似をして立ち尽くしている者や、やはりいい歳してしゃがみこんでわんわん泣いている女、それを懸命にあやそうとしている幼子──とにかく、混沌。

 

「これは……」

「な、何がどうなってんだ……?」

 

 彼らの身に何が起こったかはともかく、それがマイナソーの仕業であることに間違いはない。だが、その姿は見えない。いったいどこに──

 

「……ェ、テ……」

「──!」

 

 背後から響く、茫洋とした声。すかさず振り返ったふたりの腕に次の瞬間、白茶けたオブジェクトが絡みついた。

 

「うわぁッ!?」

「ッ!」

 

 それは煤まみれで汚れていたけれど、包帯のように見えた。長く伸びたその根は、また別の、灰色をした腕に繋がっている。

 

「カエ、テ……」

「ッ、マイナソー……!」

 

 全身を包帯で覆った男。昨夜のゾンビマイナソーに比べ人型を保ってはいるが、明らかに常人ではない。それに、繰り返される言葉。"カエテ"──変えて?

 

「──カエテ!!」

 

 刹那、巻きついた包帯が奇妙な光を放った。

 

「「──うっ!?」」

 

 その光に遮られるように、ふたりの視界がホワイトアウトする。ただそれも一瞬のことで、次の瞬間には何事もなかったようになっていたのだが。

 

「ッ、目ぇチカチカする……。──大丈夫か、ショート?」

「ああ。おまえこ、そ──」

 

 どことなく違和感を覚えながら、隣を見遣って……今度は、頭が真っ白になった。

 そこには、鏡写しになったかのように自分自身がいたのだ。ショートも、デンキも。当惑した表情で、自分が自分を見つめている──

 

「な、なんで俺がいるんだよぉ!?」

「俺……じゃない、おまえ、デンキか?俺の身体が……デンキになっちまってる?」

 

「──そのとーーーり!!」

「!」

 

 巫山戯た少年じみた声が響いたかと思うと、マイナソーの傍らの地面からどろりと液体が滲み出してきて。──それが、菌類の怪人を形作った。

 

「クレオン……!」

「ヘヘへっ、入れ替え大せいこーーッ!」

「入れ替えぇ!?」

「そのとーー……二回目だコレ。イグザクトリー!このマミーマイナソーの包帯は魂を絡め取って、別の肉体に移し替えることができるのだッ!これでまともに戦えまい、ギャハハハ!!」

「ッ、」

 

 得意げに胸を張るクレオン。なんと厄介な!──しかし彼らふたりなら、まだ。

 

「残念だが、そうでもねえ」

「ほぇ?」

「いくぞ、リュウソウチェ……」

 

 そこでモサチェンジャーを構えようとして──ショートは、自分がデンキの身体になってしまっていることを改めて自覚した。

 

「……この場合、どうなるんだ?」

 

 モサレックスとの契約は魂と肉体、どちらに適用されるのか。どちらでも良いのか、あるいは駄目か。

 当の騎士竜にテレパシーで訊いてみようとしたショートだったが、デンキの身体では繋がらない。そうこうしているうちに、彼の肉体を占めたデンキは揚々とチェンジャーを構えていた。

 

「わりィ、せっかくだから試してイイ?」

「!、……ああ、まぁ」

 

 端正な顔立ちが期待に染まっている。少なくともショート本人であれば、見難い表情。

 ただデンキが精神(なかみ)なら、試してみる価値はあると思った。

 

「いくぜ……!──リュウソウ、チェンジ!!」

 

 やや手間取りながらも、リュウソウルを装填し──

 

『ケ・ボーン!!──ドンガラハッハ!ノッサモッサ!エッサホイサ!モッサッサッサ!!』

 

 昨日しっかり見ていたのか身体が覚えているのか、それなりにサマになった構えをとり──引鉄を引く。

 

『リュウ SO COOL!!』

 

 ショート……もといデンキの身体にモサレックスのソウルが宿り、黄金の(メイル)となって全身を包み込む。それはまぎれもない、リュウソウゴールドの姿だ。

 

「よっしゃあ、変身できたぁ!!」

「竜装、だ」

「竜装な!わりィ!!」

 

 内心リュウソウジャーへの憧れもあったのだろう、竜装を遂げたデンキは興奮している。

 一方、それを見たクレオンは露骨な嘲笑を浮かべていた。

 

「ふんっ、中身シロウトがリュウソウジャーんなったからって、独りで何ができるんだよォ?──やっちまえ、マミーマイナソー!!」

「カェ、テ……!」

 

 包帯の先端が捻じれ、ドリルのように鋭く尖る。それを目にも止まらぬ勢いで差し向けてくる。直撃すれば、生身の人間など容易く穿たれてしまうだろう。

 

「ショート、サポート頼む!」

「ああ」

 

 ゴールドより一歩後ろに下がり、ショートは拳銃を構えた。ゴールド自身は既にモサチェンジャーの引鉄を引こうとしている──

 

「──おらッ!!」

 

 電光弾が放たれ、マミーマイナソーの腕を直撃した。

 

「ウギャアッ!?」

 

 悲鳴をあげ、もんどりうつ怪人。しかしそこに、さらなる弾丸が叩き込まれる。百発百中……とはいかないまでも、十分な命中率だった。

 

「ちょっ……ええ、何故!?」

「──決まってんだろ」

「!、ウギャッ!?」

 

 クレオンもまた、心臓部に弾丸を食らって悲鳴を発した。それを放ったのはゴールドではなく、デンキの姿をしたショートだったが。

 

「俺もデンキも、銃使いだ。戦闘スタイルはそんなに変わらねえ」

「な、なるほど……痛ててててッ!?」

 

 光弾と実弾が交錯し、まるで横薙ぎのシャワーのごとく二匹の怪物に襲いかかる。彼らは灼熱の塊に晒されてネコ踊りするしかない。一発一発は脅威でなくとも、痛いものは痛いのだ。

 

「うぇーいっ、スゲーなこの銃!!」

「リュウソウケンと同じ、モサレックスの加護を得た銃だからな。……こっちは威力は申し分ねえが、弾切れが早い」

「そりゃ、実弾だしなあっ」

 

 実弾でない銃といえば、この世界においては魔法力でつくったエネルギー弾を撃ち出す魔導銃(ウィザード・マスケット)が存在する。ただ世界に数丁しかないと言われているほど貴重な品であり、デンキは見たこともなかった。

 閑話休題。

 

「よっしゃ、このまま一気に──」

 

 そのときだった。敵の後方から、騒ぎを聞きつけたエイジロウたちが駆けつけてきたのは。

 

「クレオンっ!」

「ショートくんデンキくんご苦労!あとは俺たちが──」

「や、やべェ……!!」

 

 挟み撃ち。さらなる不利はむしろ、怪物を勢いづかせる契機となってしまった。

 

「カエ……テェェェ──ッ!!」

 

 絶叫とともに、マイナソーの身体を覆っていた包帯がぶわりと周囲に広がった。

 

「!!」

「危ねっ……ショートっ!」

 

 元の身体に比べると、ほんのわずかに反応が遅れた。そこにゴールドが飛び込んできて、すんでのところで包帯に取り込まれずに済んだ。強かに背中を打つ羽目にはなったが。

 

「大丈夫か!?」

「ッ、……ああ。でも──」

 

 クレオンとマイナソーを挟んだ向かい──駆けつけてきた仲間たちは、包帯の壁に完全に包まれてしまっている。まだマイナソーの能力がどんなものかも把握していなかったのだ、咄嗟にかわすのは困難な状況だった。

 

「ッ、こんの野郎!いい加減にしとけよ!!」

 

 ゴールドが再び弾丸を放ち、マイナソーの素肌に直撃させた。包帯越しよりダメージが大きかったのだろう、"それ"は悲鳴をあげてその場に倒れ込む。

 そうしてようやく、包帯は乱舞をやめた。

 

「エイジロウ、カツキ、皆──」

 

 

「──ハア゛ァァ!!?ンだコレ、どうなってんだア゛ァ!!?」

 

 慣れ親しんだ口調の、それでいて聞き慣れない声の罵声が響く。

 それと同時に、

 

「ぼ、俺がいる!?しかもカツキくんのような調子で怒鳴って──」

「俺ぁ正真正銘カツキだクソが!!つーかてめェクソメガネか!?」

 

 テンヤが鬼のような表情で怒鳴り散らし、カツキが当惑した様子で腕をカクカク振っている。言動を見れば、ひと目でわかる。──彼らも、入れ替えられてしまったのだ。

 しかし他と比較すれば、彼らはまだマシなほうで。

 

「ちゅんちゅん、ちゅん!」

「ほえぇ……何がどうなったんじゃあ……?」

「………」

 

 囀るエイジロウ、腰の曲がったオチャコ、膝を抱える形で微動だにしなくなったイズク。彼らの傍にはそれぞれ小鳥、老婆、そして誰かが落としていったのだろうおにぎりが転がっている。──ヒト同士どころか非生物とも、入れ替えられてしまうのだ。

 

「ピイ、ピイィ!?(俺、鳥になっちまってるぅ!?)」

「腰が……45°から上に持ち上がらへん……」

「………(なんでこんなところにおにぎりが!?)」

 

 もはや恐慌状態である。それを見たクレオンは、ただ嘲笑うだけでなくこれが好機であると踏んだ。

 

「よくやったマミーマイナソー、今だァ!!」

「カェ、テ……!」

「!!」

 

 身構えるショートたちとは裏腹に、苦しそうなマイナソーは包帯を再び乱舞させるとそれを繭にして自身とクレオンを包み込んでしまったのだ。

 

「え、何?逃げんの!?一網打尽にするチャンスなんだぞー!!」

「ッ!?──待て!!」

 

 咄嗟に射撃するショートとデンキ、しかし繭は外見以上に硬く弾丸をはじき返してしまう。そしてそれがしゅるりと中心へ収まると、まるで魔法のように敵の姿はかき消えていたのだ。

 

「……逃げられたか……」

「不幸中の幸い……?イヤでも、こんな状態でぇ……」

 

 いちおう気心の知れた者同士である自分たちなどはまだしも、動物や食物と入れ替えられてしまった者たちは。村のあちこちで騒ぎが聞こえてくるのを思えば、ここで倒しておくべきだったのだ。

 

「……どうする、これから?」

「……あいつらは宿に戻すとして、マイナソーの宿主を探す。人間から生まれたマイナソーはそいつの欲望に従って動く、何か攻略法を見つけるヒントになるかもしれねえ」

「ああ、ハンタがいつだったかそんなハナシしてたような……」

 

 情報屋を標榜するハンタは、当然ドルイドンやマイナソーについても詳しかったようで。

 噂をすれば、と言うべきか。

 

「──それなら、ここにいるぜ?」

「!」

 

 振り向いたふたり。──果たしてそこに立っていたのは、普段となんら変わりない、貼りついたような笑みを浮かべたハンタ少年だった。

 

 

 *

 

 

 

 一方逃走したクレオンとマミーマイナソーの姿は、村を一望する小高い丘の上にあった。無論、望んでここまで逃げてきたわけではないが。

 

「こんのバカチンがァ!!せっかく連中ブチのめすチャンスだったのに、ちょっとボコられたからって逃げ出してェ!」

「カエ……テェ……」

 

 クレオンに尻を蹴りつけられたマイナソーは、そのまま地面に倒れ込んでしまう。大抵頑丈なマイナソーにあるまじき貧弱!クレオンは目を剥いた。

 

「え、ちょっ……どうした!?ええ……」

「──キヒヒヒ……クレオン、」

「!?」

 

 そうだ、忘れていた。──"彼"と、合流するためにここに来たのだ。

 

「首尾はどうだい?キヒヒヒ……」

「ぞ、ゾラさま……。とりあえず、かくかくしかじかで──」

 

 リュウソウジャーの全員を──相手に個人差はあるが──入れ替えることには成功したが、反撃を受けたマイナソーが逃げ出してしまった。そのことを恐る恐る説明すると、

 

「ヒヒヒッ……よくやったねェ、クレオン」

「え……あ、良いんスか?リュウソウジャー、一網打尽にするチャンスだったのに……」

「良いサ、せっかくだから楽しんでもらわなきゃねェ。それに──」

 

「──そのマイナソー、宿主からエネルギーを吸えないだろォ?」

「!!、な、なんでそれを……」

 

 欠陥品を創ってしまった。そう思って、どう誤魔化したものか思案していたというのに。

 

「わかるよォ。最初からそうなると思ってたからねェ……キヒヒヒッ」

「??」

 

 くつくつ嗤う不死の王を前に、クレオンはやはりこの人の考えていることはわからないと憂鬱な気分になるのだった。

 

 

 *

 

 

 

「で、何があったか説明してもらおうか」

 

 テンヤ……の姿をしたカツキにずずいっと詰め寄られ、ハンタは引きつった笑みを浮かべた。

 

「こ、怖ぇって……。おまえでかいんだから」

「そうだぞカツキくんっ、俺の身体でそういうことをするのはやめたまえ!!」

 

 そう咎めるテンヤは、カツキの姿かたちでひょこひょこ腕を振っていて。案の定「その言葉そっくり返すわ!!」と怒鳴り返されている。

 そうこうしていると、今度は別のところで騒ぎが起こった。

 

「ちょっ……やめろってエイジロウ!!」

「ピィ、ピィ!」

「………(た、救けて食べられちゃう!!)」

 

 羽交い締めにされたエイジロウ……もとい小鳥。彼はイズクの魂が詰め込まれたおにぎりをついばもうとしていたのだ。そんな彼を押さえる中身デンキのショートに、腰の曲がったオチャコ……もといおばあちゃんが嬉々として声をかける。

 

「ヒョッヒョッヒョ……あんた、良い男だねぇ」

「うぇっ……そ、そぉ?」

「それ、中身おばあちゃんやで……」

 

──とにかく、カオス状態。比較的無事に近い四人でどうにかそれを鎮めてから、改めてハンタの回答を求めた。

 

「……何っつっても、俺もわけわかんねえくらい急だったんだよ。部屋でいきなり緑のヤツに襲われて、ヘンな液体飲まされて……」

 

 頭を掻きながら、ハンタはそう述懐した。実際、そうとしか言いようがないのだ。そうしたら自分の体内からマイナソーが飛び出してきて、人々を襲いはじめた──

 

「……ちょっと待て」ショートが口を挟む。「マイナソーの宿主にされた人間は大抵意識ごともっていかれるし、そうでなくともエネルギーを吸われ続けて衰弱する。おまえ、どうして普通にしてられるんだ?」

「……デンキの顔でンなクールに問いただされると、違和感あるなあ」

「はぐらかしてんじゃねえ、しょうゆ顔」

 

 相変わらず仲が良いとはいえないふたりだが、面々の多くが行動不能に等しい状態であることも手伝って、見事なコンビネーションを見せている。ましてショートは、カツキが何か疑っていることを見抜いていたのだから。

 

「……その表情(かお)。おまえはもう、薄々察してるみたいだな」

「………」

 

 自分(てめェ)の口から言わせようというのは、武士ならぬ騎士の情けか。ハンタは固唾を呑むデンキをちらりと見遣ると──口を開いた。

 

「俺が、あのドルイドンと同じ……アンデッドだからだよ」

「──!」

 

 デンキは、言葉を失った。

 

 

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