【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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あけましておめでとうございます
今年最初の初投稿です




29.うなれ鉄拳 2/3

 

 元々は陸地の繋がっている岬だったためか、その孤島にはムスタフ周辺の砂丘とほぼ変わらぬ光景が広がっていた。

 

「匂うティラ……パイセンのニオイ!」

「ぱ、パイセン?」

「誰だ、ティラミーゴにンな言葉教えたの?」

 

 エイジロウはオチャコあたりが怪しいと踏んだのだが、彼女は全面的に否認していて。

 ともあれティラミーゴの嗅覚に従って砂丘を進み、洞窟を通り抜け、さらにもう半刻かけて切り立った崖に囲まれた広場のような場所にたどり着いた。

 

「ここティラ!」

「……そうなん、タマキセンパイ?」

「……いや、ごめん、俺も具体的な場所までは……」

 

 タマキがぼそぼそと答える間にも、ティラミーゴはずんずんと崖際に近づいていく。そして、

 

「オラァ、ティラァ!!」

 

 威勢の良い掛け声とともに、尻尾を一閃!ボロボロと巌が崩れていく。そんなことを何度か繰り返していくと、他とは明らかに異なるつるりとした球体が、岩の中から姿を現した。

 

「見つけた、ティラァ!!」

「!、あれが……」

 

 騎士竜パキガルーの、少なくともその頭部。ただ瞼は閉じられていて、彼は眠りの中にいるようだった。

 

「パイセン!パキガルーパイセン、起きるティラ!!」

「…………」

「パイセ〜〜ン!!」

 

 パキガルーの瞼が開き、碧眼が露になる。ウゥ、という唸り声を皮切りに、彼はティラミーゴに対して何かを訴えているようだった。

 

「なるほどなるほど、わかったティラ!そこにいるリュウソウジャーにも相談してみるティラ!」

「ティラミーゴ、パキガルーはなんて?」

 

 振り向いたティラミーゴが、こちらを見下ろして言う。

 

「パキガルーパイセンには、チビガルーっていう子供がいるティラ!」

「こ、子供?」

 

 騎士竜にも血縁者がいるのか、などと驚いてしまうエイジロウたちである。騎士竜たちはみな唯一無二の姿をしていて、元となった恐竜の種も異なるのだ。ただ、パキガルーはその例外にあたるらしかった。

 

「ただの子供じゃないティラ、パキガルーパイセンとチビガルーはふたりでひとりの騎士竜、チビガルーがいないとパイセンは身動きがとれないティラ!」

「そうなのか……。それで、そのチビガルーはどこに?」

「迷子らしいティラ!だからワガハイたちに探してきてほしいと、パイセンはそう言ってるティラ〜!」

 

 皆、顔を見合わせた。無論パキガルーの頼みは聞いてやりたいが、チビガルーの居場所に心当たりはあるのか。ない、あるいは遠方だと言われたら、これはもう途方も無い話である。

 その点については、身内にも厳格なディメボルケーノがきっちり問い質してくれた。──それに対する回答は、この島のどこかであることは間違いないというもので。

 

「なら、地道に探すしかねえか……」

「とはいえワイズルーたちが接近している今、戦力を分散させるのは危険だ。パキガルーもこの状態である以上、護衛も必要になるだろうし……」

「なら、僕とかっちゃんでここに待機するよ。きみたちはタマキ先輩と一緒に、チビガルーを探しに行くといい」

 

 イズクの提案はそのまま了承された。彼らといったん別れ、エイジロウたちはUターンして歩き出す。とはいえやみくもに探していては日が暮れてしまうので、再びティラミーゴの嗅覚が頼みになった。

 

「チビガルーの匂い、感じ取れそうか?」

「ウ〜ン……まだなんとなく、ティラ」

「そうなんや……結構離れたところにいっちゃったんかなぁ、チビガルー」

「ごめんティラァ……」

「きみが謝ることはないさ!だいたいの方向がわかるだけでも十分だ。それに、距離が縮まれば匂いも強まってくるだろう」

「だな!この調子でパキガルー仲間にして、ワイズルーたちもぎゃふんと言わせてやるぜ!」

 

 朗らかな笑みを向け合うスリーナイツ。一歩後れて歩きながら、ショートもまた彼らの姿に微笑を浮かべている。──と、不意にもうひとつ背後から視線を感じた。

 

「……どうかしたんですか、タマキ先輩?」

「!、いや……別に……なんというか、」

「?」

「……ショートくん、だったっけ。騎士竜モサレックスの相棒ってことは、きみ、海のリュウソウ族……なんだろう?」

「ええ」

 

 それがどうして、かつて対立の歴史がある陸のリュウソウ族とともに旅をしているのか。タマキの疑問は、事情を知らないリュウソウ族のひとりとしては妥当なものだった。

 対するショートの答は、明快なものだった。

 

「あいつらのひたむきさに、救われちまったから。あいつらと一緒に、もっと広い世界を見たい──その先に俺たち海のリュウソウ族の未来があるって、今はそう思えるんです」

 

 過去に囚われ、深い水底に沈みゆくばかりだった海のリュウソウ族の──明るい未来が。

 

「明るい未来、か……。ミリオもよく言ってたよ、そんなこと」

 

 実際、彼にはその意志も力もあった。困っている人、苦しんでいる人に手を差し伸べ、いつの間にかそういう人たちを笑顔に変えてしまう。自分はいつだって、その助けになれたかどうか、という程度のものだった。

 

「ホントに好きなんスね、ミリオセンパイのこと!」

 

 いつの間にか聞き耳を立てていたエイジロウが、話に入ってくる。

 

「す、好き?」

「あぁいや、ヘンな意味じゃなくて!センパイにとって、そんだけ大事な人だったんだなぁって」

「…………」

「俺ら、もちろん代わりになんてなれねぇっスけど……ミリオセンパイに負けねえように頑張りますんで!これからも色々教えてください、タマキセンパイ!」

 

 表情の硬いタマキに対しても、朗らかに笑いかけてくる。振り向きざまのその顔がミリオと重なって、タマキは思わず目を見開いていた。

 

「……エイジロウくん、きみは──」

「──匂うティラア!!」

 

 不意にティラミーゴが大声をあげる。皆の意識は自ずとそちらに集中した。

 

「こっちティラ!急ぐティラ!!」

「あ、ちょっ……待てよティラミーゴ!」

 

 猛烈な勢いで走り出すティラミーゴ。そんな彼をどうにか見失わないよう追いすがっていると、ややあってたどり着いたのはなんの変哲もない砂丘の片隅で。

 

「……ここ?」

「それらしいものは何も見受けられないが……」

「間違いないティラ、ちょっと待つティラ!」

 

 くんくんと地面を嗅ぎまわるティラミーゴを、呆気にとられながらも見守るしかない五人。ややあって、急にティラミーゴが飛び跳ねだした。

 

「ここ掘れティラ、ティラ!!」

「ほ、掘るのか?」

「早くするティラ!」

 

 有言実行とばかり、ティラミーゴは尻尾を振るって砂を排除している。やむなく五人も、共同作業という形で地道に手伝うことにした。柔らかい砂を掻き出し掻き出し、そんなことをひたすら続けても出てくるのは変わらない白砂ばかりである。本当にここで合ってるのか、と問い質そうとしたときだった。コツンと、指先に硬いものが当たったのは。

 

「!」

 

 触感だけではなんともわからない。しかしティラミーゴが言う以上チビガルーの安否にかかわりがあるのだろうと思い直し、採掘を再開する。

 と、そこから現れたのは古びた井戸だった。自然の岩石でできたそれは年季を感じさせないが、人里からは遠く離れた場所になぜ?

 

「……昔、大陸と繋がってた頃、この辺りには少数のリュウソウ族たちが住み着いていた。その、名残だ」

「なるほど……。しかし、深いな……」

 

 覗き込んだテンヤがつぶやく。ティラミーゴ曰く、この底からチビガルーの匂いがするという。

 

「っし、じゃあ早速──」

 

 古井戸に飛び込もうとするエイジロウ。いつも通りのことだったが、何故かタマキは目を見開いていた。

 

「どうかしました?」

「!、……いや、やっぱりきみもそういうタイプかと思って」

 

 タマキが思い浮かべているのはミリオか、それともタイシロウか。あるいはその両方なのかもしれない。

 

「ま、俺は"勇猛の騎士"っスから!」

 

 にかりと笑って、エイジロウは皆に向かって親指を立てた。そして躊躇なく、井戸の中に飛び降りていく。ぽっかりと開いた漆黒の闇が、魔物の口のように彼の身体を呑み込んでいく。その果てには深淵に叩きつけられ、彼は肉塊となり果てるだろう──普通なら。

 

「ヤワラカソウル!!」

『スルッスルッ!』

 

 岩肌そのままの底が柔らかく弾み、エイジロウを迎える。先日の断崖ほどの高さではないので、彼はそのまますんなりと着地することができた。

 

「ふぅ……。さぁて、チビガルーは──」

「──だれ?」

 

 幼い少年のような声音。はっと振り向いた先にあったのは人間ではなく、パキガルーをそのまま小さくしたような愛らしくも勇ましい竜の姿だった。

 

「おめェが……チビガルー?」

「アァン〜?」

 

 見た目と声に反して、態度が悪い。苦笑をこらえつつ、エイジロウは自己紹介をした。

 

「へぇ〜……」

 

 とてとてと近づいてくるチビガルー。可愛らしいが、思ったより大きい。子供と言ってもやはり騎士竜だしなぁなんて呑気に構えていると、彼はいきなり拳を突き出してきた。

 

「うおッ!?」

「ていっ!てりゃ!」

「ちょっ、やめ……何すんだよ!?」

 

 慌てながらもすべて受け流すエイジロウを認めて、チビガルーはふぅんと鼻を鳴らした。

 

「へぇ、やるじゃん。リュウソウ族ってのはホントみたいだな〜」

「お、おう……って、こんなことしてる場合じゃねえんだ。パキガルーがおめェのこと探してる」

「父ちゃん!?会いたい、父ちゃん!」

 

 チビガルーの声が一瞬弾むが、その気分はすぐに下降してしまった。

 

「……でも、ここからは出られないよ……」

「大丈夫、任せとけ!」

 

 言うが早いか、エイジロウはチーサソウルを取り出した。この古井戸を見つけ出した直後に、チビガルーを掬い上げる方法は考えついていた。

 

 

「エイジロウくん、無事チビガルーと接触できたようだな……」

「あとはパキガルーのとこに連れてくだけ、やね!」

「…………」

 

 エイジロウが登り上がってくるまでは見守っているだけか。手持ち無沙汰だが、仕方がない。

 しかしそう順風満帆にはいかなかった。

 

『──ショート、聞こえるか?』

「!」

 

 モサレックスからのテレパシー。その声が緊迫を孕んでいるように聞こえて、ショートは表情を引き締めた。

 

(どうした?)

『ワイズルーたちが島に侵入したようだ。すまない、水際で捕捉しようと警戒していたんだが、すり抜けられてしまった』

 

 まあ、向こうもモサレックスの存在くらいは織り込み済みだろう。やむをえない。モサレックスに労いを伝えてから、ショートは改めて仲間たちに声をかけた。

 

「どうしたん、ショートくん?」

「ワイズルーたちが迫ってるらしい。モサレックスから連絡があった」

「!、ならば警戒を厳にしなければな……。──タマキ先輩、いざというときはエイジロウくんとチビガルーの護衛をお願いしてもよろしいでしょうか!?」

「え、あぁ……俺に護衛が務まるかは、わかんないけど……」

 

 タマキの自信のなさは、この際黙殺するほかない。確かに迫る異形の気配を感じながら、彼らは剣柄に手をかけた。

 

 

 *

 

 

 

 一方、イズクとカツキはパキガルーの様子を見守っていた。とはいえ彼は至って静かなもので、岩肌の中でおとなしくしている。チビガルーが来ない限り、封印が完全には解けないのだから当然かもしれないが。

 

「エイジロウくんたち、チビガルーは見つかったかな……」

「知るかよ。まァティラミーゴがいンだから、なんとかなってんじゃねーの」

「それもそうだね」

 

 彼らのことはあまり心配していない。しかし戦いの気配は確実に近づいているという予感があった。

 

「……かっちゃん。次の戦い、あいつはまた現れると思う?」

「……ガイソーグか」

「うん」

 

 昨日の戦闘でも、突如として現れた謎の鎧騎士──彼あるいは彼女のためにふたりの間でも色々あったわけだが、そのことを蒸し返すつもりはない。

 

「結局あいつは、何が目的なんだろう……。ワイズルーたちに与してるにしては動き方が不規則すぎるし、ワイズルーたちもあてにしてる感じではないし……それに、僕らに対して助言めいた言葉を残したこともあった……。そういえば昨日、突然頭を押さえて苦しみだして、兜が消えかかって……誰かが装着してるんだとしたら、やっぱり──」

 

 ブツブツブツブツ。基本的にこのナードくんは、沈思黙考というのができない。全部声に出てしまうというのはとんでもない弱点だが、それゆえ隠しごとができないという美点の裏返しともなっていた。

 

「……アレは、マスターじゃねえ」

「えっ」

 

 思索を遮る幼なじみの言葉に、イズクは目を見開いた。

 

「……どうして?」

「根拠はねえ、現状は」

 

 ただのカンと言いきるのも微妙な肌合いの違いというか、違和感だった。ただカツキはその尖った神経ゆえに物事を鋭く見抜くことが多くて、その感触は決して侮れない。

 

「なら……今度こそ、あの兜を剥ぎ取らないとね」

「……おー」

 

 それさえ為せれば、そこからどう動くべきかも見えてくる。カツキの懊悩の一部を解決することもできるだろう。衝突することがあれど、イズクはいつだって彼のためになりたかった。

 そんな幼なじみを前にえも言われぬような表情を浮かべるカツキだったが、不意にその眉間に皺が寄った。

 

「……その前に、まずはてめェを片付けなきゃなァ?──クソ道化師」

「ンン?それは私のことか〜い?」

 

 堂々と姿を現したのは、群青の道化師──

 

「!、ワイズルー……!」

「フッフッフ。騎士竜がいるというのは、真実だったようだ☆NA!」

 

 やはり、来たか。しかしクレオンやマイナソーの姿が見えない。連れてこなかったのか、エイジロウたちのほうへ行っているのか。前者だとすれば計算違いとしか言いようがないのだが、とにかく今は目の前の敵に対処するしかない。

 

「行くぞデクゥ!!」

「うん!」

 

──リュウソウチェンジ!!

 

 ふたりの少年が、風を纏う騎士へと姿を変えた。

 

 

 *

 

 

 

『カルソウル!フワフワ〜!』

 

 エイジロウの身体が紙のように軽くなり、地面から浮かび上がる。それには飽き足らず、彼は岩肌を伝ってひょいひょいと上へ登りはじめた。

 

「おお、やるじゃんおまえ〜」

 

 懐から顔を出したチビガルーが感心したように言う。まあリュウソウルのおかげなのだがと内心苦笑しつつ、エイジロウは「サンキュー」と返した。

 

「でもチビガルー、なんでこんなとこに落ちちまったんだ?」

「え?えっと、それはぁ──」

 

 チビガルーが言いよどんだときだった。

 

「──うわっ!?」

 

 突然震動が襲ってくる。カルソウルの効果で手を放しても問題はなかったが、エイジロウは反射的に岩肌にしがみついた。

 

「な、なんだよぉ!?」

「!、連中か……!」

 

 頭上を見遣るエイジロウ。そこからは陽光が射し込んでくるだけだ。しかし、何が起こっているかは明らかだった。

 

 

「──やっちまえぇ、お前らぁ!!」

 

 クレオンの濁った声援に合わせて、異形の騎兵が襲いくる。それらを迎え撃つ、竜の鎧を纏った騎士たち。

 

「はっ!」

「とりゃ!」

 

 数的不利は否めないリュウソウジャーたちだったが、相手がドルン兵であればそれはあってないようなものだ。リュウソウルを使用するまでもなく、一撃で敵の長槍を叩き折り、胴体を薙ぎ払う。あるいはリュウソウゴールドは、モサチェンジャーとモサブレードを使い分けて遠近両用で対応していた。

 

「……皆、凄いな……」

 

 思わず感心の言葉を吐くのは、唯一リュウソウジャーでないタマキである。しかしだからといって、彼が戦力にならないこととイコールではない。リュウソウ族の腕力に応えるよう打ち直した長剣で、古井戸に接近する敵を次々と斬り払う。護衛という役割を心得てそれ以上出しゃばることはなかったが、だからこそ手堅い戦いぶりだった。

 

「流石は先輩だ……!」

「私たちも負けてられへん、ねっ!」

 

 リュウソウジャー……騎士竜に相棒として認められた者として。

 しかし敵は、ドルン兵だけではなかった。

 

「フン……ドルン兵片付けたくらいでなぁ、調子に乗んなよぉ!!」

 

 クレオンの負け惜しみじみたシャウトと裏腹に、タマキの足下近くの白砂がぼこりと盛り上がる。

 

「──ユウキィ!!」

「!」

 

 飛び出してきたのは、蠍に似た怪物──セルケトマイナソー。タマキが咄嗟に剣を振るうが、

 

「ッ!?」

 

 弾かれた。反撃とばかりに太い腕が飛んできて、タマキはかわしきれずに吹っ飛ばされる。

 

「タマキ先輩!──ッ、ハヤソウル!!」

『ビューーーン!!』

 

 一迅、割って入り、目にも止まらぬ斬撃を繰り出すブルー。果たしてセルケトマイナソーはさほどスピードがあるわけではないので、簡単に命中をとることができた。

 しかし、そこまでだった。リュウソウケンによる速度の乗った刃ですら、その硬い甲殻を前に簡単に弾き返されてしまったのだ。

 

「ッ、なんという硬さだ……!」

 

 わかってはいたことだけれど。このマイナソーは昨日、途中でガイソーグの乱入があったとはいえコズミックディーノスラッシュをかろうじて耐え抜いたのだ。

 

「ならこいつはどうだ、サンダーショット!!」

「オモソウル!どりゃああっ」

 

 ゴールドの電光弾、ピンクの鉄球が同時に放たれる。

 

「ギュワアァ!!?」

 

 彼らの連携は効果を発揮した。うめき声とともに砂礫を転がるセルケトマイナソー。しかし一方で、それが彼あるいは彼女を激昂させた。

 

「ユウキィィィ──ッ!!」

 

 絶叫に近い声をあげたマイナソーは、地面にその大きな手を突き立てた。

 刹那襲い来たのは、ひときわ激しい震動だった。

 

「ッ!?」

 

 立っているのもやっとの揺れに、剣を地面に突き立てて耐えるしかない一同。それでも彼らはそういうことができるだけマシだった。

 

「これじゃ、エイジロウくんが──!」

 

 ピンク──オチャコの懸念は、的中していた。

 

「ぐ、ううっ!?」

 

 カルソウルの効果は持続しているから、揺れに耐えるだけならばそう難しいことではなかった。しかしこの古井戸の中は、長年放置されたために岩肌に海水が染み込み、構造的に脆くなっていた。

 ゆえにセルケトマイナソーの与えた衝撃により──それらは、容易く崩壊する。

 

「──ッ!?」

 

 降りそそぐ大小の巌。咄嗟に身体を浮かせて避けるエイジロウだったが、その数があまりに多かった。

 

「ぐあああッ!?」

 

 岩のひとつが身体を直撃し、巻き込まれる形で墜落する。その勢いに押される形で、カルソウルも意味をなさない。このままでは、奈落に叩きつけられる──!

 あわやというところで、エイジロウは踏みとどまった。自然にではない、途中でリュウソウケンを岩肌に突き刺し、そこにぶら下がったのだ。

 

「ッ、はぁ……っぶねぇ」

「あぶねぇってか、まだ大ピンチじゃん!」

 

 懐で騒ぐチビガルー。それはまったくその通りだが、ここでとどまれたことは能動的にも受動的にもチャンスになる。

 まず、前者。

 

「チビガルー、どうにかここ登って地上に出ろ。そんで、父ちゃんと合流するんだ」

「えぇっ!?でも、上に敵がいるんだろぉ!?」

「大丈夫、俺の仲間がいる。そいつらがおめェを守ってくれる」

「…………」

「俺たちを信じろ、チビガルー!」

 

 チビガルーの碧眼が逡巡を断ち切る瞬間を、エイジロウは見た。

 

「──わかった!」

「っし、じゃあ──」

 

 片手でチビガルーをむんずと掴み出すエイジロウ。「え?え?」と再び困惑するチビガルーを、

 

「行ってこーーーい!!」

「にゃああああああ!!?」

 

 ぶん投げた。

 その衝撃に耐えきれなかったのか、リュウソウケンを刺した岩べりが崩れ、エイジロウは再び宙に投げ出されてしまった。

 

「頼んだぜっ、チビガルー!!」

 

 放り投げられたチビガルーはというと、ままよとばかりに落ちてくる岩を器用に伝って跳躍を繰り返していた。元々身軽な身体であることが功を奏し、地上の光と戦闘の音が流れ込んでくる。怖い、でもあと少し。行くしかない──!

 

 わずかに気が緩んでしまったのだろう。落ちてきた岩がチビガルーを直撃した。

 

「ぎゃっ!?」

 

 幼体とはいえ騎士竜の頑丈なボディである、ダメージというほどではないが巻き込まれる形で墜落してしまう。絶望的な気持ちに囚われかかったところで、『ビロ〜ン!』という気の抜けた声が頭上から聞こえてきた。

 刹那、柔らかくしなるものが巻きつき、チビガルーを地上まで引き上げたのだ。

 

「あ、おまえ──」

「話は聞いていた。ここからは俺が運ぼう!」

 

 テンヤ──リュウソウブルー。リュウソウメイルの上からでもわかる逞しい身体は、エイジロウ以上に安心感を覚えさせた。

 

「ハヤソウル!」

 

 再度ハヤソウルを使用し、パキガルーの封印された地点めがけて一目散に走り出す。それを見逃さなかったクレオンだったが、

 

「行かせねえ」

「あんたらの相手は、私たちや!」

 

 立ちはだかるピンクとゴールド。揃って厄介な敵ではあるが、ふたりにまで数を削った。これぞ好機とクレオンは嗤う。

 

「ヘン、そっちにはワイズルーさまが行ってんだ。お前らの思い通りにはなんねーよ!──さあセルケトマイナソー、とっととレッドを生き埋めにしちまえ!」

「ユウキィ……!」

「させるか!」

 

 剛健と栄光、ふたりの騎士が仲間を救うべく死闘に臨む。その光景を、タマキ青年はもはや見ていることしかできなかった。

 

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