【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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33.旋律の砂塵 1/3

 

「太陽は、ふたつも要らない……!」

 

 血に染まった背中を晒して倒れ込むエイジロウに向かって、タマキが吐き捨てた言葉はあまりにも昏く冷酷なものだった。先ほどの決然とした宣言と相俟って、この光景は悪夢かワイズルーの策略による幻術の類いなのではないかと一瞬疑ったほどだ。

 

 いや──リュウソウジャーの面々にとって、そうであってほしかったという願望にすぎなかったのだ。それは。

 

「エイジロウくんっ!!」

 

 叫んで駆け寄りながら、イズクはタマキの語ったある言葉を思い起こしていた。

 

──ガイソーグの鎧を長く身に纏った者は、心の弱い部分に付け入られて鎧に支配される。

 

「エイジロウくん……!」

「しっかりするんだ、エイジロウくん!!」

「う……っ、うぅ、ぐ……っ」

 

 幸い、傷は肉が裂ける段階で収まっているようだった。呻きながらも意識ははっきりしている。

 だからといって、なんだ良かったと胸を撫でおろしていられるわけもない。「てめェ!!」と怒鳴りたてながら、激昂したカツキがタマキに斬りかかっていく。

 

「死ィねぇぇぇ!!」

「ッ!」

 

 精神面はともかく、剣の腕においてはミリオと並んでリュウソウジャーの後継候補に挙げられただけの実力をもつタマキである。怒りにまかせた斬撃を受け止め、容赦なく反撃に打って出る。──その瞳は、イズクの想起を裏付けるかのように毒々しい紫に染まっていた。

 

「……ッ、──ガァアアアアアッ!!」

 

 獣のような雄叫びだった。少なくとも一瞬、あれだけ激情に駆られたカツキが動揺するほどには。

 その一瞬の間に、タマキの全身は鎧に覆われていた。絶大なる闇の力が、カツキの身体をいとも簡単に吹き飛ばす。

 

「ぐぁ……ッ!?」

「かっちゃん!?」

 

 カツキと入れ替わるように、鋭い目をして前に進み出たのはショートだった。

 

「エイジロウはあんたを信じてたんだ……!それをよくも──!!」

 

 リュウソウルを構える。しかしそれをモサチェンジャーに装填しようとした瞬間、背後から制止された。手を伸ばしたのは、テンヤだった。

 

「待て!今はエイジロウくんの治療が先だ!」

「ッ、だが!」

 

 ガイソーグは明確にこちらへの害意をもって迫っている。相手が破壊力の高い攻撃技をもっている以上、エイジロウを守りながら戦うというのは得策ではなかった。

 

「ッ、いったん退こう。カクレソウル!」

 

 カクレソウルで姿を消し、そのまま撤退する。獲物を取り逃がした呪詛の鎧は、憤怒のまま装着者に雄叫びをあげさせた。

 その力は、確実にタマキの心を侵食していた。

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、それとはまったく関係ないところでため息をつく少女がいる。

 彼女の名はキョウカ。幼なじみであり、自らの仕える家の次期当主候補でもある娘を追ってはるばるこの街までやってきた少女である。

 

 暫くは主人であるモモとともにこの街に滞在することにした彼女は、買い出しに出かけていた。ただいまは紙袋を抱え、宿に戻る道中である。いつまで逗留することになるかはわからないが、その後のことはさらに闇の中だった。勇者(ヒーロー)として危険も顧みず勇敢に戦場へ駆け込み、怪物(マイナソー)の弱点を冷静に炙り出したモモ。その姿に感動し、彼女を応援したい気持ちが生まれたのは確かだった。しかし自分の一存で彼女を見逃してしまうかどうか、正直まだ踏ん切りがつかない。

 迷っていることはもうひとつある。──自分自身のこれからのことだ。

 

「………」

 

 楽器屋の店先に並ぶ弦楽器を前に立ち止まりながら、キョウカはとりとめもなく考える。主が自由に羽ばたいていこうというなら、従者である自分はどうなのかと。幼少時代、一度は夢見、しかし己の身上がゆえにあきらめ押し込めたもの。蓋をしたはずのそれが今、吹きこぼれようとしている──

 

「フゥム、これはエクセレントな楽器……」

「!」

 

 急に傍らから美声が響いたものだから、キョウカはぎょっとしてそちらを見た。果たして声の通りの細身の美青年がそこに立ち、楽器を品定めしている。

 

「これなら最高オブ最高のミュージックを奏でることができそうだ。……キミも、そう思うだろう?」

「え、ええ……。あの、あなたは?」

「私は名も無きエンターティナーさ。キミもそのクチかい?」

「いや、まさか……。音楽好きだし、ほんとはそれで食べていけたらとは思いますけどね。ウチは、やらなきゃいけないこともあるし──」

「ふぅん。──しかしキミの心は、既にアツいビートを奏でているようだが?」

「えっ……?」

 

 すべてを見透かしたような青年の瞳。どこか危険な"音"をその奥から感じとりながらも、惹かれていく自分をキョウカは止められずにいた。

 

 

 *

 

 

 

 宿に運び込まれたエイジロウは、ベッドに俯せに横たえられた状態で苦しげに呻いていた。いちおう止血はしたが、傷は決して小さなものでない。あと数ミリでも深く刻まれていたら、命さえ危うかったのではないかと思われるほどだ。

 

「ショートくん、カガヤキソウル貸して!」

「ああ」

 

 手渡されると同時に、白金色のリュウソウルを剣に装填するオチャコ。癒しの光がエイジロウを包み込む。刀傷などそれで一瞬のうちに治癒させられる──そう確信していたのだが、

 

「!?、ぐッ、あ゛ああああっ!!」

 

 果たして"それ"は気付けの効果はもたらしたものの、肝心の傷にはどういうわけかまったく作用しなかった。かえって痛みを鮮明に感じるようになってしまったことに、とりわけオチャコは焦った。

 

「えっ、な、なんで!?私なんか間違えた!?」

「いや……そんなことは──」

「──違うティラ!」

「!」

 

 そう言って窓の隙間から入り込んできたのは、エイジロウの相棒ティラミーゴ(ミニ)だった。

 

「シャインラプターは、リュウソウ族同士の争いでじぶんのソウルが使われないように制限をかけてるティラ!きっとそのせいティラ!」

「この傷が同じリュウソウ族によってつけられたものだから、効果がほとんど発動しねえってことか」

「そういうことティラ!」

 

 ならばシャインラプターに頼めば、とも思ったが、ソウルそのものはかの騎士竜の意識とは切り離されている。今すぐどうこうできる問題ではなかった。

 結局、イズクの持っている薬草で一般的な治療を施し、快癒を待つ──現状では、そうするよりほかないのだった。

 

 

 *

 

 

 

 長い長い白昼は終わり、砂塵の街にもようやく夜が訪れた。星も瞬かない漆黒の空の下で、街は死んだように眠りにつこうとしている。

 

「………」

 

 その光景を、イズクは宿のテラスから見上げていた。いつもは幼子のようにきらきら輝いている大いなる翠の瞳には、年頃の少年としても甚だ深い懊悩が浮かんでいた。

 

「なに黄昏れてんだ、クソナード」

「!」

 

 イズクに対してそんな呼び方をするのは、世界においてただひとりである。予想するまでもなく振り向けば、そこには生まれて百五十余年をともにした幼なじみの姿があった。

 

「かっちゃん……いや、ちょっとね」

「あのクソ陰キャのこったろ。誰でもわかることを勿体ぶんなや」

 

 はは、と空疎な笑みが洩れる。気遣いとは無縁のように思えるカツキの言葉が、今は清涼剤にすら思える。

 

「あいつに、同情でもしてンのか」

「……同情、なのかな」それも否定はできないけれど、「ううん、"共感"っていうほうが正しいかもしれない」

「どっちも同じだろ」

「全然違うよ。いや語源は似たようなものかもしれないけど、使われてる意味合いとしては」

「じゃあ、ナードくんはアレの何に共感したっつーんだよ」

 

 カツキの容赦ない尋問に対し、イズクは皮肉めいた笑み──仲間たちにもそう見せたことのない──を浮かべて応じた。

 

「僕にも、太陽と呼べる人はいるから。それを失うようなことが万が一にもあったら……そんなこと想像したら、さ」

「………」

「もちろん、エイジロウくんを斬ったことは許せないけどね」

 

 イズクにとっての"太陽"が誰を指しているのか、自惚れるまでもなく見当はついた。ただ、それを手放しに受け入れられるほどカツキは単純な性格をしていない。

 

「……てめェは主観でしか物事を見てねえ。だからアイツに共感したなんてぬかせんだ」

「僕、そんな見当外れなこと言ってるかな……?」

「てめェとアイツは違ぇ。──てめェは太陽がなくなろうが、世界が滅びようが、最期の一瞬まで他人を救けることしか頭にねえだろうが」

「!、………」

「……そういうてめェだから、タイガランスは自分(てめェ)の相棒に選んだんだ。クソムカつくことにな」

「……かっちゃん、」

 

 イズクが彼の言葉を咀嚼するのに時間を要していると、カツキは不意に身体をぶるりと震わせた。

 

「寒っみィ……風邪ひくわ、クソが」

「アハハ……もう寝ようか?」

「言われんでも寝るわ、じゃあな」

 

 マントで身を包みながら、部屋へ踵を返すカツキ。そのまま暗がりの中へ消えかけて──不意に立ち止まる。

 

「……俺ぁ絶ッ対てめェより先には死なねえ。てめェの太陽とやらが失われることはねえよ、良かったな?」

「!」

 

 首をわずかにこちらへ傾け、意地の悪い笑みを浮かべるカツキ。イズクは胸が温かくなるのを感じた。太陽は太陽でも砂漠の白昼のような灼熱を発し続けている彼だが、まれにこういう柔らかな日差しを降らせてくれることもある。そういうところが、どうしても憎めないのだ。

 

「……かっちゃん。やっぱり僕、タマキ先輩を救けたい……!」

「………」

 

 カツキはもう何も言わなかったけれど、今はそれで十分だった。

 

 

 *

 

 

 

 刹那の夜は一瞬にして過ぎゆき、朝日に照らされた世界が橙に染まりはじめる。

 

 眠りから醒めようとしている街を、蔑むように見下ろす複数の影があった。そのうちのひとつは──ドルイドンに付き従う死の商人、クレオンのもので。

 

「ワイズルーさま、いよいよ本気ってカンジだなァ……」

「……ビートォ……」

 

 彼の隣には、その1.5倍はあろうかという背丈と、屈強な体躯をもつ異形の怪人が立っていた。黒光りする光沢のあるボディに、特に目立つのは頭頂から伸びた巨大な一本角である。

 

「さぁてと……おシゴト開始だ、ヘラクレスマイナソー」

「ビートォ……!」

 

 その丸太のような腕の中に、武器……とも思えない巨大なオブジェクトが顕現する。瓢箪からマイナソー当人?よろしく一本角が突き出している。その表面には六本の糸が極限まで張り詰められた状態で装着されていて──

 

「ビー、トォ!!」

 

 ヘラクレスマイナソーの手がその糸を掻き鳴らしはじめると同時に、烈しいメロディが街に降りそそぐ。

 果たしてそれが何をもたらすのか──知るものは彼ら、悪しき魂しかいないのだった。

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、療養中のエイジロウを除くリュウソウジャーの面々は早くも行動を開始しようとしていた。

 

「正直、今のタマキ先輩は何をしでかすかわからないと思う……。彼がガイソーグの力に呑み込まれる前に見つけ出して、捕らえないと」

「捕らえて、その先はどうすんだ?」

 

 冷静にショートが問う。それに対する答を、問われたイズクもひと晩考え続けていた。

 

「どうするって、ガイソーグの剣とソウル?、没収しちゃえばええんちゃうの?」

「ンな簡単なハナシならとっくになんとかなっとるわ、ちったぁ考えろや丸顔」

「ッ、クソ煮込み……」

「ア゛ァ!!?」

 

 「ンだそのあだ名ァ!!?」「デンキくんが言っとったもん!」「あンのアホ面ァ!!」という不毛な争いは置いておくとして、

 

「……一応、考えついたことはある。ただ、いちかばちかの賭けになるかもしれない」

「いったい、何をするつもりなんだ?」

「それは──」

 

 イズクが"作戦"について説明しようとしたときだった。

 

「──ッ!?」

 

 急にいずこからか響いてきたのは、耳を劈くような凄まじい轟音だった。

 聴覚にまったくの不意打ちを受けた少年たちは、思わずその場に蹲る。頭の中で、不協和音としか言いようのない無軌道な鋭い音がぐるぐると回っていた。

 

「う、うぅ……ッ」

「皆、大丈夫か?」

 

 尋ねながら、誰からも返答がないことをショートは奇妙に思った。皆、参っているようではあるが意識はあるようだし、不愉快な音ではあるがただそれだけではないというのに。

 しかしそう思っていたのは、ショートだけだったようだ。顔を上げたカツキが、ギリギリと歯を食い縛りながら自身の耳を指差した。そして首を横に振る。普段惚けたところがあっても、戦時の洞察力についてはカツキと張り合うだけのものがあるショートである。その簡素な仕草で、すぐに意味を理解した。

 

「……まさか、耳が聞こえねえのか?」

 

 返答はない。それはつまりショートの推測を裏付けているといえた。

 

「ッ、マイナソーの仕業か……。この不快な音が、聴覚を妨げてるのか?」

 

 ならば何故ショートだけは無事なのか。それは、陸と海のリュウソウ族の体組織構造の違いによるものだった。水圧の高い深海で生活する海のリュウソウ族は、生まれつき鼓膜が頑丈かつ何重にもなっている。それゆえかろうじて、マイナソーの吐き出す音を不快に感じるだけで済んでいるのだ。

 

「ッ、とにかくマイナソーを捜す」

 

 そう独りごちつつ、皆に目配せをする。四六時中寝食をともにしてきた彼らだ、視線だけでも意思の疎通はできる。顔を顰めながらも、四人ははっきりと頷いた。

 

 

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