【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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今回次回と世界観考証ユルユルですがご容赦ください



23.オウス初等学校いきもの係 1/3

 南の大地いちばんの港街・オウスに、号哭の声が響き渡っていた。

 

 

「ワオォォォォン!!」

「待てやクソがぁああああ!!」

 

 建物と建物を飛び移りながら敏捷に逃げ回る"それ"に、罵声を浴びせながら追いすがる少年たち。聴覚のみでそれを捉えた者たちは、野犬の類いにおやつでも盗まれたかと失笑していた。

 確かに、第三者からすれば微笑ましい光景である──逃げる"イヌ"がほとんど人間と変わらない体躯で、なおかつ二足で駆けずっていなければ。

 

「くそっ、あいつ速ぇ……!」

「テンヤくんたちでも追いつけへんなんて!」

 

──騎士竜戦隊リュウソウジャー。彼らは今、白昼堂々街中に出現したマイナソーと盛大な追いかけっこを演じていた。

 

「……あのマイナソー、脚力自体が並外れてんだ。次から次に飛び移られたら、ハヤソウルじゃ分が悪い」

「ッ、なら、カツキに期待するっきゃねえか……!」

 

 実際、ブットバソウルの爆破の力を活かして滞空を続けるブラックだけは、巧みな我が身のコントロールによってマイナソーに喰らいつくことができていた。それでも当初は翻弄されていたが、徐々に戦場の主導権を握りつつある。

 

「いつまでも逃げられると思うなや、イヌ野郎!!」

 

 あと、少し。あと少しで、刃が届く──

 

「死ィねぇ「死ねって言うほうがダーーーイ!!」──!?」

 

 にわかに割り込んできた蒼い影が、ブラックを弾き飛ばした。

 

「かっちゃん!!?」

「カツキくん!!」

 

 墜落しかかる漆黒を、すぐ後方の地上を走っていたグリーンとブルーが受け止めようとする。しかし流石才能マンと言うべきか、彼は途中で態勢を立て直すと自力で着地してみせた。

 

「HAHAHAHA、オウスの街へウェルカム!リュウソウジャー!!」

「ッ、ワイズルー……!」

 

 既に因縁の宿敵となりつつあるドルイドン・ワイズルー。マイナソーともども鉄塔の上に立ち、我が物顔で胸を張っている。一度叩き折ったステッキは、補修したのか元通りになっていた。

 

「てめェの街じゃねーだろうが!!」

「これから我が物とするのだ!グレイテストエンターティナーこと私と、この"ワーウルフマイナソ―"の手でな!」

「アオォン、カワルゥ!!」

 

 吠えるマイナソー。カワル──変わる?まさかまた入れ替えではあるまいと、散々な目に遭った一同は鎧の下に冷や汗をかいた。

 

「これからがショウのはじまりだ。せいぜい踊りたまえ──ヌンッ!!」

 

 ステッキががしゃんと重々しい音をたてたかと思うと、その先端から光弾が連射される。不意打ちぎみに降り注ぐ猛威、騎士たちはその対処にかかりきりにさせられた。

 そしてその間に、ワイズルーとワーウルフマイナソーは忽然と姿を消していたのだった。

 

「ッ、逃げられたか……」

「探そうっ、すぐにでも──」

 

 そのときだった。遠巻きに様子を窺っていた野次馬の中から、少女を抱きかかえた男女が飛び出してきたのは。

 

「あ、あなっ、貴方がたはもしや、ドルイドンに連戦連勝と言われているリュウソウジャーの皆さんですか!?」

「へっ?ま、まぁそうっスけど……」

 

 連戦連勝とまでいえるかは、解釈の余地があるが。

 

「助けてください!娘が緑色のヘンなのに襲われて、こんなことに!」

「かわる……かわるぅ……」

 

 抱きかかえられた少女は、目を薄ぼんやりと開いたまま、マイナソーのそれと同じ言葉を繰り返していた。

 

「この子が、マイナソーの宿主か」

「宿主!?」

「マイナソー……あの怪物は、人間の欲求を具現化して生まれるんです。生み出した人間に寄生して、生命エネルギーを──」

 

 そのとき少女の身体から緑色のエネルギー体が絞り出されて、あらぬ方向へと飛んでいってしまった。

 

「……あんな感じで、吸い続けます」

「なっなっなっなんとかしてください!!!お金ならいくらでも払いますから!!!」

 

 三人家族の身なりは揃って大変よろしい。商業の栄えている街だから、裕福な商人なのだろうとイズクやカツキは当たりをつけていた。いくら我が子の危機とはいえ、取り乱しすぎだとも思ったが。

 

「落ち着いてください!今のでマイナソーがどの方角に逃げたかはわかりましたから……」

「とはいえ、街並みが入り組んでいるからな……。また三手に分かれて捜すか?」

 

 テンヤの提案に対して異論は出なかった。そうと決まると、あとは二人組をつくって解散、という流れになるわけであるが──

 

「チッ、行くぞ──クソ髪」

「!」

「えっ、お、俺?」

「早よしろや」

 

 断る理由はない。当然承諾したが……戸惑ったのも、事実だった。いつも彼は、長年行動をともにしてきたイズクと組むのが通例なので。

 

「………」

 

 イズクはというと、何も言わず俯いている。ぎゅっと引き結ばれた唇。──サルカマイ村を発つ直前から、彼らの間に不穏な空気が流れていることは周知の事実だった。

 

「デクくん……」

 

 そんな彼を慮る仲間たち──カツキに引きずられていってしまったエイジロウを除く──だったが、娘を宿主にされた商人一家は未だ周囲をうろうろしている。このままではまた絡まれかねないと思い、残る四人も早々に分かれて行動を開始したのだった。

 

 

 *

 

 

 

「しっかし、街に入った途端これとはなぁ」

 

 カツキとともに街路を歩きながら、エイジロウはごちた。不死身のドルイドン・ゾラを通常ではありえない方法で滅ぼし、平穏を取り戻したサルカマイ村を出てから数日。

 往来する旅人たちの目撃証言から、ワイズルーが先んじて街に侵入、潜伏している可能性があると判断し、強行軍でやってきたわけだが──よもや、いきなりマイナソーに遭遇するとは。

 

「ずりィよな、あいつ人間にも化けられんだもん」

「……ずりィこたぁねーだろ。面倒なだけだ」

「でもまったくの別人に変身すんのって、ちょっと憧れねえ?」

「憧れねえ。俺ぁ俺でいい、他のヤツになるなんざクソ喰らえだ」

 

 表面上はいつも通り自信に満ちた台詞だが、その声はすこし沈んでいた。

 

「……なぁカツキ。おめェとイズク、どうしたんだよ?」

「………」

「ゾラと……いや、ガイソーグと戦ったあとからだろ?あいつ、おめェらのこと知ってたみたいだもんな」

 

 ガイソーグのことで、カツキはイズクの知らないことを知っている。そしてそれを秘密にしていて──衝突の原因はそんなところだろうと、エイジロウは推測していた。こと人間関係に関しては、彼も敏いところがある。

 

「……関係ねーだろ」

「言うと思った……。仲……間ではないかもしんねーけど、ダチだろ俺ら!」

「ハァ?」呆気にとられたような表情で振り向き、「仲間よりダチのほうがハードル高ぇだろ、フツー」

「へ、そうか?」

「はー……もういいわ」

 

 呆れられてしまった。が、落ち着いて話せばカツキは案外優しいと、エイジロウは最近気づいた。

 

(言葉が足りねえんだよな……)

 

 カツキも、イズクも。

 

「おい、ボーっとしてンじゃねえ。連中、なんとしても俺らが見つけんぞ」

「お、おう!」

 

 

 *

 

 

 

「──クンクンソウル!」

「キケソウル、」

『クンクンっ!』

『モッサァ!!』

 

 感覚強化系のリュウソウルを使い、索敵するテンヤとショート。──ただ残念ながら、ここは街中だった。

 

「っくしゅん!!」

「!、大丈夫かテンヤ?」

「う、うむ……。しかし、色々な匂いが混ざっていて……」

「……そうだな。こっちも雑音が多すぎる」

 

 その中からワイズルーやマイナソーの気配を察知するのは至難の業だし、できたとしてもかなり神経をすり減らす羽目になるだろう。見つけて終わりではないのだから、無理せず慎重に動かねば。

 

「暫くは地道に捜索してみよう、痕跡程度は発見できるかもしれない」

「そうだな。──そういや、さっきから気になってたんだが」

「ん?」

 

 「あれ」とショートが指差した先には、ひときわ立派な建物があった。それでいて過度な装飾などは見受けられない。

 

「ふむ……なんだろうな」

「ああいう建物の中に、隠れてる可能性もあるんじゃねえか?」

「それもそうだな。よし、行ってみよう!」

 

 走り出すふたり。──ただ、それは彼らの想像とは異なる用途の建物だった。

 

 わあぁ、と響く歓声。柔らかなそれらは、どれもこれもまだ子供のものだ。そう、広々とした庭地で、大勢の子供たちが遊び回っている。

 

「すげぇな、子供ばっかりだ」

「ム、もしやここは──」

 

 そのときだった。境界付近に立つふたりを認めた子供が、大声をあげたのは。

 

「あっ、新しいセンセーだ!!」

「!?」

 

 遊んでいた子供たちの視線が、ぎゅんとこちらに集中する。先生?首を傾げるふたりのもとに、刹那、彼らは殺到した。

 

「ぬおおっ!?な、なんだ!?」

「お、すげぇな」

 

 あっという間に取り囲まれる。揉みくちゃにされる……にはふたりとも体格が良すぎたが、いずれにせよ身体的自由を奪われてしまったのは間違いなかった。

 

「わ、わかったぞ!やはりここは学校だ!!」

「学校?……子供たちを集めて読み書きの勉強させてるとこか?」

「うむ!海の王国にもあっただろう……ちょ、どこ触って──」

 

 目線の位置が災いしてか、あらぬところを突っついてくる子供──主に男子──に抗議しようとしたときだった。

 

「こらぁ、何やっとるかあ゛ぁ!!」

「!」

 

 校舎の中から怒鳴りながら飛び出してきたのは、テンヤたちよりも余程大柄な蓬髪の男だった。どこか猟犬を彷彿とさせる鋭い顔立ち、声もまるで咆哮のようだった。

 

「げぇっ、ケン先生……!」

 

 やんちゃな男子たちが顔を青ざめさせ、慌てて逃げ散っていく。テンヤたちもできるならそうしたいくらいには、威圧感があった。

 

「バウルッ、子供たちが失礼した!」

「い、いえ……」

「ところできみたちは何者だ!?」

「ああ、俺たちは──」

「──ネムリ先生の代わりのセンセーだよケン先生!」

「!?、いや、違──」

 

 違うと言いかけたときには、猟犬先生の手がふたりの肩をがっちり掴んでいた。

 

「なんだそうだったか!ふたりも頼んだ覚えはないが……まあ良い、来い!!」

「いや、ちょ、え──」

「………」

 

 有無を言わせぬ男の迫力に、哀れ少年たちは校舎へ引きずり込まれてしまうのだった。

 

 

「グルルッ、ようこそオウス初等学校へ!ハイクラスを担当していた先生が子供を生むということで暫く休みになってな、代用教員を探していたところだったんだ!」

 

 廊下を案内しながら、威勢の良い声を発する猟……ケン先生。強面で声も大きいとあってか、子供たちからは畏れられているらしい。わーわー騒いでいた子供たちがその姿を見た途端隅に寄り、道を譲ってくれる。

 

「そ、そうでしたか、………」

「……なぁ、テンヤ」ショートが耳打ちしてくる。「そろそろちゃんと話したほうが良いんじゃねえか。俺ら、完全に先生にされちまってるぞ」

「うぅむ……そう、だな……」

「?」

 

 何故か歯切れの悪いテンヤ。その表情が心なしかわくわくしているように見えるのは……穿ちすぎだろうか?

 

 

 ともあれ彼らは職員室で他の教師たちと顔合わせをしたあと、ふたりはハイクラスへ配属されることとなった。

 

「皆さん初めまして!今日から暫くの間、このクラスを受け持つことになったテンヤといいます、よろしくお願いします!!」

 

 いつもながら堂々とした声で名乗るテンヤ。やはり、半ば強引に連れてこられたとは思えない態度である。それどころか、

 

「ほらショートくん、きみも!」

「あ、ああ。……副担任のショートだ、よろしく」

 

 女子たちの羨望の眼差しが注がれる。彼の非常に整った容姿は、こと平和な社会においては大きな武器になる。尤も、同性においてはそれに嫉妬する向きもあるのだが──

 

 それはそうと、20人程度のハイクラス。コタロウと同年代の子供たちの顔が並んでいる。中にはコタロウとまったく同じ顔の子供も──

 

「……って、コタロウくん!!?」

 

 本物だった。

 

「……どうも」

「どうもではなくて!きみが何故ここに!?」

「そりゃこっちの台詞ですけど……。皆さんがマイナソーを追いかけていっちゃったので、仕方なく街をぶらついてたら、ケン先生に見つかって──」

「──"子供が昼間から繁華街ぶらついてんじゃない!!バウル!!"って吠えられちまったんだよなー?」

 

 やんちゃそうな少年がにやにや笑いながらそう続ける。はは、と力なく笑うコタロウ。どうやら彼、既にこのクラスに馴染んでいるらしい。

 

「な、なるほど……。うむ、確かに子供は勉学や運動に励むべきだ!では早速、授業を──」

「その前に、みんなにも自己紹介してもらったほうが良いんじゃねえか?誰が誰だかわからねえぞ」

「ム、それもそうだ!では皆、すまないがそうしてもらえるだろうか!?」

 

 ショートの発言は率直すぎたが、確かに子供たちのことを知るのは大切なことである。席順にひとりひとり起立し、名前と趣味・特技などを簡単に話してもらう。果たしてみな個性豊かで、ひとり数十秒程度の時間でも印象に残る。たまにショートが天然ぎみのずれたコメントを返したりして、雰囲気も随分とほぐれていく。

 

 そうして、ようやく最後の子供の番になった。

 

「……こ、コウジ、です。……ど、動物と話すのが、すき、です……」

 

 クラス一大柄な体躯の持ち主でありながら、いかにも自信なさげな、小さな声だった。リュウソウ族の図抜けた聴力でなければ、聞き逃してしまっていたことだろう。

 

「動物と話せるのか、すげぇな」

 

 ショートが目を丸くして、そう応じる。しかし教室全体の空気はどういうわけか冷ややかなものだった。無論、今日はじめてこの場に座ることになったコタロウは除いてだが。

 

「まァた言ってるよ、コウジのヤツ」

「動物と話せるわけねーじゃん、ウソつき!」

 

 ひそひそと聞こえる陰口。コウジ少年は大きな身体を縮こまらせ、おずおずと着席する。その寂しげな表情が、テンヤの頭に焼きつけられた──

 

 

 

 

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