【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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詰め込みスギチャッタ


2.涙の旅発 3/3

 

「みろ……みろ、みろ………」

 

 木に寄りかかったまま、壊れた玩具のように同じ言葉を紡ぎ続ける男。薄く開いた瞳には光がなく、規則的な音しか発さなくなった口元からは時折唾液すらこぼれ落ちている。

 その姿を、真正面から見下ろす人影があった。──ふたつ。

 

「間違いない、マイナソーの依り代にされてる」

「だろうな。それも、生まれてンな経ってねえ」

 

 深い夜の闇に包まれた森の片隅ゆえ、その姿は窺い知ることができない。ただ、いずれの声も少年のそれではあるようだった。

 

「……東の方角に向かったみたいだね。この人を近くの街に連れていってから、あとを追おう」

「放っときゃ良いだろ、とっととマイナソーブッ殺しゃ済むんだからよ」

「そうだけど、そういうわけにいかないだろ」

 

 暗闇の中でも、彼らは互いはおろか周囲一円に至るまでがしっかりと見えているようだった。闇の中に光る二対の目は、それぞれ翠に緋色と対照的な色をしている。同じく、その気性も。

 

──共通しているのは、彼らもまたマイナソーを狩る者であるということだった。

 

 

 *

 

 

 

 住民の多くが眠りにつきかけた頃、村は再びの奇襲を受けた。マイナソーとドルン兵の軍団が村の東側──青とピンクの騎士竜が守っているはずの山腹から、侵入を果たしたのだ。

 

「……ッ!」

 

 いち早くそれを聞きつけたテンヤは、リュウソウケンを手に走り出した。村じゅう既に避難する村民で半ばパニックになっている。彼らを守ることにも騎士を割かねばならないが、如何せん状況は混乱していた。

 

「──テンヤく〜んっ!!」

「!」

 

 と、呼び声とともにオチャコが追いついてきた。俊足のテンヤについてくるのは骨が折れたのだろう、既に息が上がっている。

 

「オチャコくん……!──エイジロウくんは?」

「わかんない、けど……まだ家だと思う……!迎えに、行く!?」

「いや、とにかく敵の侵攻を食い止めるべきだ!──俺たちは、リュウソウジャーなのだから!」

「!、……うん!」首肯きつつ、「でも……アンキローゼたち、食い止められへんかったんかな……!?」

「アンキ……?」

「ピンクの騎士竜の名前!さっき、考えた!」

「そうか!俺も青の騎士竜の名前は考えたぞ、"トリケーン"なんてどうだろう!?」

「そのまんま、やね!」

 

 そんなやりとりで気合を入れつつ、彼らは東へ向かって走り続けた。

 そして、

 

「な……!?」

「うそ……」

 

 境付近にまでたどり着いた彼らは、そこに広がる光景に言葉を失った。

 

──そこには、無数の石像が転がっていたのだ。いずれも見覚えのある顔。何より、

 

「アンキローゼと、トリケーンが……!」

 

 騎士竜たちまでもが、モノ言わぬ石の塊と化していたのだ。ぴくりとも動かない。いったい、何が起こったというのか。

 

「テンヤ、オチャコ……っ」

「!」

 

 息も絶え絶えの呼び声に振り向くと、そこにはまだ石になっていない騎士の姿があった。服装からして、レッドソルジャーズの団員か。

 

「大丈夫ですか!?何が──」

「マイナソーに……やられた……っ」

「何……!」

 

 反射的に周囲を窺おうとするテンヤの肩に掴むようにして、彼は何事かを言おうとする。しかし上手く言葉が出てこない。──体内から、石化が始まっているのだ。

 ややあってようやく、絞り出すように告げた。

 

「ヤツの第三の眼を、見るな……っ」

「第三の……?」

 

 様々な疑問が湧くが、それ以上のやりとりは不可能だった。かの騎士が糸の切れた人形のように倒れ伏し、直後に体表までもが石へと変わる。この場に無事で残されたのは、テンヤたちだけになってしまった。

 

「ッ、……気をつけろオチャコくん。まだ近くに潜んでいるかもしれない」

「うん……!」

 

 立ち上がり、背中合わせに構えるふたり。程なくそれは、篝火の光が届かぬ暗闇の中から姿を現した。

 

「ミィ、ロォ……!」

「!」

 

 とぐろを巻いた蛇が何匹も全身に巻きついたかのような、毒々しい異形。ただ昼間のそれとは異なり、スケールは然程自分たちと変わらない。これなら騎士竜たちの力を借りずとも倒せる──いや、倒さなければ。

 

「オチャコくん、変身だ!」

「うん!」

 

 並び立つと同時に、ふたりは神殿で手に入れたリュウソウルを指で弾き、騎士の姿へと変形させる。それぞれブルーとピンクに彩られたそれらは、トリケーンとアンキローゼの力を顕現させる力をもつ。

 

「「リュウソウチェンジ!!」」

『ケ・ボーン!!』

 

『リュウSO COOL!!』──リュウソウブレスにソウルを装填し、顎をスライドさせて鎧兜へと様変わりさせる。その一連の動作により、ふたりの全身を伝説の鎧が包み込む。

 

 即ち、リュウソウジャー。

 

 変身を完了、それぞれリュウソウブルー・リュウソウピンクとなったふたりは、リュウソウケンを手に目前の怪物と睨みあった。怪物、ゴーゴンマイナソーの顔面には眼が一対あるだけで、"第三の眼"と断定できるものは存在しない。

 

「ミィ、ロォ!!」

 

 と、マイナソーが先に動いた。身体を覆う蛇を触手のように伸ばし、猛烈な勢いで向かわせてきたのだ。

 

「ッ!」

 

 横に跳んで回避する。なおも迫る触手は、リュウソウケンで弾いていく。それでもマイナソーは攻撃をやめる気配を見せない。かの騎士の忠告を聞いていなければ、この触手にかかりきりになっていただろう。

 

「オチャコくん、どうにか奴の背後に回り込んで動きを押さえてくれないか!?"第三の眼"を使わせたい!!」

「使わせるって……私たちも石にされてまうよ!?」

 

 彼女の言うようなリスクも当然ある。しかし"第三の眼"がどこに隠されているのかを判別しなければ、対抗のしようがない。

 叡智の騎士の趣意を聞くと、剛健の騎士は一転して躊躇なく動いた。その思い切りの良さと勇敢は、確かに魔導士より前衛に立って戦うほうが似合っているかもしれない。

 

「ムキムキソウル!」

 

 触手の相手をブルーに委ね、彼女は手持ちのリュウソウルを剣の竜頭に突き立てた。

 そして、

 

『リュウ!』

 

 一回、

 

『ソウ!』

 

 二回、

 

『そう!』

 

 三回、

 

『そう!』

 

 四回!

 

『この感じィ!!』

 

 剣の鳴らす音にしてはいやに鮮烈な声に面食らったが、それは兆しにすぎない。『ムッキムキィ!』とシャウトが響くと同時に、彼女の右腕に黄金の鎧が装着される。

 

「うわっ!?こんなんなるんや……」

「急いでくれっ、オチャコくん!」

「オーケー、行くよっ!」

 

 勢いよく跳躍し、頭上を越えてマイナソーの背後に回り込む。そして、後ろから襲いかかった。

 

「!?、ミィロォ!!」

「ッ、おとなしくしろぉっ!」

 

 マイナソーを羽交い締めにする……如何にリュウソウ族の騎士といえど、肉体の能力差を考えればありえないことである、本来。

 しかし布の衣服のように柔らかいものでありながら鋼鉄より遥かに頑丈な"リュウソウメイル"、そしてムキムキソウルによる筋力増強が、彼女にそれを可能とさせていた。

 

「よくやった、オチャコくん!」

 

 リュウソウケンを振り上げ、走り出すブルー。進退窮まったとなれば、マイナソーは確実に切り札を切る。使わないならそれでも構わない、このまま刃を突き立てるだけだ。

 

「うおおおお──ッ!!」

 

 テンヤ少年の俊足で、あとわずかというところまで肉薄したときだった。

 

「ミィ……ロォ!!」

 

 ゴーゴンマイナソーの胸元がぐにゃりと蠢き──肉を搔き分けるように、"それ"が現れた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に目を背けつつ、横に転がるブルー。──"第三の眼"が、姿を現したのだ。

 

「あれか……!──オチャコくんありがとう!」

「ううっ、もう限界……!」

 

 一時的に人外にも勝るほどにまで筋力を増強するぶん、疲弊するのも早い。拘束を解くと同時に、ピンクは大きく飛びのいた。長らく自由を奪われていたマイナソーは、鬱憤からかひときわ響く絶叫をあげている。ここからは、さらに激戦となるだろう。

 

「第三の眼は見つけた……。あれを見ないように戦えと……!」

 

 と言っても、真正面だ。包囲するような形で、誰かが囮になって戦うしかない。しかしそれをするには、ふたりだけではあまりに心もとない。

 ともかくはエイジロウが一刻も早く到着してくれればと思うのは当然だったが──彼は今、とてもそれができる状況にはなかった。

 

 

 *

 

 

 

 悪夢を見ているのだと思った。

 

 多くの村の仲間たちが生活を営む集落が、泥だらけになって遊び回った広場が……燃えている。

 

「なん、だよ……これ……」

 

 マイナソー侵攻の報は確かに聞いた。でも……でも、騎士たちがそれを阻みに行ったはずなのだ。なのに何故、村境から離れているこの場所が?

 

「エーちゃん!」

「エイジロウ!」

 

 友人たち、そしてコタロウがあとを追ってくる。そして彼らもまた、一様に絶句していた。

 

「これ……こんな、ことって……」

「なぁ……ウチは、母ちゃんたちはどうなったんだよ……エーちゃん!!」

「………」

 

「──ほう、まだ生き残りがいたか」

 

 燃えさかる劫火とは対照的な、どこまでも静謐な声だった。

 

「おまえ、は……」

「タンクジョウ。貴様らリュウソウ族が、最期に聞く名前だ」

 

 城壁のような分厚い鎧で全身を覆った"それ"は、モンスターというより魔人と呼ぶにふさわしい姿をしていた。──ドルイドン。それも、幹部級だ。

 

「てめェが、これをやったのか……!?」

「ふん……だったらどうする?」

 

 そんなの、答は決まっていた。

 

「許さねえ……ッ、リュウソウチェンジ!!」

 

 走り出すエイジロウ。同時にリュウソウメイルが全身を覆い尽くし、彼を勇猛の騎士へと変身させる。

 

「ぉおおおおおおッ!!」

「リュウソウジャーだったか……好都合だ!」

 

 リュウソウレッドを前に、歓喜を露に迎え撃つタンクジョウ。一歩も動こうとしないその巨体めがけて、力いっぱいリュウソウケンを振り下ろす──

 

「──ッ!?」

 

 刃はあっさりと弾かれ、レッドは後退を余儀なくされた。

 

(こいつ……硬ぇ!)

 

 外見に違わぬ、あまりに堅牢なボディ。通常の攻撃では通用しない。

 

「ッ、なら……!」

 

 リュウソウルの力を使おうとするレッド。しかし太古よりリュウソウ族と戦ってきた彼らドルイドンは、その戦い方をも熟知していた。

 

「そうは、させるかぁ!」

 

 長さ、太さともにリュウソウケンの数倍はあろうかという大剣。──"ルークレイモア"を手に、タンクジョウはレッドに斬りかかった。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟にリュウソウケンで受け止めようとするレッドだが、態勢を整えきれていない状態でタンクジョウのパワーに対抗できるはずがない。次の瞬間にはリュウソウケンを弾き飛ばされ、

 

 そして、リュウソウメイルを切り裂かれていた。

 

「がぁあああッ!!?」

 

 そのまま弾丸のような体当たりを受け、後方へ弾き飛ばされるレッド。地面を転がったところで竜装が解け、エイジロウの生身が露になる。

 

「ッ、ぐうぅ……っ」

 

 拳を握りしめながら、エイジロウは思い知った。──こいつ、強い。

 

「ふはは……この程度か。リュウソウジャーともあろう者が、随分腑抜けたようだな」

「……ッ、」

「まあ良い、芽は早く摘んでおくに限る」

 

「死ね」──感情のない声でそう告げて、タンクジョウはルークレイモアを振り下ろした。

 

「──!」

 

 そのとき、だった。──エイジロウの眼前に、ひとつの影が飛び込んできたのは。

 

──ケント?

 

 気づいたときにはもう、長大な刃が彼の肉体を破壊していた。

 どさりとくずおれる細い身体。呆けていたエイジロウの顔から、血の気が引いていく。

 

「ケントっ!!?」

 

 それはほとんど悲鳴のような声だった。痛みなど忘れて起き上がり、咄嗟にその身体を抱きかかえる。──べっとりと腕を濡らす、血潮の感触。

 一方のタンクジョウは、思わぬ邪魔に憤っていた。

 

「おのれ、無意味な時間稼ぎを!」

 

 そう、時間稼ぎにすぎない。彼がもう一度ルークレイモアを振るえば、今度こそエイジロウも斃れる。

 

「──そうはさせへんでッ!!」

「!?」

 

 刹那横から疾走ってきた巨大な赤が、タンクジョウを吹っ飛ばしていた。

 

「ティラ〜!!」

「サンキューな、えっと……ティラミーゴ?おまえのおかげでドルン兵どもは抑えられたわ」

 

 ティラミーゴに乗って駆けつけたのは、マスターレッド──タイシロウだった。彼は未だ、足下の凶事に気づいていない。

 

「タイシロウさんっ!!」

「?──!!」

 

 トモナリ少年の悲鳴のような呼び声を聞いて、彼はようやく事を悟った。躊躇なくティラミーゴの背中から飛び降り、駆け寄ってくる。

 

「ケント……!あのドルイドンにやられたんか!?」

「エイちゃんが、あいつにやられて……!それでケント、エイちゃんを庇って──」

 

 つかえながらも経緯を説明したのは、トモナリだった。タイシロウの弟子で伝説の騎士となった少年は、恐慌状態にあってそれどころではない。血塗れになりながら、ひたすらにケントの名を呼んでいる。

 

「ケント、ケント……っ!」

「エイ、ジロウ……」

「……!」

 

 かすれた声と同時に、口からごぽりと血が溢れる。傷が臓腑に達していることは明らかだ。そういう人間の末路はひとつしかないと、経験則上タイシロウは知っていた。

 

「ごほっ……。おまえが、無事で……良かった……」

「馬鹿、しゃべんな……!そうだ、すぐチヨばあさんのとこ連れてってやるから……!だから!」

「………」

 

 ケントは無言でかぶりを振ると、震える手で何かを差し出した。──宝石のような紺碧と黄金に彩られた、リュウソウル。

 

「"カタソウル"……おれが、打ったんだ……。おまえに、使って……ほしくて、」

「ケント、が?」

 

 武器職人のひとり息子であるケントが、既に自らも金槌を持つ身となっていることは親友のエイジロウも知っていた。職人としてのケントが造りあげた最初で最後の武器が、このカタソウル。

 

「おまえ、なら……立派な騎士に、なれるよ……」

「ケント、いやだ……!」

「だから……世界の、平和……頼んだぜ……」

 

 エイジロウ、と。声にならない声でその名を呼んで──ケントは、静かに瞼を閉じた。

 

「ケント……?」

 

 呼びかけても、反応はない。くたりと投げ出された四肢は、青ざめて体温を失っていく。

 

「ケント……起きろよ、おい……!」

「………」

「ケント……っ、ケン──」

 

 そのときだった。タイシロウの大きな手が、エイジロウからケントだったものを強引に引き剥がしたのは。

 

「止せ、エイジロウ」

「タイシロウ、さん……?」

「ケントはもう、死んだんや」

 

 深手を負い、手の施しようがなく死んでいった者たちをタイシロウは何人も見た。その中には友人と呼べる関係の者だっていた。それを悼みながらも、受け入れ前に進まなければ騎士は務まらない。

 そのことを頭では理解しているのだろう、エイジロウは力なく立ち上がる。──そう、今の彼に立ち止まっている時間はない。

 

「ミイィロォォ!!!」

 

 彼方で、ゴーゴンマイナソーが巨大化したのだ。

 

「ッ、育ちよったか……!──行くで、みんな来い!」

「えっ、オレたちも!?」トモナリが慌てる。

「ここにいたらドルイドンが戻ってくるで!もう動ける騎士も殆どいないんや、早よ!」

 

 同じ危険なら、まだ自分たちと一緒に行動しているほうが安全だということだろう。竜装したエイジロウを一瞬にして打ち倒したタンクジョウのことを思い、トモナリはコタロウの手を引いて騎士たちに従った。

 

「いこう、コタロウ」

「……はい」

 

 沈んだ声で応じるコタロウ少年。もちろん明るい気持ちではないけれど、頭は冷えていた。もしかすると、タイシロウ以上に。

 

 

 だって人は死ぬのだ、いとも簡単に。どんなに願おうと愛そうと、それだけは変わらぬこの世の理だった。

 

 

 *

 

 

 

 巨大化したマイナソーを前に、テンヤとオチャコは少なからず動揺していた。"第三の眼"による石化を避け、ようやく有利に事を運ぼうとしはじめていたところだったのだ。

 

「マイナソーが巨大化するとは……!」

「アンキローゼもトリケーンも、石になったままなのに……!」

 

 かの"巨人"でなければ、巨大マイナソーは倒せない。

 

「ミィロォ!!」

 

 触手が地上めがけて襲いかかってくる。「危ない!」と咄嗟にピンクを庇い、地面を転がるブルー。しかし攻撃は止まない。急成長を遂げたことで、マイナソーは興奮しているようだった。

 

「ッ、まずい……!このままでは──」

 

 テンヤが危機感を露にしたときだった。「ティラァァ!!」と既に聞き親しんだ咆哮とともに、赤竜がマイナソーに突撃したのは。

 

「ティラミーゴ……!」

 

 来てくれたか、と喜んだのもつかの間だった。

 ティラミーゴから飛び降りてきたエイジロウたちの表情は一様に暗かった。最後に現れたタイシロウのおぶっているモノを目の当たりにすれば、何事かを問うまでもなくて。

 

「ケント……くん……?」

「……ドルイドンに、やられた」

「……!」

 

「俺を、庇ったんだ」──感情の抜け落ちたような声で、エイジロウはそう言った。そのせいでケントはモノ言わぬ骸となったのだと、言外に己を責めるかのように。

 

「………」

 

 沈黙が響く中、カァ、と場に不似合いな囀りとともに漆黒の翼が飛来した。魔導士たちが使役している、呪鴉。彼女らの五感は、使役する者と共有できる。

 それを見たタイシロウは、務めて声を張り上げた。

 

「姐さん、全員揃った。──頼むで!」

 

 直後だった。その場にいた全員、ティラミーゴと石化したトリケーンとアンキローゼまでもが、眩いばかりの光に包まれたのは。

 

 

 *

 

 

 

 エイジロウたちがおずおずと目を開けると、そこには昨晩儀式で見たのと同じ景色が広がっていた。

 

「広場……?」

 

 なぜ、ここに。転送魔法にかけられたのだと程なく彼らが察したのは、マスターピンクの姿があったからだ。いや彼女だけではない、マスターブルーに長老、さらには怪我人を看ているはずのチヨの姿まで。

 

「呪鴉を通じて状況は見た。……ケントのこと、あとでしっかり弔ってやんねえとな」

「………」

「……あの、我々をなぜここに?」

 

 まだマイナソーは暴れているし、吹っ飛ばされただけでタンクジョウも健在だ。早くなんとかしなければ、村の被害は取り返しのつかないことになる。テンヤが疑問を呈するのも当然だった。

 

「このままじゃ、村は滅ぶ」

「……!」

「またあのマイナソー倒しても同じだ、次が来る。今のお前らじゃ、ドルイドンは倒せねえ」

「そんな……っ」

 

 突きつけられた現実は、あまりに重い。それゆえに大人たちは、最後の手札を切るつもりでいた。

 

「だから、村そのものを封印する」

「……え?」

 

 いきなり何を言っているのだ、この老人は?

 少年たちが呆気にとられるのを予期していたかのように、マスターピンクが説明を引き継いだ。

 

「代々のマスターピンクだけに伝わる、禁断の大魔法なんよ。外に知られたら事やから、ずっと秘匿してたんやけどね」

「ある意味最高級の結界さね。もっとも使ったが最後、自分たちでは戻れなくなるけど」

 

 チヨの言葉に、少年たちは絶句した。ドルイドンに狙われないために村を隠す──そのための方策であることは理解したけれど、戻れないと言うのでは滅びたも同然ではないか。

 

「もとに戻す方法はある。──天空に浮かぶ"始まりの神殿"に封じられたと言われている、伝説の剣ならば」

「伝説の……剣?」

「そこで、キミらや」

 

 タイシロウが、三人を指差す。

 

「キミらには世界を巡って、始まりの神殿を見つけ出してほしいんや」

「……!」

 

 世界を巡る──外の世界へ、旅に出る。それはドルイドンの侵略に、真っ向から立ち向かうことを意味していた。

 

「お前たちは三人だけではない。ずっと昔、村を出た仲間もいる」

「リュウソウジャーが五人揃えば、ドルイドンにだってきっと勝てる」

「ちょっと待ってくれ!兄さんたちは残るつもりなのか?」

「マスターとして、この村には責任があるからな」

「でも……!」

 

 突然のことでもあり、兄に詰め寄るテンヤからはそれ以上言葉が出てこない。

 そんな弟の肩に、テンセイはそっと手を置いた。

 

「大丈夫だ、テンヤ。おまえはもう、立派に騎士の務めを果たせる」

「にい、さん……」

 

 兄弟と同じように、母子もまた。

 

「オチャコ……決めたんやね、リュウソウジャーとして頑張るって」

「……うん!」

 

 娘が己と異なる道を進むことが、寂しいと思わないかと言えば嘘になる。だがオチャコは彼女ひとりの子供ではない、愛する夫との間に築いた唯一無二の結晶だ。ならば道を違えたとしても、何も訝しむことなどない。

 

──惜別。しかしこれは、今生の別れではない。旅路の果てにいつか再び相まみえるのだと、決意するための時間。

 

 ゆえに水を差す無作法な化け物の到来に、目を向けることは厭わなかった。

 

「ミィロォォ……!!」

「!、来たか……!──エイジロウ、キミとティラミーゴでヤツを止めてくれ。その間にマスターピンクが封印の魔法を、チヨさんが転送魔法を詠唱する手はずになっとる」

「タイシロウさん……!」

 

 「ンな表情(かお)するなや」と、タイシロウは困ったような笑みを浮かべた。

 

「"漢が背中に傷を作ってええのは、誰かを守るときだけ"──キミの親父さんの教えを、キミのダチは果たしたんや。だったらキミも、それを為せるだけの漢になって帰ってこい!」

「……!」

「さあヤツが来るで、行け!」

 

 ゴーゴンマイナソーは眼前にまで迫っている。──それ即ち、決断の時が来たことを示していた。

 

「……っス!」

 

 リュウソウブレスを構え、飛び出すエイジロウ。ティラミーゴもまた、彼の背後に陣取る。

 

「──リュウソウチェンジ!!」

 

『ケ・ボーン!──リュウ SO COOL!!』

 

 "勇猛の騎士"──リュウソウレッド。赤の騎士に選ばれし伝説の騎士に、エイジロウは竜装した。

 

「来いッ、ティラミーゴ!!」

「ティラァァ!!」

 

 走り出すティラミーゴ。跳躍したレッドの身体が、その体内に吸い込まれていく。

 そして、

 

「ソウルを……ひとつに!」

 

 ティラミーゴが、その姿を変えていく。頭部と逞しい脚はそのままに、騎士たる姿へ。

 "神"と称されたその姿についても、エイジロウは既に名を考えていた。

 

「いくぜ……!──キシリュウオー!!」

 

 紅蓮を纏い、駆け抜ける巨人。放たれる触手をものともせず、彼はゴーゴンマイナソーに肉薄していく──

 

 その背姿を見届けつつ、長老は改めて若者たちに向き直った。

 

「さて……トモナリ、おまえはどうする?」

「え?」

「望むなら、こいつらと同行するなり、近くの人間の村に行くなりしても構わん」

 

 問われたトモナリ少年は、一瞬考え込むようなそぶりを見せたが、

 

「……いや、俺も残ります。じゃないとケント、一人ぼっちになっちゃうかもしれないから……」

「……そうか。──コタロウと言ったか、おまえは行くだろ?」

「……ええ。僕に皆さんと心中する義理はないので」

 

 その物言いにテンヤとオチャコは眉を顰めたが、長老たちは「それもそうだ」と笑うだけだった。

 

「行く面子は決まったな。──始めてくれ」

「あいよ」

「はい!」

 

 チヨが転移魔法を、マスターピンクが封印魔法の詠唱を開始する。それが終わるまで、マイナソーを食い止める──あるいは、倒す。その責は今すべて、エイジロウとキシリュウオーにのしかかっていた。

 

 

「うおおおお──ッ!!」

 

 体内に宿ったリュウソウレッドが剣を振るうにあわせ、爪で、脚で猛攻を仕掛けるキシリュウオー。そのスピードにマイナソーは手も足も出ない。

 

「ミィロォ!」

 

 業を煮やし、"第三の眼"による石化を仕掛けようとするが、

 

「させるかっ!」

 

 その兆候を認めた途端、跳び上がって背後に回り込む。さらに一撃。

 

「ガァアア……ッ」

「行くぜッ、ジョイントチェンジ!」

 

 胸元に残るティラミーゴの頭部が分離し、右腕に合体する。意志を保ったそれは、容赦なくマイナソーに齧りついた。

 

「グアァァァ……!?ミィ、ロォ……!」

「これで──」

 

──終わりだ。

 

 

「ティラ、ダイナバイトッ!!」

 

 キシリュウオー必殺の一撃が炸裂する。──ふたつの魔法の詠唱が完了したのは、それと時を同じくしてのこと。

 

 

 そうして世界は、閃光に覆い尽くされた。

 

 

 つづく

 

 

 






「貴様らを消せば、奴らの希望も潰える!」
「タンクジョウ、てめェを倒す!」

次回「セカンド・インパクト」

「もう大丈夫、僕らが来た!!」

「俺たち以外の、リュウソウジャー……?」



ソウルをひとつに!行け、騎士竜道‹バトルロード›!


今日の敵‹ヴィラン›

ゴーゴンマイナソー

分類/レプタイル属ゴーゴン
身長/183cm〜44.8m
体重/275kg〜673.8t
経験値/304
シークレット/その瞳に睨まれたものは石になると言われた魔獣、ゴーゴンに似たマイナソー。胸元に隠された第三の眼を見てしまった者はどれほどの力を持っていようと石像と化してしまうのだ!
ひと言メモbyクレオン:タンクジョウさまのためにオーダーメイドしてきましたっ!どうやって作ってるかって?……それは企業秘密☆でっす!
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