【悲報】精神はまだ男の俺氏、先ほど勇者に告白されるwww 作:レモン果汁
「……」
「……」
部屋の中を静寂が支配する。
き、気まずい。ずっと一緒に過ごしてきたはずなのに、ちょっと距離が離れている時間があったせいでどうにも気を使ってしまう。
目の前で顔を下げながら私が出したミルクを飲んでいる私の大切な幼馴染であるクロムの様子を伺いながら、私、エレシア・ラヴェリベールはひどく混乱していた。
先ほど突然私の部屋に訪れたクロムを部屋の中に招き入れたのはいいんだけど、どうしよう。いっこうにクロムは下を向いて黙ったままだ。
やっぱりここは私から何か話すべきなのだろうか。
いやでも用事があるのはクロムの方だし、いきなりまた私が話し始めたらこんな時でも主導権を握りたがる嫌な女だと思われるかも。
だったら私はクロムが話し出すのをゆっくり待ったほうがいいんじゃないだろうか。その方が彼女も本題を話しやすいだろうし。
「……」
「……」
いやいや、そもそもそれ以前にまず先に私が欲望のままに行動を起こしてクロムを怖がらせてしまったことを彼女に謝るべきじゃないのか。
もしかしたら彼女はまだ私に怯えているのかもしれない。だったらまず私が今までのことを詫びるのが筋ってものじゃないのか。
「……」
「……」
というかそもそも彼女は私が謝るのを待っているんじゃないのか?
本題に入るのは私から謝罪が来てから、とか彼女が思っていても何らおかしくはない。
だったら私がまず謝らないと何も始まらない。
なるほど、わかった。
とにかくまず私が彼女に今までのことを詫びよう。
せっかく彼女が勇気を振り絞って私に会いに来てくれたんだ。だったら今度は私がその恩義に報いるべきだ。
よし、クロムに謝ろう。最近のこと全て。
「クロム、ご──」
「ご、ごめん!」
私が謝罪の言葉を口にしようとした瞬間、クロムがいきなり頭を勢いよく下げ謝罪の言葉を口にした。
……え、なんで?
「ど、どうしたの急に?」
突然のことで頭の中が困惑で埋め尽くされる。
どうしてクロムが急に謝る?
彼女は別に何も悪いことはしていないはず。
むしろ謝るのは私の方なはずなのに。
「その……最近ずっとエレシアのこと避けちゃってたから……それをまず謝りたいんだ。ごめん」
「え、ええ……」
……なるほど。
つまりクロムは私を避けていたことをずっと負い目に感じていたってことか。
いや、普通は避けられている方が負い目を感じるべきなんだけどね。
まったくクロムは、あいかわらずどこか天然だ。
避けてしまう原因を作ったのは私なんだから、そこに負い目を感じる必要性なんてこれっぽっちもないのに。
「それを言うなら無神経な行動をしてクロムを怖がらせちゃった私が全面的に悪いんだから、クロムが謝る必要なんて全くないんだよ」
「エレシア……」
「ごめんねクロム。最近の私はどこかおかしかったよね」
顔を上げたクロムに微笑みかけながら、私は心の中で心底安堵していた。
よかったぁぁぁ……。この様子だと、彼女は私に嫌悪感を抱いているわけじゃなさそうだ。
正直絶交を宣言されることくらいまでは覚悟してたけど、どうやらその心配はなさそう。
本当に良かった。もし彼女に関係を絶たれたら私は自分を保てる自信がなかったし。
ひとまず一安心。茫然自失状態で明日の朝を迎えるなんてことにはならなさそうだ。
「それで、話したいことっていうのはそのこと?」
「あ、いや、それもなんだけどもう一つ」
「?」
心の余裕をある程度取り戻したのでいつもの調子でクロムに問いかけると、彼女は何かを思い出したような表情を浮かべてそばに置いていた彼女の鞄をあさり始めた。
そういえば彼女は私の部屋に来るときその小さな鞄を持って来ていたけど、一体何が入っているんだろう。
まあ、クロムに嫌われている疑惑が晴れた今の私にとって、たとえどんなモノが出てきたとしても笑顔で対応できる自信があるけどね。だって今最近ずっと悩んでいた問題が解消してすごく晴れやかなんだもの。
もし彼女が鞄から爆弾を取り出して『これを解除してほしい』って言ってきたとしても今の私なら冷静に笑顔で対処できる確信がある。それくらい今の私はいい気分だ。
「えっと、これなんだけど」
「ん、なに、か、な……」
彼女は鞄から一冊の本を取り出して私に見せる。
彼女が取り出したその本は、私にもひどく見覚えがあった。
素人の自作感溢れる乱雑な造り。
少し使い込まれているのか少々折れ曲がっているページ。
そして表紙に描かれている黒髪ロングの小柄な少女と金髪ロングのスレンダーな少女。
間違いない、彼女が今持っているのは。
私がクロムへの情欲を抑えきれない時に書いた、私とクロムがモチーフのキャラがずっとイチャイチャしている、私が最近なくした、お気に入りの。
「きゃあああああ!」
頭が真っ白になる。
え、なんでクロムが私の書いたあの本を。偶然見つけたの?
え、まって、それより前に
まって、頭が追い付かない。あの私の妄想が垂れ流された本を彼女に見られたの?
「え、えっと、え、く、クロム」
「うん」
「その、も、もしかして、中身も……見、た?」
「…………うん」
「い、いやぁぁぁぁぁ!」
動揺のあまり、頭を抱えて絶叫しながら地に伏してしまう。
やばい、顔が熱い。燃えそう。
恥ずかしすぎる。あの自身の欲望を詰め込んだ本を他でもないクロムに見られた。
思考がぐちゃぐちゃになってしまう。全くまとまらない。
どうしよう、私はどうすればいいのかな?
今すぐ近くの窓から飛び降りればいいのかな?
そうすればこの羞恥から解放されるのかな?
「その……前、この部屋に遊びに来た時にたまたま本棚で見つけちゃって」
「はーっ、はーっ」
「えーっと……勝手に持ち出しちゃって、ごめんね?」
心臓がバクバク言ってる。うまく呼吸が出来ない。
あはははは、人って羞恥が限界突破するとこうなるんだぁ。これは学びだなぁ。
「……エレシア、大丈夫?」
「はー、はー、うんうん、大丈夫大丈夫」
「ほ、本当……?」
挙動不審になった私を心配してかクロムが私の背中をさすってくれる。
相変わらず優しいなぁクロムは。だけどごめん、今は恥ずかしすぎてその優しさを噛みしめている余裕がない。
本当に顔が熱い。多分今の私の顔は誰が見ても一発で分かるくらい真っ赤だろう。
「ふー、ふー」
「……」
「はー……」
落ち着け、とにかく落ち着けエレシア。
あなたは由緒正しきラヴェリベール家の娘なんだ。とにかく取り乱してはいけない。
いつでも冷戦沈着に、余裕を持って、取り乱すことなどあってはならない。
ほら、よく考えればただ単に私の欲望が全面的に押し出された趣味全開の本をクロムに見られただけで駄目だ恥ずかしい顔が熱いやっぱり無理誰か助けて。
「うぅぅ……」
「……ふ、ふふ、ふふふ」
「……?」
なんとか気持ちを落ち着かせていると、突然こらえきれないとでもいいたげな籠った笑い声がクロムの口から漏れ出した。
「ふふふ……」
「うう、やっぱりおかしいよね……」
そりゃ友人があそこまで趣味全開の本を書いてて、しかもそれを見せた瞬間ここまでの痴態を見せたら笑ってしまってもおかしくない。
多分私も笑ってしまうし、誰だって笑うだろう。
もういいや、私の痴態でクロムが笑ってくれるならそれだけで……。
「ああいや、ごめん。別に今のエレシアがおかしくて笑ったわけじゃないんだ」
「?」
「いや……なんか、初めてエレシアの人間らしいところが見れたなぁって」
少し漏れ出た涙を指で拭いながらはにかむクロム。
その顔はとても友人が取り乱した姿がおかしくてたまらないというような表情ではない。それよりも、なんだかとても嬉しかったことがあった時のような明るい表情だ。
「はーあ、なんでオレは今までエレシアは違う世界の人間だと決めつけて一線引いちゃってたんだろうな。エレシアだって年相応に一喜一憂するれっきとした一人の人間なのに、勝手に神聖視して、理想を押し付けて」
「クロム……?」
「よし。エレシア」
「は、はい」
クロムはひとしきり笑った後、何か吹っ切れたような顔つきでこちらに真剣なまなざしを向けてきた。
こちらも思わず背筋が伸びる。
こんな真剣な表情のクロムを見るのは久しぶりだ。いつもどこか自信なさげな顔で少し下を向いているのに。
「一つ、聞きたいんだ」
「な、なんでしょうか」
今日のクロムはどこかいつもと雰囲気が違う。
そう、例えるなら何かを決心したような、そんな雰囲気。
私は決して鈍くない。他人の感情の揺らぎであったり、人が自分に向ける好意、あるいは悪意に人一番敏感である自負がある。
だからこそ、私は彼女が何を言わんとしているかをある程度察することが出来た。
「エレシアは、女の子が好きなの? その……恋愛対象として」
どこかいつもと雰囲気が違うクロムは真剣なまなざしを私に向けたまま、そう問いてきた。
「……」
さっきまでの熱はどこへやら。その質問で一瞬で私の頭は冷や水を被ったように冷静さを取り戻す。
だってその言葉は、いつか聞かれると思っていた、私とクロムの今の関係を少なからず変えてしまう質問だったからだ。
彼女はいつも本心を隠す節がある。だからこそこんな回りくどい質問の仕方になったんだろうけど、私にはその質問の真意が手に取るように分かる。
いや、私でなくとも普通の感性を持っている人だったら簡単に分かるだろう。
そしてこの質問に対する私の答えで、彼女との今後の関係はがらりと変わってしまう。
だからこそ、この質問が彼女の口から出ることを私は望みながらもどこか恐れていたんだろう。だって、この質問に私の本心で答えれば決して元の関係には戻れないから。
じゃあ、この質問に私はなんと答えるのか。
……そんなもの、決まっている。
「女の子が好きっていうのは、少し違うかもしれないね」
「え?」
「私、別に女の子が好きなわけじゃないよ」
私は目の前にいるクロムの肩を優しく掴み、そのままゆっくりと床へ押し倒した。
「エレ、シア」
「女の子が好きなわけじゃないし、男の人が好きなわけでもない。私の場合、好きな人がたまたま女の子だっただけ」
「……それって」
「私が好きなのはあなた。私の想い人は昔からずっと、クロム、あなた一人」
床に仰向けになっているクロムの上に覆いかぶさり、正面から彼女の顔を見つめる。
やっぱり、とても可愛い。雰囲気に酔っているのか、少しトロンとした目つきになっているのがまたなんともいえない情欲をかきたてる。
彼女を誰にも渡したくない。自分だけを見ていてほしい。
そんなドロドロとした汚くどす黒い欲望が心の奥底から湧き上がってくる。
「クロム、あなたのことが愛おしくてたまらない」
「……」
「あなたが欲しい。あなたの全てを知りたい。あなたとずっと一緒にいたい。離れたくない。私、クロムのためだったらなんだって出来る自信があるよ」
ずっと抑えていた感情を自ら表に出したからか、一度あふれ出してしまったらもう止まらない。
せき止めていた濁流を放流したかの如く、彼女への想いが次から次へと口から漏れ出ていく。
「クロム」
「うん」
「私、あなたのことがどうしようもないほど好き。他の誰よりも、他の何よりも、あなたの事が好き」
ずっと、言いたかった。自分の気持ちを理性で押しとどめ続けるのがすごく辛かった。
クロムのことが世界で一番好き。それが私の、隠すことのできない本心。
やっと、言えた。
「突然こんなこと言われて困惑するかもしれない。だけど、聞いてほしい。これが私の気持ち」
「そっか」
顔に熱が溜まっていくのを感じる。
一世一代の告白をしたんだ、それも仕方がない。
ずっと言いたかったことは全て吐き出した。私の気持ちを全て伝えたといっても過言じゃないだろう。
……私の想いを聞いて、クロムはどう感じただろうか。
「……」
「……」
私と見つめあうクロムの顔は、どこか優しげな笑みを浮かべていた。
戸惑っているわけじゃない。呆れているわけじゃない。あざ笑っているわけでもない。
まるで全て分かってたとでもいいたげな顔で、クロムはただただ、優しい目つきで軽く笑みを浮かべながらこちらを見つめ返していた。
前後編に分けると言ったな。あれは嘘だ。
いや本当にごめんなさい。話が膨らみに膨らみまくって一話の文章量がとんでもないことになり、どれだけ試行錯誤しても纏められなかったので3話に分けます。