【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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31.美しき逃亡者 2/3

 

 モモを連れたショートは、街の中で決死の逃避行を演じる羽目になっていた。追手は少女だけではなかったのだ。黒衣を纒った見るからに威圧感のある男たちがふたりを取り囲むように迫ってくる。

 

「ッ、まさか、こんな……」

「……しょうがねえ、強行突破すんぞ」

 

 言うが早いか、ショートは地を蹴って跳んだ。一瞬天高く消えるほどの跳躍力に、男たちもモモも一瞬呆けてしまっていた。

 刹那、地上に帰ってきた彼は、すらっと長い脚を勢いよく振り下ろした。

 

「ぐべぁっ!!?」

 

 強烈な踵落としを顔面に浴び、男が見るも無残な顔面になって昏倒する。慌てた相棒の男が素手のまま襲いかかってくる。ショートは内心違和感を覚えたが、それに囚われるほど未熟ではない。あえて身動きをとらず、ぎりぎりまで男を引きつけてから──

 

「──ッ!?」

 

 思いきり、しゃがみこんだ。男は驚きのあまりつんのめってしまう。それを支えるように、男の胸と脇の下に手を差し入れ、

 

 そのまま、投げ飛ばした。

 

「ぐはぁ……ッ!?」

 

 地面に強かに叩きつけられ、男はひゅうひゅう荒い呼吸を繰り返す。これで暫くは動けないだろう。

 

「……ふぅ」

「お、お強いのですね……」

「これくらい当然だ。それより、行くぞ」

 

 そう答えて、彼女の手を引いて走り出す。異性のエスコートに慣れているのだろう、自然な所作。見るからに貴公子然とした容姿と相俟って、彼()実は高貴な家柄の出身であったりするのだろうか。

 けれど、それ以上に──

 

「………」

 

 モモは目の当たりにしてしまったのだ。半ば事故のようなものとはいえ、彼の細身ながら抜け目なく鍛え上げられた裸身を。そしてその体躯に違わず図抜けた身体能力を発揮した彼に、今、手を引かれている。顔に熱が集まるのを、モモは止めることができなかった。

 

 

 *

 

 

 

 その一方、幾つか向こうの路地でそんな騒動が起きているとは思いもよらないリュウソウジャーの仲間たち。うち先頭を歩く一名は、鬼のような形相を浮かべていた。

 

「あンの紅白頭ァ……!人を散々待たせといてなんの断りもなく消えやがってクソがぁぁ!!」

 

 すれ違う人々が怯えた表情で道を開けていく。これから暫しこの街に滞在する可能性を思うと、市民からの心象はできるだけ悪くしたくはない。隣を歩くイズクがどうどうと懸命に宥めるのを、スリーナイツ組が後ろから眺めながら苦笑していた。

 

「色々爆発してますね、カツキさん……」

「うむ……しかし今回ばかりは彼の怒りも尤もだ!入口で待っていた我々に何も言わず、どこかへ行方を眩ませてしまうとは!!」

「言ってることカツキくんと一緒やん」

「はは……でもほんと、どこ行っちまったのかなぁ。あそこ裏口あるみてーだし、抜け出すのは可能っちゃ可能だけどさ。俺らに黙って消える意味もねえんだし」

 

 別行動したいのなら、そう言えば良い話だ。ならば何か事件に巻き込まれたか。無論リュウソウゴールドである彼が誘拐されたりだとかは考えにくいが、いずれにせよ早く見つけ出すに越したことはないと、彼らは街の中を絶賛捜索中であった。

 

「タマキセンパイも街に入った途端ふらふらどっか行ってもうたし……ハァ、ほんとロディくんに仲間になってほしかったわ〜」

「?、どうしてロディに?いやいたら楽しそうだけどよ」

「だってロディくんお兄ちゃんでしっかり者やし!ボケボケ組の面倒見てくれたんちゃうかな〜って」

「あーそういう……。いくらなんでも酷じゃねえか?ロロたちもいんのに」

 

 「勘弁してくれ」と引きつった笑みを浮かべるロディの顔が皆の脳裏に浮かぶ。彼は相変わらず自由に大空を飛んでいるだろうか。今のところ南の大地に新たなドルイドンが現れたという噂も聞かないので、元気にやっているとは思うが。

 

「るせぇ!!」いきなり怒鳴るカツキ。「居ねーきしめんのハナシしてんじゃねー!!つーか半分野郎もクソ陰キャも知ったこっちゃねーんだわ、クソが!!」

「か、かっちゃん……」

「マジで気ィ立ってんな、おめェ……」

 

 テンヤではないが、まあ今回ばかりは無理もないかとエイジロウも思ったそのときだった。

 

「────!」

 

 彼らの耳に届いたのは──悲鳴。その瞬間、彼らは戦士の……否、騎士の顔になって走り出す。流石にこのときばかりはコタロウは並んで走れない。肉体の成熟度としても鍛え方としても──そもそも、人間とリュウソウ族の身体能力の差としても。

 

「……さて、今回はどんなことになるやら」

 

 とりあえず手帳とペンを取り出し、マイペースにあとを追うことにするコタロウなのだった。

 

 

 *

 

 

 

 湖周辺に群生した草木が今、ことごとく燃え上がっていた。乾いた砂礫の中で天に聳える紅蓮の炎は、地獄の劫火そのものだった。

 

 その中心に、ふたつの影があった。一方はぬめり気のある緑の菌類怪人──クレオン。そしてもう一方は、全身が燃え上がった不定形のオブジェクト。球体の形をとっていたかと思えば、次の瞬間には人間のシルエットへと変わっている。ただ、全身を炎に覆われたままであることは変わらない。

 

「へへっ、いいぞぉマイナソー!その調子でまとめて()らしちまえぇイ!!」

「カレ、ロォ……!」

 

 マイナソーが唸ると同時に、彼らの背後から群青の異形がやってくる。

 

「なかなかパワフルなマイナソーが生まれたじゃないか、マイスウィートエンジェルクレオ〜ン?」

「わぉ、これはこれはワイズルーさま!」

 

 「ご苦労さまでぇす!」とお互いになぜか敬礼しあったあと、揃ってぐふふと嗤う。

 

「このマイナソーの炎、オアシス全体に拡がれば──」

「──この街はジ・エンドゥ!と、いうワケだ☆NA!」

「イグザクトリー、その通りでございまぁす!」

 

 二体の怪人がきゃっきゃとはしゃぎ合っていると、逃げる人々とは反対に複数の足音が接近してきた。

 

「ワイズルー、クレオンっ!!」

「てめェら性懲りもなく街中に出てきやがって!!」

 

 駆けつけたリュウソウジャーの面々。「それはこちらの台詞!」とすかさず返したワイズルーだったが、ふとあることに気づいた。

 

「ン?1、2、3、4、5……ひとり足りないナ〜?」

「あ、ゴールドがいねーみたいっスよワイズルーさま!」

「ナルホド五人に戻ってしまったワケか。金色坊やは海に帰ったのかNA??」

「ッ、街に来りゃ別行動するときもあらぁ!!──みんないくぜッ!!」

 

「おう!」という返事が三つ、「命令すんな!!」という罵声がひとつ──誰によるものかは言うまでもない──。いずれにせよ彼らは、リュウソウルをチェンジャーに装填すると同時に走り出した。

 

「Go、ドルン兵!」

「ドルドルッ!」

 

 主らを守護するようにドルン兵の群れが現れ、向かってくる。彼らとの衝突が、戦端の火口となった。

 

「うぉらぁッ!!」リュウソウケンを振るいつつ、「リュウソウチェンジ!!」

 

 ワッセイワッセイと、戦場には不釣り合いな賑々しい音声が流れ出す。とはいえ彼らの剣技は、それと相俟って踊るようでもある。流麗に舞いながら敵の長槍を弾き飛ばし、斬りつける。

 さて、そろそろいいだろう。彼らは示し合わせたようにリュウソウケンを敵に突き刺し、同時にチェンジャーに手をかけた。

 

『ケ・ボーン!──リュウ SO COOL!!』

 

 五人の全身を竜装の鎧兜が覆っていく。刹那彼らは、突き刺した剣を勢いよく引き抜いた。倒れたドルン兵の群れが次々に爆発していく。

 

「むぅ……時間稼ぎにもならナッシング!」

「しゃーない、行けぇマイナソー!!」

「カレロ……!」

 

 マイナソーはその全身の様相に違わず、高温の炎を発して攻撃を開始する。それらは直接触れずとも、一定の距離にあったものをことごとく炎上させながら迫ってきた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に散開し、回避する五人。リュウソウメイル越しにも肌がちりつくような熱を感じる。これの直撃を受ければ、火傷では済まないかもしれない。

 

「この乾燥した環境では、火の威力が高められてしまう……!」

「ッ、ミストソウルを使う!かっちゃん、良いね?」

「チィッ!!」

 

 返ってきた舌打ちは、カツキの言動パターンに照らし合わせれば承諾にほかならない。イズク──グリーンは躊躇なくそれをリュウソウケンに装填した。

 

『ミストソウル!うるおう〜!』

 

 右腕がリュウソウメイルよりやや薄い緑色の装甲に覆われる。と同時にたっぷりと水分を含んだ霧が噴射され、辺り一帯を包み込んだ。

 

「よし、これで……!」

 

 敵の火力は弱まる。こちらも条件としては同じだが、もとより炎に包まれている相手にブットバソウルやメラメラソウルを使っても意味がない。ブラックが渋々了承したのも、つまりはそういうことだった。

 

「よし、今のうちに一気に攻めるぞ!──ハヤソウル!!」

「オモソウル!」

「カタソウル!」

「ツヨソウルゥ!」

 

 グリーンが水霧を噴射し続ける中で、四人は攻勢に出た。それぞれの得意とするソウルで竜装し、一気呵成に走り出す。

 

『ビューーーン!!』

『ドォーーン!!』

『ガッチーン!!』

『オラオラァ!!』

 

 次々に斬撃、及び鉄球の一撃を炸裂させていく。すべて直撃をとった、はずだった。

 

「────!?」

 

 違和感は、即座に襲ってきた。燃え盛る身体に確かに刃が喰い込んだはずなのだ。にもかかわらず、まったく手応えがない。

 

「カレロォ!!」

 

 刹那、激昂するかのように劫火を噴き出したマイナソーによって、四人は噴霧もろとも吹き飛ばされていた。

 

「ぐああっ!?」

「みんな、大丈夫!?」駆け寄るグリーン。「どうなって──」

「ッ、あいつ実体がねえ……!中まであの炎だけだ!!」

 

 ブラックの叫びに、ワイズルーがくつくつと笑いながら反応する。

 

「イグザクトリー!このウィル・オー・ウィスプマイナソーは炎の塊、それ以上でもそれ以下でもナッシング!」

「斬っても叩いても意味ねーんだよ、わかったかブァーーーカ!!」

「──だったら、これだ!」

 

 グリーンが手に取ったのは、

 

「──ドッシンソウルッ!!」

『強!リュウ!ソウ!そう!──この感じィ!!』

 

 どしんと揺れるような音声とともに、リュウソウグリーンの胴体を騎士竜パキガルーを模した装甲が覆っていく。

 

「うおぉぉぉぉ──ッ!!」

 

 反撃を許す間もなく一気に距離を詰め、これでもかと殴りつける。打撃も通用しないとクレオンは言ったが、ドッシンソウルには衝撃を伝播させる能力がある。その威力にモノを言わせて、ブッ飛ばす!

 

「ディーノ、ソニックブロー!!」

 

 果たしてその烈破に押され、マイナソーは吹き飛び湖の中に墜落していった。火でできた身体は、膨大な水を前には吹けば飛ぶようなもの。無論ただの火ではなくマイナソーであるからそれだけで倒せたとは思わないが、だとしても──

 

 そのときだった。どこからともなく男性がふらふらと歩いてきて、ワイズルーたちの傍らに立ったのは。

 

「!、あの人──」

「ちょっ……危ねえっスよ、そっから離れて!」

 

 レッドが退避を促すが、男は従わない。それどころか、やつれた表情に醜悪な笑みを張りつけ、言い放った。

 

「俺の、怨みの炎は……こんなものじゃ消えない……!」

「!、てめェまさか──」

 

 ブラックが"それ"を口にしようとした瞬間──先んじて確証を示すかのように、男の身体から緑色のエネルギーの塊が抜け出ていく。

 それらは水中のウィル・オー・ウィスプマイナソーの身体に吸い寄せられていき、

 

「!、カレロォォ!!」

 

 咆哮とともに──さらに、その火力を増幅させた。

 

「あ……見て!湖が──」

 

 ピンクが指差した先で、ボコボコとあぶくが浮き上がる。それだけではない──白い水蒸気までもが、湖じゅうから立ち上りはじめているではないか。

 

「な、何が起きてんだ……?」

「!、そうか!」ブルーが声を張る。「マイナソーの発する炎のために、湖中の水温が急上昇しているんだ……!このままでは生態系が死滅するばかりか、湖そのものが干上がってしまう!!」

 

 そんなことになれば、この街は生命線であるオアシスの一部を失うことになる!咄嗟に動いたブラックがノビソウルで攻撃を仕掛けたが、実体のない相手には通用しなかった。

 

「クソが……!」

 

 そのとき、ちょうどコタロウが追いついてきたことにレッドが気づいた。すかさず彼に対して声を張り上げる。

 

「コタロウ悪ィ、ショート捜してきてくれ!!」

「えっ、捜せって……街じゅう全部ですか!?」

「ごめんだけど、今はそうしてもらうしかないんだ!」

 

 この街がどれだけ広いかわかってるのかと叫びたくなったが、実際不可能だと言い切れるかといえばそうではない。それを要請してくる彼らは、比でない困難を幾つも乗り越えてここにいるのだ。

 

「〜〜ッ、ああもうっ、あとでごちそう奢ってくださいよ!」

 

 半ばやけくそでそう叫ぶと、踵を返してコタロウは走り出した。ここに来るのに全力疾走せず、マイペースを保っていたのが不幸中の幸いか。

 

「頼むぜ、コタロウ……!」

 

 彼に命運を託しつつも、五人の騎士たちは懸命にマイナソーを引きずり出す算段をする。しかしそれを邪魔するように、ワイズルーが襲いかかってくる。

 

「フフン、ゴールドが来るのと湖が干上がるの、どちらが早いか☆NA〜!?」

「ッ!」

 

 こうしている間にも、湖の水温は上がり続けている。それを止めるためには──

 

「ッ、とりあえず、これなら……!──ギャクソウル!」

『ギャクソウル!クルリンパっ!』

 

 なんらかの状態変化を起こしたものを元の形態に戻すギャクソウル──その力で、湖を通常の水温に戻すことに成功する。しかしそれは一時的な効果であって、ウィル・オー・ウィスプマイナソーが湖中にいる限りいたちごっこになるだけだ。

 

「ショートくんが来るまで、これでなんとかするしかない……!──みんな、ワイズルーを抑えてくれ!」

「わーっとるわァ!!」

 

 

 *

 

 

 

 その頃ショートは、ようやく逃避にひと区切りをつけて路地裏に隠れることに成功していた。

 

「ふぅ……戦闘中以外でこんなに走ったのは久しぶりだ」

 

 そう言いつつも、息ひとつほとんどあがっていない。対するモモは、肩で呼吸をしているありさまで──同年代の少年であるにもかかわらず、彼の鍛え方や経験は自分の比ではないのだと思い知らされた。

 

「ショートさんは随分、場数を踏んでらっしゃるのね……」

「別にそうでもねえ、実戦に出たのはここ半年とかそれくらいの話だ。……あぁでも、小さい頃からそのための鍛錬は積んできたが」

「やはり……そうですのね……」

 

 モモの瞳に愁いが宿る。

 

「……わたくしも、物心ついた頃から勇者(ヒーロー)に憧れていましたの。今この国は統治体制が崩壊し、富める者と貧ずる者の間を取り持つことができなくなっている。そこにドルイドンの脅威があって、どうしようもなくなり悪の道に走る方々も、大勢いらっしゃいますわ」

「そう、みたいだな」

 

 これまで旅してきた街や集落でもそうだった。表向きはみな後ろめたいことなどあってなきがごとく明るく生きているけれど、路地ひとつ挟めばそこには貧民たちがいる。集落と集落をつなぐ街道に至っては、堂々と山賊が闊歩しているありさまだ。ショートたちにとってはなんの障りもないけれど、無辜の人々にとってはドルイドンと変わらぬ脅威だったろう。

 

「ですから、せめて困っている人が悪に堕ちることのないよう、手を差し伸べられたら……そう思って、勇者を目指しました」

「立派じゃねえか。それで本当になったんだろう、勇者に」

 

 確認ほどの意味もない言葉だったが、モモの反応は曖昧なものだった。

 

「……わたくしの生家は、いわゆる豪商というものでして。親類縁者の中からは複数の代議員を出しているような家柄ですの」

 

 ダイギイン、というのが何かはショートにはわからなかったが、とにかく富裕で立派な一族の出身であることは理解できた。同時に、それをひけらかすつもりで告白したのではないことも。

 

「わたくしは、当主のひとり娘でして……物心ついた頃から、後継者として周囲から期待されていました。勇者になると伝えたときには、断固として反対されました。それを振り切って、家を飛び出してきた……つもりだったのですけど──」

 

 そのときだった。たたたっと軽やかな足音が迫ってくるとともに、小柄ながら鋭い顔立ちの少女が眼前に立ちふさがったのは。

 

「!」

「……やはりあなたのお耳からは逃れられませんのね、キョウカさん」

「……戯けている場合じゃありませんよ、お嬢様……。今日という今日は、一緒に帰っていただきます」

 

 キョウカと呼ばれた少女は肩で息をしている。彼女らのやりとりから、追手は少なくともモモの生命を害する存在ではないのだとショートは理解した。

 

「わたくしは帰りませんわ……!跡取りとして家を栄えさせるより、今目の前で困っている方々のお力になりたい。その想いだけは、幼い頃から何ひとつ変わっていませんもの」

「ッ、だからって、家族を……そこに仕える大勢の人たちを見捨てるんですか!?」

「……ッ、」

 

 その言葉には、モモも怯んだようだった。キョウカがなおも続ける。

 

「いいですかお嬢様、この国には勇者を名乗って戦う人たちなんて数えきれないくらいいます!お嬢様がそこに加わるまいと、大勢にはなんの影響もありません。でもお嬢様が家を継がなければ、要らぬ苦しみを味わう人たちが大勢いるんです!」

「………」

「これは──あなたの使命なんです!!」

 

 使命──その言葉にはっとしたのは、モモだけではなかった。幾度となくその言葉を聞き、また自らも使用している少年がすぐ隣にいたのだ。

 

「わたくし、は……」

 

 他ならぬ"仕える者"のひとりであるキョウカの言葉に、モモはひどく揺らいでいた。その果ての結論は、自分自身で出すべきだ。ショートもそれはわかっている、けれど。

 

「──確かに、使命は大事だ」

「!」

 

 淡々とした言葉に、ふたりの視線が集中する。

 

「俺も、海……故郷を守る、そのために戦うことが使命だと聞かされて育った。それ自体、今でも間違っちゃいねえと思う。……でもそれだけしか見えねえままだったら、俺は今、ここにいない」

 

 ショートは顔を上げ、そのオッドアイでふたりを見回して、告げた。

 

「自分が本当になりてぇモンを見られねえヤツに、大事は成せない」

「──!」

 

 目を見開いた少女たちに、沈黙が訪れる。明確にモモの肩を持つわけではない、ただそれが現実なのだと指摘するだけの言葉だった。その渦中にあって、ショートは凪いだ瞳のまま立ち尽くしている。

 そこに、第四の足音が迫ってきた。

 

「はぁ、はぁ……やっと見つけましたよ、ショートさん」

「……コタロウ?」

 

 肩で息をしているコタロウは、何やらブツブツと独りごちているようだった。「騒ぎなんか起こして」だとか「でもそのおかげで」だとか……とにかく自分を捜し回っていたことだけは確かだった。

 

「どうしたんだ?」

「どうしたじゃありません、マイナソーが出たんです。全身火でできてるヤツで、湖に飛び込んで……湖の水が蒸発しそうなんです」

「!、わかった。すぐに行く」

 

 戦士の顔になったショートは、なんのつもりかコタロウをひょいと担ぎ上げた。

 

「ちょっ……何すんですか!?」

「疲れたろ。それに、このほうが早ぇ」

「〜〜ッ、あーもう、どいつもこいつもっ!」

 

 少年ながら合理的思考をもつコタロウであるから怒鳴りながらも渋々受け入れたが、どいつもこいつも微妙な年頃の子供に対する配慮がなさすぎる。ただショートの場合、むしろ身体が小さいだけの同輩としてコタロウを扱っていて、だから配慮など考えてもいないというところでもあるのだが。

 いずれにせよ走り出そうとしたショートだったが、「あ」と声を洩らして立ち止まった。

 

「モモ。……その娘、大事な友だちなんじゃねえのか」

「!」

 

 今までの会話で、どうしてわかったのだろう。瞠目するモモに対して、彼は微笑みかけた。

 

「受け入れてほしいなら、今のおまえをちゃんと見せてやれ。それだけはせめて、果たすべき責務なんだと思うぞ」

 

 それだけ告げて、今度こそ戦場へと出撃するのだった。

 

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