地殻変動によりつくられた大峡谷を紆余曲折を経ながらも渡り、砂塵舞う西の大地にたどり着いたリュウソウジャー一行。この地で何かが始まり、何かが終わる──そんな予感を抱えながら、彼らは歩を進めていく……。
「──暑っちぃなぁ〜……」
エイジロウがそうぼやくこともう、数回目。全員(主にスリーナイツ組)の放った回数を合計すれば、両の手では溢れてしまうほどだった。
「南も暑かったが、なんというかここは……」
「日差しがギラギラしとるよね……」
遮るものもなく、容赦なく照りつける太陽。その光を浴びてきらきら輝く、宝石のような白い砂。この辺りはまだ時折南方で見られるような椰子の木が生育していたり、海が近いのが救いか。ここからさらに北上すると、そこにはひたすらに黄砂に覆われただけの無限砂漠が広がっているとはゲイル組?の言だった。
「チッ、あのきしめん、人里に降ろしゃあいいものを」
「きしめんて……。しょうがないだろ、ぎりぎりまでまけてもらったんだし、ピノだって本調子とはいえなかったんだから。まあムスタフの町はもうすぐ近くだし、辛坊だよ」
西の大地はこういう環境なだけあって、人里という人里はあまり多くはない。著名なのが南部にある海沿いのムスタフと、中央部のオアシス群を囲むロザリウ。そして北端の山脈を背にした、旧王都だ。
「ここは海があるからまだ良いが……」
胸元をぱたぱた扇ぎながら、口ごもるショート。確かに海のリュウソウ族である彼、そして相棒のモサレックスには厳しい環境になるかもしれない。ただ先のことに目を瞑れば、ここの海は今まで見てきたものよりずっと綺麗だ。蒼玉のように透き通っていて、魚たちの一挙一動がくっきりと見える。彼らと一緒になってここで泳いだら、本当に気持ちよさそうだと思った。
とはいえ、泳ぐならムスタフに着いてからだ。先行しているワイズルーとクレオンが、どんな悪さをしているかもわからない。町が無事であるという保証など、どこにもなかった。
(今度こそ、必ず……!)
奴らとの決着をつけ、村をもとに戻してみせる!意気込みながら、心なしか大股に一歩を進めたときだった。
「──うおッ!?」
転けた。白い砂浜に顔面からダイブ。まるで乳白色の海に溺れたかのような絵面である。
「なっ……エイジロウくん、大丈夫か!?」
「なんもねーとこでナニ転んでやがんだ、クソ髪」
「騎士引退かァ?」と嘲笑を浮かべるカツキ。こいつのこういうところはホント汚水のようだと青筋立てつつ、エイジロウは反論した。
「なんもなくねえッ、何かに躓いたんだよ!」
「でもこの辺、特に何も──キャアアアア!!?」
「!」
にわかにオチャコが悲鳴をあげたことで、皆、瞬間的に臨戦態勢をとった。人のそういった尋常でない声音には、職業?柄敏感な彼らは、しかし戦闘を伴う非常事態において彼女が自分たち以上に勇敢であることを忘れていた。
「手が!手がぁ!!」
「手?──!」
オチャコの指差す先を見て、一同ぎょっとした。白い砂がわずかに捲りあげられ、その中から覗いているもの──確かに手だった。人間の。
「し、死体……!?」
「桜の木の下には死体が埋まっていると言いますが、こんな砂浜に……」
「冷静だなコタロウくん!?」
そのときだった。細く筋張った指先が、ぴくりと動いたのは。
──生きている、あるいは。そう悟った彼らの行動は素早かった。砂を掘り返し、手の持ち主の身体を露にしていく。果たして彼は俯せになり、白い外套ですっぽりと身を包んでいる。フードを目深に被っているせいで顔も見えない。"彼"と形容したのは、女性にしてはかなり上背があったからだ。
「大丈夫っスか!?」
「しっかりして!」
「我々の声は聞こえていますでしょうか!!?」
見たところ外傷はないが、急病の可能性もある。呼びかけつつ、男を仰向けにひっくり返す。
刹那、イズクとカツキの表情が変わった。
「あ──」
「こいつ……」
「……まさかまた知り合いなのか?」
質すショートを睨みつけるカツキ。彼のぶんまで、イズクがはっきりと頷いた。
「……うん。彼は昔──」
そのときだった。青年──エイジロウたちと同年代か若干上に見えた──が身じろぎするとともに、「みず……」とつぶやいたのは。
「!」
彼を抱きかかえるエイジロウがすぐに反応し、瓶を口につけてやる。飲料水が舌を伝っていくたびに、彼はごくごくと喉を鳴らしてそれらを飲み下していった。
「行き倒れていたようだな……」
「で、結局どういう知り合いなん?」
「あ……えっと──」
イズクの説明はまたしても水入りとなった。青年がぱちりと目を開けたのだ。茫洋としたその瞳が、ぐるりと一同を見渡す。
「おっ、良かった、目が覚め──」
覚めたな、と言い切らないうちに、エイジロウは突き飛ばされていた。
「な……!ちょ、何すんだよ!?」
「ま、」
「ま?」
「眩しすぎる、きみ……!」
「……ハァ?」
「うわあぁぁ……」と呻きながら、青年は顔を押さえて自ら視界を封じている。なんなんだ、この人?突き飛ばされたことはひとまず置いておくにしても、出会ったことのないタイプの人種にエイジロウたちは困惑していた。
「あ、ははは……相変わらずですね」
「!、その声……イズク?」
「声?あんた、目ぇ見えてないのか?」
率直に訊くショートだったが、それが事実だとするなら"眩しい"という言葉とは矛盾していた。
「そうじゃねえ。こいつの悪ィ癖だ」
「か、カツキもいるの……か?」
「ずっといたわ、クソ陰キャが」
「……さっきから、一体どういうことなんですか?わけわかんなくて正直怖いです、この人」
コタロウの言葉に、カツキはこめかみを押さえながら応じた。尤もその答は、彼自身頭が痛くなるようなものだったが。
「自己暗示をかけてンだよ、コイツ。他人がジャガイモに見えるようにな」
「じゃがいもおぉ??」
熱い白砂とは裏腹に、場の空気は冷えていくばかりだった。
「……先ほどはす、すまなかった。そこの赤毛の子を筆頭に、きみらがあまりにキラキラしていたものだから、つい」
「は、はぁ……」
いまいち釈然としない謝罪が発せられる。いちおう町への行軍を再開した一同だったが、その当惑はむしろ深まる一方だった。
「え、えっと、紹介するね……ようやくだけど。彼はタマキさんって言って、昔、僕らと一緒に修行していた騎士なんだ」
「!、ってことは、リュウソウ族の……」
「驚いたな。ロディくんに続いて、またリュウソウ族……それも同じ騎士に相まみえるとは!」
「よろしくお願いします、先輩!」と礼儀正しく一礼するテンヤ。それに対するタマキ青年の応答は、蚊の鳴くような「……よ、よろしく」のひと言のみだった。しかも、目を逸らしたまま。
「さっきから目ぇ合わへんなぁ、この人……」
「ま、まぁしゃーねえよ!それよかタマキセンパイも、ドルイドンと戦ってるんスか?」
「!、いや、その、俺は……」
「──ンなわけねーだろ。リュウソウジャーに選ばれなかったからって早々に集落出てったんだぞ、こいつ
「ッ!」
俯くばかりだったタマキが、初めてカツキを睨みつけた。もとより鋭い顔立ちをしていることも手伝い、そうしているとなかなかに迫力がある。
「お、俺のことはいい……。でも、ミリオを悪く言うな……っ!」
「………」
「!、そ、そうだ。ミリオ先輩は?一緒じゃないんですか?」
また新しい名前──しかし双方の口ぶりから、どういう存在かは窺える。タマキの盟友、少なくとも同輩で、イズクたちの知る限りではともに行動していたのだろう。
しかしその問いをぶつけられた瞬間、タマキの表情はこれまでで最も陰鬱なものになった。
「ミリオは……死んだ」
「えっ……」
「!」
苦い記憶であることなど、言うまでもない。沈黙するタマキを前に、一同言葉もなかった。
ややあって、
「……救けてくれたことには、礼を言う。有難う。じゃあ、俺はこれで……」
「え、ちょっ──」
踵を返し、一行とは反対方向に去っていこうとするタマキ。どこが目的地なのかはまだ聞き出せていないが、いずれにせよ体調も万全でないのだから、いったん町で休むべきではないか。
そう訴えかけようとして、腕を掴もうとするエイジロウ。しかし手が身体に触れるより寸分早く、タマキは弾かれたように振り返った。
「うおっ!?」
「悲鳴……!」
「へ?」
「町の方からだ」
独りでそんなことをつぶやくと、今度は町の方角へ向かって走り出す。何がなんだかわからないエイジロウたちだったが、"悲鳴""町の方から"というダブルワードによっていちおうの解は導き出せた。
「ッ、とにかく行くぞてめェら!!」
「お、おう!」
見かけによらない脚力をもつタマキに追いつくべく、一行も走り出した。
*
ムスタフの町。西海に面し、かつては海の向こうの諸外国との貿易で栄えたこの港町は、ドルイドンの跋扈によって貿易船の往来が激減。今となっては、地場産業である漁業と牧畜を中心に生活する田舎町に戻りつつある。
とはいえこれまでリュウソウジャー一行が訪れた都市や村落に比べれば、長らく平穏を享受していたことも確かだった。ドルイドンが特に活発に活動している旧王国北部からは遠く、南部とも峡谷によって隔てられている──過日の地殻変動によりさらに顕著となった──。そして、どこまでも続く砂地と豊富な海産物資源を除いては何もないような場所である。海外に出ていこうというドルイドンがほとんどいない中、戦略的価値も薄い。
しかしそういう事実とは別に、とかく暴れたいというか、己の存在を知らしめたいというどうしようもないヤツもいるのである。そう、ここに。
「イッツ・ショータァァイム!!」
「Fooo〜!」
青い痩身のドルイドン・ワイズルー。きらびやかなステージの上で声を張り上げる彼のその傍らで、クレオンとドルン兵たちがさかんに声援を送っている。
記しておくとこのステージ、彼らの設置したものではない。たまたまこの町を訪れていた旅の一座がショーを始めようとしていたところに彼らが現れ、座員や聴衆を拘束して乗っ取ったのだ。
「それではではデハ、この場にお集まりのレディース&ジェントルメ〜ンに、わたくしワイズルーによるスペシャルショーをご覧に入れまショータァ〜イム!」
「ショータァ〜イム!おらお前ら、声が小せぇぞぉ!?」
クレオンが恫喝するが、それで人々が盛り上がるわけもない。彼らの表情は総じて恐怖に引き攣っている。今の自分たちがまな板の上の魚そのものなのだと、理解していないものはこの場にはいなかった。
「……あーあ、ダメみたいっすよワイズルーさま。全然盛り上がんねーっす!」
「う〜ん、最高オブ最高!」
「あ、自分の世界に入ってら……」
久々にスポットライトを浴びたことでワイズルーは独りエキサイトしていた。聴衆が盛り上がるかどうかは二の次、人々が怯えようがパートナーに冷たい目で睨まれようが、そんなのは彼の知ったことではないのだった。
「──いい加減にしてっ!」
「!」
それに水を差すような少女の声に、ワイズルーはぱっと振り向いた。ドルン兵に抑えられながら、ピンク色の肌の少女が鋭く睨みつけてくる。
「ここはあたしたちのステージだよ!みんなだって、あたしたちのショーが見たくて集まってきてくれたのに……!」
「ミナ、よせ!」
仲間の制止にも、ミナと呼ばれた少女は耳を貸さない。ステージを返せという彼女の要求は、当然ながらワイズルーにはまったく響かなかった。
「Oh、これはまた勇ましいお嬢さんだこと。さぞかし良いマイナソーが生まれそうだぁ……」
「!」
その言葉を実質的な指示として受け取ったクレオンは、揚々と少女のもとに歩み寄った。
「そんなショーがやりたいなら、おまえを主役にしてやるってよぉ!」
「な、何、やめて──」
「ミナっ!!」
一座の面々の制止もむなしく、クレオンの体液が少女の体内に流し込まれ──
刹那、人々を拘束しているドルン兵たちが、疾走する影によって斬り捨てられた。
「ドルゥ!?」
「………」
なんだ、何事だ?状況を即座には把握できず困惑する兵たちは、次々に無残な骸になっていく。解放された人々も暫く呆けていたが、
「……早く、逃げて」
「!!」
年若い剣士の言葉に我に返り、慌てて逃げ去っていった。
「ドルン兵を一刀のもとに斬り捨てるとは……なかなかやるな貴様!名をヒアリングしようか!?」
「………」
「えっ、なんで無視するの……?」
相手方の反応のなさに、素で困惑するワイズルー。しかも目も合わせてもらえないとなれば、とにかく注目を集めたい性質の彼にはなかなか辛いものがあった。
と、幸か不幸か、そこに馴染みの宿敵たちが追いついてきた。
「タマキセンパイ!──あ、ワイズルー……!」
「ムッ、リュウソウジャー……!来てくれて良かっ……じゃなかった、お久しぶりでショータァイム!」
「た、確かに久しぶりかも……」
直接相まみえたのはオウスの街に入った直後以来であるから、そういえばそうである。無論、交戦中の相手ということでずっと意識はしていたが。
「フム……ということはそちらのミステリアスガイ、新しいお仲間かな?」
「そんなんじゃねえわ」
「いやそんなんだろ!……たぶん」
断言するには、タマキの距離のとり方が過激すぎて珍しく自信をもてないエイジロウであった。
閑話休題。
「ヘッヘッヘ、一歩遅かったなリュウソウジャー!」
「!、クレオン……!」
「たった今、マイナソーができちまったのです!──行けっ、セルケトマイナソー!」
クレオンの背後から、サソリに似た怪物がゆらりと飛び出してくる。その足下には、苦しそうにうめきながら倒れ伏すピンク色の少女の姿。
「生まれたてなら、とっとと倒すまでだ!──いくぜっ!!」
「「「「「「リュウソウチェンジ!!」」」」」」
『ケ・ボーン!』
『ワッセイ!ワッセイ!そう!そう!そう!』『ドンガラハッハ!ノッサモッサ!』
『ワッセイ!ワッセイ!それそれそれそれ!!』『エッサホイサ!モッサッサッサ!!』
『──リュウ SO COOL!!』
六人の身体が色鮮やかなリュウソウメイルに覆われる。赤、青、桃、緑、黒──そして黄金。
「っし……!──センパイ、あとは俺らに任せて!」
「……わかってる。俺、リュウソウジャーじゃないから……」
「え、あっ、えぇ〜……?」
落ち込ませてしまった、らしい。戸惑うレッドだったが、事ここに至っては彼にかかずらっているわけにもいかない。
「放っとけ!!」
ブラックの容赦ない台詞と同時に、彼らは一斉にステージへと跳び上がった。
「お相手してあげまショータイム!」
「オレはしてあげねえ!ドルン兵〜!」
「ドルドルッ!」
ワイズルーとドルン兵、そしてセルケトマイナソーが迎撃のために前進してくる。一方のリュウソウジャーは皆、言葉にするまでもなく、自然と役割を分け合うことができている。ドルン兵を掃討する者、ワイズルーを抑える者──
「──ショート、援護してくれ!」
「ああ」
レッドとゴールドのふたりが、マイナソーに仕掛ける。ゴールドがモサチェンジャーの弾丸で牽制し、その隙を突いて懐に潜り込む。
「うおりゃあッ!」
力いっぱいリュウソウケンを叩きつける。しかし、
「ッ!?」
──弾かれた。腕がびりびり痺れるのを感じながら、レッドは一歩後退する。
「こいつ、硬ぇ……!」
「サソリは硬い甲殻を持っていると聞いたことがある!そいつもその特徴を有しているんだ!」
ワイズルーと斬り結びながら、ブルーが声を張り上げる。流石の知識だが、もっと早くに教えてほしかった。
まあ、良い。それがわかれば、手立てはある。
「──カタソウル!」
『リュウ!ソウ!そう!そう!──この感じィ!!』
『カタソウル!ガッチーン!!』
リュウソウレッドの右腕に、水晶のような硬質の鎧が装着される。それと同時に、彼は再び前進した。
「これなら、どうだぁッ!!」
もう一度リュウソウケンを振り下ろす。外装こそ変わっていないが、カタソウルのエネルギーによってその刃の硬度は大きく上昇している。
「グアァッ!?」
結果、セルケトマイナソーは甲殻を大きく切り裂かれ、よろよろと後退した。
「よっしゃ、いける!」
このまま一気に──攻勢に乗ろうとしたレッドだったが、マイナソーは見かけによらず知能犯だった。
近くに倒れていた少女を掴み上げると、そのまま自分の前に突き出したのだ。
「な……っ!?」
予想だにしない敵の行動に、レッドもゴールドも攻撃の手を止めるほかない。一方で、クレオンはぱちぱちと両手を叩いていた。
「おぉっ、やるじゃんマイナソー!……そんならオマエの本領、そいつに味わわせてやれ!」
「………」
「……ユウキィ」
セルケトマイナソーの腰に隠されていた尾が、飛び出してきた。
「な──」
「ショート、危ねえっ!」
狙われたゴールドを庇い、割って入るレッド。刹那その胸に、鋭く尖った尻尾の先端が突き刺さった。
「うっ」
「エイジロウ!?」
ずるりと何か重たいモノを引き出すように、尻尾が抜けていく。レッドの身体ががくんと脱力し、ゴールドに凭れかかってきた。
「エイジロウっ!しっかりしろ、エイジロウ!」
「………」
ぴくりと、身じろぎが返ってくる。良かった──そう安堵したのもつかの間、
「──触んなッ!!」
「!?」
唐突の剣幕とともに突き飛ばされ、なんの警戒もしていなかったゴールドは尻餅をついた。
「な……エイジロウ……?」
「……ッ、」
ずり、とリュウソウケンを引きずる。ステージの床が傷つくのも構わず。よく見ればその手は、ぶるぶる震えているようだった。
そんなものは、序の口にすぎなかった。
「──うぉおあぁぁぁあッ!!」
悲鳴に近い雄叫びをあげたかと思うと、リュウソウケンを振り上げたのだ。人質を抱えたままの、マイナソーめがけて。
「ッ!?」
咄嗟にハヤソウルを使用したグリーンが、間に割り込む。硬化した剣は重量も増しており、受け止めた同じくリュウソウケンからずしりと重みが伝わってきた。
「〜〜ッ、何、やってんだ……っ!」
「……うるせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇっ!!」
ヒステリックな声をあげてそのまま飛び退くと、レッドはよりにもよってメラメラソウルを手にした。──本気か!?皆が驚愕する中で、彼は強竜装を遂げてしまった。
「ッ、まずい!」
皆が制止に動こうとするのもむなしく、レッドは剣を振るった。凄まじい劫火が巻き起こり、周囲のものを無差別に巻き込んでゆく。敵も味方もあったものではない。
「仲間割れ!?それにしても……怖っ!」
「いやアレやべぇっすよワイズルーさま!いったん退きません?」
「ウ〜ム、オーディエンスもいなくなってしまったしな……。そうしよう☆」
暴れ狂う紅蓮に乗じて逃げ出すワイズルーとクレオン。そしてセルケトマイナソーも、宿主の少女を人質としたままそれに追随する。
「ッ、待──」
追おうとする一同だが、レッドの暴走は止まらない。放たれる炎のために、彼らの挙動は著しく制限されていた。
「ンの……クソボケがぁぁッ!!」
──BOOOOM!!
一瞬の隙を突いて放たれた爆炎が、レッドの身体を吹っ飛ばした。
「う、うぅぅ……っ」
「どういうつもりか知らねえが、てめェ覚悟はできてんだろうなァ……?」
地の底を這うような声を発するブラック。兜に隠れて見えないが、その表情は悪鬼羅刹そのもので。
しかしレッドの竜装が解けた途端、彼はぎょっとした。いや彼だけではない、すべての面々が。
ガチガチに固めて逆立てた髪が、水浴びをしたときのように完全に垂れ下がっている。それだけならいざ知らず──リュウソウレッドの称号にふさわしい真紅が、墨に浸けたような漆黒に染まってしまっている。
「エイジロウくん、それ──」
「ッ!」
隠しようのない怯懦を顔に張りつけたエイジロウは、慌てて立ち上がると脱兎のごとくその場から逃げ出した。
「エイジロウ!!」
「エイジロウくん!?」
追おうとするリュウソウジャーだったが、この場にはまだワイズルーたちの被害者がいる。彼らを放っておくわけには、いかなかった。