【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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今日はでくの日
ふっふ〜♪


33.旋律の砂塵 2/3

 

 昨日オニビ、もといウィル・オー・ウィスプマイナソーが蒸発させようとした湖のほとりで、今度はヘラクレスマイナソーが己の衝動に沿った行動に出ていた。

 

「ビート!ビートォ♪」

 

 ジャカジャカジャカジャカ。手に持った巨大な弦楽器を演奏し続ける。そのたびに発せられる狂騒のごとき激しい不協和音は街じゅうに響き渡り、人々を苦悶させるばかりか、その聴覚を破壊しているのだ。迷惑では済まないミュージシャンだが、それは人間たちにのみ適用されるものではなかった。

 

「いやうるっっっせぇぇぇ!!マジでうるっっっせぇなコイツ!!」

 

 耳を塞ぎながら、罵声を浴びせるクレオン。人間の耳を蹂躪するような音を間近で浴びせかけられている以上、人間とはまったく身体構造の異なる宇宙人であっても流石に堪えきれなかったのだ。

 

「ったく、こんなんじゃコッチが参っちまうよぉ……」

「──安心しろ、その前に倒してやる!!」

「!」

 

 はっと顔を上げると、街並みの中から因縁の少年少女が駆け込んでくる。尤もうち四人は、明らかに音のせいで疲弊しきっている様子だったが。

 

「来たなァ、リュウソウジャー!!ってか今、なんか言ったかぁー!!?」

「よく聞こえねえ、もう一回言ってくれ!!」

「え、なんだってェェ!!?」

 

 聴覚を失ったわけでない彼らだが、ヘラクレスマイナソーの演奏がうるさすぎてお互いの声が通らない。

 お互いが段々苛立ちはじめたところで、パチンと指を鳴らす音が響く。それだけはどういうわけか演奏にも負けず耳に入ってきて。

 途端、ヘラクレスマイナソーは演奏をやめた。静寂を取り戻した湖畔だが、悪しき魂たちの存在までもが泡沫のように消えたわけではない。

 

 むしろ本番はここからだとばかりに、痩身の青年が姿を現した。その懐に、小柄な少女を横抱きにして。

 

「!、あれは……」

 

 昨日逢ったばかりの少女、名は確かキョウカと言ったか。直接の会話はほとんどなかったけれど、とりわけショートなどはその容貌を忘れようはずがなかった。

 

「クククク……HAHAHAHA!!」

「その笑い方……おまえ、ワイズルーだな?」

 

 「Exactly!」という応答とともに、青年が邪悪な道化師の正体を表す。そしてそのまま、クレオンとマイナソーの傍に歩み寄っていった。

 

「このパンキッシュガールから生まれたヘラクレスマイナソーは、ものすごくうるさくてありえないほどエグい音楽を奏でるのだ!!そして聴いた者はすっかり魅了されて、その音色しか聞き取れなくなってしまうのでショータァイム!!」

「でもワイズルーさま、アイツ無事みたいっスよ?」

 

 クレオンに指を差され、ショートが顔を顰める。

 

「海のリュウソウ族は、鼓膜が三重なんだ」

「えぇっ、何そのしょーもねえ強みっ」

「しょーもなくねえ、海の底じゃ死活問題だ」

「死ねばよいのでショータァイム!──ドルン兵っ!!」

「ドルドルッ!!」

 

 あれだけ倒してきたのにまだ手勢がいるのか、ワイズルーたちを覆い隠すようにドルン兵たちが集結する。彼らは一様に長槍を構え、こちらに突撃してきた。

 

「みんな、行くぞ。──リュウソウチェンジ!」

 

 思わず声をかけてしまったが、聴覚で捉えるまでもなかったようだ。皆、一斉にリュウソウルを構え──装填する。

 

『ケ・ボーン!リュウ SO COOL!!』

 

 リュウソウメイルを纏うと同時に、跳躍する。数の上では劣る戦い、彼らの鮮やかな鎧は雑兵たちの群れに紛れてしまう。

 ただ、多少の数的不利など覆せる程度には質の差がある。ショートの竜装した"栄光の騎士"リュウソウゴールドなどはモサチェンジャーによる射撃を行いつつ、敵の懐に潜り込んで打ち倒す戦法で敵を圧倒していた。

 仲間たちも──と当然のように思っていたのだが、彼らは苦戦とはいかないまでも思うようには戦えていないようだった。

 

(あかん……なんかふらふらする……!)

(ッ、方向感覚が曖昧になっている……!脳内を渦巻くこの騒音のせいか……!)

 

 ヘラクレスマイナソーの演奏がやんだ今でも、一度耳孔に侵入した音楽は頭の中で鳴り響き続けている。それが神経系を攻撃し、聴覚以外にも影響を与えているのだ。

 

(この程度のことで──)

(──敗けっかよ、クソがぁ!!)

 

 内心だけでも息ぴったりな彼らである。互いが互いのフォローをしつつ、着実にドルン兵を打ち倒していく。──そうしてようやく、メインターゲットへの道が開けた。

 

(ハヤソウル!!)

(ブットバソウル!!)

 

 装填したリュウソウルが『ビューン!!』『ボムボム〜!!』と声をあげ──当人たちには聴こえないが──、右腕に鎧が装着される。次の瞬間には、リュウソウグリーンとブラックが同時にマイナソーへと迫っていた。

 

「はぁあああああッ!!」「オラァアアアアアッ!!」

 

 自らの声すら聴こえなくとも、雄叫びは自然と口を突いて出た。グリーンの刃が一閃すると同時に、ブラックの剣が激しい爆発を起こしてマイナソーを呑み込む。

 

(──どうだ!?)

 

 倒すには至らないまでも、確実にダメージは与えられたはず──そう思った刹那、爆炎の中から耳を劈くような爆音が返ってきた。

 

「がぁ────ッ!!?」

 

 何も聴こえない中で、その音だけはふたりの鼓膜を激しく揺さぶった。同時に発生した衝撃波によって、彼らは大きく後方へ吹き飛ばされる。

 

「イズクっ、カツキ!!」

 

 咄嗟に駆け寄る。もとよりステータスに異常があるためか、容易く竜装が解けてしまった。

 それと同時に劫火が収まり、ヘラクレスマイナソーが姿を現した。

 

「ビートォ……!」

「!」

 

 何事もないかのようだった。直接爆風に晒されたボディから白煙はあがっているものの、傷ひとつついた様子はない。

 

「ッ、ビリビリソウル!!」

 

 咄嗟に強竜装すると同時に、モサブレイカーの銃口を向ける。そして、

 

「ファイナルサンダーショット!!」

『イタダキモッサァ!!』

 

 膨大なエネルギーを濃縮した電光弾を発射する。マイナソーは動き自体は鈍いのか、さほど回避しようともせずにその直撃を受けた。

 

「ビートォ……」

「ッ、これでも倒せねえのか……!」

 

 尋常でない甲殻の硬さである。ゴールドが歯噛みする一方で、この怪物を生み出した側は当然のように上機嫌であった。

 

「HAHAHA、戦闘力もあるとはなかなかの上物でショータァイム!!」

「そのまま全員まとめて片付けちまえ、マイナソー!!」

「ビートォォ!!」

 

 揚々とけしかけるワイズルーとクレオン。ヘラクレスマイナソーが再び六弦をかき鳴らしはじめる。

 

「!?、ぐっ……!」

 

 よりいっそう激しい狂騒に思わず耳を塞ぐゴールドだが、そんな行動は焼け石に水にしかならない。そしてただでさえ限界寸前の状態で戦っていたブルーとピンクは、

 

「ぐぅッ、あ゛、あ゛あ……っ」

「うぅぅ……っ」

 

 神経系がついに限界を迎えたのだろう、低いうめき声とともに倒れ込み、竜装が解けてしまった。

 

「ッ、皆……!」

 

 イズクもカツキも当然動ける状態ではない。ショートとて、ノーダメージというわけではないのだ。そしてマイナソーは、ファイナルサンダーショットでさえ受け止めるほどの防御力を持っている──

 

「勝ちが見えてきましたねィ、ワイズルーさまぁ!!」

「YES!しかし油断イズパワフルエネミー!!ヘラクレスマイナソー、その調子でゴールドも倒してしまうのでショータァイム!!」

「ビートォォ!!」

 

 ヘラクレスマイナソーの演奏が激しくなる。苦悶するゴールドがいよいよ限界を迎えようとする──なんならワイズルーとクレオンも苦しんでいる──瞬間、

 

 不意に、柔らかな歌声が戦場に流れ込んできた。

 

「……?」

 

 ゴールドは思わず顔を上げた。ヘラクレスマイナソーの放つ轟音に比べれば、決して大きくはない、そよ風のような歌声である。にもかかわらずそれは、この場を支配しようとしていた。

 

「グゥッ!?ガッ、グァァァ……!!」

 

 それを耳にした途端、マイナソーはなぜか苦しみはじめた。こんなにも心地の良い歌だというのに──いや、だからか?

 

 振り向いたゴールドが目の当たりにしたのは、こちらへ歩いてくる意外な人物だった。

 

「!、モモ……?」

 

 昨日数奇な邂逅を果たした、美しき逃亡者。どうしてここに、と一瞬思ったが、彼女はマイナソーの宿主にされたキョウカの主筋にあたる女性なのだ。

 だからこの場に現れたことに理由を見出すことはできる。むしろこう言うべきだろう──"なぜ歌っているのか"。

 しかしモモの歌のおかげで、マイナソーは確実に苦しんでいるのも現実だった。

 

「Oh、ビューティフルヴォイス……」

「ちょっ、ウットリしてる場合じゃないですってワイズルーさま!」

「ハッ、そうだった……。ヘラクレスマイナソーよ、貴様のミューズィックを阻むあのレディをやってしまいナサ〜イ!!」

 

 その命令が果たされることはなかった。マイナソーはモモに遅いかかるどころか背を向け、砂塵を巻き上げながら一目散に逃げ出してしまったのだ。

 

「エ゛ェッ!?ちょっ……どこへ行くヘラクレスマイナソー!!ヘラクレスマイナソ〜〜!!?」

 

 逃げ出したマイナソーを追って、ワイズルーとクレオンも走り去っていく。一瞬にして静寂の戻った戦場跡に、ゴールドは暫し呆然としてしまった。

 

「ごきげんよう、ショートさん」

「……あ、ああ」

 

 少し考えてから、竜装を解く。昨日ぶりだなと、口にしないまでも思うショートである。暫く同じ街に滞在しているのだから、近日中の再会は十分ありうることではあったが。

 それにしても、である。

 

「おまえ、耳は大丈夫なのか?それに、さっきの歌……」

「咄嗟に加護魔法を使いましたの。歌については……少し長くなるので、場所を変えませんこと?」

「……そうだな」

 

 仲間たちは気力でかろうじて意識を保っているような状態だ。この場にいつまでもとどまっているのも安全上よろしくないということで、ショートは彼女の提案を応諾したのだった。

 

 

 *

 

 

 

 カガヤキソウルの輝きは今度こそ効いた。尤もネムソウルで強引に眠らせているエイジロウの傷ではなく、テンヤたち四人の麻痺した聴覚にではあるが。

 

「ふぅ……ようやく普通の感覚に戻ることができた」

「戻……れたんかな、これ?まだクラクラするんやけど……」

「神経を相当にかき乱されたからね……。いきなり普通に戻っても、身体が慣れるまでには時間がかかるよ」

「ンなこたぁどうでもいい」早くも立ち直ったカツキが吐き捨てる。「場所は整えたんだ。何か知ってンなら吐けや、ポニテ」

 

 ほぼ初対面の人間に対して相変わらず失礼極まりない男である。モモは困惑を表情に浮かべたが、元がおっとりした性分のおかげかそれが"不快"にまで至らなかったのが幸いだった。

 

「やめろ、カツキ。急かさなくても、話は俺がちゃんと聞く」

「けっ」

 

 カツキは何故かそう鼻を鳴らしただけだった。何故か、といえば、オチャコなどは終始にやにやしている。首を傾げるほかないところである。

 閑話休題。

 

「前提として……あの怪物は、キョウカさんから生み出されたもので間違いありませんのね?」

「ああ。マイナソー……あの怪物は、彼女からエネルギーを吸収している様子だったしな。それが歌と何か関係があるのか?」

「ええ。──あれは昔、キョウカさんご自身が作曲した歌ですの」

「!」

 

 皆、目を丸くした。歌舞音曲というのは閉じた村社会においても祭りや宴などで自然と慣れ親しむものだが、それらは先祖代々語り継がれるものである。自然界にある音を連ねて律し、人々の心を揺り動かす調べとなす──戦いばかりを学んで育ってきた少年少女には、想像もつかない偉業のように思われたのだ。

 

「……昨夜あのあと、買い出しにお出かけになったキョウカさんがいつまで経っても帰ってきませんでしたの。あのドルイドンのこともあって、胸騒ぎがして……ひと晩じゅう捜し回っていましたのよ」

「そうか。でも、どうしてマイナソーが彼女に関係しているとわかった?」

 

 それについては、昨日ウィル・オー・ウィスプマイナソーの宿主となった男を一時預かったおかげというべきか。彼から事情を聞く中で、マイナソーがあの菌類のようなドルイドンの体液を取り込んだ人間を宿主とし、誕生することをモモたちも知ったのだ。

 行方不明になったキョウカ、街に潜むドルイドン、音を武器とするマイナソー。モモが正解にたどり着くのは、そう難しいことではなかった。

 

「キョウカさんの秘めた想いに沿ってあの怪物が行動しているというなら、初めてお作りになった歌で、何か反応があるのではないかと」

「……なるほどな」

 

 それが功を奏し、マイナソーを撤退に追い込むことができた。新米の勇者(ヒーロー)としては最大級の功績を、彼女はさらりと成し遂げてみせたのだ。

 

「……あかん、同じ女として完全に負けとる……」

「女ァ?誰が?」

「……おいコラァ」

 

 バチバチと火花を散らす剛健の騎士と威風の騎士のことはいったん置いておくとして。

 

「なら、おまえの歌が切札になるかもしれねえな」

「!、わたくしが……」

「ああ。頼りにしてるぞ、モモ」

 

 ショートの率直な物言いは、時に単刀直入すぎて相手を怒らせてしまう──主にカツキ──が、その逆もありうる。今回がまさしくそうだった。

 

「せ、精一杯、力を尽くしますわ……」

 

 顔を赤らめるモモ。ショートはそれにすら気づいていないようだったが、仲間たちの気持ちは一致した。この男、もしや天然タラシというやつなのではないか、と──

 

 そのとき、不意に部屋の扉が開かれた。顔を覗かせたのは、姿を現したコタロウで。

 

「皆さん!エイジロウさんが──」

「!」

 

 意外にも、真っ先に駆け出したのはカツキだった。いったんモモにここで待っているよう言い含め、エイジロウが寝かされている部屋へ全員で向かう。

 刹那、がたんと重いものが床に落ちる音が響いて──

 

「──てめェ何やってる!?」

「!」

 

 街の人々の聴覚が麻痺していたことが幸いした。カツキの怒声はそれこそ、外まで響くほどのものだったので。

 しかし今回ばかりは仲間たちも彼の行為に理解を示した。ベッドから床に落ちたのは、エイジロウ自身だったのだ。傷口から走る痛みに顔を歪めながらも、彼は起き上がろうとしている。

 

「エイジロウてめェ、自分(てめェ)が今どんな状態かわかってンのか!?」

 

 "エイジロウ"呼びは続けるつもりなのかと仲間たちは内心思ったが、そんな状況でもないので口をつぐんだ。ともあれ皆で彼を助け起こし、ベッドに座らせてやる。

 

「……マイナソーが、出たんだろ……。タマキセンパイだってまだ、見つかってねえ……違うか?」

「それは……違わないけど……」

「だったらこんなときに、寝てなんて……いられねえよ……っ」

 

 カツキは思わず目を丸くした。カガヤキソウルで感覚の異常は治っているとはいえ、傷じたいはまだ完治していない。それが信じられないほど、押し返す力が強いのだ。

 

「エイジロウくん、どうか落ち着いてくれ。マイナソーのことは、我々五人でなんとかする。そのあとでタマキ先輩のことに本腰を入れる、その頃にはきみの傷も良くなっているだろうから」

「………」

「エイジロウくん。ね?たまには私らに任せて……」

 

 オチャコの優しい声音が決め手になってか、エイジロウは大人しくベッドに横になった。その紅い瞳がとろとろと虚ろになっていく。

 それを見届けたうえで、ショートが言った。

 

「すぐにでも作戦を実行に移そう」

 

 マイナソーを倒し、街に平穏を取り戻す。そして、タマキも──

 それぞれの決意を新たに、リュウソウジャーは動き出した。

 

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