デク&カツキとロディ一家の出逢いとそれにまつわる事件を描いた番外編となります。剣と魔法と戦隊の世界における彼らの邂逅、乞うご期待!
本当は27話直後から投稿したかったが間に合いそうにないのだ…
翼を傷つけながらもロックマイナソー撃破にひと役買った、ロディの相棒・ピノ。しかし勝利に喜ぶ間もなく、彼はかつてほどの大きさにまで縮んでしまった──
『──カガヤキソウル!』
騎士竜シャインラプターの力を宿したソウルを発動させるエイジロウ。温かな光がピノに降りそそぎ、その身体を覆っていく。
果たして翼の傷は簡単に治った。寝顔も穏やかなものになる……が、目を覚ます様子も、もとの大きさに戻る様子もない。
「どうして目を覚まさないんだろう、ピノ……」
「……わからねえ。こんなこと、今までなかった」
ロディですらそうなのだから、原因に思い至るはずもない。単なる疲労……なら、取り越し苦労で済むのだが。
「ど、どうしよぉ……!これじゃコタロウくんたち、迎えに行けないよ〜っ」
西へ行けないこともそうだが──何より目先の懸案はそのことだった。断崖の下に置き去りになっているコタロウたち。自分たちの足で彼らのもとに戻るにしても、距離も相当開いてしまっている。
「……今はピノも眠ってるみたいだし、少し様子を見よう。ね、ロディ?」
「!、……あぁ」
「悪ィな、みんな」──彼にしては珍しい殊勝な物言いが、力ない笑みとともに放たれたのだった。
*
一方、取り残されたコタロウたちはというと。
「……遅い……!」
暗くなってゆく空を見上げながら、ロロが苛々と貧乏揺すりを続けていた。その隣で、コタロウはこくこくと舟を漕ぎ、ララに至っては妙ちきりんな踊りを踊っていた。三者三様の行動だが、手持ち無沙汰が極まった結果であることは共通している。
「──あぁぁぁもうッッッ!!」
「ッ!?」
ついにロロが癇癪めいた声を響き渡らせたために、コタロウはびくっと身体を揺らして目を覚ました。
「……びっくりした」
「も〜、おっきい声出さないでよロロにいちゃん!」
「出したくもなるよっ、もう何時間待ってると思ってんだよ!いい加減日ィ暮れちゃうよ!」
「……確かに、遅いね」
マイナソーを見つけられないのか、見つけても倒すのに手間取っているのか、さもなくば──
「………」
考えたくない最悪の可能性にまで思い至って、コタロウは顔を顰めた。
一方で、妹と軽い痴話喧嘩を始めたロロはというと、苛立ってはいてもそういった不安を抱いている様子は一切ない。彼の兄は、リュウソウ族というだけの普通の少年でしかないのに。
「……心配じゃないの?お兄さんのこと」
「え?」
「だって、戦いに行ったんだよ。あんなでかいマイナソー相手に」
「あぁ……まあ、そうだね」
少し考え込む様子を見せたロロだったが……ややあって、ニィと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「っつっても、兄ちゃんだし。殺しても死なないよ」
「……そう思ってたって、死ぬときは死ぬよ」
「知ってる。そういうの、僕らもたくさん見てきたし」
あっけらかんと答えるロロ。……あぁ、そうだった。同じ未成熟の少年とはいえ、彼は百年以上もの時を生きている。それゆえ同じ場所に定住し続けることができず、世界中を彷徨いながら、彼は数えきれないほどの死を見てきたのだろう。
だからこそ、ロロは断言するのだ。
「でも兄ちゃんの傍にはデクさんとカツキさんがいて、デクさんとカツキさんにも頼もしい仲間がいる。──あの人たち、ドルイドンも倒せるだろ?だったらあんな怪物ごときに、絶対に敗けやしないよ」
「………」
コタロウはふぅ、と溜息をついた。自分ばかり悪い可能性を想像してしまうのが、なんだか馬鹿らしくなる。
「……ま、じゃあおとなしく待ってるしかないね」
「あ゛あぁっ、それはもうしんどい……!」
「もーっ、ロロにいちゃんうるさい!きらい!」
「ええっ!?」
ショックを受けるロロを尻目に、ララはなぜか目をきらきらさせてコタロウに歩み寄ってきた。
「コタロウくん、たよりにしてるね!」
「えっ、あぁうん……ご随意に」
「ッッッ!」
ぐぎぎ、と唸りながら睨みつけてくるロロ。実に不毛な空間にいるものだと辟易していたらば、良くも悪くもそれをかき乱す事象が起きた。
急に頭上からごろごろ不穏な音が響きだしたかと思うと、ぴかぴかぴかぴかと絶えず宵闇の空が光ったのだ。
「……かみなり?」
「うわ……ヤな予感」
予想に反して、リュウソウゴールドことショートが駆けつけてくれた!……なんてことがあったら良かったのだが。
案の定と言うべきか、雷鳴が轟きだしてから雨粒が降りはじめるまでは五分とかからなかった。それが押し流されそうな土砂降りへと変わるまでに至っては、三分もない。
「うわあぁっ」
ロロが悲鳴じみた声をあげる。地溝の中にいる彼らだが空は厳然とそこにあるので、雨は容赦なく降りそそいでくる。しかも雨宿りのできる場所も傍にはないのだった。
「この辺り、西と南の緩衝地帯だから基本乾いてるんだけどっ、たまに思い出したようにスコールが降るんだ……!」
「解説どうも……!とりあえず、移動しよう!」
こんな雨に打たれていては風邪をひいてしまう。三人は必死になって大地の亀裂の中を駆け抜けた。しかしいつまで経っても変わり映えのしない風景が続くばかりである。
これは本格的にまずいかもしれない。そう思いはじめた矢先のことだった。
「──あ、あれ!」
ララが指差した先に、崖に開いた裂け目があった。細身の子供ひとりなら十分潜り込めるほどの大きさだ。試しにコタロウが覗き込んでみると、ひゅう、と冷たい風が頬を撫でる。
「この穴、かなり奥まで続いてる。──ロロ、中がどうなってるか、見てくれる?」
リュウソウ族は夜目がきく。つまりこういった光の届かない洞窟の内部を確認するなら、コタロウがするよりロロに任せるほうが良いという判断だった。
じっと目を細め、ロロが中を見遣る。程なく振り向いた彼は、ニィと笑って親指を立ててみせた。
「この中、ちゃんと道が続いてる。入っても大丈夫そうだよ」
「良かった。じゃ、ロロ、先入って」
「えぇ、僕ぅ?」
「……わざわざ位置を入れ替えるほうが面倒だろ。次、ララちゃんね」
「!、コタロウさん、やさし〜ね!」
「ありがとぉ」と微笑むララは、幼いながらコタロウの目にもなかなか可愛らしく映った。尤も彼女、リュウソウ族である以上はコタロウどころかコタロウの亡母よりも年長なのだが。
「………」
そんなふたりを、人間だったら老衰でとうに亡くなっていてもおかしくない年齢のロロは複雑そうに見つめていた。子供とはいえ彼も成人に備えるくらいの年頃には至っているので、長いリュウソウ族生活の中で恋のひとつやふたつ、したことはある。同族か兄と妹しかいない環境の中であるから、相手は当然人間である。しかし背が伸びた伸びないの話をしている間に彼女らは成熟し、年老いていく。それが自然の摂理である以上、仕方のないことだった。
兄よろしく唇を尖らせつつ、ロロは穴からするりと坂を滑り降りた。なだらかになったところで立ち上がり、振り返る。
「ララ、おいで」
「はぁーい」
すぐあとを降りてくるララを受け止める。そのまま一緒に横に退くと、コタロウがえっと素っ頓狂な声を洩らした。
「僕は?」
「……いや自分で来なさいよ」
呆れぎみに返すと、コタロウは涼しい顔ですいすいと降りてきた。とはいえ彼の目にはほとんど周囲の風景が見えていないので、自力のみに恃むのは度胸が要ったのだ。
「これで暫くは、雨風凌げそうだね」
「うん。それにしても──」
ロロが先を睨む。この風穴の中、規則正しい通路が彼方まで続いている。自然に削られてできたとは思えない。あるいは人工的に掘られたのかもしれない。
「これ、どこにつながってるんだろう?」
ララもまた、この不思議な洞穴の行く先に関心をもっているようだった。風が吹いているということは、どこか外へ出られるのかもしれない。外と言っても、別の地溝の中という可能性が濃厚ではあるが。
「……どうせだから、探検してみる?」
「!」
「──たんけん!?」
コタロウの"提案"に、兄妹は目を輝かせた。10歳だろうと108歳だろうと、子供の好奇心というのは旺盛なものなのだ。
「じゃ、しゅっぱーつ!しんこー!」
「おー!」
「……おー」
穴の奥深くへ向け、ロロララコタロウ探検隊(ロロ命名)は進軍を開始した。視力というハンデを抱えたコタロウは、真ん中を歩くララと手を繋いでいる。舌打ちしかけるのを堪えたロロは、半ば強引にふたりの間に割り込んだ。
「ぅわっ」
「ちょっと、なにすんのロロにいちゃん!」
「妙齢の男女が軽々しく手なんてつなぐもんじゃありません!入り用なら、僕のをどーぞ!」
「妙齢て……まぁ僕は別に、どっちでもいいけど」
「どっちでもいい、だぁ!?ララはこんなに可愛いんだぞ!!」
「えぇ……どうしろってんだよ……」
ロディはどうか知らないが、長らく三人きょうだいだけで放浪していたせいか、ロロは些か……こう、妹愛が暴走しがちなようだ。まぁそれでいて差し出される手はそのままなので、コタロウは呆れながらもそれを取った。
再び歩き出す。風と三人の足音、そして時折、滴り落ちる水滴の音。
「ねえ、コタロウ」
不意に、ロロが話しかけてきた。
「なに?」
「コタロウはさ、どうしてイズクさんたちの旅に同行してるの?」
リュウソウ族のロロにしてみれば、当然の疑問だった。理由は、人間との間に恋愛することの不毛さと同じだ。もちろん、そういったことを気にしている様子のないコタロウに純然たる興味を抱いたというのもある。奇しくも先ほどとは、逆の構図である。
そういう質問はいずれあるだろうと想定していたコタロウは、淀みなくその経緯を語った。勇者だった母を失ったこと、預けられた親類の家を飛び出したこと。放浪の途中ドルイドンに襲われたところを、エイジロウたちに救けられたこと──
「……そっか。コタロウも、親がいないんだ……」
「やっぱり、ロロたちも?」
三人で助け合いながら生きてきたというのは、つまりそういうことだ。そして彼らもまた、"親"には複雑な思いを抱いていた。
「僕らの母さんは、ララが生まれてすぐに病気で死んじゃったんだ。それからは父さんが僕らを育ててくれた。でも──」
ある日突然、父は自分たちの前から姿を消した。リュウソウ族である以上は人里に定住もできず、さりとて山奥でひっそりと暮らしていくのも子供だけでは難しく……彼らは、数十年にわたって放浪しながら居場所を探し続けていたのだ。
「お父さんは、どうしていなくなったの?」
「……ドルイドンに狙われてたんだ、父さんは。事情は詳しく知らされてないけど、奴らに対する切札を見つけてしまったらしくて。それで、僕らを巻き込まないために……」
「切札?」ロロたちの境遇も当然気にかかるが、一応は騎士竜戦隊に同行する身として聞き捨てならないワードだった。「それ、カツキさんたちは知ってるの?」
「知ってると思うよ。父さんのおかげで、"あいつ"にも勝てたって言ってたし」
「あいつ?」
彼らの父を狙っていたというドルイドンのことだろうか。人間換算15歳前後の少年ふたりがドルイドンを撃破したとなれば当然人々の口端にも上るはずだが、遥か西方の神聖オセオン国での出来事であるし、当時コタロウはまだ物心つかない幼子だった。
「……父さんは、僕らを捨てたわけじゃなかった。それを知って、兄ちゃん、すごく嬉しそうだったんだ」
「そう、だろうね」
父母の違いはあれど、彼らきょうだいと自分は同じだとコタロウは思った。愛憎相半ばする感情。一生付き合っていくものだと思っていたそれは、しかしエイジロウたちと出逢ってからの劇的な出来事の数々によって少しずつ氷解していった。マイナソーの力で一時的に還ってきた母との再会を経て、今は純粋な気持ちで彼女を悼むことができるようになったと思っている。きっとロディも、そうだったのだろう。
しかし兄が嬉しそうだったと語るロロの表情は、どうしてか苦々しげで──
「……だからって、割り切れないよな」
「……うん」
兄が喜んでいる手前、水を差すようなことはしたくない。けれど父が自分たちに何も言わず、勝手に姿を消した事実は変わらないじゃないか。そんなふうに思ってしまう自分が、ロロは嫌いだった。自分を嫌いになってでも、割り切れないものはある──
「……!」
今まで黙ってふたりの会話を聞いていたララが、声にならない声をあげて不意に立ち止まった。
「……ララ?」
怪訝に思った少年ふたりが振り返る。──彼女の表情が、恐怖に引きつっている。
「ここ、だめ……!」
「え──」
「!、コタロウ走って!!」
何かを察したロロの指示が飛ぶ。コタロウも修羅場はそれなりにくぐっているので、何かが起きようとしているのだということはわかった。
少年たちがその場を離れようとした瞬間、果たしてララの感知したものが姿を現した。
「ドッチィ……!!」
「────!」
地面を突き破り、飛び出してくる。コタロウはその姿をシルエット程度にしか認識できなかったけれど、それでも異様な姿をしていることはわかった。
そしてはっきり視認できたロロとララは、「ひっ」と怯えた声を発した。その頭部から胴体までは、黄金の被毛に覆われた獣──獅子の形をしている。しかしそれだけなら、"異様"とまで形容されることはない。
問題は、腹部から下だった。黒い球状の塊が蠢き、そこから細い四本の脚が生えている。そこだけ切り取れば、そしてスケールを無視すれば、日常の中で何気なく目にしている姿かたち。無視、ムシ──虫。蟻の、腹部だ。
「ドッチィ……!」
ライオンの上半身と蟻の下半身を繋ぎ合わせたような歪な怪物は、言語めいた鳴き声を発しながら少年たちを睨みつけた。そういう存在を、コタロウはよく知っている。
「……マイナソー……!」
空だけでなく、地の底にまでいたとは。ワイズルーとクレオンは、どうやら徹底的に自分たちを西へ来られないようにするつもりらしかった。
エイジロウたちにしてみれば、そんなもの足止め程度でしかなかっただろう。しかしマイナソーに対抗できる力の持ち主は、ここにはいない。
──彼らのすべきことはひとつしかなかった。マイナソーが飛び出してくる直前、ロロが指示した通りだ。
誰ともなく、三人は走り出した。逃げるしかないのだ、彼らは。不幸中の幸い、頬に風が吹きつけてくる。この先は間違いなく、どこかに続いているはずだ。
しかしマイナソーの規格外の能力の前に、逃避ですら無力に他ならなかった。
「ドッチィ!!」
ひときわ大きなマイナソーの声が、背後から響く。構わず足を前へ進めようとしたコタロウは刹那、文字通り足場が崩れるような感覚を味わった。
「え──」
一瞬の浮遊感の直後、コタロウの身体は砂の渦の中に呑み込まれていた。
「コタロウっ!!」
「コタロウくん!」
同時に手を伸ばしてくる兄妹。幼いララは流石に無理だったが、ロロのそれはかろうじて間に合った。しかしコタロウの下半身はもう、完全に流砂の中に埋まってしまっている。
「ッ、く、ぅ……!」
引っ張り上げようとする力に合わせ、上へ登ろうとするが果たせない。砂に摩擦がなく、足に力を込めても滑るばかりなのだ。
四苦八苦しながらもがいているうちに、コタロウは気づいた。砂の渦が、少しずつ広がっている。
「駄目だ逃げろ!呑み込まれるぞ!!」
しかし、ロロもララもいっこうに離れようとしない。コタロウは焦れて叫んだ。
「早く!」
「「イヤだ!!」」
「!?」
コタロウは少なからず驚愕した。幼少のララはまだしも、ロロにまでそこまで、なんの葛藤もなく拒否されるとは思っていなかったのだ。
「なんで……!きみらがいなくなったら──」
「──兄ちゃんが悲しむ、だろ……!わかってる、そんなことっ!!」
「……!」
ロロの剣幕に、コタロウは思わず息を呑んだ。
「でも……っ、きみを見捨てたりしたら……!僕らを救けてくれた、イズクさんとカツキさんに、顔向けができない……!」
リュウソウジャーでなくたって、リュウソウ族ですらなくたって──コタロウは彼らに、立派に仲間として扱われていた。彼らの悲しむ顔は、見たくない──!
少年たちの健気な想いを嘲笑うかのように、マイナソーが鳴いた。
「ドッ、チ」
「────!」
ロロたちの足元が、溶けるように柔らかな砂へと変わる。無数の流砂の中に、彼らもまた呑み込まれた。
「う、うわあぁぁぁ──」
「きゃあぁぁぁ──!」
流砂の獄に、ふたりが落ちてくる。巻き込まれる形となったコタロウともども、彼らは穴の奥深くへ吸い込まれていく。もがく手を掴む者は、もはや誰ひとりとしてこの場にいない──
「ドッチィ……」
閉じていく流砂の穴を見下ろしながら、ミルメコレオマイナソーは嗤った。