【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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25.クレオンの結婚!? 3/3

 

 夜のオウスの街は、たちまち混沌と恐慌とに覆われていた。

 数十メートルにも及ぶ巨躯を誇る、妖艶な美女の姿。その顔かたちは生みの親、別の言い方をすれば苗床となった少女によく似ていた。数年もすれば、まったく瓜二つになるだろう。

 

「アイ、シテェ……」

 

 そんな彼女──そう形容できるのかさえ不明瞭だが──は、未だ灯りがともり、人の往来が多い繁華街に目をつけた。そちらめがけて進軍を開始する。標的にされたと悟った人々が慌てて逃げ出すが、彼女の目的は彼らを踏みつぶすことではない。

 

「アアアアアア────ッ!!!」

 

 もはや言葉でもなんでもない奇声を発すると、彼女──リリスマイナソーはその掌から光の触手を放った。巨大なそれは先端が次々と枝分かれし、地上にいた人々を貫いていく。うっと声をあげて、貫かれた人々が硬直した。

 

──ぐちゅっ、ぶちゅ、じゅる、ぐちゅん。

 

 不気味な音をたてて、触手が体内で蠢き、何かを絡め取っていく。やがて背中から抜けた触手が持っていたのは、心臓の形をした光るオブジェクトだった。

 それらを自らの体内に収め、リリスマイナソーは恍惚の表情を浮かべる。月を背に佇むその姿は、行為にさえ目を瞑れば愛と美の女神の降臨した姿だと信じられていたことだろう。

 

 光る珠を抜き取られた人々は、まるで糸の切れた人形のようにその場に倒れていく。薄く開いたままの双眸からは、ことごとく輝きというものが失われていて──

 

「──あれは……!」

 

 巨大マイナソーが街中に出現したとあっては、当然彼ら(リュウソウジャー)が気づかないはずがない。駆けつけた六人は、その女神のような姿と倒れ伏したおびただしい人々の群れに一瞬、呆気にとられてしまった。

 

「ッ、いきなり巨大化してくるなんて……!」

「いったいこの人たちに、何をしたんだッ!?」

 

 その詰問にマイナソーは応えない。反応すらしない。ただ無数の光る珠に囲まれて、うっとりとし続けている──

 

 

「……あい、して……」

 

 同じ頃、宿主となった少女もまたマイナソーと同じ言葉をつぶやき続けていた。その傍らに、やはりあれを抜かれたのだろう老婆も倒れている。

 その元凶となったクレオンだけは、庭に出ていた。街からははずれた場所にあるこの屋敷からは、マイナソーの姿は夜空に投影された幻としか思われない。

 

「……愛して、か」

 

 だから人間たちのもつ"愛"を、ああいうかたちで奪い取っている。しかし愛は、それがどんな形であれヒトの根幹をなすもの。失えば心そのものが崩れ、立っていることすらできなくなる。そのまま時が経てば、生命そのものまで──

 

「やっぱりニンゲンって……どーしようもねえな」

 

 言葉とは裏腹に、クレオンは己の胸にそっと手を当てていた。

 

 

──再び、リュウソウジャー。マイナソーが現れ、人々を危機に追い込んでいる以上、彼らの行動は決まっている。

 

「──てめェら、いくぞオラァ!!」

 

 カツキが烈しい号令を飛ばし、皆がチェンジの構えをとる。それぞれのリュウソウルが、宵闇の中で鮮烈な輝きを放った。

 

「「「「「「リュウソウチェンジ!!」」」」」」

『ケ・ボーン!』

 

 チェンジャーからそれぞれの色を纏った小さな騎士たちが飛び出す。踊る。

 

『ワッセイ!ワッセイ!そう!そう!そう!』『ドンガラハッハ!ノッサモッサ!』

 

『ワッセイ!ワッセイ!それそれそれそれ!!』『エッサホイサ!モッサッサッサ!!』

 

『──リュウ SO COOL!!』

 

 周囲で踊り回っていた騎士たちが勢いよく飛びついてくる。その身が鎧──リュウソウメイルへと変わり、少年たちの全身を覆い尽くした。

 

「──正義に仕える、気高き魂!!」

 

「「「「「「騎士竜戦隊、リュウソウジャー!!」」」」」」

 

「──ワガハイたちもいるティラアァァ!!」

 

 敵が巨大である以上、自分たちの出番とばかりに、鮮紅の騎士竜、そしてその仲間たちが駆けつける。こうなってしまった以上、一刻も早くマイナソーを倒して宿主を含めた人々を、そして街を守らなければ。

 

「頼むぜティラミーゴ、──竜装合体だッ!!」

「ティラァ!!」

 

 ティラミーゴがキシリュウオーへと姿を変え、トリケーンとアンキローゼと──次いで、タイガランス、ミルニードルが鎧や矛となって装着されていく。鮮烈な赤が色とりどりに変わり、重装の竜騎士が誕生する。

 

「「「「「キシリュウオー、ファイブナイツ!!」」」」」

「──ティラァ!!」

 

 そして、

 

「──ショート!」

「ああ、──竜装合体!」

 

 海から飛び出してきたモサレックス、その従者たるアンモナックルズが合体を遂げ、

 

「キシリュウネプチューン──」

「──モッサァ!!」

 

 

 並び立つ二大巨人。目前にそんな存在が現れてなお、リリスマイナソーは歯牙にかける様子もなかった。相変わらず四方八方に光の触手をばらまき、人々の"愛する心"を吸い上げ続けている。

 

「あいつ、俺らに気づいてねえのか……!?」

「えぇっ、まさか……」

「眼中にねえってかクソが!!」

「──だったら一気に攻めたてる……!アンモナックル、ゴー!!」

 

 アンモナックルズが衝撃によって分離……否、射出される。同時にファイブナイツも、

 

「後れをとんな丸顔ォ!!」

「わかってるから怒鳴らんといて!──アンキローゼショット!!」

 

 カツキの対抗心ゆえに即座に桃色の弾丸を放つが、結果的にそれが連携を成立させた。巨大な拳魚雷より弾丸のほうが速い。そちらが先に着弾し、コンマ数秒おいて拳が炸裂する。劫火が爆ぜ、リリスマイナソーの姿が覆い隠された。

 

「やったか……!?」

 

 いや──

 

「アイ……シテェ……」

「ッ!?」

 

 炎が風に巻かれて消え去ったとき、マイナソーはその場に健在だった。その前面に半透明な光の盾が張られ、竜神たちの攻撃を防ぎきっていたのだ。

 しかも、それがマイナソーの意志で能動的に行われたのかどうかさえ判然としない。彼女は相変わらず心臓のような珠を吸収し続け、愉しんでいる。

 

「ッ、効いてないのか……!?」

「だったらッ!」

 

 前進を開始するファイブナイツ。とにかくここでは、あれ以上火力のある攻撃はブッ放せない。海岸にまで追い込まなければ。

 

「うおぉぉぉッ!!」

「オラアァァッ!!」

 

 トリケーンカッター、タイガースラッシュ、ミルニードルアタック──全身に備えたあらゆる武器から放つ攻撃で、次々攻めたてていく。平凡なマイナソー相手なら一撃一撃が牽制以上の意味をもつスキルだ。相手の反撃を許さず、追い詰める──

 

 しかしそれらは、光のバリアーによってことごとく弾かれてしまった。

 

「こいつ、硬いティラァ……!?」

「ッ、ビビんなティラミーゴ!まだまだァ、いくぜティラノバーストッ!!」

 

 バリアーに左腕──ティラミーゴの頭部を接触させ、ゼロ距離で炎撃を放つ!

 

「!」

 

 結論から言えば、この攻撃も通用はしなかった。しかしバリアー越しにも衝撃は伝わったのか、マイナソーがわずかに後方へ押しやられる。

 

「よっしゃ、これなら……!」

 

 喜びを覚えたのもつかの間だった。初めてこちらに意識を向けたリリスマイナソーの目が、キッと憤怒に染まったのだ。

 

「アイ……シテェェ!!」

 

 発される単調な台詞は、「邪魔をするな」と言っているようだった。光の触手がぶわあと広がり、ファイブナイツめがけて向かってくる。当然のようにバリアーを透過して。

 

「ッ!」

 

 今度はファイブナイツが慌てて後退する羽目になった。ナイトランスで迫る鞭を弾く。しかし触手は切り裂けず、一瞬その輪郭が歪むばかりだ。

 

「く……っ、ショートくん、援護を──」

「──悪ィ、こっちも精一杯だ……!」

 

 ネプチューンも同量の触手を捌いていた。二騎を相手にリリスマイナソーは一歩もその場を動かず、ただ付随する能力のみで圧倒している。

 

「ファイブナイツじゃかえって不利だ……!ここはスピードに長けたスリーナイツに!」

「えっ……お、おう、わかった!」

 

 イズクの提案──実質的には指示だが──が間違っているとは思わないが、それは彼と彼の気難しい幼なじみをメインファイトから切り離すということでもある。

 正直躊躇はあったが、その幼なじみも何か文句を言う様子はないから、合理的だとは思っているのだろう……舌打ちは聞こえたような気がしたが。

 

 果たしてタイガランスとミルニードルが分離してもとの騎士竜の姿に戻り、左腕にあったティラミーゴの頭部が胴体に戻ってくる。たったそれだけで、ファイブナイツからスリーナイツへのシフトが完了した。

 出力が減退する代わりにスピードの面では大きく改善された三色のキシリュウオーは、先ほどまでとは打って変わって苦もなく触手をかわしていく。そして出力──つまり全体的な技の威力が落ちたことも、今ならかえって功を奏するかもしれない。

 

「ファイナルブレードであのバリアーを破壊する……!援護してくれ!」

「わかった!タイガランス、いくよ!」

 

 タイガランス自身も図抜けたスピードの持ち主である。それも巨人の形態であるキシリュウオーと異なり、虎に似た姿をしているから小回りもきく。触手の群れを細やかにかわしつつ、その連続によって敵の注意を引きつけていく。

 ただそうなれば当然、襲ってくる触手の量も増える。タイガランス一体では捌ききれない。

 

 そこに、漆黒の影がよぎった。

 

「ミルニードルゥ!!」

 

 夜に溶けるような黒々としたボディに黄色い眼を光らせ、ミルニードルが背中の針を飛ばして攻撃する。それらが突き刺さることで、触手は一瞬なりとも動きを鈍らせる。地味な働きだがそれはタイガランスを、そしてキシリュウオーを救うことにも直結した。

 

 地味──思っても、カツキに対してだけは絶対に言ってはいけない言葉ではあるが。

 

「サンキューふたりとも、タイガランスとミルニードルも!」

 

 三人と三体をエイジロウが代表して述べつつ、キシリュウオーはいよいよリリスマイナソーに肉薄していた。光のバリアーが行く手を阻む。これさえ破れば──!

 

「「「キシリュウオー、ファイナルブレードっ!!」」」

 

 膨大なエネルギーを刃に纏わせ──振り下ろす!

 果たして、

 

「──ッ!」

 

 即座には、破ることはできなかった。剣先にバリアーが食い込み、バチバチと反発してくる。

 

「ぐ、うぅ……!」

「絶ッ対、ブチ破る……っ!」

 

 バリアーさえ破ってしまえばと、闘志を燃え上がらせる三人と三体。しかしリリスマイナソーは、その姿を前に妖艶な笑みを浮かべてみせた。

 

「ッ!──貴様ら、離れろ!!」

「え──」

 

 ネプチューン──もとい、モサレックスの焦ったような声。その言葉に彼らが従うより先に、バリアーがかたちを変え、

 

──鋭い槍のごとく変形したそれが、キシリュウオーを貫いていた。

 

「……!?」

「ティ、ラァ……」

 

──ぐちゅっ、ぶちゅ、じゅる、ぐちゅん。

 

 キシリュウオーの体内で槍が柔らかく"何か"を絡みとり、抜け出ていく。やはりというべきかそれは、光り輝く心臓のような珠だった。

 たちまちキシリュウオーは瞳から光を失い──ゆっくりと、その場に倒れ伏す。意志がなければ巨人の姿は維持できない。果たしてキシリュウオーはティラミーゴの姿に戻り、ぴくりとも動かなくなった。当然、トリケーンとアンキローゼも放り出されてしまう。

 

「い、痛ったぁぁ……!」

「ッ、みんな大丈夫か!?」

 

 テンヤの声が響き渡る。果たしてエイジロウはそれに応えたけれど。

 

「ティラミーゴが……!」

 

 ティラミーゴは愛する心──魂の一部を損じ、モノ言わぬ人形となって倒れ伏している。リリスマイナソーはそれを貪り、身を震わせて悦んでいる。およそ許しがたい、おぞましい姿だった。

 

「ッ、ディメボルケーノ、来てくれ!!」

「──もう到達したわぁ!!」

 

 相変わらずの大声とともに、橙の鮮やかなボディが勇躍した。その巨大な口から火炎が放たれ、リリスマイナソーに襲いかかる。尤もマイナソーは咄嗟に槍を球状へと戻し、それをも防いでみせたのだが。

 

「くっ……なんだあのマイナソーは!?これまでにない邪悪な気配だ……!」

「貴様も感じるか、兄弟!」モサレックスも同調する。「奴は、普通とは違う……!」

 

「アイ、シテェェ……!!」

 

 リリスマイナソーを構成する欲求──愛欲は、その根深さゆえに強大なエネルギーたりえていた。そしてそれは、永遠に満たされるものではなくて──

 

「ティラミーゴがやられてしまうとは……!」

 

 騎士竜たちはまだ残っている。しかしキシリュウオーとなる要のティラミーゴを失ってしまったことは、間違いなく痛手だった。

 

「ッ、海岸まで追い込むのは無理だ……。これじゃあ──」

「──でも、動けない人たちがこんなにたくさんいる!」イズクが反駁する。「彼らに万が一にも何かあったらいけない!」

 

 それに、ネプチューンのトルネードストライクでもバリアーを破りきれるかどうか。道中多少なりとも実験した感触だが、威力はファイナルブレードと同等かやや上回る程度だ。ほぼ単騎でそれほどの威力を発揮できるだけ、モサレックスは強力な騎士竜ともいえる。

 

「チッ……──クソ髪ッ、コスモラプターを呼べ!!」

「!、そうか、あいつらなら──」

 

 単なる破壊ではない、他と一線を画した()()の、宇宙の力なら。

 

 暗闇に陥ったティラミーゴの中、勇猛の騎士はコスモソウルを握りしめた。

 

「シャドーラプター、シャインラプター……頼む。もう一度、俺たちに力を貸してくれ!」

 

 祈りを込め──コスモソウルを頭上に掲げる。

 闇に溶け込むような濃い紫の中で、星のような煌めきが無数に瞬くのがわかった。

 刹那、

 

『そなたの願い、聞き届けよう』

 

 男女の声が折り重なったような、凛とした声が響き渡る。そして──空間を裂いて、一対の騎士竜たちが姿を現した。

 黒き闇の騎士竜シャドーラプターと、白き光の騎士竜シャインラプター。対称の動きを見せる彼らは、現実と鏡面とが溶けあうようにひとつの騎士竜へと回帰する。その名も騎士竜、コスモラプター。

 

 その到来を認めたレッドは、自らティラミーゴの体内から外に飛び出した。

 

「っし……あんがとなコスモラプター!──ショート、あとはおめェに任せたっ!!」

 

 そして言うが早いか、コスモソウルをキシリュウネプチューンめがけて投げ渡す。たちまちソウルは巨大化し、ネプチューンの新たなる頭部へと姿を変えた。

 

「任せろ、──竜装合体!」

 

 そしてコスモラプターが身体の一部となる。右手にカガヤキソード、左手にクラヤミガン──そして目には見えない、宇宙(コスモ)の加護。

 その名も、

 

「キシリュウネプチューン、コスモラプター!」

 

 降臨した海神。その勇姿めがけて、リリスマイナソーは構わず光の触手による攻撃を再開した。彼女にしてみれば、攻守一体の光波バリアーがある限り、相手がどんな形態をとろうと戦法を変える必要などないのだ。

 だが、コスモラプターは他の騎士竜たちとはひと味違う。

 

「──はっ!」

 

 カガヤキソードが光を纏い、一閃。洩れ出した光輝は直接刃を当てずとも触手を弾き返すだけのエネルギーをもっていた。それでいて、リュウソウゴールドとモサレックスの息の合ったアクション。

 触手の猛攻が緩んだところで、ネプチューンはすかさず右腕の暗闇銃(クラヤミガン)を構え──発射した。

 

「アイシテェ……」

 

 その声はほくそ笑んでいるかのようだった。実際、キシリュウオースリーナイツの必殺技でも破りきることはできなかったのだ。普通の弾丸が通用するはずがないと思うのも、無理からぬこと。

 

 しかし放たれた漆黒の弾丸がバリアーに接触した瞬間、彼女にとっては驚くべきことが起きた。

 弾丸はあっさりバリアーを透過し、彼女自身に迫ったのだ。

 

「アイシテェッ!?」

 

 エネルギーの塊に貫かれ、悲鳴とともに後退を強いられる。いったい何が起こったというのか、まったく理解が及んでいなかった。

 

「──シャドーラプターのタマは暗黒物質(ダークマター)……ってヤツらしい。暗黒物質には空間をねじ曲げる力がある。どんな強固なバリアーだろうと、空間と空間をすり抜けちまえば無意味……らしい」

「伝聞かよ」

「悪ィ、モサレックスに聞いた」

「教えた!」

 

 心なしか胸を張るキシリュウネプチューン。兎にも角にも、この好機を逃さない。

 

「いくぞ──」

 

「──キシリュウネプチューン、コズミックブレイカー!!」

 

 クラヤミガンに最大限のエネルギーを込め──最大級の暗黒物質弾を発射。その瞬間、同時にカガヤキソードを十字に振り下ろす。

 

 闇に光をぶつける。一見すると相反する力が相殺され、消えてしまいそうな行為。

 しかしながら、コスモラプターに限ってはそうではない。光と闇が共存し、ひとつの世界を創り上げている──その象徴のような存在なのだから。

 

「ァ、アイシテェ……!」

 

 バリアーが無意味と悟ったリリスマイナソーは、光の触手を群がらせて己の身を守ろうとしていた。大元の構成要素が同じである以上、かたちを変えたところで同じことなのだが。

 果たしてマイナソーは、触手もろともその身を貫かれ──

 

「アイ、シ、テェ──!!?」

 

 ただ貫かれるだけに終わらない。その先で弾丸は空間の歪みを、空間の歪みはブラックホール──異世界との通気孔を生み出す。

 そしてそれは、死の宣告と同義でもあった。抵抗など無意味だ。なすすべなく、彼女はブラックホールの向こう側へ吸い込まれていき、

 

 そして──閉じた。マイナソーは、斃れたのだ。

 

「……俺たちとの出逢い、後悔しろ」

「──ティラァ!!」

「おっ、ティラミーゴ!もとに戻ったか、良かったぁ……」

 

 ティラミーゴが戻ったということは、街の人たちもだ。ひとまずはこれで一件落着だと、騎士たちは胸を撫でおろしたのだった。

 

 

 *

 

 

 

「敗けちまった、か……」

 

 リリスマイナソーの最期を見届けて、クレオンはため息をついた。思わぬ強力なマイナソーだったが、そんなことはどうでも良いことだった。

 

 とぼとぼと屋敷に戻ると、宿主だった少女が目を覚まそうとしているところだった。駆け寄ろうとして──思いとどまる。このあとに何が起こるか、彼は薄々予感していたのだ。

 

「ん……、私、何を──」

 

 怪訝そうに辺りを見回していた少女の目が、程なくして立ち尽くすクレオンを捉えた。視線が交錯する。

 

「あ──」

 

 それでもと、一歩を踏み出そうとしたときだった。

 

 

「嫌ぁああっ、化け物──ッ!!」

 

 恐怖に満ちた少女の叫び。それと同時に、彼女の抱えていたブーケが投げつけられる。祝福でなく、排除のために。

 

「アランが……!あなたたちがアランを……!──消えて!早く、消えてよぉ……っ!」

 

 憎しみより、哀惜のあまり泣き出す少女は、この世界においてあまりにか弱い存在だった。きっと自分の腕ひとつで、その細い首をへし折ることなどわけないだろう。

 

「………」

 

 しかしクレオンは、黙って踵を返した。──マイナソーに一度魅入られたことで、彼女は狂気の中から抜け出してしまったのだ。それが彼女にとって僥倖であったか否か、クレオンが知ることはない。もはや彼女に、会うことは二度とないのだから。

 

 独り立ち去ったクレオンだったが、その行く先に待ち受けている者がいた。

 

「!、……ワイズルー、さま」

「………」

 

 何も言わず、彼はそっと手を差し伸べてくる。彼の想いを感じとったクレオンは、昨夜のことを水に流してその手をとった。自分は結局、彼らドルイドンとともに歩むしかないのだ。一度、それをよしとしてしまった以上は。

 

(オレの居場所は、()()にしかないんだ)

 

 涙をこらえ、怪物たちは去ってゆく。

 

 

 つづく

 

 





「Nice to see you、デク」
「きみとこんなところで再会えるなんて……!」
「飛んでいる!僕ら、飛んでいるぞ!!」

次回「天空のロディ」

「俺だって……っ、ーー俺の騎士道、見せてやる!!」


今日の敵<ヴィラン>

リリスマイナソー

分類/アンノウン
身長/49.9m
体重/644t
経験値/606
シークレット/いずれの属性にも分類不可能な、謎のマイナソー。宿主となった少女が成長したような姿、つまり人間の女性の形態をとっているが、その戦闘能力はマイナソーの中でも上位にある。光の触手で人々の愛する心を奪い取ったほか、光をバリアーに変えてあらゆる攻撃を防いだぞ!
ひと言メモbyクレオン:………。
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