TSして魔法少女になったけど質問ある? 作:TS百合好きの名無し
今回掲示板がないのに何故か約1万3千文字(二話分)くらいあります……
長いので分割するか悩んだけどそのまま投稿することにしました。
※注意!
今回、一部胸糞シーン有り。耐性のない人はご注意を。
では、準備ができたら適度にリラックスして本編をどうぞ。
時は週末の午前。とある娯楽施設内にて、一つの戦いの決着が今つこうとしていた。
「いけっ……いけ、いけ……! いっちゃえ!」
ぎゅっと拳を握りしめ、凛は真剣そのものといった表情でじっとその瞬間を待ち続ける。
「がんばれ……がんばれ……!」
前方を見つめ、必死でそれの応援をし始める凛。彼女の視線の先で今まさに獲物が外へと出――
「よ、よし、あと少しで出……ああっ!?」
ああ無情。世界とはなんと残酷なのだろう。どうやら最後の最後で獲物に外へ出ることを拒まれてしまったようだ。
がっくりと肩を落とし彼女はその場で項垂れる。
「うぅ……強敵すぎる。全然取れないじゃんか!」
この貧弱者め!と心の中で罵倒する彼女の前には一台のクレーンゲームが鎮座していた。
(もう諦めて帰ろうかなぁ……いやでも……)
ぐぬぬ顔でちらりと隣の台を見る凛。そちらは妙にムカつく顔の何かのマスコット的なぬいぐるみが景品になっており、その内の一体と彼女の視線が合う。なんとなくそいつに「ザッコw」と煽られているような気がし――
「ヘッタクソ♡」
不意に背後からそんな幼い声が聞こえ、顔を上げながら振り向くとニヤニヤと笑う可愛い妹分がそこにいた。
「えっ、いつからそこに……?」
「十分くらい前から。色々と必死で面白かったよおねーさん」
「……ぐふぅ」
色々とアレな姿を見られていたことを自覚して赤くなる凛。
一方で可愛い妹分である○○はそんな彼女がプレイしていたクレーンゲームの中身をじろじろと覗き込んでいた。
「おねーさん、そんなにこれが欲しかったの? 正直、女の子が欲しがるものじゃないと思うんだけどこれ」
凛がトライしていたクレーンゲームの商品はとあるニチ○サ番組の変身ヒーローのハイクオリティフィギュアだ。それは全身を特殊な装甲に覆われたカッチョイイヒーロー……いわゆる仮面ラ○ダーの限定物フィギュアであった。
「そんなことはない! 仮○ライダーは男のロマンなんだよ!」
「いやおねーさん女の子でしょ」
「うぅ、もう○千円も持っていかれてしまった……」
「ふーん……」
○○はしょんぼりする凛とクレーンゲームを交互に見た後、スッと片手を凛へと差し出す。
「おねーさん、ちょっと二百円貸して」
「あ、うん」
彼女は受け取った二百円をクレーンゲームへ投入し、慣れた手つきでプレイし始め――
「……ん?」
「こうかなー?」
「えっ!?」
「あ、取れた」
「嘘でしょ……?」
あっという間に凛が悪戦苦闘していた景品を落としてみせた。
「私の苦労は一体……」
「別に無駄じゃなかったと思うよ? 実際かなり取りやすい位置に来てたし。というわけで、はいこれ」
ポンと景品を渡され、凛は戸惑う。確かにお金を出したのは凛だが獲ったのは○○だ。しかし○○は笑顔で「プレゼントだよ♡」とそれを彼女に押し付けた。
「ありがとう○○!」
「ふふん、いっぱい感謝してくれていーよ。……それはそうとなんかお腹空いたかも」
「ああ、もうすぐお昼だしね。確か近くの公園に移動式のホットドッグ屋があったはずだから食べに行こうか」
「さんせー!」
その後、景品を片手に真っ直ぐに近くの公園へと移動した彼女たちは目的のホットドッグ屋を無事に見つけて購入。公園のベンチでそれぞれ舌鼓を打っていた。
「ここのは初めて食べたけどおいしーね」
「でしょ? 結構気に入ってるやつなんだ」
「お礼に今度○○のおすすめのお店を教えてあげる」
「それは楽しみだね……おや?」
「にゃー」
食事の終わり頃になって凛が足下を見ると猫が一匹近寄って来ていた。見たところ首輪はないので多分野良猫だろう。
「ホットドッグに釣られて来たのかな。よし、ちょっと待ってて」
一口分のホットドッグを残して全てを食した凛は手のひらに乗せたホットドッグをそっと猫の目の前へと差し出す。
猫は一度ホットドッグと凛の両方に視線を送った後、パクリと食いつき満足げに「にゃあ」と鳴いた。どうやらお気に召したらしい。
「ふふ、にゃーさんにもこの美味しさが分かるらしいね」
「みたいだね」
そう返事をした○○の顔には笑みが浮かんでいたが、凛にはそれがどことなく硬い笑みに見えた。
「もしかして猫が苦手だったりする?」
「ううん、そんなことないよ。その……前に世話をしていた子のことを思い出しちゃっただけ」
「そっか」
その子が「今どうなっているか」は聞かず、凛は言葉を続ける。
「撫でたりしないの?」
「え?」
いつの間にか猫は○○の足下へと移動し、甘えるようにその体を彼女の足に擦りつけていた。
「……別にいいかな。懐かれても困るし」
そう言って彼女は猫を無視し、ホットドックを頬張る。そんな彼女の態度に何かを感じとったのか、猫はこちらに興味を無くしたようにサッとどこかへ行ってしまった。
去っていく猫を一瞬だけ見た時の彼女の目は言葉とは裏腹に少し寂しげであった。
かける言葉が見つからず、なんとなく気まずくなった凛は周囲へと視線を移す。どうやら今日は手作り市の日らしく、周囲にそれらしき出店がたくさん出ており普段と比べてとても賑わっていた。
(あれは……)
その内の一つの出店に目をつけた彼女はベンチから立ち上がって隣の○○に声をかける。
「ちょっとあっちのお店に見たいものがあったから行ってくるよ。食べながらここで待っててくれる? 五分くらいで戻るから」
「いいよ。行ってらっしゃい」
「じゃ、行ってくる」
ひらひらと手を振ってベンチを離れた凛は出店へと向かっていき……宣言通り五分ほどですぐに戻ってきた。
「本当に五分で戻ってきたね」
「買うものはもう決まってたから」
そう言って凛は商品の入った小さな包装紙を見せる。
「何買ったの?」
「これだよ」
その場で包装紙を開けて中身を取り出す凛。出てきたのは2つの青を基調とした刺繍入りの可愛らしい髪留め用のリボンであった。
「リボン……? おねーさん髪型変えるの?」
「いや、このリボンは私用じゃないよ」
「?」
「これは私から○○へのプレゼント。大切に……する必要はないけど程々に使ってくれると嬉しいかな。きっと似合うと思うから」
「ええっ!? い、いいの?」
「さっきクレーンゲーム手伝ってもらったしそのお返しってことで」
リボンを渡された○○は凛に強く促され、その場でさっそくリボンを使って自分のツインテールを結び直す。
新しいリボンは彼女に非常によく似合っており、その姿を見た凛は我ながらいい仕事をしたぜと腕を組んで満足げに頷いていた。そしてそわそわとしながら「ど、どうかな……?」と聞いてきた彼女に向かって満面の笑みで答えた。
「すっごく似合ってる。うん、最高に可愛いよ」
「そ、そうなんだ……えへへ」
(んぎゃわいい)
嬉しそうにリボンを指でいじりつつはにかむ○○。
そんな彼女の姿にほんわかと癒やされつつ、凛は彼女の手をとって立ち上がらせた。
「せっかくだから他のも一緒に見に行かない?」
「うん! ……ありがとう、おねーさん」
「何か言った?」
「言ってないよー? ほら行こっ! おねーさん」
「はいはい」
互いに手を繋ぎ、二人の少女は出店の雑踏の中へと消えていった。
――ねえ、おねーさん。こんな幸せな日常がずっとつづいて欲しいって○○が願うのは許されないことなのかな……?
◆ ◆ ◆
○○の家族はどこにでもいるような、ありふれた普通の家族だった。
大きな会社で働くかっこいい父親がいて、保育園で働く優しい母親がいて、いつも休日は一人娘である○○と家族みんなでどこかへ出かける。そんなごく普通の幸せな家族だった。
全ての始まりは父親のリストラからだった。
その日は家に帰ってきた時から父親の機嫌がとても悪く、元気づけようと話を聞けば長年勤めてきた会社をクビになったのだと彼は話した。
『ねえママ、パパは大丈夫かな……』
『大丈夫だと思いたいけれど、あの人は昔から人一倍プライドが高いから心配だわ』
その日から父親は人が変わったように乱暴になった。
朝からずっとお酒やタバコを口にしていて、○○と母親をよく殴るようになった。
○○はこれまで学校から家までは真っ直ぐに帰っていたが、父親が変わってからは家に帰るのがとにかく嫌になり夜遅くギリギリまでどこかで過ごすようになった。
大好きだったはずの父親が今は怖くてたまらない。
今の父親はちょっとしたことにすぐに怒って、○○と母親を殴る。どんなに『痛い』『やめて』と泣き叫んでも絶対にやめてくれなくて、いつも怯える○○たちを見て怖い顔で笑うのだ。
――どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
父親が変わってから一週間が経った頃、いつものように夜まで外で時間を潰してから家に帰るとリビングの床にうめき声を上げる母親が倒れていた。
泣きながらなんとか救急車を呼んで母親を病院に送った後、突然警察官たちが○○を訪ねてきた。
そして○○は自分の父親が一体何をしたのかを知ってしまったのだ。
近隣住民への無差別傷害及び妻への殺人未遂。容疑者である父親は未だ見つからず逃走中であると彼らは言った。
――なんで? どうしてそんなひどいことをしたの? パパ……
信じたくなかった。足元がぐらぐらと崩れていく気がした。彼らが言った言葉の理解を頭が拒んでいた。
呆然と立ち尽くす○○を見て、警察官たちは気まずそうに何か声をかけて去っていった。
こんな時、○○を慰めてくれる母親は怪我の治療中で会えない。
――パパが犯罪者? ママを殺そうとした? そんなの嘘だ!
これはきっと悪い夢だ。全部が嘘で本当の○○は今も布団の上でうなされているだけなんだ。次に起きたら夢から醒めて全てが元通りになっているはず。だって、そうじゃなきゃ○○は、○○は――
全てを忘れたくて布団にこもった。
でも、何度眠りについて目覚めても悪夢のような現実は何も変わらなかった。
悪夢のような現実はまだ続く。
ようやく母親の怪我の調子が良くなってきた頃、○○はあの家にこもっているのが嫌になって学校に復帰した。
だがそこはもう○○の知っている学校ではなくなっていた。
『ねえ見てあの子が例の家の……』
『犯罪者の子どもなんだし、実はあいつも危ないやつなんじゃねーの?』
『あの子の父親のせいで私のパパは怪我したのよ!』
『学校に来んな犯罪者!』
投げかけられるひどい言葉や嫌悪の視線の数々。ランドセルや教科書はぐちゃぐちゃにされ、体操服や上履きは隠され、誰に話しかけても当然のように無視される。
父親のことが学校中に知れ渡って○○はみんなからいじめられるようになっていた。
『あはは! いい気味だわ! 前からあんたのことは気に入らなかったのよ。ちょっと可愛いからってみんなからチヤホヤされて調子に乗って……それが今じゃこんなに……本当に最高の気分だわ』
『さっさと学校やめちゃいなさいよ。分かるでしょ? あんたの居場所はもうどこにもないって』
――そっか。学校にも○○の居場所はもう無いんだ。
パキン、と何かが割れる音が聴こえた気がした。
おかしくなった父親はいなくなって、傷ついた母親は全然笑わなくって、○○の大好きだったあの頃の家族は多分もう二度と返ってこない確信があって。仲の良かった友達もみんないなくなってしまった。
今は……生きているだけで毎日がただただ辛い。
ならばもう、いっそのこと――
『――こんな世界、全部壊れてしまえばいいのに』
『ならばその願い、ワタシが叶えて差し上げましょう』
ふらふらと街をさまよいながら迷い込んだ路地裏でそんなことを考えていたのが悪かったのだろうか。気づけば○○はあの魔人に目をつけられてしまっていて――
『憎いのでしょう? 妬ましいのでしょう? 理不尽な世界を壊してしまいたいのでしょう? 優しいワタシがそのための力を与えて差し上げます。ああ……もちろんアナタに拒否権はありませんので』
『だ、誰……』
『ワタシですか? 私はリディキュール。今日からアナタの主人となる【魔人】ですよ』
まるでピエロのような姿をした禍々しいオーラを身に纏う魔人はそう言って嗤い、どす黒いアメ玉のような何かを○○の口に押し込み飲み込ませた。
その何かを飲み込んだ途端、全身に走る激痛。悲鳴を上げてのたうちまわる○○を見て魔人は楽しそうに嗤っていた。
『クフフッ……今日からアナタの名は【メア】。ワタシの研究の実験体としてこの街に恐怖と絶望をまき散らす悪の魔法少女となってもらいますよ』
それから、○○の悪の魔法少女としての生活が始まった。
指定された場所に魔獣を放ったり、魔法少女の戦闘を妨害したり……○○は魔人に命じられるまま悪事を働いた。
そこに○○の意思は存在しない。だが逆らうことはできなかった。逆らえば恐ろしいお仕置きが待っているからだ。
一度だけ他の魔法少女に事情を話して助けを求めようとしたこともあった。しかしその瞬間何故か呼吸ができなくなり、次に目が覚めた時にはあの魔人の前で倒れていて……その時にされたお仕置きの内容はもう思い出したくない。
さらにあの魔人は○○の母親の命も握っている。もしも○○が悪の魔法少女としてふさわしくない行動や命令違反をすれば容赦なく母親は殺されてしまうだろう。
死にたくない、母親を失いたくないと必死で○○は悪を演じ続けた。
今の彼女は魔人によって首輪を付けられた奴隷だ。
もはやどこにも逃げ場はなかった。
そんなある日、魔人が○○に突然休みを与えると言い出した。
『研究のために少しの間この街を離れる必要がありましてね。メア、アナタにしばしの休みを与えましょう』
『え……』
『アナタはワタシがいない間、ノルマとして定期的に他の実験体を街に放ってくれるだけで良いので後は好きにしなさい』
ほんの少しの間だけとはいえこの魔人がこの街からいなくなる。それだけでも○○の気持ちは少しだけ楽になった。
――だが本当の悪夢はこの後に待っていたのだ。
魔人と別れた後、帰宅した○○を待っていたのは頭から血を流してピクリとも動かない母親と、そんな母親を見下ろす男の姿。
男の姿は普通ではなかった。体がおかしなくらい盛り上がっていたし、顔には化け物みたいな鋭い牙や角が生えていた。だがその顔はまぎれもなく……
『パ……パ……?』
『――ああ、なんだもう帰って来てしまったのか。久しぶりだな○○、また会えて嬉しいよ』
『何を……何をしてるのパパ……?』
『何って……見れば分かるだろう? ママを殺した、それだけだよ』
何でもないことのように父親の形をしたナニカはそう言った。
『――』
『しかしこのタイミングで帰って来るとはお前も運が悪いな。まあ安心しろ、どうせ○○もすぐにこうなる。せいぜい良い声で鳴いてくれよ? その方が楽しめるからな』
『あ、あ……ああああああああああああっっ!!!!』
◆ ◆ ◆
ザーザーと激しい雨の音が聴こえる。
ふと気づくと○○は見覚えのない場所の道端で膝を抱えて座り込んでいた。
『……寒い』
激しく降る雨が全身を容赦なく叩き、びしょ濡れの衣服が体温を奪っていく中、○○はぼんやりと思う。
――○○はなんでこんなところにいるんだろう?
自分がどうしてここにいるのか分からなかった。
不思議なことに彼女には魔人と別れてからここに来るまでの記憶が一切なかったのだ。
何か……何かとても悲しいことがあったような……気がする。
しかし何故かそれを思い出そうとする気持ちは湧かず、それどころかひどい頭痛と吐き気を感じたのでそれ以上考えるのをやめた。
――このままじゃ風邪を引いちゃうかも。
そう思って立ち上がろうとしたが、何故か体は完全に疲れ切っていて全く動かなかった。
それを自覚すると今度は動く気力もすっかりなくなってしまい、○○はただぼんやりと見慣れぬ景色を眺める。
そうしてボーッとしたまま時間を潰し続けてどれくらい経った頃だろうか、急に体を叩く雨が消え、誰かの声が聞こえてきた。
『ねえ……傘も差さずにこんなところにいたら風邪を引いちゃうよ?』
○○と一つか二つしか変わらないであろう年上の少女が傘をこちらに差しながら心配そうに○○を見ていた。それを見て何か答えなければと口を開けば、出てきたのは自分でも驚くくらい冷たい声であった。
『……なに?』
『……こんなところで何をしているの? 用がないなら早く家に帰った方がいいと思うんだけど』
家……その言葉を聞いた瞬間○○の全身には謎の震えが走った。同時に湧き上がったのは帰りたくないというかつてないほど強い気持ち。
思い当たる記憶のない○○にその理由は分からなかったが、自分の中の何かに促されるまま口を動かした。
『……帰りたくない』
○○の言葉を聞いて目の前の少女は困ったような顔をした。それから少しの間一人で何事か考え込んでいたが、やがて何かを決心したような顔つきで○○に向けてこう言った。
『じゃあさ、ひとまず私の家に来ない?』
その言葉に○○は小さく頷いた。
そこからは夜まであっという間だった。
少女に背負われる形で移動し彼女の家へとやってきた○○はすぐに冷えた体を温めねばと風呂へ入れられ、新しい服を着せられ、少女が作った夕食を食べさせられ、耐えきれなくなった眠気に身を任せて彼女の部屋のベッドで眠りにつく。
そこに至るまでの間、少女は○○のことを詳しく聞こうとはしてこなかった。多分、聞きたいことは色々あったはずだ。だが彼女は○○の様子から何かを悟ったのか結局は何も聞いてこなかった。
そしてその気遣いは心身共に疲弊していたこの時の○○にとって非常にありがたいものであった。
その日、○○は夢を見た。
父親が○○と母親を殴る夢だ。夢の中で○○が何度も殴られ、泣いて悲鳴を上げるたびに変わってしまった父親の嫌な笑い声が響き渡る。
――やめて……
次に場面が切り替わるとそこは学校だった。ありとあらゆる誹謗中傷が○○に向けられ、仲が良かったはずの生徒たちの手によって○○の大切な持ち物たちが目の前で次々と見るも無惨な姿へと変えられていくのを何度も見せつけられた。
――やめて……もうやめて……
その次は○○が悪の魔法少女【メア】としての姿で路地裏に倒れている場面だ。死なない程度に散々痛めつけられた○○の前には元凶である例の魔人がおり、その手に小さな小動物が掴まれていた。
小動物の正体は○○が密かに世話を焼いていた近所の野良猫だ。
『これはワタシを裏切ろうとした罰ですよ、メア』
『やめてええええぇっ!!』
魔人が取り出した何かを無理矢理口にねじ込まれた猫がもがき苦しみながら醜い異形へと変化していく。
『嘘……嘘だよ……くーちゃん、そんな……』
『さて、さっそく戦闘データ採集といきましょうか。真面目に戦わないと死んじゃいますよ?』
魔人の命令で暴走するだけの異形となった猫と戦うメア。
全てが終わった時、その場に残ったのは元の姿で事切れた猫とそれに縋り付いて泣くメアの姿だけだった。
――いや……やめて……やめてよ……
今度はメアとしてあの魔人の指示で街を破壊している場面だ。
魔人の実験体たちが暴れ回って街がめちゃくちゃになっていく様を○○はぼんやりと眺めている。当然悪いことをしている自覚はあるし本当はこんなことをしたくないと思っている。だが
――どうして○○ばっかりこんなに苦しまなくちゃいけないの?
そしてその度に○○はそんな自分に対するどうしようもない嫌悪感と他者への罪悪感に苛まれ続けるのだ。
――いや……いやぁ……助けて……
場面がまた切り替わる。その場面もまた○○の心を抉る。
地獄のような場面に次々と切り替わる。切り替わる。切り替わる――
おそらくこの夢はまだまだ続くのだろう。どんなに苦しんで助けを求めたってもう誰も助けてはくれないのだ。
――――?
だが突然悪夢は終わりを告げた。どこからともなく差し込んできた温かな光が全てをかき消すという不思議な出来事によって。
『――大丈夫。私がついてるから』
夢が終わる直前、誰かの声が聴こえた気がした。
○○が目覚めた時、その傍らには何故か○○のいるベッドを枕にして眠る少女の姿があった。
『……』
○○は静かに自分の右手を見つめる。そこには○○のものよりもほんの少しだけ大きな手が重ねられていた。
――多分この人はいい人なんだろう。本当に、どうしようもなく。
初対面の相手にここまで親身になってくれる程のお人好し。
きっとこの人は○○が本当のことを話しても変わらず助けてくれるんじゃないか……漠然とそんな予感がした。
しかし、だからこそ、そんな人をこちらの事情に巻き込みたくはないと思った。
――だけど……
傷つき弱り、温もりに飢えた心と体は温かなその手を離したくないと思ってしまった。
そうして揺れ動く心は答えをはっきりと出せず、○○は少女が目覚めるまで彼女の手をずっと握っているのだった。
『あ、いらっしゃい。来ると思って色々用意してたの。ほらほら遠慮せずに上がって』
結局あの日から○○と少女の交流は絶えることなく続いていた。
『こらこら、ちゃんと食べないと栄養が足りなくなるんだから残しちゃダメだよ?』
『この服全部あげるよ。流行だとかでとりあえず買ったのはいいけど私にはなんか似合わないのばっかりだし』
『お風呂はいつでも好きに使っていいよ。どうせこの家には私しかいないからね』
『毎日遊びに来て迷惑じゃないのかって……全然そんなことないよ。見ての通りいつも基本的に一人で生活しているから、実を言うと○○が遊びに来てくれるのは結構嬉しく思ってるんだ。だから遠慮する必要はないよ』
『なんだか嬉しそうに見えるって? ○○が最近よく笑ってくれるようになったからだよ。素敵な笑顔の持ち主と一緒にいると人は自然と笑顔になれるからね』
毎日少女の家に通う○○を彼女はいつだって笑顔で迎えてくれた。
はじめはぎこちない態度しかとれなかった○○も次第にそんな少女の影響を受け、本来のちょっぴり小生意気な明るい姿を取り戻していく。
そして少女もまた、そうした○○の変化を喜んで受け入れてくれた。
しかし、だからといって○○を取り巻く問題が別に消えたわけではない。
○○は少女と出会った日以降一度も帰宅していない。頻繁に少女の家に泊まっていたが、そうでない日は自宅に帰っていると彼女に嘘をついてまで野宿をしていた。
家のことを思い浮かべる度に○○の中の何かが必死で訴えるのだ、『あの家に帰りたくない、決して帰ってはいけない』と。
だから
今の○○にとって安心して過ごせる場所は少女の隣だけであり、彼女といる時だけは全てを忘れてありのままの自分でいることができた。
段々と自分が少女に依存していく自覚はあった。それが良くないことであることも分かっていた。だが心身共に追い詰められていた○○にとって、包容力のある少女の存在はあまりにも魅力的すぎたのだ。それこそ、無意識の内に少女の存在が家族と同等かそれ以上のものになってしまうほどに。
本当は離れなくてはいけない。だけど離れたくない。相反する思いを抱えたまま少女との交流は続いていく。
『これは私から○○へのプレゼント。大切に……する必要はないけど程々に使ってくれると嬉しいかな。きっと似合うと思うから』
――このままずっとおねーさんと一緒にいたい。
○○は願う、この小さな幸せに終わりが来ないことを。
しかし、少女という光に出会えたことで忘れかけていた悪夢は決して○○を逃してはくれず――ついに恐れていたことが現実になってしまうのであった。
『――クフフ、元気にしていましたかメア? 主人が帰って来ましたよ?』
いつものように影で課せられたノルマを淡々とこなし、少女の家へと向かおうとした○○の前にあの魔人は何の前触れもなく突然現れた。
「……」
「可愛げがないですねぇ……もっと喜んでくださいよ」
出来れば二度と会いたくなかった存在を前にして凍りつく○○を余所にペラペラと出かけていた間のことを愉しげに語る魔人。彼の機嫌を損ねないように黙ってそれを聞いていた○○だったが、ふと最後に魔人が呟いた言葉に思わず顔色を変えた。
「……ところでアナタ、なかなか興味深い人間と一緒にいるようですね」
「っ!? ……興味深いって何が? おねーさんはただの一般人だよ」
「気づいていなかったのですか? まああれだけ巧妙に隠蔽されていれば無理もないですね。しかし魔人であるこのワタシの目は誤魔化せません。あれはなかなか素晴らしい魔力を持った人間ですよ、他に奪われる前に是非とも手に入れたいものです」
「……っ! おねーさんには手を出さないで! あの人は――がはっ!?」
怯えながらも反論しようとした○○の首を魔人が掴み上げる。その目には実に良い玩具を見つけたと愉しげな色が浮かんでいた。
「クフッ、ああ本当にいい顔をしますねアナタは。実にワタシ好みの表情だ。どうやらあの人間のことが余程大切と見えます」
「ぐぅ……だ、め……や…て……おねが……」
「勘違いしているようですがアナタに拒否権などありません。命令です、あの人間をワタシの元へ連れて来なさい。あぁ、もちろん逆らえばどうなるかはお分かりですよね? 命令の聞けない部下がワタシは大嫌いなので……アナタだって自分の命は惜しいでしょう?」
「う……ぁ……」
「あれだけの魔力量を持った素体はなかなかいませんからねぇ……あぁ、本当に楽しみだ」
「……げほっ! けほっ……!」
雑にパッと手を離され崩れ落ちた地面の上で咳き込む○○を見下ろしながら最後にそう言い残して魔人は消えた。
体を起こした○○は呼吸を整えながらじっと考える。
突きつけられた二択――〈大切な少女の命〉か〈自分の命〉か。それは一度選んでしまったらもう絶対に引き返せない分岐点。逃げることはもうできない。
「……ごめんなさい。おねーさん」
ぽたぽたと落ちた雫が地面に小さな染みをつくる。
俯く彼女はそっと頭の大切なリボンを撫でた。
◆ ◆ ◆
東京都某所にある、過去に魔獣による被害を受け閉鎖された廃工場。その地下に魔人リディキュールの研究所は存在していた。
「ふむ、これも失敗ですか。なかなか上手くいかないものですねぇ」
リディキュールの周囲には大小様々なカプセルがあり、その中にはそれぞれ異形の存在たちが怪しい液体と共に閉じ込めれていた。これらは全て彼が生み出した実験体である。
「うん? この魔力は……」
見知った魔力の接近を感じて彼は手元の実験器具から顔を上げる。それは彼が楽しみにしていたイベントの始まりを告げるもの。ピエロのようなその顔にはひどく嗜虐的な笑みが浮かんでいた。
人気のない薄暗い廃工場の奥からリディキュールは姿を現す。
反対に彼が見つめる廃工場の入口にいたのは敵意を隠そうともせずに佇むメアであった。
「愚かな……それがアナタの答えと言うわけですかメア?」
「うるさい。お前みたいなヤツにおねーさんは絶対に渡さない。それがメアの答えだ」
「残念です……ですが、アナタのその勇気に免じて最後に良いことを教えてあげましょう」
「……良いこと?」
訝しげに目を細めるメアに彼は話し出す。これまでの真実を。
「ワタシたち魔人は人間のような知的生命体が持つ負の感情エネルギーを糧としているわけですが、ワタシたちにもそれぞれ好みの感情というのがありましてね。ワタシの場合は【孤独】や【喪失】による絶望が何よりも好物なのですよ」
「……それがどうし――」
「さらにワタシたち魔人は知的生命体の特定の感情に干渉して操ることも可能なのです。たとえば……そう、仕事を失って絶望している憐れな男の中にある負の感情を操って暴走させてみたりね」
「……は?」
はじめは何のことを言っているのか理解できなかった。
だがその言葉の意味を理解するにつれ、メアの心の奥底から激しい感情の嵐が呼び起こされていく。
「どうでした? 愛する者たちが変わっていく気分は? 周囲から孤立し、大切なものを次々と失っていった時の絶望は? ワタシ? もちろん最高でしたよ。アナタが生み出した絶望の感情エネルギーは大変美味でしたからねぇ!」
○○の人生が狂った全ての元凶は自分であると明かし嗤うリディキュール。
彼がその言葉を言い終えるのとメアが彼に殴りかかるのは同時だった。
「うああああああっっ!!」
「おっと! 話の途中で攻撃なんて落ち着きのない子ですね。少し寝ていなさい」
「がはっ!?」
素早い身のこなしでそれを避けた彼が鋭い蹴りをメアの腹に入れて元へ位置へ飛ばすと、彼女は激痛に耐えるように腹を抱えて倒れ込む。だが強い憎悪のこもったその目は怯むことなく彼を睨み続けていた。
「ぜっ……たいに、ゆるさ…ない……」
「ただ負の感情エネルギーを集めるだけなら適当な方法がいくらでもあります。しかしそれでは質が落ちることを避けられない。特にワタシのような魔人たちは量よりも質を重視しますのでね、吟味した一つの獲物を徹底的に追い詰めるのですよ。メア、あなたにしたようにね」
「っ!」
再び殴りかからんと怒りに震えるメアが体を起こそうとする。しかしその体は次の魔人の言葉を聞いた瞬間に固まった。
「クフフフッ、哀れですねぇメア。ああそうだ、一つ是非とも聞いておきたいことがあったのでここで聞いておきましょうか。――親を殺した時の気分はどうでした? あの瞬間に得られた絶望の味は特に良質で美味だったので今後の参考に知りたいのですよ」
「――え?」
メアの思考が一瞬停止する。
――アイツは今、何て言ったの?
硬直したメアを見て魔人は「おや?」と意外そうな反応を見せる。彼はてっきりここで激昂した彼女が殴りかかってくると思っていたからだ。
「何を言って……」
「おや? おやおや? まさかアナタ、覚えていないのですか?」
「覚え……? 確かにパパはどこにいるか分からないけど、ママは今も家にいるは――」
「アナタは何を言っているんです? 母親は狂った父親によって殺され、その父親はアナタがその手で殺したんじゃないですか」
「――」
唐突にメアの脳裏にあの日の記憶がフラッシュバックした。
動かぬ母親。異形と化した父親。娘である自分に手をかけようとした彼を○○は悪の魔法少女としての力で――
「う、嘘だ……そんなはずないもん。○○のパパとマ……マは」
必死で自分の体を抱きしめ、焦点のあっていない虚ろな目でがくがくと震えだすメア。
そんな彼女から溢れ出す深い絶望のエネルギーを受け取ったリディキュールは、ますます愉しげに彼女へと顔を近づけ耳元で囁いた。
「もうアナタを愛してくれる人間はどこにもいません。アナタは正真正銘の独りぼっち。悪の魔法少女として社会と敵対し、実の父親すら手にかけた同族殺しのアナタを受け入れてくれる者などいるはずがない」
「あ……あぁ……」
「……(ふむ、これはもう完全に壊れきる寸前ですね。精神が完全に壊れてしまうと良質なエネルギーは得られませんし、彼女はここで捨ててさっさと次の獲物を探すとしましょうかね)」
そしてリディキュールは最後の一言を告げようと口を開きかけ――
「――いい加減にしろよ。クソ野郎が」
突然割り込んで来た――廃工場の入口に立つ人物を見て動きを止めた。
それと同時にメアもまた、ここ最近で聞き慣れた、この場にいるはずのない――いてはいけない人の声を聞いてゆっくりとその顔を上げる。
「アナタは……何故ここに?」
「おねー……さん?」
「こんなに心の底からムカついたのは初めてだ。楽に死ねると思うなよお前」
底冷えするような声が廃工場内に響く。
○○がおねーさんと呼び慕う少女がそこには立っていた。
※いつもの本編補足
★リディキュール
今回の事件の全ての元凶。見た目は胡散臭いピエロ。
メアのことは戦力として数えたことは一度もなく、最初から自分の欲を満たすための家畜だとしか考えていない。
○○の周囲の人間の心に干渉して負の感情を増幅させて操り、彼女が追い詰められていく様をずっと楽しんでいた。
本人の戦闘力は中堅の魔人よりやや強い程度(C+〜B-ランク)だが、改造によって通常よりも強化された魔獣や魔人を生み出す才能があり、その能力の将来的な危険性から上位魔人認定された。
★魔法少女機関本部
リディキュールを早急に討伐するため、手がかりとなるメアの動向を裏でずっと追いかけていた。
★魔人化
魔人によって因子を植え付けられ、負の感情を一定以上増幅させられた人間は魔人に変化してしまう。侵食度にもよるが魔法少女の浄化の力(個人差有り)で変化を解くことができる場合がある。
★○○の父親
多少プライドの高いところがあるが、基本的に優しい性格の人物。リディキュールによって操られ魔人化した後、愛娘の手によって殺された。
★○○の母親
穏やかな性格の人物。夫との仲は非常に良好で近所ではそこそこ有名なおしどり夫婦だった。
★○○(メア)
ゲーム全般が得意な感覚派。
魔法少女になると自分への寒暖効果を魔法で無効化できるので、野宿の際はそれを使っていた。
現在付き合いのある親戚等が一人もおらず、実は天涯孤独の身の上である少女。リディキュールによって人生をめちゃくちゃにされてなお、本当の意味で悪に染まりきれないくらい優しい子。既に本人の限界を越えて追い詰められており、主人公がいなかったらその辺の道端でとっくに死んでいる。
★姫宮凛
我らがイッチ。大の仮○ライダー好き。クレーンゲームが苦手。
現段階ではBランク魔法少女の肩書きを持つ少女。
リディキュールたちの胸糞なやりとりを見てしまい怒りが天元突破。
★次回予告(多分アニメ風)★
ついに姿を現した諸悪の根源〈魔人リディキュール〉!
彼を討伐するために本拠地の廃工場へ攻め込んだ凛と本部の魔法少女たちだったが、そこで待っていたのは彼の自慢の作品である大量の実験体たちだった!?
想像を越える敵戦力に追い詰められ、次第に劣勢となる魔法少女たち……
大切な人に避けられないピンチが迫ったその時、リボンの少女がとった行動とは――?
「魔法少女を……嘗めんな!」
次回
拾った女の子の正体が悪い魔法少女だった件 後編 ―あなたの隣で―
次回もお楽しみに!
タイトルを短くしたいんだけどどれがいい?
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