リュウソウジャーの面々は、手分けしてタマキの捜索にあたっていた。
ひたすら駆けずり回り、ときには街ゆく人々に聞き込みをしながら、手がかりを求めていく。
しかしタマキは、あの人を忍び世を忍ぶ言動のせいか、どこにもほとんど痕跡を残していない。
(どこ行っちまったんだよ、センパイ……っ)
早く、早く見つけ出さなければ。何か取り返しのつかないことになってしまうのではないかという漠然とした不安が、エイジロウの中に渦巻いていた。
「──エイジロウくん〜!!」
「!」
ちょうど広場に出たところで、スリーナイツの息がぴったり合ったらしい。どたどたと駆け寄ってくるテンヤに続き、オチャコも別の通りからやってくる。
「なんか手がかりあったか!?」
「いや……それらしい姿を見たという程度は聞けたのだが……」
「見ただけで、気づいたらいなくなってたって……」
「ッ、やっぱりか……」
考えたくはないが、街の外へ去ってしまったという可能性もある。しかしヒトや建物のかたまりがない外部なら、感覚強化系のリュウソウルが効果を発揮する。
「いったん、街の外を捜してみねえか?」
「ム、そうだな。中はイズクくんたちに任せるというのも──」
それを新たな指針としようとしたときだった。
先ほど自分が駆け抜けてきた路地から、人々の尋常でない狂騒が聞こえてきたのは。
「──!」
タマキが関係しているか否かはわからない。そんなことには関係なく、三人は走り出していた。
果たして、答は後者だった。そこにはドルン兵の群れがいて、人々を襲っていたのだ。
「ドルン兵……!?またワイズルーたちの仕業か!」
「とりあえず、当人らはおらんみたいやけど……」
「とにかく、ブッ飛ばす!!」
獰猛な笑みを浮かべて、エイジロウが先陣を切る。流石、勇猛の騎士というべきか。顔を見合わせて感情を共有しつつも、叡智と剛健の両騎士もそれに続いた。
リュウソウケンを素早く振り回し、ドルン兵の囲みに突入していく。相手の長槍とはリーチの差があるが、そんなものは関係ない。武器の精度も、鍛え方も違うのだ。
そうして質で数を圧倒しながら──彼らはさらに己を強化する、魔法のアイテムを構えた。
「「「リュウソウチェンジ!!」」」
『ケ・ボーン!──リュウ SO COOL!!』
戦う少年たちの身体を竜の影を纒う鎧が覆い、正真正銘の竜騎士へと変えた。
エイジロウの"竜装"した赤い騎士が、
「勇猛の騎士ッ、リュウソウレッド!!」
テンヤが姿を変えた蒼い騎士が、
「叡智の騎士ッ!リュウソウブルー!!」
オチャコの変身を遂げた桃色の騎士が、
「剛健の騎士、リュウソウピンク!」
切り裂かれたドルン兵たちが一瞬直立したまま硬直すると同時に、三人は声を揃えた。
「「「正義に仕える三本の剣──」」」
──騎士竜戦隊、リュウソウジャー!!
同時に、ドルン兵たちがばたばたと倒れ伏す。街を震撼させた異相の兵士たちは、竜の加護を得た三人の騎士たちによって一分と経たずに殲滅されたのだった。
「っしゃあキマった!誰も俺らの名乗り聞いてねえけど……」
「それは残念だが……そんなことより、いったいドルン兵だけで何をしていたんだ?」
最近もこんなことがあった。と言ってもそのときはクレオンが単独で出てきたのだが、いずれにせよ死ぬような思いをする羽目になったことには間違いない。
その当事者となったピンクはとりわけ周囲を警戒し、目を光らせていたのだが──
「……何、あれ?」
地面に何か落ちている。よくよく目を凝らしてみればそれは、豪奢な紋様の描かれたランプと呼ばれる照明器具だった。
「あかん、めっちゃ綺麗や……」
「誰かが落としていったのか?」
目的は別にしてランプに歩み寄っていくふたり。ブルーが慌ててとどめようとしたときには、時すでに遅し。
ランプの蓋がひとりでに開いたかと思うと──中から、筋骨隆々の大男が飛び出してきたのだ。
「!!?」
「ネガイマシテーハ!!」
片言めいた言葉を発すると、大男は拳を振り上げた。そして次の瞬間、
「ぐあぁッ!?」
「きゃああっ!?」
その巨大な拳に叩きのめされ、ふたりはブルーの足下に戻ってきた。情けなく地面を転がって、だが。
「い、痛たた……」
「まったく、少しは学習したまえ!!」それにしても、である。「あれもマイナソーか……。ということは──」
「Exactly!」と聞き慣れた声が響き、いかにも一般市民といった風貌の男が路地に出てくる。その足下からどろりと粘体が染み出すのと同時に、男はその正体を露にした。
「イッツ・ショータァァイム!!」
「Oh,Yeah!」
「ッ、ワイズルーにクレオン……!」
彼らが現れると同時に、大男がしゅるしゅるとガスのようにランプに引っ込んでいった。しかし完全には姿を消さず、小石ほどの大きさに縮小した頭部をそこから覗かせていた。
「フハハ、見事に引っ掛かってくれた☆NA!」
「ッ、なんなんだそいつ、それもマイナソーなのか!?」
「おうともよォ!コイツは"ジンマイナソー"っつってヨ、普段はランプに住んでんだけど主人である俺らの願いを聞いてなんでもしてくれるんだ☆YO!」
ヨーヨーと相変わらずノリノリな二体。つい数時間前までも散々やりたい放題やっていたとは思えない体力オバケどもだが、まったく感心はしない。ただただ憎らしいばかりだ。
「今はおめェらと遊んでる場合じゃねえんだッ、一気にブッ倒す!!──テンヤ、オチャコ!!」
「うむ!」
「おっけ!」
それぞれのカラードリュウソウルを鍔に装填し、
『レッド!』
『ブルー!』
『ピンク!』
「はあぁぁぁぁぁ────」
「「「トリプル、ディーノスラァァァッシュ!!!」」」
『剣・ボーン!!』
ティラミーゴとトリケーン、アンキローゼのエナジーが混ざり合ってひとつとなり、標的めがけて喰らいつく。
「ノォン、そんないきなり!?」
「チッ、行けジンマイナソー!」
「ネガイマシテーハ!」
再びランプから大男が飛び出してくる。それと同時に剣波が到達し、ひときわ大きな爆発が起こる。
紅蓮に染まる光景を前に、レッドが思わず「やったか……?」とつぶやく。ある意味魔法の言葉なのだが、彼らがそういう"お約束"を知るはずもなく。
次の瞬間、爆炎の中から飛び出してきた魔人の拳が、ブルーを直撃していた。
「ぐあぁぁッ!?」
「テンヤっ!?」
それはあまりに痛烈な一撃だったらしい。地面を転がったブルーは俯せに倒れ伏し、そのまま動かなくなってしまった。
「ちょっ……テンヤくん!?テンヤくんっ!!」
「息してるかっ!?」
「しとる、けど……──そうだ、カガヤキソウルで癒せば!」
「それだ!カガヤキソ……」構えようとしたところではたと気づく。「しまった、ショートが持ってんだった……!」
「えぇ〜っ、何やっとんねんもうーっ!!」
こういうとき、別行動だと不便極まりない。ともあれワイズルーとジンマイナソーを相手に、手負いのテンヤを抱えてふたりだけでは厳しいものがある。
「……しょうがねえ。オチャコ、テンヤ連れて退け。そんで皆を呼んできてくれ」
「え゛っ、ひとりでここもたせる気なん!?」
「防御に徹すりゃなんとかなる!連中放っておくわけにゃいかねえし、このままじゃテンヤも危ねえ!」
「だけど──」
「頼む、オチャコ!」
有無を言わせぬ彼の言葉──最善ではなくとも、瞬時の判断としてオチャコはそれに従わざるをえなかった。
「〜〜ッ、すぐ戻るから!」
ハヤソウルを使用した彼女は、自分より圧倒的に体重のあるテンヤを肩に担いで疾風迅雷のごとく駆け抜けていった。「すげぇ」と感心したようにつぶやくのはエイジロウではなくクレオンである。彼らも彼らでオチャコのパワーは何度も目の当たりにしているはずなのだが。
「フン、頼りになるガールフレンドはRun awayしてしまった☆NA!独りで我々を相手にするつもりか〜い?」
「……まぁ、勝つのは正直厳しいかもしんねえけどな」
そこは素直に認める。無理に口だけ強がる必要性を、今に限っては認めていないエイジロウである。何故なら、
「俺は、そう簡単に倒れねえぜ……!」
こと"耐える"ことに関しては、絶大な自信がある。赤竜の鎧兜の下で、勇猛の騎士は鋭い歯を剥き出しにして笑っていた。
*
路地裏に、くぐもった苦悶の声が響いている。それは他でもない、隠れ潜んでいたタマキ青年のもので。
「ぐっ!?……うぅぅ、ぐ、あぁ……っ」
胸を押さえて蹲るタマキ。その周囲に、像のゆがんだ鎧のパーツが無数に浮かび上がる。それはガイソーグの鎧の欠片に他ならなかった。
「ッ、」
それらを強引に振り払う。苦しみながらもそんないたちごっこを続けていると、ようやくあきらめたのか鎧の欠片たちがひとつずつ消えていく。苦痛が消えて、タマキは深々と息をついた。
「……もう、時間もないか……。俺は──」
不意に、その三白眼がじろりと通りのほうへ向けられた。
「……こそこそ隠れているなんて、騎士竜に選ばれたリュウソウジャーらしくないよ」
「………」
姿を現したのは、イズクだった。その右手にはリュウソウケンが握られている。ただ、その瞳に警戒の色は宿っていても、明確な敵意……あるいは殺意ではなかった。イズクは良くも悪くも己の感情を隠すことが不得手な少年だから、他人の顔色を窺いがちなタマキにはすぐにわかった。
「……俺を、斬りに来たわけじゃなさそうだな」
「ええ、僕は。でもかっちゃんは、そのつもりでいると思います」
(そう、だろうな)
イズクがこうであるように、カツキもまたそういう少年だろう。タマキは皮肉めいた笑みを浮かべた。
「タマキ先輩……ガイソーグとしては僕らを攻撃していたあなたが、どうして僕らに力を貸してくれたんですか?その矛盾の訳が、どうしてもわからない。知りたいんです」
「………」
「タマキ先輩!」
歩み寄ってこようとするイズクを、タマキは手で制して立ち上がった。その澱んだ瞳をじろりと向けられ、イズクは思わずごくりと唾を呑み込んだ。
「……見極めたかったんだ、きみたちリュウソウジャーを。特に──マスターレッドによく似た、あの子のことを」
「エイジロウくん、ですか?」
「……ああ。俺は彼らが旅を始めて間もない頃から、密かにその動向を見張っていた。彼は特別な才能があるわけでもない、しかしその明るさとひたむきさで、不思議と皆の心をひとつにまとめていた。きみとカツキ、そして海の王国の王子のこともだ」
それはイズクとしても全面的に同意するところである。ハリネズミのように他人を威嚇し近づけようとしないカツキでさえ、今では──口ではともかく──エイジロウとふたりで行動をともにすることもあるくらいには気を許している。そこから拡がって、リュウソウジャーはコタロウも含めたチームを形成することができているのだ。
「彼は、見込んだ通りの男だった……。彼の放つ輝きは、あまりに──」
「………」
「……きみとカツキが気にかけているのは、ガイソーグの鎧のことだろう?」
すべてを見透かしたように、タマキは言った。そして、
「今から、二百年近くも昔の話だ」
その頃には既に、ドルイドンの一部がこの星に帰還し、世界を我がものにしようと暴虐の限りを尽くしていた。リュウソウ族の騎士たちはその使命に殉じ、彼らとの激しい戦いに挑んでいった。
「その中でもとりわけ活躍したのが、当時まだ少年ながら神童と持て囃されたマスターブラック、そして既にリュウソウ族一の英雄として名高かったマスターグリーンだった。しかしマスターグリーンは、その戦いで命を落とした──」
それは、イズクもカツキも幼い頃に習ったリュウソウ族の歴史である。しかも当時にしてたった数十年前、リュウソウ族の感覚でいえばついこの間の出来事。しかしひとつだけ、不自然なことがあった。マスターブラックも他の大人たちも、英雄としてマスターグリーンの事績を語る一方でそれ以上のことには口が重かった。
その理由を、タマキは知っていた。
「それは、表向き語られたことだ」
「えっ……」
「死んだとされたマスターグリーンは、実は生きていたんだ」
「……!」
そんな、ことが。驚きのあまり一瞬言葉を失うイズクであったが、すぐにひとつ疑念が湧いた。タマキはいったい、どこでどうやってその事実を知ったのか。
「ガイソーグの鎧を纏うと、歴代の装着者たちの記憶が見える」
「!、それって──」
「……ああ」
──マスターグリーンは、ガイソーグの鎧でドルイドンと戦っていた。
「でも……どうしてそれが、死んだことにするって──」
「……ガイソーグの鎧を長く身に纏った者は、心の弱い部分に付け入られて鎧に支配される」
「!」
「ドルイドンを撃退したあと、マスターグリーンは鎧に精神を支配された。そしてそのまま、リュウソウ族の村のひとつを跡形もなく破壊したんだ」
イズクは目を見開きながら、もはや声も出せなかった。自分の先代にあたる人物が、英雄と呼ばれていた人が、そんなことを──
「自らの破壊衝動を抑えきれなくなったマスターグリーンは、ドルイドンと同じように宇宙へと姿を消した。そこで彷徨い続け、やがてひっそりと死んでいった……。その苦悩を、絶望を、確かに俺は見たんだ」
「そん、な……でも、どうして……その鎧をあなたが?」
「……ミリオへの、罪滅ぼしのつもりだったんだ。俺のせいで、何も為せないうちに彼は死んでしまった。だからせめて、俺が力を得て、戦わなくちゃいけない……たとえそれが禁断の力であっても……。だから探して、探してっ、宇宙の果てまで探し続けて!!……ようやく見つけたんだ、償うための力……!」
タマキの眼がかっと見開かれる。その瞳孔が毒々しい紫に染まっているのを目の当たりにして、イズクは息を呑んだ。
「……でも、マスターグリーンが制御できなかったものを、俺なんかが扱えるわけがなかった……。俺は強い相手を求めて、それを打ち負かすことしか考えられなくなってしまった……!俺は償うどころか、ミリオを……俺を信じてくれたあいつの思いを、ますます踏みにじって……だから──!」
「………」
タマキが深々と息を吐き出す。その長い独白はこれで終わりのようだった。
ならば、イズクにも言うべきことはある。
「まだ、間に合います」
「……?」
タマキが澱んだ目を向けてくる。イズクはまっすぐにそれを見つめ返した。
「あなたが、それを悔やむ気持ちがあるなら。……やっぱり、あなたを信じたいと言ったエイジロウくんの気持ちは間違ってなかったんだ」
「……彼が、俺を?」
「はい。彼はまず相手を信じて、受け入れようとする……そういう人だから。タマキ先輩も、そういうエイジロウくんを見てきたんでしょう?」
「………」
タマキは答えない。そのまま踵を返す彼の背中に向かって、イズクはひときわ声を張り上げた。
「タマキ先輩!僕もあなたを信じますっ!だからもう一度立ち上がってください、絶対に!絶対にっ!」
返事はない。それでもイズクの気持ちは、欠片も揺らぐことはなかった。