【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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30.その胸の高鳴りを 3/3

「おらぁあああああッ!!」

 

 勇猛、叡智、栄光の三騎士と、群青の道化師の激闘が続いていた。

 それぞれメラメラソウル、コスモソウル、ビリビリソウルと強竜装を取り揃えての猛攻。いかにビショップクラスのドルイドン相手といえども趨勢は明らかだったが、それでも決着がつかないのは相手が逃げの一手に徹しているからだった。

 

「てめっ……マジでいい加減にしろ!!」

「たまには正々堂々と戦ったらどうなんだ!?」

「イヤでございます!イヤでございまぁす!」

「ッ、とことん舐め腐ったヤツだ……!」

 

 しかしその性格こそがワイズルーの粘り強さの所以にほかならない。ドルイドンとしては腕力のないワイズルーだが、これまでにリュウソウジャーが倒したタンクジョウやガチレウス、ゾラと異なるのは遊びに徹し、むやみに決戦を挑もうとしない点だった。

 

 そうしてレッドたちが攻めあぐねている間にも、クレオンは"促成栽培"を続けていた。

 

「ちっちぇーちっちぇーちっちぇーわぁ♪あなたが思うよりミジンコでぇす!!」

「ちっちぇえ、ミジンコ……うわぁあああああ!!」

 

 意識が判然としない中でも、その悪口はしっかり聞き取っていたらしい。宿主が絶叫し、そのエネルギーがさらに吸い取られていく。

 

「まずいぞ、このままじゃ……!」

「オチャコくんはどうなったんだ……っ」

 

 まだ無事なのか、それさえもわからない。不安と焦燥に駆られながら、少年たちは剣を振るい続けるほかないのだった。

 

 

 *

 

 

 

 イズクにとって、それは悪夢のような光景だった。

 倒れたまま、微動だにしないオチャコ。彼女の心臓がどうなってしまったのか、裸眼ではわからない。ゆえに彼は、絶望に囚われつつあった。

 

「オチャコ、さん……」

 

 その場にがくんと膝をつく。竜装が解け、光を失った翠眼があらわになった。

 

「冗談、だよね……?ねえ、そうだって言ってよ……起きてよ、オチャコさん……っ」

「………」

 

 カツキとコタロウは何も言えず、その光景を黙って見おろすことしかできない。ミエソウルやキケソウルを使えば彼女の様子は確認できるのだが、そんなことも一瞬頭から抜け落ちるほど彼らも内心動揺していたのだ。

 

「いやだ……っ、こんなの、やだよぉ──ッ!!」

 

 イズクが慟哭の声をあげたときだった。

 

「ふぁっ」

「!」

 

 気の抜けたような声に、一瞬時が止まる。イズクも嗚咽をやめて、その声のした方向を見下ろした。

 

「は……ふあ……」

「オチャコ……さん?」

 

 ゆるく開いたオチャコの口がわなないている。口だけではない、その控えめな鼻の穴もぴくぴくと。

 目配せしあったカツキとコタロウは、揃ってさりげなく耳を塞いだ。呆気にとられたイズクだけはその波に乗り遅れてしまい、

 

「は、は、は──」

 

──ぶぅえっっっくしょおぉぉぉん!!!

 

 耳を劈くようなくしゃみが、辺り一面に響き渡った。

 

 同時に、彼女の口の中から何かが飛び出していく。そちらに目を遣ることもできず、至近距離で浴びた凄まじい衝撃にイズクは目を回していた。

 

「イズクさん、大丈夫ですか!?」

「う、うぅ〜〜ん……」

 

 答えるように声をあげたのは、イズクではなく渦中の少女で。

 

「あれ、私いったい……?」

「いったい、じゃねえわ丸顔。クソデク今ので死んだぞ」

「えっ、うそ!?ごごごごごめんデクくん!!」

 

 無論死んだというのは誇張である。よろよろと身を起こしたイズクは、オチャコの無事な姿を見るなりこれでもかと目に涙を溜めた。

 

「お、オチャコさん゛……っ!よがっだあ゛……!」

「うわっ、何コレ洪水!?」

 

 号泣するイズクは、少なくともオチャコは初めて見るものだったが。

 

「そう簡単に治んねえわな、泣き虫」

「……あれ、元からなんですね」

「おー」

 

 幼少期など、何かあるとすぐ体内の水分が涸れるんじゃないかという勢いでだばだば泣いていたものである。尤もその原因の八割はカツキの仕業だったのだが。

 

「……ありがとね、デクくん。救けてくれて」

「うん、うん……!」

 

 ただ、その泪が喜びからくるものであること。それだけはまあ、良いかと思えるのだった。

 

「チ、チッチェー……ナァ……!」

「!」

 

 そうだ、感動に浸っている場合ではなかった。オチャコの体内から排出されたイッスンボウシマイナソーが、唸るように声をあげながら動き出そうとしている。その身体には次々とエネルギーが注ぎ込まれ、みるみるうちに巨大化を続けていた。

 

「いつもより成長のスピードが速い……!」

「クソ道化師どもが何かしてやがるな。──コタロウ、下がってろ」

「……お気をつけて」

 

 素直に後退しつつ、コタロウはなんともいえないような視線をオチャコのほうに向けていた。つられてそちらに目をやり──イズクは絶句した。

 

「あんにゃろ、ぶちのめしたる……!」

「お、オチャコさん……!?」

 

 そういえば、西方の村出身のリュウソウ族は陽気だが、ひとたび怒らせると気性の荒さが浮き彫りになる傾向がある──朗らかな彼女も決して例外ではなかったらしい。

 

(こ、怖えぇ〜〜……)

 

 救いを求めるようにカツキを見遣るイズクだったが、彼は思いきり目を逸らすばかりだった。ひとつ言えるのは、彼も人の子だということであろうか。

 

 

 同じ頃、赤青金のトリオはようやくワイズルーに喰らいつくことに成功していた。

 

「コズミックディーノスラァァッシュ!!」

「ファイナルサンダーショット!!」

 

 ふたりの連携攻撃が見事に直撃し、ワイズルーは防御に使ったステッキもろとも吹き飛ばされた。

 

「ノォオオオオオ!!」

「げぇっ、ワイズルーさままたやられてる!?」

『ハヤソウル!──ビューーーン!!』

「──ッ!?」

 

 クレオンの気が散った一瞬の隙を突き、ブルーが宿主の奪還に成功した。

 

「ああっ、しまったぁ!」

「これ以上、貴様の薄汚い罵詈雑言を聞かせはしない!」

「いやおまえも結構ヒドくね!?」

 

 前々回の衝突の際、さんざん罵倒されたこともくっきり記憶に刻み込んでいるクレオンである。地味に繊細な彼らの心は、あれで結構傷ついた。

 

「ヌヌヌヌヌ……!しかし、もはやtoo lateというもの!」

「何?──!」

 

 刹那、地響きとともに、彼方に巨大な少年めいた姿が現れた。

 

「チッチェーナァァァ!!」

「ッ、巨大化したか……!──オチャコくんは!?」

 

 よもやという最悪の想像がよぎった瞬間、ピンク色の騎士竜がマイナソーに突撃していった。

 

「あ、アンキローゼ!」

 

 と、いうことは。

 

「そこの三人ー、早く騎士竜呼んでぇ!!」

 

 オチャコの元気な声。彼女の無事が確たるものとなって、彼らは心の底から安堵した。

 

「よかった……!」

「っし、今いくぜオチャコ〜!」

「あ、でもワイズルーとクレオンは──」

 

 振り向いたゴールドだったが、彼らの姿は既に彼方まで遠ざかりつつあって。

 

「スタコラサッサー!」

「アラホラサッサー!」

 

 相変わらず、逃げ足だけは尋常でなく速い連中である。まあ今はとにかく、巨大化したマイナソーを処理しなければ。オチャコが助かったことで安心しそうになるが、宿主も救えるかどうかはまだこれからなのだ。

 

「っし、出番だティラミーゴ!」

「頼むぞトリケーン!」

「モサレックス、水はねえがいけるか?」

 

 騎士竜たちの咆哮プラス、モサレックスの「問題ない!」との応答。それらを受け、彼らは走り出す──

 

──竜装合体!

 

「「「キシリュウオー、スリーナイツ!!」」」

「キシリュウネプチューン!」

 

 二大巨人と、元小人が対峙する。──先制をとったのは、後者だった。

 

「チッチェー、ナァ!!」

 

 次の瞬間、彼の持っていた針が物凄い勢いで乱打される。その光景ときたら、まるで針が幾重にも分裂したかのようだった。

 

「ッ、なんてスピードだ……!」

「ティラミーゴ、大丈夫かっ!?」

「だいぶチクチクするティラァ!!」

 

 ……とりあえず大丈夫そうだが、いつまでもこんなヤツに付き合ってはいられない。

 

「しつけぇ……!──アンモナックル!!」

 

 ネプチューンが拳を飛ばすとようやく攻撃がやみ、マイナソーは守勢に回った。

 

「ッ、たく……」

「──ショートくん!」

「!」

 

 振り返ると、こちらに接近する騎士竜タイガランスとミルニードルの姿。イズクたちもいい加減、居ても立っても居られなくなったのだ。

 その姿を見て、ゴールドはあることを思いついた。

 

「そうだ……──イズク、タイガランス、合体だ!」

「え!?」

「ア゛ァ!?ンだ半分ヤロォ、俺らは無視か!!?」

「そうじゃねえ。あいつのスピードを打ち破るには、タイガランスの力が必要なんだ」

 

 スピードにはスピード──そう言われれば、ブラックとて渋々ながら納得せざるをえない。もとよりキシリュウネプチューンは、キシリュウオーというもう一体の"素体"なしに二体以上と同時に合体することには慣れていないのだ。

 

「チィッ……とっとと行けやクソナード!!」

「わ、わかってるよ!」

 

 タイガランスが飛びついてくる。──竜装合体、ワンモア。

 

「「キシリュウネプチューン、タイガランス!!」」

 

 緑の頭部と胸部装甲、そして両手に刃と爪を携えた海神が、砂礫の中で産声をあげた。

 

「チッチェーナァ!!」

 

 イッスンボウシマイナソーが再びあの針斬舞を放ってくる。しかし騎士竜タイガランスそのものを鎧とし矛とした今のネプチューンには、そんな攻撃は通用しない。疾風のごとく砂地を駆け、一気にマイナソーへ肉薄する。

 

「「──はぁッ!」」

 

 そして、刃を一閃。

 

「チッチェエ!!?」

 

 これにはイッスンボウシマイナソーの守備も間に合わなかった。両断された針が蒼天に舞う。呆然としているマイナソーに対して、さらに爪による一撃を見舞った。

 

「やった!」

「よし、このまま──」

「──ちょーっと待ったぁ!!」

 

 痛烈ともいえるような少女の声が、彼らの間に楔となって割り込んできた。

 

「こいつは私がぶちのめしたる言うたやん……!──だからデクくん、ドッシンソウルちょうだい!」

「え、あ、はい!」

 

 有無を言わせぬ剛健の騎士の気迫に圧され、グリーンはドッシンソウルを彼女に投げ渡す。

 

「いくよ、パキガルー!」

「──へへっ、呼ばれると思って待ってたぜ〜!」

 

 無邪気なチビガルーの声とともに、騎士竜パキガルーが駆けつける。彼らの力を借りて、三度目の竜装合体だ。そして、

 

『強・リュウ・ソウ・そう!──この感じィ!!』

 

 キシリュウオーにパキガルーが合身するのと、リュウソウピンクの身体を彼らの加護を受けた鎧と鉄拳が覆うのが同時。

 

「「「──キシリュウオーパキガルー!!」」」

『ドッシンソウル!ドッシンッ!!』

 

「針のないアンタなんて、爪と牙を抜かれた虎も同然やぁ……──いくでぇぇぇっ!!」

(虎!?)

 

 イズクとタイガランスがぶるっと背筋を震わせたのはこの際、見なかったことにするとして。

 

「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあああああ────ッ!!」

 

 鉄拳の乱打、乱打、乱打。乱打!!

 もはやマイナソーは声も出せず、身体を丸めて耐えるしかない。しかしそれとて限界はある。くぐもった声をあげながら後退していく彼は、やがて下半身と融合した茶碗もろとも撥ね飛ばされた。

 

「見たか!剛健の騎士の力!」

「オイラたちのパゥワーもな!」

 

 意気軒昂なピンクについていけているのはパキガルーとチビガルー親子だけだった。同じキシリュウオーの中にいるふたりすら、これには唖然としているありさまだ。

 そして、"彼"も。

 

「ウゥ……」

「……やめとけミルニードル。女がああなったらもうどーしようもねえ」

 

 あのリュウソウブラック──カツキでさえそんなことを言うのだ。尤もそれは彼なりの人生経験に根差した思想でもあるのだが。

 ともあれそこに割り込めるのは、マイペースな海の王子くらいのもので。

 

「オチャコ、同時に決めるぞ」

「……ショートくん、きみって人はさあ〜〜。はぁ……ま、いいけどねっ!」

 

 確実にマイナソーを討ち果たす。それこそが最も重要なことなのだ。並び立った二大巨人は、満身創痍のイッスンボーシマイナソーめがけて走り出した。

 

「「「終わりだ──」」」

 

「「キシリュウネプチューン、ゲイルアンカーストライク!!」」

 

 左腕のクローが射出され、それ単体が意志をもっているかのように振り下ろされる。

 

「ギャアァァッ!!?」

 

 悲鳴をあげるマイナソーだが、まだ終わりではない。仰け反っている間に、本丸が攻め込んできていた。

 

「「「ブースト、ブレイククロー!!」」」

「オラオラオラオラァ!!」

 

 射出されたチビガルーがこれでもかと拳を叩き込んでいく。もはや防備を整えることもできず、マイナソーは天高く吹き飛ばされ、

 

「チッチェエェェェ────!!?」

 

 粉々に、爆発四散した。

 

「よっしゃあ!ウィナー、私たちぃ!」

「へへっ……燃え尽きちまったゼ」

 

 座り込むキシリュウオーパキガルー。がむしゃらなインファイトは、騎士竜たちをもってしても疲労を味わわせるほどなのだ。ただし少なくとも今は、とても心地よいものなのだけど。

 

 

 *

 

 

 

「いやぁ救けていただきほんままいどまいどぉ〜。お礼といっちゃナンですケド、サービスしときまっせ〜!」

 

 イッスンボーシマイナソーの宿主だった小男は、商人だったらしい。様々な商品を広げた風呂敷の上に並べて披露してくるのだが、

 

「……しょっぺぇにも程があんだろ」

「かっちゃんっ!」

 

 カツキの暴言は幸い男には聞こえていないようだった。しかもサービスと言いつつ、びた一文まける様子もない。……なるほど確かに、クレオンの歌は的を射ていたようだ。

 とはいえ必需品もそれなりに品揃えがあるからと皆で物色していると、オチャコが「あっ」と声をあげた。

 

「これ、呪文書やん!」

「おぉ、お目が高いでんなぁ!こいつはどんな枯れた砂漠にも草木を宿らせる、強力な呪文の書でっせ。今ならおトクにしときやす〜」

「買った!」

「……良いんですか、そんな即決して?」

 

 コタロウの問いに、彼女は躊躇うことなく頷いた。

 

「デクくんが教えてくれたショクリン、やっけ?それ、私もやってみたいから……」

「!、オチャコさん……」

 

 微笑むオチャコ。イズクもまた目を潤ませながら、それに応えてみせる。よく似たふたりの纏う雰囲気、それが以前とはどこか様相を異としているように、仲間たちには思われるのだった。

 

「……けっ」そんな彼らを渋い表情で睨みつつ、「………」

 

 カツキはふと、いっこうに姿を現さない兄弟子のことを思った。またどこかへ行方を眩ましてしまったのだろうか。それならそれで構わないのだが──何か言い知れぬ違和感のようなものが、彼の心に根付きつつあった。

 

 

──やはりタマキは、少し離れたところから一行の様子を窺っていた。

 

(乗り越えたのか、イズク……)

 

 やはり、リュウソウジャーに選ばれた者は違う。どんな苦難を前にしても歯を食いしばって立ち向かい、乗り越えていく。そしてそれが終われば、何事もなかったかのように朗らかに笑いあっているのだ。

 

(わかってる。俺は器じゃないんだ、最初から……)

 

 そう、わかっている。わかっているはずなのに──どうしてかその心は、不穏なざわめきに支配されていた。

 

 

 つづく

 

 




「匿っていただけませんこと?」
「今日という今日は、一緒に帰っていただきます」

次回「美しき逃亡者」

「自分が本当になりてぇモンを見られねえヤツに、大事は成せない」

今日の敵‹ヴィラン›

イッスンボウシマイナソー

分類/メルへン属イッスンボーシ
身長/0.303mm〜43.1m
体重/0.9mg〜472t
経験値/303
シークレット/説話上の小さな勇者に由来するマイナソー。お椀に乗って移動し、針を突き刺して攻撃してくる。実際の一寸より遥かに小さい体躯を活かして標的の体内に侵入し、内側から攻撃して死に至らしめる、見かけによらずコワ〜イマイナソーだ!
ひと言メモbyクレオン:小さいのが取り柄なのに巨大化したら意味ねーじゃん!そのことに気づいたのは文字通りボコボコにされたあとだったとさ……。
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