【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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29.うなれ鉄拳 3/3

 疾風の騎士と威風の騎士、対する群青の道化師の激闘は、双方一歩も引くことなく互角に推移していた。

 

「──かっちゃん!」

「オラアァ!!」

 

 撹乱するグリーンの影から飛び出し、爆破剣撃という独自の秘技を浴びせかけるブラック。それをステッキから放つビームで妨害しつつ、攻め手がなく逃げ回るワイズルー。そんな状況が、もう一時間近くも続いている。

 

「てめェいい加減死ねや!!」

「ノーセンキュー!ハッハッハッハ、ハッハッハッハッハ!ハハハハハハ──」

「だから、長いっ!!」

 

 こんな調子で、いまいち緊張感がないのが困りものであるが。

 

(くそっ、せめてここから引き離したいのに……!)

 

 イズクが臍を噛んだときだった。『ビューーーン!!』という聞き慣れた音声とともに、ワイズルーよりほの明るい蒼碧の影が飛び込んできたのは。

 

「ぬぅおぉぉぉぉぉ──ッ!!」

「何?何?何事ぉ!?」

「テンヤくん!?」

 

 少年たちは見た。仲間の手の中に、パキガルーによく似たちいさな竜が収まっているのを。

 

「あれは……!」

「なんだか頭がオットセイだが、行かせるわけにいかナッシング!!」

 

 ステッキの先端がぎらりと光る。それを認めたブラックが、咄嗟に跳んだ。

 

「させるかよォ、ダイナマイトディーノスラッシュゥ!!」

 

──BOOOOM!!

 

 ひときわ大きな爆炎がワイズルーを呑み込み、吹き飛ばす。テンヤにその様子を確認する余裕があれば、「ナイスアシスト!」と賛辞を贈っていただろう。

 ともあれ彼、そして彼の抱えたチビガルーは、ついにパキガルーとの接触に成功した。

 

「とうちゃあん!!」

 

 父子の歓喜の声が重なりあう。ブルーはチビガルーの身体を両手で掲げた。

 

「さあ、お父上のもとへ帰るといい!」

「ありがとな、リュウソウブルー!」

 

 みるみる巨大化したチビガルーが、パキガルーの体内にすっぽりと入り込む。彼はれっきとした子であると同時に、パキガルーのコアとしての役割も果たしていた。

 

「チビガルー、オン!──パキガルー(父ちゃん)再起動(リブート)だぁ!!」

 

 封印が解けた。岩壁をぶち破り、その翠のボディが躍動する。

 その行く手を、ワイズルーが阻んだ。

 

「ふん!貴様のようなジミ〜な騎士竜、この私の敵ではナッシングゥゥゥ────!!?」

 

 その巨大な拳が直撃し、哀れワイズルー、白昼の星屑と消えたのだった。

 

「馬鹿が自爆しやがった」

「あ、はは……──あっ、それよりテンヤくん、ひょっとしてそっちにマイナソーが?」

「うむ、エイジロウくんがチビガルーのいた古井戸の底に生き埋めになりかけているんだ!」

「なんだって!?」

 

 一大事だ。マイナソーもいつ成長するかわからないし、急がねば。

 走り出そうとした折、ブルーの手の中にパキガルーから"あるもの"が贈られた。

 

「!、これは──」

「………」

 

 こちらを見下ろす碧眼。チビガルーももはや何も言わない。お互い、言葉など要らないということでもあった。

 

「……ありがとう!」

 

 それでも、感謝の意は言葉にして伝えたかった。

 

 

 *

 

 

 

 セルケトマイナソーは未だ猛威を奮っていた。その硬い甲殻もさることながら、今となってはあの震動を起こすほどのパワーを体得している。自分たちだけならまだしも、エイジロウが生き埋めになりかけている状況。それを止めることに全力を挙げねばならなかった。

 

「くそっ、決め手がねえな……」

「うん。ってか──」

 

 セルケトマイナソーは拳を叩きつけるまねをして、こちらが身構えるのを見ては喜んでいる。ひょうきんなのか性格が悪いのか、少年たちには後者としか捉えようがなかったが。

 

「げへへへ、いいぞぉセルケトマイナソー!その調子でそこのハンサムとちんちくりんをまとめてボロ雑巾にしちまえぇ!」

「はんさむ?」

「ち、ちんちくりんって……こいつぅ!!」

 

 「ってか、あんたに言われたくないってのこの三等身!」とピンク。なんというかもう、罵詈雑言合戦の様相である。

 しかし、セルケトマイナソーにそれは通用しない。ふたりが長期戦を覚悟したそのとき、マイナソーが放ったものではない地響きが聞こえてきた。

 

「な、なに!?」

「!、オチャコ、あれだ」

 

 ゴールドが指さした先──深緑の巨体が、やおら迫ってくる。その足下には、見慣れた蒼碧の竜騎士の姿。

 

「皆、待たせた……!あとはこのリュウソウブルーに任せてくれ!」

 

 その手の中には、今まで見たことのない深緑のリュウソウルが握られていて。──それがパキガルーを模したものであることは明らかだった。

 

「パキガルーがこの力を託してくれた……──ドッシンソウルッ!」

『ドッシンッ!ソウル!!』

 

 リュウソウケンに装填し、

 

『強!』

 

 一回、

 

『リュウ!』

 

 二回、

 

『ソウ!』

 

 三回、

 

『そう!』

 

 四回。

 

『──この感じィ!!』

 

 無数の巌がブルーの胴体を包み込む。それらが削れ磨き上げられ、融けてひとつとなる。

──パキガルーを模した鎧。右肩でその頭部が睨みを効かせている。

 そして他の強竜装と大きく異なるのは、両拳に巨大な手甲(ガントレット)が装着されていることだ。剣ではなく、拳を武器とする形態とすぐにわかった。

 騎士として違和感がないかといえば嘘になる。しかし今、いちばん有効かつ強力な姿であることも理解していた。

 

「行くぞ……!」

 

 ゆえに、躊躇はない。ブルーは意を決して勢いよく跳躍し、セルケトマイナソーめがけて巨拳を振り下ろした。

 

「ユウキィ……!」

 

 甲殻を丸め、防御姿勢をとるマイナソー。小細工はしない。そのド真ん中に叩き込む──!

 

『──ドッシィン!!』

 

 刹那、マイナソーは大きく吹っ飛ばされていた。

 

「ユウ、キィ……!?」

「まだまだぁ!!」

 

 叩き込まれる拳は、甲殻の硬さなどものともしない。むしろ炸裂するたび、そこに亀裂を刻み込んでいった。

 

「……すげぇな、ドッシンソウル」

「フツーのパンチ、やのに……」

「──だからこそだ」

「!」

 

 不意にタマキが割って入ってくる。先ほどまでひっそり一線を退いていたというのに──無論それで構わないのだが──、いつの間に戻ってきたのか。

 

「一点に集中する衝撃(インパクト)は、あらゆるものを叩きつぶす。それが騎士竜パキガルーの、ドッシンソウルの力なんだ」

「……なんか今のタマキ先輩、誰かを思い出すなぁ」

 

 その頃こちらに向かう真っ最中だったイズクは思いきりくしゃみをしていたのだが、取るに足らないことである。

 閑話休題。ブルーが満身創痍のセルケトマイナソーにとどめを刺そうとしたところで、割って入ってくる者があった。

 

「フン、騎士が剣捨てるたぁヤキが回ったナァ!!」

「!、クレオン……!」

 

 マイナソーを庇うように立ちふさがるクレオン。極めて珍しい行動だが、理由はあった。身体をスライム化させた彼は、ブルーの鉄拳を見下すように嗤った。

 

「貫けるモンなら貫いてみろよ、叡智の騎士サンよぉ!!」

「……言ったな!」

 

 腰を落とし、拳を引くブルー。それ以外の動作は自他ともに一切ない、緊迫の静寂がよぎる瞬間だった。

 そして、

 

「奥義、」

 

──ディーノ、ソニックブロー!!

 

 拳を突きだす、と同時に周囲の白砂が巻き上がる。風、ではない。拳圧によって衝撃波が広がっているのだ。

 

「え、なんか思ってたのと違ぁぁぁ──!!?」

 

 そのことに気づいて逃げ出そうとするも時既に遅し。衝撃波は軟体と化したクレオンの体内をも激しく揺さぶり、

 

 内臓を、崩壊させた。

 

「グハアァァァ………ッ」

 

 ゴロゴロ地面を転がるクレオン。一度は起き上がろうとするも、体内を損傷したというのは想像以上のダメージだった。

 

「クレオン……K.O.……」

 

 がくっと項垂れたかと思うと、その身がどろどろと溶けて白砂の中へ消えていく。完全に倒せたわけではなかったようだ、残念ながら。

 しかし、あとはマイナソーだけだ──そう考え構え直したところで、

 

「ユウ、キィ……──ユウキ゛ィィィィ!!」

「!!」

 

 彼方から到達したエネルギーの塊を吸収し、セルケトマイナソーはたちまち巨大化してしまったのだ。

 

「ッ、しまった……!」

「──大丈夫、オイラたちに任せとけ!」

 

 すかさずパキガルーがマイナソーの前に立ちはだかる。頼もしいが、巨大戦の震動だけでも古井戸の中で崩落が酷くなるかもしれない。そうなる前に、

 

「エイジロウくんを……救けるッ!!」

 

 声を張り上げると同時に、地面に拳を叩きつける。何度も、何度も。

 

「ちょっ、テンヤくん何して──」

「ッ、これでエイジロウを救えるんですか、先輩?」

「……ああ」

 

 それが、ドッシンソウルの力だから。

 

「……?」

 

 その震動を受けて、エイジロウは目を覚ました。地面から突き上げられるような感触がある。

 

「これ、は……」

 

 セルケトマイナソーのそれとは違う。直感だがそう思った。そしてその直後、地面が隆起を始めたのだ。

 

「うおッ!?」

 

 完全に頭が冴えた。地面がどんどんと上昇していく。外へ繋がる光が近づいていくのはきっと必然だ。ならば、

 

「──リュウソウチェンジ!!」

 

『ケ・ボーン!!』──愉快な音声とともに、古井戸から赤い閃光が飛び出してくる。見事に着地したそれは、

 

「勇猛の騎士、リュウソウレッド!!──遅ればせながら参上ッ!!」

 

 勇ましくも朗らかな名乗りを挙げ、己の無事を誇示したのだった。

 

「エイジロウくん、オチャコくん!俺たちの手でヤツを討ち果たすんだ!」

「おうよ!」

「よ〜しやったるっ!」

 

 パキガルーはその拳をもって、単騎ながらセルケトマイナソーと互角に戦りあっている。その力を借りれば、必ず。

 

「「「──竜装合体!!」」」

 

 騎士竜ティラミーゴがキシリュウオーに変形し、トリケーンとアンキローゼが併走しながらそのパーツへと姿を変える。封印が解けたときの、ある意味現代における基礎たる姿、スリーナイツ。

 三色の竜騎士が戦場へ駆ける。その体内にあって、レッドが声をあげた。

 

「パキガルー、合体だ!!」

「!、──待ってましたっ!」

 

 可愛らしい声をあげるチビガルー。彼の誘導を受け、パキガルーがこちらへ向かってくる。

 その身がチビガルーもろとも二つに割れ、姿を変えながらキシリュウオーの両手に接続される。それは──ドッシンソウルの鎧と同じ、巨大な鉄拳の形をしていた。

 そして頭部をなすリュウソウルが入れ代わり、新たなる巨人が完成した。その名も、

 

「「「キシリュウオー、パキガルー!!」」」

 

 

「──見てかっちゃん、新しい合体だよ!しかもあの姿、パンチングスタイルを主軸とするわけか。武器をあえて使わないというのは一見すると心もとないように思えるけど打突の破壊力というのは侮れないわけで……」

「うっせ、クソデク。見りゃわかんだわ」

 

 イズクたちがひとまず観察を決め込む中、新生キシリュウオーのガチンコファイトが始まった。つまり、純粋な殴り合いである。

 いずれも拳には自信があり、互いに堅固な鎧をもっている。

 

「オラオラオラオラァ!!」

「ユウキ゛ィィィ──ッ!!」

 

 どちらも一歩も引かない戦い。しかしあくまで身体能力の一環としての腕力しかないセルケトマイナソーに対し、キシリュウオーパキガルーは打撃に全振りしたような形態である。その威力も、勢いも、目の前の怪物の比ではない。

 やがて完全に競り負けたマイナソーは、相手の勢いによって徐々に地上から離され、浮き上がっていく。そうなればもはや、勝負は決したも同然だった。

 

「ユウギイィィ……!」

 

 そのとき、不意に気がついた。

 

「このマイナソー、もしや"勇気"ではなく"遊戯"と言っているのか?」

「ゆうぎ……遊び?」

 

 道理で妙に戯れめいた行動が多いと思ったら。宿主であるミナの性格を反映しているのか、あるいはその生い立ちからして、もっと子供らしく遊びたかったという想いを抱えていたのか。

 いずれにせよ──今ここで、マイナソーを倒すということだけは変わらない。ミナは今、立派に踊り子として生きているのだから。

 

「終わりだ──!」

 

──ブースト、ブレイクブロー!!

 

 エネルギーを右腕──さらに言えばチビガルーへと集中させ、噴射する。高揚した彼はその勢いのまま、マイナソーめがけて百烈拳を叩き込んだ。

 

「ユウギイイイイイイ……イ゛ィッ!!?」

 

 甲殻が、砕ける。次の瞬間にはボディを完全に打ち抜かれ、セルケトマイナソーは哀れ爆散したのだった。

 

「ウィナー、キシリュウオーパキガルー!!」

「よっしゃあ!!……ふぅ〜」

 

 どっと疲れが襲ってきて、キシリュウオーともども座り込むレッドとブルー。腕の筋肉がじくじくと痛む。まだまだ鍛え方が甘いなと、ふたりは顔を見合わせて苦笑しあった。

 

 

 *

 

 

 

 凱旋の夜。ムスタフの町では当初の予定通り、一座による公演が行われていた。

 様々な芸がステージの上で披露される中、その中央で華麗なステップを踏み、踊るミナの姿。ピンク色の肌を差し引いても可愛らしい少女だとエイジロウは思っていたが、踊り子としての彼女はただただ美しかった。

 見惚れていると、不意に目が合う。黒目がちなそれがウインクを飛ばしてきて、エイジロウの心臓はどくんと跳ねた。

 

「おいコラ、発情してんじゃねーぞクソ髪」

「は、はつじょ……っ!?」

「ちょ……っ、なんてこと言ってんだよかっちゃん!?」

 

 あまりにもデリカシーのないことをのたまうカツキを皆で叱るひと幕もありつつ、賑やかな夜は過ぎていく──

 

「……そういや、タマキ先輩いねぇな」

 

 ふとそのことに気づいたショートだったが、このときは特段気にとめなかった。性格上、こういう場は苦手なのだろうと合点して。実際タマキを知るイズクとカツキもそう思っていて、だから何も言わなかったのだ。

 

──後から思えば、これが大いなる綻びのはじまりだったのだ。

 

 

 *

 

 

 

 リュウソウジャーたちが楽しい宴の夜を過ごしている一方で、その宿敵たるワイズルーとクレオンは惨憺たるものだった。

 

「ハァ……ハァ……、ベリー酷い目に遭った……」

「もうオレ……一歩も動けねーす……」

 

 砂丘の片隅でボロ雑巾のように半ば埋もれる二体。前者はまだしも後者など、内臓をやられているのだ。尤も文字通り骨の髄まで軟体なので、それだけで致命傷とはならないのが不幸中の幸いではあるのだが──

 

 そんな彼らも、不意に響いた重い足音には鋭く反応した。目を眇め、迫る紫の鎧を睨む。

 

「……やはりおまえたちでは、リュウソウジャーは倒せないようだな」

「ッ、ガイソーグ……!──黙らっシャラップ!!私が本気になればあんな品のない蛮族どもなど……!だいたい、貴様はなんだ!?その鎧を剥いで、正体見たり枯れ尾花と洒落込もうか!?」

「ワイズルーさま、いつも以上に意味わかんねーす……」

 

 クレオンの突っ込みを無視して、ガイソーグはため息をつく。それは深淵を覆うような憂鬱を感じさせるもので。

 

「やれるものなら、やってみろ。……この鎧は、脱ぎたくても脱げないんだ」

「……What's?」

 

 応酬はそれまでだった。町の方角へ去っていくガイソーグ。その背中を、ワイズルーは憎々しげに見つめていた。

 

 

 つづく

 

 




「マイナソー!?どうやってオチャコの体内に……」
「ミリオなら、絶対にあきらめたりなんかしなかった」
「私の命、デクくんに預けるから……!」

次回「その胸の高鳴りを」

「きみは……僕が救ける!!」


今日の敵‹ヴィラン›

セルケトマイナソー

分類/ヴァーミン属セルケト
全長/218cm〜47.8m
体重/285kg〜803t
経験値/342
シークレット/サソリの姿をした女神"セルケト"の名を冠したマイナソー。硬い甲殻と強力な腕っぷしを誇るほか、尻尾を突き刺した相手から"勇気"を奪うことができる。でも実は基になっている欲望は"遊戯"、つまりもっと遊びたいというものだったぞ!
ひと言メモbyクレオン:尻尾斬られたのが痛かったなぁ……。レッド以外の勇気も奪ってやれたのによう!
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