【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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22.光と闇のはざまで 1/3

 

 突如起こった、死者たちの甦り。その原因もわからぬまま、リュウソウジャーは復活したタンクジョウを再び討ち果たした。

 同時に現れた、黒白、二体の騎士竜。──そして。

 

 

「……親父、」

 

 複雑極まりない感情の乗ったショートの呼びかけは、エイジロウたち五人を驚愕させるに十二分なるものだった。

 

「え、オヤ……お、親父!?」

「お父様、ということは──」

「──この方が、王配殿下……?」

 

 燃えるような赤髪に、テンヤのそれを凌駕するような屈強な身体つき。何より強靱な意志を感じさせる碧眼は、ショートの左眼とまったく同じ色をしていた。

 左、同じと言えば──顔の左半分に走る、爛れたような傷痕。まさか遺伝というわけでもあるまいに。

 

「……いかにも、かつてはそう呼ばれていた。尤も百年以上も昔に海の王国を去った俺を、そうと認める人間など残ってはいないだろうがな」

「……ッ、」

 

 ショートはぎりりと白い歯を食いしばった。この男はわかっていない。百年の間、女王たる母がどれほど焦がれながら、その細い双肩に国を背負ってきたか。

 

「……どうしてだ。どうして、国を捨てた」

「………」

「その挙げ句に、俺たちの知らないところで勝手にくたばったのか!!?」

 

 激昂し、父に掴みかかろうとするショートを、仲間たちは慌てて押しとどめた。

 

「ッ、放せ!こいつには山ほど言ってやりたいことが──」

「気持ちはわかるけどッ、落ち着けって!!」

「そうだよっ、冷静にならなきゃあかん、ってぇ!!」

 

──ぐきっ。

 

「ッ!?」

 

 オチャコが羽交い締めにした腕に力を込めた途端、嫌な音がした。

 

「い、痛ぇ……」

「ちょっ……おめェ何してんだオチャコ!?」

「つ、つい……」

「加減というものを知らないのか!?」

「だっ大丈夫、ショートくん!?」

 

 細身とはいえショートもかなり鍛えたプロポーションではあるのだが、オチャコの腕力はそれを容易く上回っていった。幸い頑丈なリュウソウ族の身体のおかげで骨に異常もなく、程なく立ち直ることはできたのだが。

 

「……捨てるつもりは、なかった」

 

 奇しくもオチャコのやらかしにより頭を冷やしたショートだったが、言い訳じみたその言葉に再び目を眇めた。

 

「なら、どうして戻ってこなかった?」

「……時が、経っていたからだ」

「時……?」

 

「──俺が十数年だと思っていた時の流れが、実は数百年だった。その意味が、リュウソウ族であるお前たちに理解できるか?」

「……!」

 

 父──エンジの碧眼に宿った昏い炎に、先ほどまで攻勢一辺倒だったショートは初めて言葉に詰まった。そうだ──この男は、ごくわずかにリュウソウ族の血を継いではいるけれど、ただの人間の戦士でしかなかったのだ。

 それが海のリュウソウ族の女王と契りをかわしたことで、同じ時の流れを生きることになった。一生海から出ることがなければ、なんの問題もなかったかもしれないけれど。

 

「故郷に帰った俺を待っていたのは、とうの昔に人間の住処ではなくなった村の残骸だった。案じていた母は、朽ちた墓標になっていたんだ」

「………」

「打ちひしがれた俺は……餞に与えられた宝箱に、救いを求めた」

 

 あるいは過去……本来の時の流れの中に、戻ることができるのではないかと。

 そんな期待とは裏腹に、抑えられていた時が流れ出し──エンジもまた、朽ち果てた。

 

「……知らな、かった」

 

 今度はショートの言葉が、いかにも言い訳がましく響く番だった。

 それが本当なら、母は……否、自分たち海のリュウソウ族は、エンジの正常な人生を奪ってしまったことになる。その一員である自分に、彼を責める資格などありはしないではないか。

 

「そんな表情(かお)をするな、ショート」

 

 ショートの自責とは裏腹に、エンジの声は穏やかだった。

 

「レイや、お前たちを恨んでいるわけではない。レイと出逢わなければ、俺は戦いに身を置くだけの人生だっただろうからな」

「……親父、」

「ところで……その火傷は、どうした?」

 

 不意にエンジの腕が、ショートの左目元に伸びる。今のやりとりで反感と罪悪感のない混ぜになった状態のショートは、それを拒否しなかった。

 

「……小さい頃、間欠泉にやられた。よくある事故だ」

「……そうか。なら良……くはないが」

 

 ぎこちないが、間違いなく親子のやりとり。──それを後押しするように、エイジロウはショートの肩に腕を回した。

 

「良かったじゃねえか、誤解が解けてさ!」

「!、エイジロウ……」

 

 誤解──そう、少なくとも"捨てられた"というのは誤解だったのだ。百数十年ぶんの蟠りはそれだけで消えはしないけれど、こうして父の手を受け入れるきっかけにはなった。

 

「……ンなことよりあんた、あの騎士竜どものこと知ってンのかよ」

「かっちゃん口調!王配殿下に失礼だよ……!」

 

 エンジはじろりとカツキを睨みつけたが、イズクの注意もあってかそれを咎めることはなかった。

 

「……まあ、良い。彼らのことは、レイから聞いたことがあったという程度だ。リュウソウ族による封印を免れ、宇宙に去った一対の騎士竜がいたと」

「じゃあ、それが戻ってきてくれた……?」

「再生と消滅、光と闇を司る騎士竜たちか……」

「!、もしかして、亡くなった人たちが甦っていることにも何か関係が?」

 

 二大騎士竜には確かに、それだけの強力なパワーがあるが。

 

「この世とあの世の境目が曖昧になったことは事実だろう。しかしそれだけで、死者が実体をもって甦るなどということはありえない」

 

「──これは、マイナソーの仕業だ」

「!!」

 

 予測しえた可能性とはいえ──皆が思わず、息を呑んだときだった。

 空中に、シャドーラプターのそれとは似て非なる、禍々しい空間の歪みが生じたのは。

 

「噂をすればか……──来るぞ!」

 

 エンジの言葉に身構える一同。──果たして次の瞬間、空間を突き破るようにして、"亡霊"が姿を現した。

 

「……バァ……」

「!、あいつ……」

「脅かしとるつもりか、クソがっ!」

 

 まさしく亡霊としか言いようのない姿をしたそれは、半透明の腕で手招きをしている。──憤激したカツキがリュウソウケンを抜こうとした瞬間、"それ"は起こった。

 

「────ッ!?」

 

 身体から急速に力が抜けたかと思うと、重力に逆らってふわあ、と浮き上がっていく。

 

 否、身体そのものは地上に残っていた。──魂が、抜き取られようとしているのだ。

 

「ッ、ンの──!」

 

 騎士たちの強靭な精神力が、半ば強引に魂を身体へと引き戻す。

 

「気を抜くな!奴は死者を復活させる代償に、生者の魂を黄泉へ引きずり込む……!」

「!」

 

 では、沼から魚たちが姿を消したのは。ショートがその事実に思い至ると同時に、マイナソーは再び手招きをした──村の方角めがけて。

 まさかと血の気が引くのもつかの間、朧気にヒトのかたちを保った魂が、次々と吸収されていく。

 

「……バァ、……」

 

 それらを懐に抱え、再び空間の歪みの内側へと消えていこうとするマイナソー。このままでは、人々の魂があの世へ引きずり込まれてしまう!

 

「させるかぁッ!!リュウソウチェンジ!!」

『ケ・ボーン!──リュウ SO COOL!!』

 

 からの、

 

「ノビソウル!!」

 

 『ビロ〜〜ン!!』と刃がしなって伸び、マイナソーを斬り払う。その衝撃で人々の魂は解放され、村のほうへ戻っていった。あの世へ引きずり込まれる前なら、肉体とのリンクは切れていないらしい。

 

「ッ、バァ……!」

 

 悔しがるそぶりを見せながら、単身あの世へ戻ろうとするマイナソー。そうはさせるかとばかり、レッドは刃をその脚に巻きつけた。

 

「おめェはここで、倒ぉぉぉぉ──ッ!?」

「なっ……エイジロウくん!?」

 

 マイナソーのパワーは見かけによらないものがあった。レッドはそのまま、あの世へと引き込まれていく──今度は、肉体もろとも。

 

「エイジロウくん!!」

「うそ……」

「ッ、親父!エイジロウは──」

「……肉体ごとなら、すぐには死と見做されないだろう。尤もマイナソーに魂を抜き取られれば、一巻の終わりだ」

「……ッ、」

 

 既にマイナソーのつくり出した時空の穴は閉じてしまった。彼らにはもう、エイジロウの無事を祈ることしかできない。

 

 

 位相のゆがんだ空間の中で、レッドはマイナソーに斬りつけていた。

 

「……バァ、………」

「ッ、ちょこまかと……!──なら!!」

 

 奇怪な引力に身をまかせながら、彼が構えたのは燃ゆる炎のリュウソウル。

 

『メラメラソウル!メラメラァ!!』

 

 強竜装。騎士竜ディメボルケーノの加護を宿した、橙の鎧が胴体に装着される。

 

「──燃えろぉッ!!」

 

 刃に渦巻く炎を纏い──振り下ろす!

 

「グアァ……!?」

 

 みすぼらしい襤褸布に炎が燃え移り、マイナソーはうめき悶えながら地面……というのも安定しない空間に転がり落ちた。

 

「っし……!」

 

 同じく着地し、柄に手をかける。魂を抜き取られるリスクは彼自身承知している。このまま一気に、終わらせれば──!

 

 そんな思惑とは裏腹に、メラメラソウルによるものでない火炎が思いがけず襲いかかってきた。

 

「ッ!?」

 

 メラメラソウルによる耐性付与で、火炎が直撃してもほとんどダメージはない。しかし突然の不意打ちは、少なからず彼を怯ませることになった。

 

「キヒヒヒ……こんなところまでご苦労だねェ」

「!、てめぇ……ゾラ!?」

 

 "不死の王(キングオブアンデッド)"を標榜するドルイドン。確かにアンデッドタイプのマイナソーばかりを操って攻撃してきたが、"不死"──つまり生者であるはずなのに、どうしてここに。

 

「アンデッドは生と死のはざまを漂泊するどっちつかずの存在……その王ともなれば、死後の世界にお邪魔するなんてお茶の子さいさいなのサ……キヒヒヒッ」

「だったら、永遠にここから出られねえようにしてやる!!」

 

 半ば反射的に叫び、走り出す。その間、ゾラの手からは詠唱なしの魔法が間断なく放たれ続ける。リュウソウケンで身を守りながらも、時折鋭い痛みが走った。

 

「ッ、」

 

 それでも立ち止まらない、走り続ける。"不屈(アンブレイカブル)"──カタソウルの必殺技にも名付けたその言葉は、彼の根にある哲学でもあった。

 

「うおおおお──ッ!!」

「!」

 

 ついに、刃の届く距離まで届いた。

 

「ボルカニック──ディーノ、スラァァッシュ!!」

 

 二度目の炎の一撃が、ゾラの上半身と下半身を真っ二つに両断した。

 

「グアァァ──!」

 

 切り離された上半身がゆっくりと崩れ落ち、発火する。それが下半身にも波及し、塵になっていく──以前の戦いでも目の当たりにした光景だが、だからこそこのあとのことは予想できた。

 

「キヒヒヒッ……相変わらず、大した力だねェ」

「……ッ、」

 

 程なくして復活を遂げられる。わかっていたことだ。レッドは再び刃を振り上げた──肉体的な死がありえないなら、不屈の精神で何度でも切り刻んで、その精神を折るまでだ。

 

 しかし──未だ少年のエイジロウより、ゾラは何枚も上手だった。

 

「オレより、まずマイナソーを倒したほうが良いんじゃないのかィ?……まァ、マイナソーが死んだら甦った死者たちもみィんな消える。愛する家族や友人が、泣いて抱き合った誰かのタイセツな人たちがねェ……キヒヒヒッ」

「──!」

 

 心臓が、どくんと跳ねる。──そんなこと、言われずともわかっていたはずだった。しかしはっきりと言葉にされた途端、思い出してしまったのだ。慌ただしく動き回りながらも、どこか喜色をたたえた村人たちの顔。何より……ケントと再会したときの、涙があふれるほどだった自分の気持ちを。

 

(俺の剣が……誰かを泣かせる?)

 

 今度はまぎれもない、悲しみの涙を。

 それは現実の時間にして、ほんの一瞬の躊躇にすぎなかった。しかしその一瞬を、ゾラは虎視眈々と狙っていたのだ。

 

──黒い靄が、レッドの身体を包み込んだ。

 

「な──ぐぁああああっ!!?」

 

 耐えがたい苦痛が襲いかかる。微細な靄の構成体はリュウソウメイルのわずかな網目から入り込み、エイジロウの身体を侵食していた。

 体内から焼けつくような感覚に耐えきれず、倒れ伏す。竜装が解け、生身を晒したエイジロウの胸元に、ゾラがゆっくりと足を乗せた。

 

「あ゛ッ!?ぐ、うぅぅ……ッ!」

「キヒヒヒッ……甘いねェ」

 

 徐々に力を込めながら、嗤うゾラ。そんな彼の傍らに、マイナソーが擦り寄る。

 

「騎士竜の加護も消えたことだしィ……レヴェナントマイナソー、この坊やの魂も奪っておやり」

「バァ……!」

 

 頭上に透けた手が翳される。──この黄泉の世界で魂を奪られたら、終わりだ。知らずともそれを予感して、エイジロウはぎりりと歯を食いしばった。

 

 しかし、その時は来なかった。

 

「──ッ!?」

 

 薄暗い世界に、突如眩い虹色の光が降りそそぐ。心地よい温かなそれが、芯からエイジロウの身体を癒していく。

 一方、ゾラやレヴェナントマイナソーにとってはそうではなくて。

 

「グウゥ!?こ、この光はァ……!?」

「バ、ア゛ァァァ……!?」

 

 苦悶する二体。もしや、この癒しの光はアンデッドには苦痛を与えるものなのか。

 ならばと立ち上がったエイジロウだったが、

 

「ッ、ここは退くよォ……!」

「……バァ……!」

 

 得体の知れない攻撃に対しては、不死身のゾラも警戒心を発揮したらしい。マイナソーに現世へのゲートをつくらせると、ともに消えていく──

 

「ッ、待て!!」

 

 追おうとするエイジロウ。しかし、ゲートは無慈悲にも閉じていく。手を伸ばすが、届かない。このまま取り残される──

 

 そう思われた矢先、眩い光はエイジロウを包み込んだ。

 

「──!」

 

 真白い空間。広さもわからないその中心に、エイジロウは立っていた。戸惑う彼の眼前に光が寄り集まり、明確な姿を形作っていく。

 

「!、おめェ……シャインラプター?」

 

 純白のボディに澄んだ碧い眼。どこか禍々しさを感じさせるシャドーラプターとは対照的なその姿で、じっとエイジロウを見つめている。

 

(──いるべき場所へ帰りなさい、勇猛の騎士よ)

 

 穏やかな女性の声だった。それとともに、エイジロウは森の中へと投げ出されていた。

 

 

「──エイジロウくんっ!!」

「!?」

 

 墜落したエイジロウを受け止めたのは、彼より幾分も小柄な少女──オチャコだった。つい先ほどはショートに思わぬダメージを与えてしまった腕力だが、これで面目を取り戻した形だ。

 

「エイジロウくんっ、大丈夫だったのか!?」

「も〜っ、心配したんやから!」

「お、おう……悪ィ。あんがとな、オチャコ」

 

 いつまでも女子に抱えられていては男の沽券にかかわる。もっと身体を大きくしなければと改めて決心しつつ、エイジロウは再び地に足をつけた。

 

「……向こうに、ゾラがいた」

「!!」

 

 不死の王たるドルイドンの名を聞いて、皆の表情が一様に険しくなる。

 

「やっぱり、あいつが絡んでるのか……」

「いい加減、決着つけてぇな」

「おう。……もしかしたら、なんとかなるかもしれねえ」

「!、何か手だてを思いついたのか!?」

 

 思いついたというか、与えられたというべきか。エイジロウは握っていた右の掌を開いた。

 

──シャインラプターを象った純白のリュウソウルが、そこにはあった。

 

 

 

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