【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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24.デクからかっちゃんへ 2/3

 

 ベヒーモスマイナソーの目的はすぐにわかった。あの怪物は食料品のある店を手当り次第に襲っては飽くなき食欲を満たしていたのだ。その際巨体による全速力の突進で店を瓦礫の山に変えてしまうから、彼の通った跡がよくわかるというありさまだった。

 

「なんてヤツだ……!なんの罪もない人たちを、ここまで踏んだり蹴ったりな目に遭わせるとは!」

 

 店舗の残骸を前に、憤るテンヤ。言葉選びを間違えてしまっているが、それだけ彼の怒りは大きいということだ。

 

「ヤツは食いものばかりを狙ってるってことか。その割に、コオス?だとかなんだとか言ってたが」

 

 マイナソーは宿主の欲求を行動原理にすると同時に、そのまま鳴き声として口に出す。今回なら、"タベル"だとか"クウ"なら得心もいくのだが。

 

「うー、なんやろ、なんかここまで出かかってる感じ……痛ててて」

「大丈夫か、オチャコ?」

 

 突進のダメージが残っているオチャコは、何か勘付きかけているものの痛みで思考がまとまらないようだ。ならば今は、マイナソーの足取りを追わなければ。

 

「そういや、リキドウの店もこの先だったよな──」

 

 エイジロウが言いかけたときにはもう、イズクは走り出していた。怪訝な様子のカツキも含め、彼らはそのあとを追ったのだった。

 

 

 結論から言うと、イズクの心配は杞憂だった。周りの食料品関係の店が色々な被害を受けている中で、彼のパティスリーだけは無事だったのだ。流石に営業はとりやめているようだったが。

 

「襲われてはねえ、みたいだな……」

 

 ただマイナソーが嵐のように過ぎ去ったのだから、店は無事でも人がそうとは限らない。イズクはリキドウの名を呼びながら戸を叩いた。

 程なく、戸が開く。

 

「お……イズク?」

「リキドウくん……!良かった、無事だったんだね!」

 

 リキドウは戸惑いがちに頷いた。奥に身をひそめて、マイナソーが通過するのをやり過ごしていたらしい。幸いにして、そのまま襲われずに済んだのだが。

 

「情けねえ……ほかの店がやりたい放題されてたのに、震えて隠れてたなんてよ」

「いいんだ、奴らに立ち向かうのは僕らの仕事だよ。きみは僕らには真似できない方法で、みんなを笑顔にしてるんだから」

 

 ほんとうに悔しい思いもあったのだろうが、イズクの言葉にリキドウは笑顔を浮かべた。彼が心の底からそう思っていることは、痛いほどよく伝わっている。

 

「でも、どうしてリキドウの店だけ襲われなかったんだろうな……。肉魚その他諸々は、ことごとくやられてるってのに」

「マイナソーの好みじゃないんじゃねえか?」

 

 ショートの悪意のないひと言は、しかしリキドウの胸にぐさりと突き刺さったらしかった。

 

「なんか、それはそれで複雑だな……」

「あ……悪ィ。菓子はすげえ美味かったぞ」

「ふむ……宿主が判明すれば、そこからヒントも得られそうなものだが」

「あいつの鳴き声の意味がわかりゃあな〜……」

 

 オチャコの喉まで来ているものが出てくるのに期待するしかないかと思われた矢先、リキドウが「鳴き声って?」と尋ねてきた。

 

「人間の宿主がいる場合、マイナソーはその最も大きな欲求を鳴き声として発するんだ。今暴れてるヤツは、"コオス"って鳴いてるんだけど……」

「コオス……?──!」

 

 リキドウは何かに気づいたようだった。「もしかして」とつぶやくのを、イズクたちは聞き逃さなかった。

 

「!、何か心当たりがあるの?」

「おう。──ついてきてくれ」

 

 いずこかへ走り出すリキドウに皆、従う。無論イズクも──というところで、背後から「おい」と声がかかった。

 

「……どうかした、かっちゃん?」

「てめェ、この店に何しに来た?」

 

 そういえば、去年は一緒にケーキを選びに来たのだ。と言ってもカツキは終始乗り気でなく、甘いものは嫌いだと駄々をこねるので甘さを控えめにした特注品を作ってもらうに至ったのだが。

 

「言わなきゃわからない?」

 

 わざと挑発的な口調で言い放つと、相手の眉間にますます皺が寄るのがわかる。でもそれは副産物であって、本懐は自分自身を奮い立たせることだった。

 

「お誕生日おめでとう、かっちゃん」

「……デク、」

「行こう。()()、マイナソーを倒さないと」

 

 今、自分は上手く笑えているだろうか。本当は、怖かった。カツキを怒らせることがではない、いつかのように、()()()()()()と彼に思わせてしまうことに。

 

「……あァ、そうだな」

 

 カツキが素直に頷いたことが、うれしくて、恐ろしかった。

 

 

 *

 

 

 

「こぉす……こーす………」

 

 同じ言葉を繰り返しながら昏睡する、ふっくらとした体型の青年。その姿を見下ろしながら、ショートが「間違いねえな」と口にした。

 

「……やっぱりか……」

「おいパティシエ、どういうことか説明しろや」

「えっそれあだ名?職業やん……」

 

 いやクソ髪だの丸顔だのよりはマシかもしれないが。

 

「お、おう……。こいつ昔、俺と一緒に修行してたヤツなんだ。でも……その、つまみ食いばっかしててよ、終いには破門になっちまった」

「えぇ……」

「………」

「ちょっ、なんでみんな私を見るん!?」

 

 なぜって、前科があるからである。村でも、旅の中でも。

 それはともかく、

 

「まあ根は悪いヤツじゃないから、そのあとも友だち付き合いしてたんだが……こいつ、最近いつも言ってたんだ」

 

 「一度で良いから、コース料理というものを食べてみたい」と。

 

「コース……!」

 

 つまり──ベヒーモスマイナソーは、コース料理を食べるという欲求を満たすために行動している。

 

「でも、レストランとかやなくて手当り次第にいろんなお店襲うなんて……」

「そんなもんを出す店、いくらこの街でも数がねえ。おおかた順番に食って、再現しとるつもりなんだろ」

「そうか……!つまりリキドウくんの店を襲わなかったのは、後回しにしていたから!」

 

 菓子などのデザートを食べるのは、最後──オチャコの貰ってきたメニューでも、当然そうなっている。

 

「──それなら、俺に考えがあるぜ」

「!」

 

 そう告げて、リキドウは四角ばった目を光らせた。

 

 

 *

 

 

 

 およそ四半刻後、コース料理……に出てくる食材をあらかた食い尽くしたベヒーモスマイナソーは、人のいなくなった街を堂々と闊歩していた。

 

「ブモォオ……」

「よく食ったなあ、おまえ!あとは……デザート?」

 

 どこぞで入手したメニュー表片手に、クレオンがつぶやく。マイナソーが何を志向しているかは、創造主である以上当然理解している。魚や肉などを食べて満足したら、最後は甘いものと相場は決まっているらしい。

 

「チェッ、人間どもいい暮らししてんじゃん……。せっかくマイナソーつくってやってんだから、もっと働けよドルイドン……──ん?」

 

 路地のど真ん中に、何かが落ちている。近づいてみるとそれは、皿に乗った白と薄黄色の、甘い匂いのする物体で──

 

「これ……ケーキってヤツじゃね?」

 

 メニュー表にも載っている。まさしくデザート、ど真ん中の食べものだ。

 しかし、なぜそんなものが道に落ちているのか?怪訝に思ったクレオンだったが、マイナソーにそんなことを考える知能はない。己のすべてともいえる欲求を満たす、ただそれだけに突き動かされている。そのために必要なものが目の前にあるとなれば、とる行動は決まっていた。

 

「コオォォォスゥッ!!」

 

 一目散にケーキに飛びつこうとするマイナソー。しかしその手が届こうかという瞬間、()()()()()

 

「!?」

「え、生きてる?ナマモノなの、ケーキって?」

 

 当然、そんなわけはない。しかしベヒーモスマイナソーが飛びつこうとするたび、ケーキはするりと避けてしまう。「ブモォオオ!」と憤りの声をあげた彼は、どんどんと移動していくそれを本能のままに追いかけた。クレオンが止めても止まるわけがない。

 

 それを繰り返すこと幾星霜、気づけば彼は砂浜にいた。ケーキの乗った皿は波打ち際にまで追い込まれている。

 

「ブモォ……──コオォォォォス〜〜ッ!!!」

 

 ここまで引っ張ってこられて、彼はもう我慢の限界だった。勢いよくケーキに飛びつこうとした瞬間、いずこからか『ビューーーン!!』と烈しい声が響いた。

 そして、

 

「ブモォオオッ!!?」

 

 凄まじい衝撃が奔ったかと思うと、マイナソーはその場から撥ね飛ばされていた。同時に頭部を、鋭い痛みが襲ってくる。

 

──自慢の角が、二本とも刈り取られていた。

 

「は、キレーに引っかかってくれたな、ブタ野郎が」

「ブ、モォオ……!」

 

 嘲笑とともに現れたのは、リュウソウブラック──以下、竜装の騎士たち。うちブルーとグリーンがハヤソウルの鎧を纏っていて、彼らがマイナソーの角を斬り飛ばしたことが示される。

 そして唯一生身のままのこの場でいちばん体格の良い男が、ケーキを皿ごと拾い上げた。

 

「美味そうだったかい、俺の力作。ま、金も払わねーヤツに食わせる気はねーけどな」

 

 冷たく言い放ち、ぱくりと丸ごと口に含む。当然だろうが、自分は例外らしい。あとは試作品に限定すれば、親しい面々も。

 

「リキドウくんありがとう、あとは僕らに任せて!」

「もぐもぐ、ごくん……おうよ。頼んだぜ!」

 

 離れていくリキドウを背中で見送りつつ、リュウソウジャー六人は並び立った。

 

「──正義に仕える気高き魂!」

 

「「「「「「騎士竜戦隊、リュウソウジャー!!」」」」」」

 

 六人の声が揃ったのは、久しぶりのことだった。

 

 

「コオォォォォスッ!!!」

 

 憤るベヒーモスマイナソーが、再び突進を仕掛けてくる。角を失ったとはいえ、その巨体だけで十分脅威だ。にもかかわらず、一度弾き飛ばされた少女は懲りずに矢面に立った。

 

「今度こそ受け止めたる……!──ムキムキソウル!」

『ムキムキソウル!ムッキムキィ!!』

 

 右腕に装着される鎧。そのエネルギーを受けてピンクは、両腕両足に力を込めた。

 そして、

 

「ブモォオオオ……!!」

「……ッ!」

 

 筋力強化の甲斐もあり、今度は拮抗している。しかし打ち勝つには、まだ──

 そのとき、彼女の腰をレッドの手が掴んだ。さらにその背を、ゴールドが。

 

「!、ふたりとも……」

「絵面はあれだけど、手伝うぜオチャコ……!」

「一気に、押し返す……!」

 

 オチャコに比べれば非力とはいえ、鍛えた男ふたりの体重が乗れば趨勢は変わる。ずりずりと後退しはじめたのは、ベヒーモスマイナソーのほうだった。

 

「ブモォオ……!?」

「押し返すだけじゃ、足りないィ……!」

 

 乙女を容赦なく撥ね飛ばしてくれたうえ、大事な食糧を街から奪っていったこいつには、

 

「──ブッ飛ばぁす!!」

 

 その腰をがっちりと掴み──腕力にモノを言わせて、持ち上げた。

 

「どぉりゃあぁぁぁぁ!!」

「ブモオォォォ──ッ!?」

 

 そして、投げ飛ばす。空中に浮かびあがった巨体が、重力に従って落下を始めるまで数秒。

 その先に、角を切り取ったふたりが待ち構えていた。

 

「いこう、テンヤくん!」

「うむ!」

 

「「ダブルフルスロットル、ディーノスラァッシュ!!」」

 

 目にもとまらぬ斬撃が鎌鼬のごとく炸裂し、ベヒーモスマイナソーを切り刻んでいく。苦悶の声をあげさらに吹き飛ばされるマイナソーだが、彼にとってはさらなる死神が待ち構えていた。

 

『──メラメラソウル!メラメラァ!!』

「熱ィのくれてやらァ、ブタ野郎!」

 

「──ボルカニック、ディーノスラァァッシュ!!」

 

 紅蓮の炎を纏った一撃が、とどめとなった。

 

「ブモオォォォ──!!?」

 

 ひときわ爆発が起き、マイナソーの身体が表皮から弾け飛んでいく。もはや消滅は定まったかと思われたとき──マイナソーにとっては、奇蹟が起きた。

 断末魔の寸前に宿主から飛んできたエネルギーが、そのボディを巨大化へと導いたのだ。

 

「ブモオォォォッ、コオォォォス!!」

「な……もうっ、あとちょっとやったのに!?」

 

 悔しがっていても仕方がない、往生際の悪い延長戦などさっさと終わらせるだけだ。

 

「──ティラミーゴっ、頼む!!」

 

「ティラアァァ!!」

 

 ティラミーゴを筆頭に、駆けつけてくる騎士竜たち。モサレックスだけは海から姿を現す。

 

「っし、竜装がった──」

「エイジロウ!今日はワガハイたちにまかせてもらうティラ!!」

「へっ?」

 

 キシリュウオーに変形しようとしているティラミーゴにそんな主張をされて混乱していると、普段スリーナイツを構成しているトリケーンとアンキローゼが後退し、代わりにタイガランスとミルニードルが組み付いてくるではないか。

 たちまち紅蓮のボディは緑と黒に覆われ、新たな?巨人がここに誕生した。

 

「名付けて、キシリュウオースリーナイツゲイル、ティラァ〜〜!!」

「えっ、おめェが考えたのか!?」

「この前コタロウと一緒に考えたティラ!」

 

 そういえば最近、ティラミーゴやディメボルケーノとくっついてはこそこそ話をしているようだったが、まさか色々な合体パターンのネーミングを考案していたとは。

 

「チッ、ファイブナイツにすりゃいいだろーが」

「そういうわけにいかないティラ!ふたりがケンカしてるの、タイガランスもミルニードルも気にしてたんだティラ!!」

「!」

 

 余計なお世話だ、とは、イズクはもちろんカツキにも言えなかった。彼らにまで、心配をかけていたとは。

 

「なるほどな……。ならバツグンのコンビネーション、見せてやろうぜ!」

「……足引っ張んなよ、クソ髪!!」

 

 スリーナイツゲイル、オン・ステージ。

 

「コオォォォス!!」

 

 向かってくるベヒーモスマイナソーに対し、(ニードル)で迎撃する。白銀の群れはしかし、硬い皮膚に弾かれてしまった。

 

「ッ!」

 

 勢いを殺せなければインファイトに持ち込む難易度も上がる。歯噛みするブラックだったが、

 

「ナイトハンマー!」

「ナイトソードっ!!」

 

 すかさず割り込んだ二大騎士竜の攻撃は、それが主要武器であることもあって通用した。火花を散らし、後退する巨体。

 さらに、

 

「愚か者、」「めがぁあああ──!!」

 

 モサレックスとディメボルケーノが合体したスピノサンダーが、電撃を容赦なく浴びせる。

 

「ブモオォォ……!?」

「!、みんな……」

「──良いじゃねえか、スリーナイツゲイル」

「ちょっと色合い地味やけどね!」

「いや、俺は渋くて格好良いと思うぞ!」

 

 口々に放たれる三人の言葉に、「好き勝手言いやがって」とカツキが呆れている。

 

「ありがとう皆!今だ──」

「──いくぞオラァ!!」

 

 まだ喧嘩は終わっていないはずだが、疾風威風のふたりの息はぴったり合っていた。足引っ張るなという後者の言葉が、エイジロウに改めて突き刺さった。

 

「はぁああああ──」

 

 怯んでいるベヒーモスマイナソーの懐に潜り込んだ瞬間、実質的に勝負は決していた。左腕のナイトメイスを叩きつけ、右腕のナイトランスを突き立てる。

 

「ブモォオオ……!?」

「ッ、ついていけてるうちに終わらせてやるぜ!──キシリュウオー!!」

 

 レッドの声に応じて──キシリュウオーは、跳躍した。

 

「うおぉぉぉぉ──!!?」

 

 なんて身軽さとパワー!"大風(ゲイル)"と名付けたコタロウは、前々から思っていたがやはりセンスがあると思った。エイジロウはその辺からっきしだ。まあケントの形見となったカタソウルの必殺技に、前々からどこかで使おうと考えていた"不屈(アンブレイカブル)"を配したことだけは自分を褒めて良いと思っているが。

 

 ともあれ伸びやかに空へ上がった鋼鉄の騎士は、風を浴びながら降下を開始した。緑と黒、左右のバランスが良いとはいえないが、決めるに不自由はなし。

 

「「「──キシリュウオー、ゲイルブレイクスラッシャー!!」」」

 

 ランスとメイス、同時にエネルギーを込め──同時に振り下ろす!

 

「コオォォォス──ッ!!?」

 

 結局、己の欲望を果たしきることなきまま、ベヒーモスマイナソーは今度こそ爆散するのだった──

 

 

 

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