【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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3.セカンド・インパクト 2/3

 

 タンクジョウがクレオンともども地中から()()()()()()のは、代わり映えしない景色を半刻ほど眺め続けた頃だった。

 

「さんきゅうワームたん、ステイな!ステイ!あとでおやつあげるから」

 

 主の命令を受け、巨大ミミズが土の中に潜っていく。わずかな痕跡のみを地上に残して、その姿はすっかり消えてしまった。

 

「いや〜危なかったすねえ。ボクが救けに行かなかったらどうなっていたことか!」

「……クレオン貴様、俺が奴らごときに敗北すると思っているのか?」

 

 低い声で凄むと、クレオンは「いやいやそんなぁ」と大して怯えた様子もなくかぶりを振った。

 

「勝ててもケガはするかもしれないじゃないですかー。そしたら困るでしょ?タンクジョウさまの目標は、リュウソウジャー倒すことじゃないんだからさあ」

 

 その言葉に、タンクジョウは憮然と黙り込んだ。彼は気位の高い性格ではあるが偏屈ではない。クレオンの説教めいた言葉を自分の中で噛み砕くだけの器量はあった。それが純粋に自分を想っての発言でなく、損得勘定が多分に含まれていることも併せて。

 

「……で、貴様は俺からさらに財を搾り取ろうというわけか」

「え、エヘヘヘ」

「笑って誤魔化しおって」

 

 しかし、もとよりこの男はそうして自らの基盤をドルイドンという種族の中で築いている。生まれながらの戦士であるタンクジョウとは根本的に異なる生き方。

 異なるからこそ、敵対することもない。

 

 

「良いだろう。貴様の狗になってでも、俺はこの星を手中に収めてやる──必ず」

 

 その宣言に、クレオンは手を叩いて喜んだ。

 

 

 *

 

 

 

「もしかしなくてもそれ、人喰いミミズだと思いますよ」

 

 後方に下がっていたとはいえ、エイジロウたちの戦闘中堂々と読書に興じていた──しかも彼らが駆けつけたとき、「終わりました?」などとのたまった──コタロウ少年の言葉に、エイジロウたちは瞠目していた。

 

「人喰い……ミミズ?」

 

 あのワームマイナソーとやらを指すことは自明の理ではあるが。名称の如何と言うより、そう呼ばれることになった経緯について若き騎士たちは気にかかった。

 

「ええ、この辺りを往来する旅人の間で頻りに噂されています。夜起きていると人喰いミミズに襲われる、って」

 

 聡明なコタロウは、そのあたりを察するのに具体的な問いを必要とはしなかった。エイジロウたちの知りたい内容について、ぶっきらぼうながらかいつまんで説明してくれる。

 

「夜、起きていると……奴も夜行性ということか?」

「さあ、僕は噂を聞いただけなので」

 

 コタロウの返答はすげないものだったが、テンヤの意識は既に思考へと振り向けられていた。噂の内容を吟味して、事実を整理していくのは叡智の騎士の本分である。次に彼が引っ掛かったのは、"起きていると"の部分だった。

 

「逆を言えば、寝ていれば襲われない……つまり、動かなければ標的にされないと考えられるな」

「なんか、カマキリみたいやね。ミミズなのに」

「ミミズと言っても、マイナソーだからな」

 

 あまり意味のないやりとりが挟まったが、その間にエイジロウが結論を出していた。

 

「なら、すぐにでもあと追おうぜ。逃げる途中で、奴が人を襲うかもしれねえんだ」

「!、せやね」

「ム、俺は構わないが……」

 

 テンヤの視線が、やや下に落ちる。その先にはコタロウ少年の姿があった。切れ長の瞳は、修羅場に次ぐ修羅場にもかかわらず怜悧な輝きを放っている。

 

「僕は昼間、たくさん寝たので」

「お、おぉ……そういえばそうだったな」

「………」

 

 なぜか難しい顔をしているオチャコ。何か引っ掛かることでもあったのだろうか?

 

「コタロウくんやっけ、きみ……」

「……何か?」

 

 胡乱な目つきになるコタロウ少年。エイジロウやその友人たちとの対話によって昼間ほど頑なでなくなったとはいえ、まだ完全に心を開いたわけではない。まして、腰を据えた話は一度もしていないテンヤとオチャコに対しては。

 しかしこのふたり、エイジロウに負けず劣らず純朴な少年少女であった。

 

「実は、めっちゃええ子なんやね!」

「は……!?」

 

 いきなりストレートなお褒めの言葉を与ったかと思えば、黒髪をわしわしと撫でられる。コタロウは一瞬、とりうるべき行動の指針を見失った。ほんとうに一瞬であったが。

 

「ちょっ……やめろ!」

「えー、なんで?褒めとるやん!」

「子供扱いするな、自分たちだって子供のくせに!」

「ぼ、俺たちはもう子供ではないぞ!成人の儀は済ませているからな!」

「そういえばテンヤくん、幾つになったんやっけ?」

「156歳だ!」

「そっかぁ、なかなか追いつかんなぁ……」

「いや年齢は追いつかないだろう、常識的に考えて」

 

 コタロウ少年にとってはどうでもいい会話が始まってしまったので聞き流していたのだが、ふと違和感を覚えた。──ひゃく?

 

「ああ、言ってなかったっけか。俺らリュウソウ族は人間より寿命が長ぇんだよ」

 

 「ちなみに俺は154歳な!」と笑うエイジロウ。──ひょっとして担がれているのだろうか。10歳のコタロウがそう思うのも無理からぬことだった。

 

 

 *

 

 

 

「かっちゃん、」

 

 長らくともに旅をしてきた相棒の呼び声に、微睡んでいた少年は素早く身を起こす。もとより短い仮眠になることはわかっていた。

 

「タイガランスとミルニードルが、マイナソーの気配を探知したみたい」

 

 相棒たる翠眼の少年の言葉に、彼は喉に溜まった空気を呻るように吐き出した。追いかけてきたものを、ようやく捉えただけのこと。そこになんの感慨もない。

 しかし相棒の発したそれ以降の言葉は、必ずしもそうではなかった。

 

「土の中を北西に移動してる。かなり育ってるみたいだ」

「……あ?どういうことだ」

 

 少年が緋色の瞳を眇める。説明を求められていることを相棒たる少年は察したが、生憎と答は持ち合わせていない。

 

「詳しくはわからない。あの人から生まれたのと、別のマイナソーかもしれない。──ただ、」

「まだあんのか?」

「神殿の騎士竜たちが、覚醒(めざめ)たらしい」

 

 それに対しては、少年は鼻を鳴らすのみだった。些か拍子抜けの反応。

 

「そっちは驚かないんだね」

「村の連中もいい加減ままごとは止めたっつーことだろ。遅すぎるくれぇだわ」

「またそんな言い方して……」

 

 ここには自分たちしかいないから良いが、彼には建前というものが存在しない。そのうえ他人への評価が非常に厳しいときている。相手がよほどの聖人君子でない限り、初対面でのトラブルが頻発するのである。

 今回もきっと例に洩れないだろうと内心ため息をつきつつ、少年は出立の準備を始めた。

 

 

 *

 

 

 

 ふぁ、と欠伸がこぼれる。

 

 夜も更けて久しく、タンクジョウとの交戦時には天高く輝いていた満月もいずこかへ隠れてしまった。そんな中で歩き続けるコタロウ少年は、時間が進むにつれ眠気が襲ってくるのを感じていた。昼間ゆっくり休んだのだから眠くならないだろうと高を括っていたのだが、あてが外れた形だ。そもそもあれは疲れきった身体を標準の状態に引き上げるための休息であり、それを済ませたからと徹夜で動いて良いというものではないのだ。

 とはいえ今さら、やはり休んでいくとは言えない。ここで別れるというのは認められないだろうから、コタロウは暫し眠気を堪えることにしたのだった。

 

 一方の新米騎士たちはというと、連戦に次ぐ連戦のあとにもかかわらず疲労した様子もなく、歩き進みながら何事かを話しあっていた。

 

「今のうちに、これから俺たちがすべきことを整理しておこう」

 

 重い鎧をものともせず背筋を伸ばして歩くテンヤに、エイジロウとオチャコも自ずと厳粛な顔つきになる。

 

「まず、村をもとに戻すこと。そのためには始まりの神殿を見つけ出して、そこにあるという伝説の剣を手に入れる必要がある」

 

 それは長老やマスターたちから託されたこと。しかし、落とし物を捜し回るのとわけが違うのは言うまでもない。

 

「神殿が天空にあると言うからには、一朝一夕では発見できないと思っておいたほうが良い。また、発見したとて入る手段がなければ意味がない」

「空じゃ、歩いてってワケにいかんもんね……」

 

 「私も箒で飛べればなぁ」とオチャコ。彼女が習得している魔法には偏りがあって、その中に飛行能力はない。尤も習得したとて、届く高さであるかもわからないのだが。

 

「旅が長く続くということは、それだけ回らなければならない場所も増えるということだ。──つまり、」

「それだけ大勢のドルイドンやマイナソーと、戦わなきゃなんねえってことだよな」

「うむ」

 

 凄まじい破壊力、あるいは厄介な特殊能力をもつマイナソー。そしてマイナソーを操り、自らも強大な力をもつ──古代のリュウソウ族を大いに苦しめた──戦闘民族ドルイドン。彼らとの死闘の火蓋は、既に切って落とされている。

 

「俺たちがしなければならないことは、長老たちの言う村を出ていった他のリュウソウジャーと合流すること──」

「あと、私たち自身がもっともっと強くなること!やね!」

 

 道は長く、険しい。しかしやり遂げねばならない。そうしなければエイジロウたちは永遠に根無し草のままだし、そもそもそれがリュウソウ族に生まれた者の使命。使命を果たすために、自分たちは騎士となったのだ。

 

「………」

 

 展望を語る齢ひゃくごじゅう某という少年たち。その表情は厳粛だけれども、そこに表れているのは絶望ではなく決意や覚悟と言ったものの類いだ。彼らは自分たちの未来というものを信じて疑っていない。

 はっきり言って、甘いとコタロウは思った。マイナソー一匹の侵攻で騎士たちの半数近くが傷つき、二匹目とその元締め(という言葉が実情に即しているかはわからないが)の襲来によって封印を余儀なくされた。仮にその決断がなく、ずるずる戦いを続けていたら村は討滅されていただろう。リュウソウジャー三人では、マイナソーを倒せてドルイドンに一矢報いることができたとしてもその両方には太刀打ちできないのだ。

 ならばテンヤが言ったように、彼ら以外のリュウソウジャーと合流が成ればどうか。なるほどこの危険な世界で旅において先達と言うなら、その実力もこの三人組より上回っているだろう。だが、それでも五人だ。五人とその相棒たる騎士竜。陣容は色鮮やかなものとなるのかもしれないが、たった五人プラスアルファが世界の大勢をひっくり返すことができようか。日々着々とドルイドンの影響下にある土地──ドルイドンはまともな統治などしないためこのような言い回しになるが、事実上の領土である──が増えていく、この世界の現実を。

 

 とはいえ、いちいちそんなことを喋って水を差すつもりはコタロウにはなかった。彼らとは自分の身を守るために同道しているのであって、都市や人間の集落に居場所が見つかりさえすれば彼らとはそれまでである。その後三人組がどのような末路を迎えようと、自分には関係のないこと。

 そんな子供らしからぬことを思料していると、不意に三人が足を止めた。いや、不意にと言うのは語弊がある。この辺りでいったん停止するのは、コタロウ自身の言から決まったことだ。

 

「この辺りなんだよな、人喰いミミズが出るのって?」

 

 振り向いたエイジロウの問いに、コタロウは黙って頷く。人喰いミミズの噂はあちこちで聞いたが、それらを総合してコタロウはその出現範囲の推測を立てていた。ワームマイナソーは比較的地面の柔らかい平地の草原に現れることが多い。今彼らが立っている場所の、すぐ目と鼻の先は鬱蒼と生い茂った森である。

 

「でも、ここまで歩き回ってきたのに全然襲ってこんねぇ」

 

 しゃがみ込み、つんつんと地面をつつくオチャコ。噂が本当なら、真っ先に飛びついてきてもおかしくないのだが。

 

「……考えられる可能性はふたつある。人喰いミミズに見かけによらない高い知性があって、俺たちをリュウソウジャーと看破して敬遠しているか……あるいは、あのクレオンというドルイドンの命令を受けているか」

「ペットっつってたもんな、あいつ……」

 

 難しい表情を浮かべ、腕組みして考え込むエイジロウ。容貌に違わず直情径行型の彼だが、決して頭の回転が鈍いわけではないし、考えることが嫌いなわけでもなかった。

 ややあって、彼は左の掌に右拳を叩きつけた。

 

「っし、わかった!──きっと、動きが足りねえんだ」

「ムッ、どういうことだ?」

 

 質すテンヤに対し、エイジロウは揚々と応じた。篝火に照らされた紅玉のような瞳が、ぎらぎらと光っている。

 

「ヤツは動くものに目をつけるんだろ?だったら動いて動いて動きまくれば、ガマンできなくなって飛び出してくるんじゃねーか?」

「なるほど!で、動きまくるって具体的にどーするの?」

 

 へへ、と尖った歯を見せて笑うエイジロウ。──その手が、腰の剣にかかった。

 

 

 そして、数分後。

 

 

「──うぉらあぁッ!!」

「むぅッ!」

 

 跳躍からの降下、そして刃を振り下ろすエイジロウ。その一撃を同じリュウソウケンで受け止めたテンヤは、力いっぱい彼を振り払った。

 

「ッ!」

 

 歯を食いしばりつつ、後退──そうしたエイジロウのもとに、今度は小さな影が駆け寄ってきた。

 

「とぉりゃぁッ!」

 

 オチャコだった。彼女が放つは、その可憐な容姿からは想像もつかない腕力のこもった斬撃。回避が間に合わないと判断したエイジロウはやむなくそれを受け止めにかかる。が、

 

「う、ぐぐ……っ」

 

 腕が軋み、食いしばった歯の奥から意図しない声が洩れる。立っていられず、片膝をつく。

 

「やっぱ、すげぇ腕力……っ。流石オチャコだぜ……!」

「複雑……!」

 

 そうして力比べをしているところに、再びテンヤが割り込み……乱戦。

 

 

「……なにはじめてるんですか、一体」

 

 呆気にとられたコタロウ少年がそう訊くのも、無理からぬことだった。

 喧嘩、仲間割れという雰囲気ではない。ニヤリと笑ったエイジロウがリュウソウケンを構えると、テンヤとオチャコも合点がいったという風に頷いた。そうして、言葉もないままこの剣戟が始まったのである。

 

「見りゃわかる、だろ……っ。稽古だ稽古!」

「互いに腕を磨きつつッ、人喰いミミズを、誘き寄せるッ!……これを、一石二鳥と言わずしてなんと言おうッ!!」

「はぁ……そうですか」

 

 リュウソウ族、ひょっとして結構な蛮族なのだろうか。失礼だと知りながら内心そんなことを思うコタロウである。もっともらしい理由を拵えているが、実際は斬り結びたいだけではないか。

 それにしても、よくもまあ連戦続きでそんな体力が残っているものだ──呆れながら眺めていること数分、

 

 

 地面が、揺れた。

 

 

「!!」

 

 すぐさま剣戟を中断し──続けていられる状況でもないが──、転ばぬよう身構える三人。程なくぼこり、ぼこりと地面が隆起していく。

 

 そして彼らの眼前に姿を現したのは、狙い通りのミミズ頭の群れだった。

 

「出た……!人喰いミミズ!」

「こうして見ると、やはりでかいな!」

 

 食欲を極限まで刺激されたワームマイナソーは、猛獣のごとく襲いかかってくる。だがこの怪物にはもう、何ひとつ喰わせない。

 

「やい人喰いミミズ!これがおめェの、最後の晩餐だ!」

「エイジロウくん、それでは俺たち食べられてしまうぞ!」

「大丈夫、味わうのは敗北!だぜ!」

「おー、えぇこと言う!」

 

 

「──いくぜッ、リュウソウチェンジ!!」

 

 さあ、人喰いミミズ退治だ。

 

 

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