TSして魔法少女になったけど質問ある?   作:TS百合好きの名無し

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最近のハーメルン、地味に魔法少女系の作品が増えてて開くのが日々の楽しみになってる。やっぱりハーメルンは最高だね。

それはそうとして……はい、今回でやっと主人公が帰宅です。
さらに一話以降、めちゃくちゃ影が薄くなってしまっていた同僚ちゃんをようやくメインで出せました。

一部注意事項があるけど、いつも通りリラックスして読んでね。

※陵辱系に耐性の無い人は一部閲覧注意かも(一応普通にスクロールするだけなら見えない仕様なのでこのまま読んでもらって大丈夫です)


久々の帰宅、そしてデート

 

 

 

 

「あー、やっと帰ってきたなぁ」

 

 魔法少女機関本部に用意された自室の扉を見ながらしみじみと呟く。

 一ヶ月という短いようで意外と長く感じた新人ちゃんの研修を終え、私はようやく我が家へと帰ってきていた。

 

「ただいまー」

 

 一人用の自室なのでまったく必要ないのだが、つい癖で挨拶をしつつ扉を開けて中へ入る。

 

 次の瞬間、凄まじい勢いで顔面におっぱいが飛んできた。

 

「――ふごぉっ!?」

 

 視界が真っ暗になり、顔面がたわわなおっぱいに押しつぶされる。あっと思った時にはそのまま真後ろへひっくり返り、私の体は床に押し倒されていた。

 

 柔らかくていい匂いがする。そして息が……息が苦しい。というか締まってる。

 

「凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん――」

 

 はい。凛ちゃんですよ。

 なんとなく状況は理解できたけどどうしようか。

 帰る前から薄々感じていた通り限界寸前だったらしい同僚はごらんの有様で、先程から何度も彼女の背中を叩いてギブアップ宣言をしているのに一向に離れる気配がないのだ。

 

 ……やばい、そろそろ息が苦しくなってきた。

 

「んー! んんーー! んむぅーーー!!」

「凛ちゃん本物凛ちゃん本物凛ちゃん本物凛ちゃん本物凛ちゃん本物――」

 

 あの……このままだと私、窒息しちゃうんだけど。

 

(……ご、ごめん!)

 

 流石にそれは勘弁したいので私は彼女の弱点である脇腹を全力でくすぐった。

 ごめん、許して。本当に苦しいんですよ。

 

「ひゃあんっ!? り、凛ちゃんやめ、ひいんっ!」

「――っぷはあ!」

 

 身をよじって私から離れた同僚の姿を見ながら私は素早く息を整える。

 

「ふぅ……」

 

 視界に映るのは見慣れた自室の景色と顔を赤らめてこちらを見る可愛らしい同僚の姿。それを見てようやくここに帰ってきたんだという実感が強くなり、私は自然と微笑んでいた。

 

「ただいま、ひより。元気にしてた?」

「おかえりっ! ……ずっと凛ちゃんに会えなくて寂しかったのに元気なんて出るわけないよ」

「そっか。実は私も向こうで結構寂しくなっちゃってさ、今こうして会えてとても嬉しいんだ。ひよりの顔を見たらなんだかすごく安心したよ」

「凛ちゃんも……?」

 

 きょとんとするひよりに頷き返し、手荷物を適当な場所においてベッドに腰掛ける。

 そうしてポンと太ももを叩いて彼女の方を見れば、ハッとしたような表情の後に期待のまなざしをこちらに向けてきた。

 

「……いいの?」

「うん。というかいつも許可なんて取らずに飛び込んでくるよね?」

「凛ちゃん!」

 

 バッと飛びついてきたひよりを受け止め彼女の頭を私の太ももの上に置いて膝枕の姿勢をとる。

 彼女は私の膝枕が大のお気に入りなので喜ばせてあげるにはこうするのが一番なのだ。私も私でこうして甘えられて悪い気はしないし。

 オレンジ色の癖毛をあやすように優しく撫でてやると彼女は気持ち良さそうな声を出して脱力した。

 

「ふにゅう……凛ちゃんしゅき」

「はいはい。私も好きですよー」

「……えへ、前よりちょっとだけお肉が付いたねぇ」

「えっ、本当? 運動系の部活動もやってたしやたらと豪華な食事ばかりとっていたからそのせいかな……」

「気にするほどじゃないと思うよ。それに私、今の凛ちゃんの太ももの方が好き」

 

 そう言ってすりすりと頬を太ももに擦り付けられる。くすぐったい。

 

「それならまあ……いいのかな?」

「そうそう、健康的な素晴らしい太ももだと思います。凛ちゃんの太ももマスターの私が言うんだから間違いないよ」

「私の太ももマスターって何?」

 

 よく分からないけど太ったわけじゃないなら別にいいか。

 

「そういえば」

「んー?」

「理沙はどこに? こういう時真っ先に会いに来そうなのに珍しいね」

「あー……理沙ちゃんはねえ……」

 

 姿の見えないもう一人の同僚について尋ねると彼女は苦笑しつつ説明してくれた。

 

「理沙ちゃんなら急なお仕事が入っちゃって今は他県に行ってるよ。出発の直前までものすっごい嫌がってたけど」

「あはは……その光景が容易に想像できるよ」

「というわけで今日は私が凛ちゃんを独り占めできる日なんだよー」

「なるほど。ひよりと二人っきりになるのは久しぶりかも」

「そうだよー。あ、一応聞くけど凛ちゃんってこの後の予定空いてるよね?」

「ん? 空いてるよ」

「じゃあ今日は一緒に新しいお洋服を買いに行こうよ! 今着てるやつだとなんかサイズが合わなくて困ってたんだぁ」

 

 そう言った彼女の胸元でポヨンと弾む二つの大きな山。

 ……なるほど。ご立派な胸部装甲をお持ちですものね。成長期なので当たり前と言えば当たり前だけどここからまだデカくなるのか……理沙が聞いたらキレそうだ。

 

「えへへ、二人っきりの買い物デートだね!」

 

 まあそういうわけで今日は彼女と二人で買い物デートへ行くこととなったのだった。

 

 

 

 

 

「ふん、ふふ〜ん♪」

「……」

 

 ひよりに買い物の誘いを受けてから数十分後、私たちは洋服屋を目指して仲良く街中を歩いていた。

 

 自身の髪色に合わせた橙色のカーディガンとチェック柄のミニスカートをオシャレに着こなす彼女は贔屓目なしに魅力的だと思う。さらに十人中十人が可愛いと答えるであろう人受けの良さそうな無邪気な笑みを浮かべているせいで道行く人の多くが私たち――というよりひよりの方へとチラチラ視線を送ってくる。

 

 ――私? パーカー(グレー)に短パン+キャスケット帽(黒)の地味コーデですが何か? なんとなくおしゃれな服って変に気後れして着づらいんだよね。地味コーデ最高。

 

 なので普通にしていればそれほど注目されないはず……なのだけど、ニコニコとご機嫌なお嬢さんに右腕を抱き締められているせいで少なくない注目が私に対しても向けられていた。

 

「〜〜♪」

「……ねえ」

「なぁに?」

「そろそろ腕を離してもらってもいいかな。というか歩きにくいでしょそれ」

「なんで?」

 

 右腕にむにゅむにゅと感じる柔らかい感触をできるだけ意識しないようにしながら彼女にそう言ってみるも心底不思議そうな顔で首を傾げられた。こいつめ。

 ……お願いだからそろそろ離して。色々と精神的なアレコレがゴリゴリ削られてるんです。

 

「んー、じゃあ……」

 

 パッと私の腕を解放した彼女はそのまま自然な動きでお互いの指を絡ませて握る。いわゆる恋人つなぎというやつだ。

 やや控えめに握られた手からは私のものより少しだけ冷たくて柔らかい手の感触が伝わってくる。

 

「これならいいでしょ?」

「……」

 

 きっとこれもまた女の子同士のよくあるスキンシップの一つなのだろうと考えて――彼女の妙に熱のこもった視線を受けてドキッとした。

 

「凛ちゃん?」

「あっ、うん。これなら邪魔にならないしいいかな。うん」

 

 ――いやいや何をときめいているんだ私は。相手は去年までランドセル背負ってたJCだぞ? そういう目で見るのはNGなのだ。分別のある大人として気を引き締めなければ。

 

「い、行こうか」

「うん!」

 

 私はほんのり熱くなった頬の熱を誤魔化すように彼女の手を引いて歩き出した。

 

 

 

 

「凛ちゃん凛ちゃん! 次はこれ着て! これ!」

「あ、はい……」

 

「きゃあああっ、可愛い! 可愛過ぎるよ凛ちゃん! 次はこれね!」

「はい……」

 

「ああああっ! 太ももがえっちすぎる! これはもう犯罪! 犯罪だよ凛ちゃん!」

「……」

 

「しゅき」

「……」

 

「よし、じゃあ次は――」

「――あのさ」

 

 ウキウキとした様子で次の服を取りに行こうとする彼女を呼び止める。流石にそろそろ文句の一つでも言っていい頃合いだろう。

 

「さっきからずっと私を着せ替え人形にして遊んでるけどおかしくないかな? 今日はひよりの服を買いに来たはずだよね?」

「……そうだった!」

「え、まさか本当に忘れていたの……?」

 

 目的の洋服屋に着いてから約1時間。

 顔には決して出さないが、かれこれ約40分ほど着せ替え人形にされていたせいで私は既に色々と疲れ始めていた。

 女の子の買い物が長いことはこの体になってからよーく知っていたことであったが、やはり慣れないものは慣れない。というかやたらと丈の短い羞恥心を煽る衣装ばかり持ってくるのは何故? 私がそういう服を好まないの知ってるよね?

 そんな内心の不満をこちらの視線から読み取ったのだろうか。慌てて彼女は謝ってきた。

 

「……ご、ごめんね。久しぶりに凛ちゃんと二人っきりだからって嬉しくてはしゃぎ過ぎちゃった。迷惑……だったよね」

「別に怒っているわけじゃないから安心して。ただ、少し疲れたから私を着せ替えするのはこれでおしまいね。さ、次こそは自分の服を選んでおいで。感想が欲しければちゃんとあげるから」

 

 しゅんと落ち込んでしまった彼女の頭をぽんぽんと撫でて慰めつつそう言えば、元気を取り戻したように笑顔で「だいたい決めてあるからすぐに持ってくる!」と洋服コーナーの向こう側へ消えていった。

 

「とても仲がよろしいんですね」

「えっ? はい」

 

 すると彼女が場を離れてすぐに近くで私たちを見守っていた女性店員さんがこちらに話しかけてきた。

 

「学校の先輩さんと後輩さんですか?」

「いえ、同い年ですよ。二人とも今年から中学生になりました」

「ええっ!? 嘘……あの発育で中学1年生なの!? ……あっ、すみません驚いてつい……!」

「気にしないでください。お姉さんみたいな反応には慣れてるので」

 

 うんうん、気持ちは分かるよ。私も彼女の発育はやばいと常々思っているからね。

 

「ありがとうございます。……お客様は気に入った商品、またはお探しの商品はございますか?」

「あー、今日は付き添いのつもりで来たので……よろしければ彼女の方をサポートしていただけると助かります」

「なるほど、了解いたしました」

 

 一旦会話が途切れ、その場で店員さんと一緒にひよりの帰りを静かに待つ……が、どことなくそわそわした様子を見せる店員さんが少しだけ気になって視線を向けると、彼女はおずおずとこちらへ耳打ちしてきた。

 

「……あの、ところでお客様たちはお忍びの芸能人とかだったりするんでしょうか?」

「へ? ただの一般人ですけど……」

「そうなんですか? すみません、お二人とも『実はアイドルやモデルをやってます』と言われても違和感のない方なのでてっきり……」

 

 アイドルやモデルか……確かにひよりや理沙の容姿はかなり整っているし、そういう職業についていても違和感がないかもしれないな。私も喜んでいいのか微妙なところだけど美人の部類に入るっぽいし。

 まあ、ただ単にこの世界の顔面偏差値が高いだけではと思わなくもないけどね。

 

「凛ちゃんただいま! 早速着てみるね!」

「おかえり。慌てなくていいからねー」

 

 いくつかの服を両手に抱えて帰ってきたひよりが早速目の前の試着室で着替え始める。そうして1分ほど待つと試着室のカーテンからひよりの手が出てきてこちらを手招きした。

 

「凛ちゃーん、ちょっとこっち来てー?」

「もう着替えたの?」

「うん」

 

 ……やけに早いな。魔法でも使ったのかな。

 そう思いながら何気なくカーテンを開けた私の目に飛び込んで来たのはアダルティーな下着のみを身に付けた彼女の扇情的な姿であった。でっっっか。

 

「ぶっ!? 着替えたってそっち!?」

「どうどう? 似合ってるかな……ってちゃんとこっち見てよ凛ちゃん!」

「い、いやそれはちょっと」

 

 やばい、油断していた! これは罠だ!

 私は慌てて試着室から離れようとするが、その前にひよりに手を掴まれ脱出を阻まれる。やられた!

 

「ふふっ、別に女の子同士だから恥ずかしがらなくてもいいのに。凛ちゃんは可愛いね」

「ちょ、ちょっと!」

「ねえ凛ちゃん、凛ちゃんはこの下着どう思う? 好き? 嫌い? 答えてくれるまで離してあげないよー?」

 

 悪魔かな? うん、今の私にとっては悪魔そのものだな。

 目で見なくとも彼女がイタズラっ子のような顔で笑っているのが気配で分かる。

 

「ほらほら、早く答えてよー」

「べ、別に私の意見はいらないんじゃない? 服ならともかく下着なら別の詳しい人に聞いた方がいいと思うよ。私がそっち方面に疎いの知ってるでしょ?」

「……? 凛ちゃんにしか見せないのになんで他の人に聞く必要があるの?」

「え?」

「え?」

 

 ど、どういう意味なんだろうそれは。……いや落ちつけ、きっとそんなに深い意味はないはず。ただのからかいに違いない。

 言葉を詰まらせる私に彼女は顔を寄せて囁く。

 

「ねえ、本当にダメかな? 私、凛ちゃんの本音が聞きたいなぁー?」

「……その、すごく大人っぽくて似合ってると思う」

「そっか。思わずドキっとする?」

「……する」

「んっ♡」

 

 結局耐えられなくなり感想を言うと彼女の機嫌がとても良くなった。はい、私の負けです。

 

「ありがとう! じゃあ次は服を着るから一旦出ていいよ」

 

 パッと手を離され、私は試着室の外へと出る。

 

「お客様、少しお顔が赤いようですが大丈夫ですか?」

「いえ、大丈夫です。気にしないで下さい」

 

 彼女は下着で私をからかって満足したのか、この後は特に何事もなく普通に何着か服を試着して気に入ったものを複数購入する形で買い物は終わった。

 

 

 

 

 買い物を終えて次に私たちがやってきたのは公園だ。

 お腹が空いたのでちょうど見つけた出店で私たちはたこ焼きを購入し園内のベンチで食べていた。

 

「はい、あーん」

「いやいや、自分で食べられるから」

「あーん」

「……」

「あーん!」

「……あーん」

 

 強い笑顔の圧に負け、大人しく口を開いてたこ焼きを受け取る。

 味の方は可もなく不可もなしだ。専門店でもなければ大体こんなものだろう。

 

「あーん」

「え、これ一回で終わらないの?」

「ダメ?」

「だって恥ずかしいじゃん。周りに結構人いるし」

 

 今だって向かいのベンチに座る老夫婦から微笑ましいものを見る目を向けられていて気恥ずかしいのだ。

 

「でもほら、向こうのベンチにもやってる人たちがいるよ?」

 

 そう言って彼女が指で示したのは少し離れたベンチに座る一組の若い男女。

 彼らは私たちと同じたこ焼きを手に持ち、交互にあーんで食べさせ合いながらイチャイチャとラブオーラを周囲へ放っていた。つまりはただのバカップルである。

 

「うーん……あれは見るからにカップルだしなぁ……」

「じゃあ私たちも問題ないね!」

「……うん?」

「あーん」

「あむ」

 

 何がじゃあなのか分からないが、私は再び差し出されたたこ焼きをつい流れで食べてしまう。

 

「ねえ凛ちゃん、私にもちょーだい?」

「自分で食べ……まぁいいか。ほら、口を開けて」

「あーん」

 

 寂しい思いをさせていた分、多少のわがままは聞いてやるべきか。そう思いながら爪楊枝で刺したたこ焼きを彼女の口元へと運び――

 

 

「ねーねー、ちょっといいかなそこの君たち」

 

 

 直前でかけられた声に手を止めてそちらを見る。

 ベンチに座る私たちの前にチャラい男たちが三人立っていた。見た目と雰囲気的に大人という感じではなく、せいぜい同じ中学生かその上の高校生といった感じだ。ああ、面倒な匂いがぷんぷんする。

 

「……何でしょうか?」

「見ての通り俺ら暇しててさぁ、良かったら一緒に遊ばない?」

「安心してよ。俺たち女の扱いには結構自信あるからさ」

「男の良さってやつをたっぷり教えてあげるよ?」

 

 ナンパか? ナンパなのかこれ。うわ、面倒だな。

 私はひよりを背後に庇うように立ち、彼らの顔を見上げる。

 彼らは全員断られるとは微塵も思ってなさそうなニヤケ顔を浮かべてこちらを見ていた。

 

「結構です。今日は友人とのお出かけを楽しんでいるんです」

「まあまあそう言わずにさぁ、何事もまずは経験ってやつだよ」

「別に必要ないので」

「ハハハ、緊張しなくても大丈夫だって。俺らこーゆーのちょー慣れてるから。初めてなら色々と優しくするぜ?」

「俺、後ろのおっぱいのデカい姉ちゃんがいいな! 顔と体がマジで好み! つーか色々とエロすぎっしょ! 揉んでみてえ!」

 

 ……こいつら全員人の話を聞かないな。感じる視線も酷く不愉快なものだし。

 こうして話している間も彼らは値踏みするように不遠慮な視線をチラチラと私たちの胸や足に向けているのだ。まさか気づいていないとでも思っているのだろうか。

 

「なぁ、いいだろー?」

 

 不意に男の一人が手を伸ばしてひよりの手を掴もうとしてきたので、私が咄嗟にそれを手で払う。

 

「やめてください。断っているのが理解できないんですか?」

 

 強い口調で行う最終警告。私は彼らの顔を見上げながら鋭く睨みつける。

 そんな私の態度が気に入らなかったらしく、彼らは露骨に表情を歪めて声を荒らげた。

 

「っち! こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって、いいから大人しく来いよ!」

「おい、もうこのまま連れて行こうぜ」

 

 ――うん、もう怒っていいよねこれ。だってコイツら話が通じないんだもん。

 

 先程からずっと私の服の袖を掴んで無言を貫いている背後の彼女を安心させるようにその手を一度握り返し、私は一歩前へ出る。

 

「……分かりました。では遊びましょうか」

 

 先制でニッコリと笑顔を作ってそう言えば彼らは途端に顔を赤くして大人しくなる。

 こういう時、無駄に整ったこの顔は便利だ。

 

「お、おう、分かりゃいいんだよ分かりゃ」

「やっべ……笑顔マジ可愛い。へへ、今日はツイてるぜ」

「じゃあ早速――」

 

「――ねえお兄さんたち、サッカーは好きですか?」

 

「うん? ああもちろん好きだぜ! つーか俺たちこう見えてクラブチームのレギュラーメンバーだしな!」

「ちなみに俺がエースストライカー! 最高にイケてるだろ?」

「サッカー好き同士なら相性抜群じゃん!」

 

 ほう、それはよかった。

 

「いやぁ私、今無性に何かを蹴っ飛ばしたくてたまらなくてですね。一緒にサッカーをしましょうか」

「おーいいね、女子とサッカーで遊ぶのは初めてだけどこうゆうのも面白そうじゃん」

「サッカーデートってやつか?」

「あ、でもボールが無――」

「ボールならあるじゃないですか、ここに6()()

「「「……えっ?」」」

 

 さて、反省しろチャラ男ども。うちの子を怖がらせた罪は重いぞ?

 

「ふんっっっ!」

「「「ぎっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」」」

 

 軽い身体強化魔法の発動と同時に神速のダブルハットトリックを見事に決めた私はひよりの手を引いてすぐにその場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「たこ焼きが冷めちゃったね」

 

 公園から離れるためにしばらく歩いた後、この世で最も愛しい人( 凛ちゃん )はそう言って苦笑した。

 

「……ひより?」

 

 黙ったまま歩き続ける私を見て先程の出来事のせいで怯えていると勘違いしたのだろう。心配そうに「大丈夫?」「もうだいぶ離れたから安心して」と私に声をかけてくる。

 ……正直あのゴミたちのことは心底どうでもいいと思っていたし、なんなら既に顔すら記憶に残っていない。

 

 あの瞬間、私の頭にあったのは普段私たちには決して向けることのない鋭い目つきをした凛ちゃんに対する「かっこいい、しゅき」という感情だけであって、怯えるどころか興奮して濡…お腹がきゅんきゅんしていたのが実際の姿なので彼女の心配はただの杞憂なんだけど。

 

 でもこれはこれで悪くないので私はそれっぽく怯えた振りをしつつ彼女にぎゅっと抱き着いた。

 

「おっと」

「……少しだけこのままでいい?」

「うん……いいよ」

 

 優しい笑みとともに軽く抱き締め返される。

 

 ――ああ、やっぱり好きだなぁ。

 

 彼女に触れていると何もかもが満たされ、あったかくてふわふわとした幸せな気持ちになれる。それこそ彼女さえいれば他には何もいらないと本気でそう思えるほどに。

 それは一度知ってしまえば二度と手放そうなんて思えなくなるほどの依存性を持つ麻薬のようなもの。でもそれを嫌だと思ったことは一度もない。

 

 ――少なくとも私は彼女がいなければ全てを諦めてしまっていたのだから。

 

 この世界の人々はきっと誰一人として知らない。今の平和がどれほどの奇跡によってもたらされた尊いものなのかを。こうして当たり前の日常を送ることのできる本当の意味を。

 

 ――敗北と同時に滅ぼされ瓦礫の山となった日本も、魔人が管理する悲鳴と嬌声と怨嗟の声が鳴り止まぬ養人場も、魔人に尊厳を破壊し尽くされて殺される或いは自決する魔法少女たちの姿も、誰一人として知らないのだ。

 

 だけど私は覚えている。

 ――心が壊れて目の前で自決した友人たちを、私を庇って地獄へ飛び込んだ後輩たちとその変わり果てた姿との再会を、魔人や魔獣の孕み袋となり泣きながら殺してくれと懇願してきた先輩たちを、何度も魔人に敗北し自分の尊厳をめちゃくちゃにされたことを。

 私が――私だけがその全てを今でも覚えている。

 

「――り!」

「……」

「――ひより!」

「……ふぇ?」

「ボーッとしてたけど本当に大丈夫? 気分が悪いなら今日はこのまま本部に帰ろうか?」

「ううん、もう平気だよ」

「でも……」

 

 心配そうに凛ちゃんが視線を向けていたのは今も彼女の体を抱き締め続けている私の腕だった。どうやら無意識の内に力を入れ過ぎていたらしい。

 本当はもっとこのままでいたかったけど、これ以上心配をかけるのも良くない気がして、私はゆっくりと彼女から体を離して前を歩き出す。

 

「ほら、次こそはちゃんと落ち着ける場所で休もうよ。私お腹空いてきちゃった!」

「ひより……」

「さっきのことは気にしてないよ。これは本当に本当。ただなんていうか、幸せすぎて逆にちょっと嫌なことを思い出しちゃっただけっていうか……あはは、訳分かんないよね。やっぱ忘れて!」

 

 一ヶ月も触れ合えなかった反動が一気にやって来て油断していたのかもしれない。こんな私、見せるつもりはなかったのに。

 

 何かを言おうとして、でもやっぱり何を言えばいいのか分からない……そんな様子で迷っている彼女を見て苦笑する。

 こういう時の彼女は妙に鋭いので大変だなぁ。

 

 どうやって誤魔化そうかと思考を働かせはじめたその時、彼女が大きなため息をつき、フッと肩の力を抜いた。

 

「……はぁ。やっぱり良いよ、何も言わなくて」

「聞かないの……?」

 

 驚いて思わず聞き返す。彼女は「そりゃ気にならないと言ったら嘘になるけど」と呟いた後、強い意思を感じる瑠璃色の瞳で私を真っ直ぐに見つめて言った。

 

「ずっと前から……ひよりが心に大きな何かを抱えているってことにはなんとなく気づいてた。それが、容易に踏み込んではいけない類いのものだってことも」

 

 「でも」と彼女は続ける。

 

「ずっと前に全部守るんだって決めたから」

 

 ――ああ、本当に。

 

「別に君が何を抱えていようと関係ない。私はただ――君が私を必要とした時に力になれればそれでいい。その時は何を相手にしようと、君を悲しませる全てのものから君を守り抜いてみせるよ。……『絶対に一人にはしない』って約束したしね」

 

 ――ずるいなぁ。

 

「だから話さなくていい。何があろうと私のやることは変わらないんだから」

 

 ――どうしてこうも私の一番欲しい言葉がわかっちゃうのかな。

 

「……本当にずるいよ、凛ちゃんは

 

 ただでさえ大好きなのに、これ以上惚れさせてどうするのさ。

 

「さあ、暗い話はこれでおしまい! せっかくのお出かけをもっと楽しまなきゃ! 行くよひより!」

 

 私の隣へやってきた彼女がそのままこちらの手を握る。私のそれよりも少しだけ温かくて力強い、大好きな手の感触が伝わってきた。

 

「……あはっ、珍しいね。凛ちゃんの方からしてくれるなんて」

「なんとなくこうしたい気分でね。いやだった?」

「全然! すっごく嬉しい!」

 

 さっきまでの暗い感情はもうとっくに消えていた。今の私にはもう彼女しか見えていない。

 繋いだ手をぎゅっと握り、私たちは二人で足並みを揃えて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更だけど実はこの作品、バッドエンド9割メリーバッドエンド1割からなる架空の18禁の鬱有り陵辱百合エロゲーの世界を舞台として書き始めたという裏設定があったりする。

ついで言うと元々のプロットでは鬱陵辱百合ゲーに転生した主人公(姫宮凛)が製作陣の罠である糞選択肢を選びまくってバッドエンドへ一直線な原作主人公ちゃんを正体を隠して影から必死こいて助ける物語だった。
ボツになった理由はこの設定だと短編に全く向かないから。

一応主人公がつよつよじゃないパターンの案も当然あったけど、その場合主人公も周りも曇りまくってバッドエンド一直線の鬱展開にしかならなそうなのでそれもボツになった。


いつものおまけ人物コーナー

★姫宮凛(魔法少女アリス)
ついに帰宅したTS娘。
お嬢様学校での経験により意図せず美少女力が上がった。
この後一ヶ月分の我慢が爆発した同僚たちにあれこれされることが確定している。

★天道ひより(魔法少女サニー)
最近影が薄かった同僚その一。凛欠乏症による禁断症状になりかけていたが、すんでのところで持ち直した。
正義感が強く、明るく常にポジティブに物事を考え、決して諦めない性格の持ち主。いわゆるメインヒロインタイプ。
魔法少女としては古参で、凛よりも魔法少女歴は長い。

――実は元ループ系時間遡行者で、人類敗北の歴史を何度も繰り返し続けた経験を持つ。かつては慈愛に満ちたその姿から『聖女』の二つ名で呼ばれ、敗北の度に忘れられない陵辱の記憶を刻まれ続けるも、世界を救うためにただ一人で戦い続けていた。
時間を繰り返し勝利への道を探す過程で、様々な魔法少女たちとそれぞれの世界線で交流してきた記憶があるため、日本の魔法少女たちのことは大体知っている。
かつては固有魔法:リスタート(使用者の心が完全に折れない限り、使用者の死をトリガーとして特定の時間軸まで時を巻き戻す魔法)を持っていたが、今はもう失っている。

★氷川理沙(魔法少女サファイア)
クソみたいなタイミングで仕事を与えられて憤怒バーニングファッキンストリーム。

★百合の間に挟まろうとした男たち
この日以降、銀色の物を見る度に『金玉サッカー少女』なるものを思い出して震えるようになったらしい


今後の方針

  • 日常生活(イチャイチャ)メインで!
  • 本編(シリアス)カモン!
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