【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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3.セカンド・インパクト 1/3

 

 すべてが光に包まれ、そして、消えていく。

 その真っ只中にあって、エイジロウは胸にぽっかりと穴が開いたような喪失感を味わっていた。

 

 友のひとりが死に、故郷は封じられた。ならば唯一、彼に……彼らに残されたものは。

 

 

 *

 

 

 

「……くん、エイジロウくん!」

「……ッ、」

 

 どうやら、気を失っていたらしい。

 目を開けるとそこには、こちらを気遣わしげに見下ろすテンヤとオチャコの姿があった。すぐさま身を起こせば、少し離れたところにコタロウ少年、そして騎士竜たちも。

 

「マイナソーは……村は、どうなった?」

「安心してくれ、マイナソーはきみとティラミーゴが倒した。村は──」

 

 村は、と……そこでテンヤは、口ごもった。

 ややあって、見かねたオチャコがおずおずと口を開く。

 

「……見る?」

 

 おう、と小さく頷くエイジロウ。覚悟はできている。

 

──それでも、実際に見た光景は言葉にならないものだった。

 

「こんなことに……なっちまうのか」

「……ああ」

 

 そこに広がっていたのは、まるで隕石が落ちた跡のような巨大な空洞。それは遥か地の底にまで続いており、絶えずうつろな風が吹きつけている。生まれ育った村の痕跡は、一片たりとも残されてはいない。

 

(消えちまったんだな……本当に)

 

 拳に力がこもる。──自分たちがもっと強ければ、封印などさせずに済んだのだろうか。

 悔やんでも遅いし……早い。ようやく騎士になった彼らには、まだ何もかも足りなかった。

 

 そして──感傷に浸っている暇も、彼らにはない。

 

 

「リュウソウ族め……小癪な真似を」

「!」

 

 森の中から姿を現したのは、ティラミーゴによって吹っ飛ばされたこの事態の元凶だった。その城壁のような姿かたちも、紅く光る瞳も、今はすべてが恨めしい。

 

「だがリュウソウジャー……貴様らを消せば、奴らの希望も潰える!」

「そうはさせるか……!」

 

 テンヤが反駁する。そして、オチャコも。

 

「お母ちゃんたちの希望を、あんたなんかに奪わせたりしない!」

「────、」

 

「タンクジョウ、てめェを倒す!!」

 

 それが如何に困難であるかわかっていても、エイジロウは、叫ばずにはいられなかった。

 

 

「「「リュウソウチェンジ!!」」」

『ケ・ボーン!!』

 

 竜の咆哮とともに、三人の周囲を小さな騎士たちが取り囲む。──踊りだす。

 

『ワッセイワッセイ!そう!そう!そう!ワッセイワッセイ!ソレソレソレソレ!!』

 

『リュウ SO COOL!!』──騎士たちが一斉に、三人の身体に飛びつく。寄り集まる。そのひとつひとつがリュウソウメイルとなって、少年たちを伝説の騎士へと変身させた。

 

「勇猛の騎士!リュウソウレッド!!」

「叡智の騎士ッ、リュウソウブルー!!」

「剛健の騎士!リュウソウピンク!」

 

──正義に仕える三本の剣、

 

「「「騎士竜戦隊、リュウソウジャー!!」」」

 

 その"結成"を、少年たちは高らかに謳いあげた。今このときより、竜装騎士団は彼ら三人が受け継ぐのだ。

 

「俺たちの騎士道……見せてやる!!」

 

 ゆえにもう、畏れない。三人では倒せないと言われたドルイドンの幹部、その理を打ち破る気概で彼らはリュウソウケンを振り上げた。

 

 

「うおぉぉぉぉぉ──ッ!!」

 

 三人がかりでの吶喊。対するタンクジョウはドルン兵の群れを召喚、自らを守る防壁とした。

 

「ドルゥゥッ!!」

 

 独特の唸り声をあげ、彼らも一斉に動き出す。もとより両陣に距離はないから、衝突までは数秒と要らなかった。

 

「邪魔だぁぁッ!!」

 

 本能のままに叫びながら、がむしゃらに剣を振るうリュウソウレッド。変身せずとも打ち倒してきた相手だ、今さら手を煩わされることはない。本丸に対するリベンジが待っているのだ。

 その想いは、ブルーとピンクもまた同じだった。

 

「一気に片付けるぞ、オチャコくん!」

「おー!」

 

 襲いくるドルン兵を斬り伏せつつ、リュウソウルを手にするふたり。隙を突いてリュウソウケンに装填し、

 

『リュウ!ソウ!そう!そう!──この感じィ!!』

「「──ツヨソウルっ!!」」

『オラオラァ!!』

 

 "ツヨソウル"──文字通り、斬撃の威力を強化するソウルである。それは白銀の鎧となってリュウソウジャーの右腕に顕現し、力を与えてくれる。

 

「──はあッ!!」

 

 肚から発せられた声と同時に、黄金に煌めく刃が群れを両断する。それを為したブルーと背中合わせに、ピンクもまた剣を振るった。刹那、彼らを中心点として円形の爆炎が立ち上る。

 

「ヌゥ、」

「──タンクジョオォォォ!!!」

「!」

 

 その威力に鼻白んでいたタンクジョウの頭上に、紅蓮の影が飛び込んできた。咄嗟にルークレイモアを振り上げ、彼の刃と肉薄させる。

 

「フン……やはり来たか、リュウソウレッド!」

「てめェは、俺が斬る!!」

「あの小僧の仇討ちか。──できるものか、貴様如きにッ!!」

 

 同じくツヨソウルを使用していてなお、パワーは互角……否、タンクジョウに軍配が上がっている。

 それでもエイジロウは、一歩も退かない。ケントを殺し、村を封印に追い込んだこの怪人。放っておくわけにはいかないのは、個人的感情のためだけではない。

 

「てめェを生かしておいたら、大勢の人たちが苦しむ……!」

 

 ケントのように命を散らす者を、自身のように悲嘆に暮れる者を生み出さない。父より、また師匠より受け継いだ騎士の矜持だ。

 

 そしてそれは、仲間たちも同じだった。

 

「うおおおおお──ッ!!」

「りゃああああ!!」

 

 ドルン兵の掃討を終えたブルーとピンクが、レッドの後ろから突撃してくる。彼らのリュウソウケンがルークレイモアと接触した途端、タンクジョウは後方へ弾き飛ばされていた。

 

「ぬうぅ……ッ!」

 

──この俺が、後退させられただと?

 

 その事実に、タンクジョウから憤怒の炎が吹き上がった。

 

「貴様ら……殺す!!」

「……!」

 

 文字通り、であった。発せられる紅蓮は、やや距離の開いた現状であっても熱を伝えてくる。

 

「ッ、すごい圧……!」

「やはり、ひと筋縄ではいかないか……」

 

 背後で騎士竜たちが唸り声をあげている。とりわけトリケーンとアンキローゼは石化させられていたゆえに鬱憤が溜まっていて、元凶であるタンクジョウを相手に意気軒昂になっていた。

 だが肉体と精神は必ずしも一致するものではない。ティラミーゴはキシリュウオーとして行った先の戦闘で消耗しているし、残る二体も石化の影響が残っている。まだ、その力に頼るわけにはいかないのだ。

 

「大丈夫だティラミーゴ、皆!」エイジロウが声を張り上げる。「こいつに、思い知らせてやる……!」

 

 リュウソウジャーの──リュウソウ族の、底力を。

 そのために。

 

「……ケント、力ぁ貸してくれ!」

 

 彼がその手に掴んだのは、今際の際のケントより譲り受けたカタソウル。紺碧に煌めくそれをリュウソウケンに装填し、

 

『リュウ!』

 

 一回、

 

『ソウ!』

 

 二回、

 

『そう!』

 

 三回、

 

『そう!』

 

 四回。

 

『この感じィ!!』

 

『カタソウル!──ガッチーン!!』

 

 レッドの右腕を、宝石の塊のごとき鎧が覆った。カタソウル──文字通り、使用者の身体を巌のごとく硬質化させるリュウソウルだ。

 

「………」

 

 その鎧を"竜装"した瞬間、何かが自分の中に流れ込んでくるのをエイジロウは感じた。具体的な形を伴わないそれは、しかしヒトの思念であることはわかった。

 

──ケントだ。ケントの魂が、ソウルを通じて自分に宿っている。守護(まも)って、くれている。

 

 その不思議な感覚とともに、彼は一歩を踏み出す。後退した敵に、再び肉薄するために。

 

「小癪な……!──喰らえッ!!」

 

 怒れるタンクジョウは、ルークレイモアを振りかぶるや否や力いっぱい投げ飛ばした。それはブーメランのごとく飛翔し、レッドに向かってくる。

 

「エイジロウくん……っ!」

 

 かわすそぶりを見せない仲間を心配し、テンヤとオチャコはその名を呼んだ。大丈夫なのか、本当に。

 

(大丈夫、)

 

──大丈夫だよ、エイジロウ。

 

 ケントの声が、聞こえた気がした。

 

 

 次の瞬間には、ルークレイモアがエイジロウの身体()()()()()()()()()()

 

「なんだと……!?」

「………」

 

 エイジロウはもう、何も言わなかった。発するべき言葉は既に、すべて吐き出しているからだ。

 言葉の代わりに、再び剣の鍔に手をかける。

 

『それ!』

 

 一回、

 

『それ!』

 

 二回、

 

『それ!』

 

 三回、

 

『それ!』

 

 四回。

 

『その調子ィ!!』

 

 刃と右腕の鎧とが、連動するかのように水晶の輝きを放つ。──刹那、リュウソウレッドは走り出した。そして高く跳躍し、満月を背に剣を振り上げる。

 

「──アンブレイカブルッ、ディーノスラァッシュ!!」

 

 (岩を)も砕く鋼の剣が、タンクジョウを斬り裂いた。

 

「ぐがぁあッ!!?」

 

 苦痛に塗れた叫びとともに、タンクジョウは今度こそ取り繕うこともできず吹き飛ばされた。その巨体が地面を転がり、わずかな震動をエイジロウたちの足元にまで伝える。

 

「──やったな、エイジロウくん!」

 

 駆け寄ってきたテンヤが、エイジロウの背中を叩く。彼らしからぬ喜びの所作は、やはり亡き友を思い起こさせた。それゆえに、と言うべきか。いつもはまっすぐに感情を表すエイジロウは静かに、噛みしめるように己の剣を見つめていた。

 

「ぐうう……ッ、おのれ……!」

「!」

 

 しかし、彼らは一矢報いたにすぎなかった。その身を傷つけられたタンクジョウは、血を流しながらも立ち上がってみせたのだ。紅一色の鋭い瞳が、憤懣に濁っている。

 

「あの渾身の一撃でも、倒せないのか……!」

「……ッ、」

 

 長老やマスターたちが、二度と戻れなくなるリスクを冒してまで村を封印したのは、つまりそういうことだ。今の自分たちの力では、ドルイドンの幹部級を討滅するには至らない──

 

「──ティラアァ!!」

 

 と、辛抱堪らなくなった騎士竜たちがついに飛び出してきた。今度は自分たちの番、とでも言っているつもりなのだろうか。

 しかしスケールの圧倒的に違う複数の敵を前に、タンクジョウは気後れなど微塵もなく戦う気概でいる。この死闘の勝敗は、未だどう転がるか予想のつかないものであった。

 

──つまり、まったく唐突な中断がなされることも。

 

「ッ!?」

 

 それは足下から突き上げられるような、強烈な震動から始まった。なんの前兆もない、尋常でない事態。──何かが、地の底から這い上がってくる。ただ、それだけはわかった。

 そして、

 

「────!!」

 

 膨大な砂塵を巻き上げながら、"それ"が姿を現した。

 

「何、こいつ……!?」

 

 その姿は、有り体に言えばミミズによく似ていた。だが、正真正銘のミミズでないことはティラミーゴたちをも凌ぐ巨大な体長から明らかで。

 

 その口ががばりと開く。身構えるリュウソウジャーだが、そこから姿を現したのは慮外のものだった。

 

「タンクジョウさま、まだ生きてますかぁ〜!?」

「クレオン……!」

「なっ……タンクジョウの仲間か!?」

 

 問いとも言えぬ投げかけは、当たらずしも遠からずというほかないものだった。

 それに直接は応えず、クレオンはぬるついた指を対敵に突きつけた。

 

「やいリュウソウジャー!ウチの大事なお客さま傷モノにしやがってぇ、このクレオン様のかわいいペット・ワームマイナソーたんの餌にされてぇのかぁ!!?」

「ハァ!?いきなり出てきてなんなん、あんた!」

「クレオンだっつってんだろ著しく物覚えが悪いのか」

 

 口汚く敵を罵りつつ、クレオンはペットだというワームマイナソーを抜け目なく動かした。タンクジョウの足下がぼこりと盛り上がったかと思うと、もうひとつ頭が飛び出してきて彼を呑み込んでしまったのだ。

 

「なんのつもりだ、クレオン!?」

「サービスの一環でっす!」

「求めていないっ、放せ!!」

「万全の状態でボコしたほうが楽しくないっスか!?」

 

 文句としては微妙なところだったが、少なからず手傷を負ったタンクジョウには響いたらしい。黙り込む……つまり、了承ということで。

 

「ッ、逃がすかよ!!」

「ティラアァ!!」

 

 当然、黙って見送る義理はない。今度こそとばかりに騎士竜たちが飛びかかろうとするが、それはまたしても現れた"三本目"により阻まれてしまった。

 

「まだあるのか!?」

 

 思わず叫ぶテンヤ。確かに、いったい幾つ頭があるのか。しかもそれぞれが自在に動いているときた。こちらの頭数を超えるのであれば、状況は再び不利に傾いたと言わざるをえない。

 しかしワームマイナソー、と言うより主人だというクレオンは、もとよりタンクジョウの回収のみを目的としていた。彼を口のひとつに収容すると、その巨体がずるずると地面に這い戻っていく。

 

「覚えていろ、リュウソウジャー……。次に相まみえたときには必ず!」

 

 去り際、そんな捨て台詞を吐くタンクジョウ。エイジロウが「てめェこそ、俺らが来るのを地下で震えて待ってろ!!」とやり返したのが、戦闘の(おわり)を告げる号笛代わりとなったのだった。

 

 

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