【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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22.光と闇のはざまで 3/3

 それぞれの場所で、それぞれの戦いが続いていた。

 

「どぉりゃあぁぁぁッ!!」

『ムキムキソウル!ムッキムキィ!!』

 

 ムキムキソウルの力で筋力を極限までブーストさせたリュウソウピンクが、勢いのまま標的へ殴りかかる。

 

「そんな攻撃、当たらナッシング!!」

 

 一方、標的ことワイズルーは、マントを翻しながらその拳をかわしてしまう。ただ言動に反して、余裕綽々ともいえなかった。

 

「当たるまで、ブン殴る!!」

「オー……ディス、イズ、テラー……!」

 

 小柄な体躯からは想像もつかない彼女の腕力と執念に、少なからず恐れをなすワイズルー。こうなればと、彼はステッキを勢いよく振り上げた。

 

「喰らうがよろしい!──チェックメイト・デ・ショータァイム!!」

 

 ステッキの先端から、空めがけて光線が発射される。その光、鈍色の雲間に一瞬姿を隠したかと思うと──雨のように、無数に降り注いできた。

 

「ッ!?」

 

 避けようにも、攻撃の範囲が広すぎる!やむなく防御姿勢をとったピンクだったが、

 

「オチャコくん伏せろ!!」

「!」

 

『ハヤソウル!ビューーーン!!』

 

 彼女が指示に従うと同時に、ブルーが飛び込んでくる。ハヤソウルによる疾風迅雷の剣捌きで、彼は光の刃の雨を打ち払った。

 

「むうぅ……やるなスモウレスラーボーイ?」

「よく覚えているな!──今日はあのとき以上に、燃えさせてもらう!!」

 

 言うが早いか、彼はハヤソウルによる竜装を解いた。入れ替わりに構えたのは、

 

「メラメラソウル!!」

『強!』

 

 一回、

 

『リュウ!』

 

 二回、

 

『ソウ!』

 

 三回、

 

『そう!』

 

 四回。

 

『──この感じィ!!』

 

『メラメラソウル!──メラメラァ!!』

 

 ブルーのメイルの上に、対照的な色合いの、燃えさかる炎の鎧が装着される。

 

「うおおおおお──ッ!!俺は今、至極燃えているぞぉぉぉ……!!」

「燃えているって……物理的に!?」

「あ、暑苦しい……でも、キライやないよ!」

 

 メラメラソウルにはトラウマがあるせいか、明らかにたじろいでいるワイズルー。精神的に上手に立ったときが何よりの好機なのだと、彼らは既に学んでいた。

 

「同時に行くぞ、オチャコくん!」

「うん!」

 

 せーの、の勢いで走り出し──

 

「ボルカニック、」

「ストレングス、」

 

「「──ディーノ、スラァァッシュ!!」」

 

 劫火の一撃。腕力にあわせ、巨大化した刃の一撃。それらが同時に炸裂し、

 

「ンノォオオオオ──ッ!!?」

 

 防御のため構えたステッキを叩き折られ、ワイズルーは威力のままに吹っ飛ばされた。

 

「ワイズルーさま!?だ、大丈夫っスかぁ!!?」隠れて応援に回っていたクレオンが駆け寄ってくる。

「あああ、アウチ……っ。しまった、マイステッキが!」

「……前々から思ってましたケド、ワイズルーさまってあんま強くないっスよね」

「!!?、ガアァァァン!!」

 

 クレオンの心ない言葉にショックを受けたワイズルーは、次いで猛然と立ち上がった。身構えるふたりだったが、

 

「もういいたくさんだ!帰る!!」

「へ!?帰るって、ここが元本拠じゃあ……」

「言葉のアヤってヤツだよぉ!だいたい私は、誰かの下につくのはノーサンキューなのだっ!!」

 

 「グッバイ!」と叫ぶと、ワイズルーは物凄い勢いで走り去っていく。残されたクレオンは、

 

「……ドルイドンはみィんなそうじゃんか。なあ?」

「えっ……う、うむ。そうだな」

「ってか、私たちに同意求められても……」

「ま、まあそゆことで。じゃーな!」

 

 戸惑っていたふたりがはっと我に返る。しかし逃げ腰になったクレオンを捉えるのは至難の業で。

 結局ふたりの攻撃が届くより早く、クレオンは液状化して地面に潜っていってしまった──

 

 

 *

 

 

 

 時を同じくして、グリーン&ブラックと謎の鎧騎士・ガイソーグの剣闘も極まっていた。

 

「ッ、はぁ!」

「オラァ!!」

 

 疾風のような素早い斬撃と、威風のごとき力の乗った斬撃。それらを抜群のコンビネーションで高めあう、幼なじみふたり。

 しかしガイソーグの剣技は、そのコンビネーションさえも上回っていた。ことごとくを捌ききりながら、次の瞬間には攻撃に転じる余裕を見せる。

 

「……なるほど良い連携だ。昔のきみたちでは、こうはいかなかっただろうな」

「……!」

「ッ、黙れ!!」

 

 相棒が息を呑むのを察したブラックが、ブットバソウル片手に独り突撃した。

 

『ブットバソウル!ボムボム〜!!』

「死ィねぇぇぇ!!」

「かっちゃん!!」

 

 制止の声を無視し、赤熱した刃を振り下ろす──!

 

「ダイナマイトォ、ディーノスラァァァッシュ!!!」

「………」

 

「──エンシェント、ブレイクエッジ……!」

「……!」

 

 ふたつの力がぶつかり合う。競り勝ったのは──ガイソーグだった。

 

「があぁ……ッ!」

「かっちゃん!?──ッ、こうなったら……!」

 

「──ビリビリソウル!!」

 

 ショートから預かった、雷のリュウソウル。それをリュウソウケンに装填するのは、リュウソウ族の長い歴史上でも初めてのことだった。

 

『強!リュウ!ソウ!そう!──この感じィ!!』

 

『ビリビリソウル!ビリビリィ!!』

 

 黄金の鎧が、リュウソウグリーンに装着される。

 

「はあぁぁぁ──!!」

「!」

 

 床を蹴り、一気呵成に敵へ迫る。雷を纏った刃を──突き出す!

 ガイソーグは盾を顕現させ、それを防いだ。分厚く強靭なそれはあらゆる攻撃を受け止めるが、その大きさと重さゆえ持ち主の動作を大きく制限するという弱点がある。そのため、普段は手にしていないのだ。

 

(そこに、勝機がある!)

 

 ガイソーグが守勢に入っている今なら。──そして、その防御を崩せるだけの力なら!

 

『超!超!超!超!──イイ感じィ!!』

「モサ、ディーノスラァァッシュ!!」

 

 ひときわ激しい電撃がリュウソウケンに奔り、刃を、さらには周囲までもを閃光が覆う。

 

「!」

 

 危機感を覚えたのだろうガイソーグは剣を捨て、両手で盾を構える。それにも構わず、グリーンは刃を振り下ろし──

 

 気づけばガイソーグは、その場に片膝をついていた。

 

「ッ、流石……強竜装の力か……。だが──」

「く……っ」

 

 グリーンもまた、立っていられないほどのダメージを受けていた。あふれ出した電撃は、彼自身にも波及していたのだ。

 

「……どんなに強い力をもってしても、根底にあるのが蛮勇では木偶の坊と変わらない。肝に銘じておくことだ」

「……!」

「この続きは……またいつか」

 

 剣を拾い上げ──床に突き立てる。途端に激しい火花が散り、彼の姿を覆い尽くした。

 

「ッ、クソが!!」

 

 構わず吶喊したブラックだったが……ガイソーグの姿は、既にかき消えていて。

 

「……ッ、」

 

 この場での戦いは、終わった。興奮冷めやらぬまま、次のステージに進んでいただろう──本来なら。

 

「………」

「……かっちゃん、」

 

 黙って竜装を解いたカツキを、同様にしたイズクが押し殺した声で呼ぶ。無言の拒絶を背中で示しても、彼は重い足取りで歩み寄ってきた。

 

「ガイソーグは、きみの……いや、少なくともきみと僕のことを知っていた」

 

 「昔のきみたちでは、こうはいかなかっただろうな」──カツキとイズク、双方を知るからこその言葉。

 それだけではない。

 

「最後にあいつが吐いていった言葉……覚えてないとは言わせない」

 

「あれは昔、僕がマスターブラックに言われた言葉だ」

 

 思いがけずタイガランスに相棒と認められ、早く一人前の騎士にならねばと無理な鍛錬を積んでいた頃。それを見咎めたマスターブラックからの、厳しくも正しい助言だった。ちょうどそのときはカツキも居合わせていたというか、イズクのやり方を巡って口論している真っ最中だったのだ。

 

「……きみはずっと、僕がどんなに訊いても教えてくれなかったね。マスターブラックが、なぜ失踪したのか」

「………」

「ガイソーグは……あの鎧は、まさか──」

 

「──言うんじゃねえ!!」

 

 びりびりと、空気を震わせるような叫びだった。

 

「あの人は俺のマスターだ、てめェには関係ねえ!!」

「ッ、ふざけるなよ!!」

 

 激情のままに、イズクはカツキの胸ぐらを掴んだ。無論マントのほか衣服は身につけていないので、首もとを覆う宝飾を。

 

「なんでだよ……!なんできみはいつも、そうやって……!少しは、僕を頼れよ!!」

「──ッ!」

 

 次の瞬間、頬を凄まじい衝撃が襲って、イズクはその場に尻餅をついた。じんじんと熱い痛みが襲ってくる。離れる際に力が入ってしまったのだろう、首飾りがちぎれ、翡翠がばらばらと床に散る。

 

「……てめェ、俺と対等だと思ってんなよ」

 

 ぞっとするような、冷たい声だった。

 

「てめェはっ、黙って俺に守られてりゃ良いんだ!!」

「……ッ、」

 

 殴られた頬を庇いながら──イズクは、ぎりりと歯を食いしばった。

 

 

 *

 

 

 

『──強・竜・装!!』

『カガヤキソウル!カガヤキッ!!』

 

 リュウソウゴールドの胴体に漆黒の鎧が、レッドに聖騎士のような白金の鎧が装着される。それぞれシャドーラプターとシャインラプター、黒白一対の騎士竜の加護を得た力だった。

 

「キヒヒヒッ、カァッコイイねェ!」

 

 言葉とは裏腹に露骨な嘲笑を吐きながら、ゾラは奔流のごとく魔法攻撃を仕掛ける。炎に電撃、旋風に氷柱──多種多様なエレメントが次々と襲いくる。それらに対し通常のリュウソウル、あるいは同様に属性系の強リュウソウルで対抗しても翻弄されるばかりだ。

 上回るとするなら──光と闇。カガヤキソウルと、クラヤミソウル。

 

「ふ、」

 

 ゴールドが引鉄を引くたびにブラックホールが撃ち出され、発生した事象を呑み込んでいく。

 そうして防備を整えたところで、

 

「おらッ!!」

 

 レッドが剣を天めがけて突き出す。刃先は当然、ゾラにはまったく届いていない。しかしそれで良いのだ。

 刃から聖なる光が放たれ、昏い室内をかっと照らす。それは生きとし生けるものにとって麗しきもの──しかし、

 

「グ、ア゛ァァァ……!?」

 

 生きながらにしてアンデッドとなったゾラにとっては、その光は苦痛でしかなかった。苦悶の声をあげながら、のたうち回る。

 

「ガ、ァァァ……ィヒッ、キヒヒヒ……!」

 

──それでもなお、嗤っている。

 

「ッ、やっぱりこれじゃ、倒せねえか……」

「わかってたことだろう、このまま続けるんだ」

「おうよ!」

 

 光を放ちながら、徐々に接近していく。苦しみながらようやく放った魔法は、ゴールドとクラヤミソウルによってことごとく吸収されてしまう。

 

「おめェの攻撃はもう通用しねえ。おめェが不死身だろうと、勝ち目はもうねえんだ。いい加減、降参しろってんだ!」

「こう……さァん?土下座して、宇宙にでも戻れば良いのかィ……?」

 

 肯くレッド。"降参"と言っても、その後の処遇としてはそれくらいしか考えられない。無論リスクの大きい話であることは承知している。

 

「──そんなのッ、御免だねェ!!」

 

 ゾラがそう言うであろうことも、もとより織り込み済みだった。

 

「バァ……!」

 

 なんの前ぶれもなかった。空間を割り、レヴェナントマイナソーが姿を現したのは。

 

「ッ!」

 

 咄嗟にカガヤキソウルの光を浴びせかける。魂の捕獲を阻止するための行動だったが、もとよりマイナソーはゾラの救援に現れただけだった。

 

「悪いケド、オレはあの世へ逝かせてもらうよォ……!」

 

 言うが早いか跳躍し、空間の裂け目へ飛び込んでいくゾラ。それを認めたレヴェナントマイナソーもまた、ゆっくりと彼岸へと消えていく。

 レッドとゴールドは──あえて、あとを追おうとはしなかった。

 

「やっぱり、そう来たか」

 

 予想しえたこと。そしてそれに対する"必勝法"の啓示は、既に貰っていた。

 強竜装を解除するふたり。そしてゴールドは、モサチェンジャーから取り出したクラヤミソウルを相方へと手渡した。

 

「カガヤキと、クラヤミ……」

「光と、闇」

 

 それらは相反するものではない。夜空に星がまたたくように、太陽のもとに影が生まれるように、本来一体不可分なものなのだ。

 それを象徴する世界が、遥か天上にある。──宇宙。シャドーラプターとシャインラプターが居たという、未知の世界。

 

 今──その力を。

 

「──!」

 

 ふたつのソウルがひとつとなり、紫紺に輝く新たなリュウソウルが生まれる。その名も、

 

「コスモソウル!!」

『強!』

 

 一回、

 

『リュウ!』

 

 二回、

 

『ソウ!』

 

 三回、

 

『そう!』

 

 四回。

 

『──この感じィ!!』

 

 黒と白──シャドーラプターとシャインラプター。両肩に、二騎の頭部をあしらった鎧が、リュウソウレッドに装着された。

 

「じゃ、行ってくるぜ。ショート!」

「ああ、任せた」

 

 ガツンと、拳をぶつけ合う。ショートのほうはまだ遠慮がちだったが、長らくモサレックスのほかには仲間らしい仲間のいなかった彼にとって、大きな進歩だった。

 

「お、らぁッ!!」

 

 虚空めがけて、リュウソウケンを力いっぱい振り下ろす。

 果たしてなんの意味もない行為に思えるそれは、コスモソウルの力にかかれば大きな効果を発揮する。──レヴェナントマイナソーと同じように、次元の裂け目をその場につくり出したのだ。

 

「っし……!──ティラミーゴ!!」

「ティラァ!!」

 

 既に呼び寄せておいたミニティラミーゴが肩に飛び乗ってくる。愛すべき相棒とともに、レッドは再び彼世との狭間へと飛び込んでいくのだった。

 

 

 現世と彼世の境目。ねじれた位相に覆われた空間。そういえば、死後の世界へ逝くことを"三途の川を渡る"と表現するのだと、昔聞いたことがあった。確かにこの、奔流のような乱れた世界は、川に喩えられなくもない。

 

「ッ、連中……どこだ?」

 

 それより、今はゾラとマイナソーのこと。周囲には姿が見えない。云わばホームグラウンドともいえる世界だ。雲隠れしたのか、それとも──

 

「──エイジロウ、上ティラ!!」

「!」

 

 ティラミーゴの警告を聞くと同時に、レッドはリュウソウケンを一閃していた。肉薄せんとしていたエネルギーが、一瞬にして霧散する。

 

「キヒヒヒッ……やっぱり、やるねェ」

「バァ……!」

「!!」

 

 狙っていた標的の、これ以上逃げも隠れもしない登場。しかしながらレッドが動揺したのも無理はなかった。ゾラが、巨大化していたのだ。

 

「魔法がダメなら、握り潰してあげるよォ」

 

 そう言って、ぐわっと手を伸ばしてくる。こういう体躯にまかせた攻撃は、単純だがある意味最も厄介だ。強竜装していようと、内臓を潰されてはひとたまりもない。

 

 だからこそ、"彼"がいる。

 

「させない、ティラァ!!」

 

 ティラミーゴが巨大化もとい元の体格へ戻り、尾を振るってゾラを弾き飛ばす。その勢いのままキシリュウオーへと姿を変え、白兵戦を開始した。

 

「頼むぜ、キシリュウオー……!」

 

 彼がゾラを抑えてくれているうちにと、レッドはレヴェナントマイナソーを標的に駆け出した。

 

「ッ、バァ……!」

 

 迎え撃つレヴェナントマイナソーは、レッドから魂を抜こうと手を翳してきた。この彼岸の世界でそれを為されることは、すなわち死を意味する。

 しかしマイナソーの企みに反して、エイジロウの魂が肉体を抜け出ることはなかった。

 

「バァ……!?」

「コスモソウルに守られてる今の俺にッ、そんなモンは効かねえ!!」

 

 そのまま距離を詰め──薙ぐ!

 

「グァアア!!?」

 

 胴を切り裂かれ、吹き飛ぶレヴェナントマイナソー。幽霊といってもマイナソー、実体をもっていることは言うまでもない。

 

「バ、アァ……!」

 

 態勢を立て直した彼は、次元を超える能力を使って悪あがきを試みた。裂け目をつくり、その向こうに消えてしまう。

 

「!、………」

 

 相手の意図はわかっている、不意打ちによる一発逆転を狙っているつもりなのだろう。レッドはリュウソウケンを構え、唇を引き結んで感覚を研ぎ澄ました。

 

「………」

 

 キシリュウオーとゾラの戦闘の音が、聴覚をざわめかせる。その喧騒に、ほんのわずかに混じる音──

 

「──そこだ!」

 

 振り向きざま、一閃。その一撃は、レヴェナントマイナソーを見事に捉えていた。

 

「バ、アァァ……!?」

「………」

 

 身体から白煙をあげ、悶え苦しむマイナソー。コスモソウルにはカガヤキソウルの聖なる力が含まれている。それゆえ、その刃は触れただけでアンデッドに多大なダメージを与えるのだ。

 

 いよいよ敵を追い詰めたと悟ったレッドは、常のごとく柄に手をかけた。

 

『超!超!超!超!──イイ感じィ!!』

「……」

 

 脳裏をよぎる、村人たちの喜ぶ顔。コタロウと母の、ショートと父の再会。

 そして、

 

──あの世で首ィ長くして待ってんぜ、エイちゃん。

 

(……ケント、)

 

 

「──コズミック、ディーノスラッシュ」

 

 光と闇のシナジーを纏った刃が、マイナソーの首を()()()()飛ばした。

 

「バ、アァ……ィ」

「………」

 

 倒れ伏したマイナソーの身体が、あぶくのように消えていく。レッドは静かに背を向けた。怪物の死を、見届けてやる義理などなかった。

 

「バァ、イ……バァイ……」

「──!」

 

 思わず振り向いたときにはもう、レヴェナントマイナソ―の頸は消え去っていた。

 

「……バイバイ、ケント」

 

 幼き日、夕暮れの中で幾度となくかわしあった言葉。あの頃信じていた通り、自分たちの友情は永遠のものだった。

 

 

「──ティラアァ!!?」

 

 感傷に浸る時間はない。押し負けたキシリュウオーが、彼のすぐ傍に倒れ込んできたのだ。

 

「……せっかく愉しくなりそうだったのにィ……。よくも邪魔してくれたねェェ……!」

「……黙れ」

 

 自分でも信じられないくらい、冷たい声だった。ゾラの怒りなど、今のエイジロウに比べれば何というものではない。

 

「──来い。シャインラプター、シャドーラプター」

 

 魔力の炎を放とうとしたゾラだったが、ノーモーションにもかかわらずその行動は阻まれた。ほぼゼロ距離の空間の一部が砕け散り、二体の騎士竜が姿を現したのだ。

 

「!?」

 

 彼らの体当たりを受け、突き飛ばされるゾラ。──シャインラプターとシャドーラプター、レッドが呼びかけた通り、黒白一対の騎士竜たち。

 今、彼らのソウルはひとつになっている。──つまり、

 

「「オォォォォォ──!!」」

 

 雄叫び。二体の騎士竜がその身をひとつにする。どちらが真の姿というものでもない。融けていようと分かれていようと、彼らは彼ら。

 

『──我らは騎士竜、コスモラプター』

 

 それは直接脳内に響いた。性別さえも曖昧な声。──宇宙、そのもの。

 

「コスモラプター、竜装合体だ」

 

 コスモソウルを投げる。みるみる巨大化していくそれ、そしてキシリュウオーを交えて、さらにひとつの姿へと変わっていく。

 宇宙(コスモ)を纏った、竜騎士の姿。

 

「──キシリュウオー、コスモラプター!」

 

 ギギギ、と唸ったゾラは、今度こそとばかりにあらゆるエレメントの魔法を放って攻撃してくる。容赦なくそれらを浴びせかけられるキシリュウオー。

 しかし、

 

「き、効かないィ……!?」

 

 宇宙そのものを属性とするコスモラプターの前には、どんなエレメントであろうと魔法攻撃は通用しない。

 狼狽するゾラに一気呵成に肉薄すると、右腕にもったカガヤキソードで斬りつける。

 

「ガアァ!?」

「………」

 

 さらに、左のクラヤミガンを腹部に突きつけ──発射。

 

「グハアァッ!!?」

 

 腹に風穴を開けられたゾラは、そのまま吹き飛ばされた。普通なら、即死していてもおかしくないダメージだが。

 

「キ、ヒヒヒ……ッ!どんなに強かろうが、オレには勝てないィ……!オレは、不死身なんだからなァ!!」

「……関係ねえよ、そんなこと」

「何ィ?」

 

「──てめェは、この世から消えるんだからな」

「!?」

 

 クラヤミガンに闇のエネルギーが充填されていく。それを目の当たりにしたゾラは、身体の芯から冷えていくような錯覚を味わっていた。闇──シャドーラプターの必殺技を浴びた、タンクジョウがどうなったか。

 

「や、やめろォオオオオオ!!」

 

 "それ"を阻もうと迫るゾラ。──もう、遅い。

 

「──キシリュウオー、コズミックブレイカー」

 

 放たれた暗闇の塊が、カガヤキソードの光に反発するように急加速する。それはゾラの腹に開いた穴を貫通し、

 

 ──ブラックホールとなって、彼を吸い込みはじめた。

 

「ガアァァァァァ──!!?」

「これが、てめェの望んだ死だ」

「ち、がうゥ……!!これは死ではないィ、オレの味わいたかった、死、では──」

 

 どんなに喚こうが叫ぼうが、これが最期であることに変わりはない。

 抵抗するゾラを無慈悲に呑み込んだそれは、何事もなかったかのようにその姿を消した。もはやゾラが不死であろうと、彼は永遠に"こちら"側の住人に戻ることはないのだ。

 

「……戻ろう、みんな」

 

 キシリュウオーは……ティラミーゴもコスモラプターも、何も言わなかった。ただその指示通り、淡々と空間を切り裂いていく。

 彼らは、生きている。生者たちの世界で、これからも生きていくのだ。

 

 

 *

 

 

 

 ようやくできたアップルパイは、当初の想定よりずっと不格好になってしまった。ブランクのある人間と初心者のコンビでは、それもむべなるかな、ではあるが。

 それでも舌に染み渡るのは、優しく、懐かしい味であることに変わりはなくて。

 

──美味しい、コタロウ?

 

「うん……美味しいよ」

 

 微笑み、向かいの席を見やる。半分こにしたパイの片割れが置かれたそこにはもう、誰の姿もない。それでもコタロウは、微笑みを浮かべていた。

 

 

「……ごちそうさま、お母さん」

 

 

 *

 

 

 多くの別れを乗り越え、人は生きていく。いずれ自分自身が、亡者の行進に加わるその日まで。

 

 

──この日、サルカマイ村には光が戻った。

 

 

 つづく

 

 

 





「やはりここは学校だ!!」
「俺ら、完全に先生にされちまってるぞ」
「動物と話すのが、すき、です……」

次回「オウス初等学校いきもの係」

「きみの勇気に、心から感謝する!」


今日の敵<ヴィラン>

レヴェナントマイナソー

分類/アンデッド属レヴェナント
身長/186cm
体重/275kg
経験値/440
シークレット/(あの世から)帰ってきたもの=亡霊の名を冠するマイナソー。タンクジョウの攻撃からエイジロウを庇い、命を散らしたケント少年から生み出された。現世と彼世の境目を壊し、死者を次々と甦らせるが、その代償として生者の魂を彼世へ引きずり込んでいた。
ひと言メモbyクレオン:タンクジョウさまぁ……。……え?いやオレがつくったマイナソーじゃないよ!ホントだよ!


ゾラ

分類/ドルイドン族ビショップ級
身長/208cm~46.1m
体重/195kg~697.2t
経験値/243
シークレット/"不死の王(キングオブアンデッド)"の二つ名をもつビショップ級ドルイドン。高位の魔導士であり、あらゆる攻撃魔法を詠唱なしで放つことができる。しかし真に脅威なのは、二つ名に違わぬ不死身の身体である。たとえ切り刻もうと燃やして灰にしようとも、その身の残滓がこの世界にある限りすぐに復活してしまうのだ。
ひと言メモbyクレオン:不死身ってたいがいろくな死に方しねーよな、矛盾してっけど!

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