【悲報】精神はまだ男の俺氏、先ほど勇者に告白されるwww 作:レモン果汁
「うーん……」
唸り声を上げながら部屋の天井を仰ぐ。
最近、夜は自室でずっとこうしてる。こう何度もあんまり意味の無いこんな行動を取ってしまうあたり、やっぱり私結構ダメージを受けてるなぁ。
「はぁー……」
思わずため息が洩れる。
はーあ、なんでこうなっちゃったのかなぁ。昔から自制は得意な方だと思ってたけど、どうやらそれは勘違いだったようで。
肝心な時に自制が効かずこうなっちゃってるんだから、本当に世話がないなぁ私って。
「うぅー……」
自慢の長い金髪を指でくるくると弄ぶ。
真剣に考え事をしている時の私のクセだけど、最近は本当にこのクセが無意識に出ることが増えた。
それだけ長い時間悩んでるってことだけど、どうもしっくりとくる解決案が出てこない。
いつもなら物事の解決案なんてすぐ出てたのに。やっぱり私今、かなり精神的に参っちゃってるのかもしれない。
「むー……」
こうして唸りながら私、エレシア・ラヴェリベールは特に何も生み出せない無意味で無駄な時間の浪費をここ数日ずっと寮の自室で繰り返していた。
国有数の名門貴族ラヴェリベール家に生まれ、なんでもオールマイティにこなせるその多彩な才能から10年に一人の逸材とまで言われたこの私がなんとも無様なものだ。
しかし、いくら考えてもろくな案が出てこないから仕方がない。
この私の頭脳では、どれだけ思考を重ねても解決策が浮かばないのだ。
ああ、本当にどうしたらいいんだろう。
どうしたら──私の愛しい愛しい幼馴染であるクロムと仲直りすることが出来るんだろう。
本当に……頭を抱えるほど難解で仕方がない。
*
私、エレシア・ラヴェリベールには幼馴染が一人いる。
名前をクロム・アルレオ。ラヴェリベール家と同じく国の名門貴族であるアルレオ家の一人娘だ。
親同士が比較的仲が良かったことと、同じ年であり同じ名門貴族の出ということで、私とクロムは幼い頃からずっと一緒だった。
雨の日も、風の日も、ずーっと私達二人は一緒に過ごしてきた。
今や私にとってクロムは家族と同等、いやそれ以上に大切な存在といっても過言ではない。
だけど最近、そのクロムにやけに避けられるようになってしまったのだ。
声をかけたら一瞬怯えたような顔になるし、一緒の食事に誘っても遠回しにやんわりと断られる。
せっかく一緒に入ることが出来た魔術学園の校舎でも、私を見たら顔を伏せて逃げるように離れていくし、挙句の果てには学園からの帰りも別々に帰るようになった。
帰る場所は同じ寮なのに。今まで登下校はずっと一緒だったのに。
ずっと幼い頃から一緒で、本当に大切に想っている幼馴染にそんな行動をとられちゃって私は現在意気消沈状態。
学園では表面上はいつも通りにしながらも中身は抜け殻状態、夜はこうしてずっと部屋に籠ってどうやったら彼女との仲を元に戻せるか考える日々を送っていた。
「うあー……クロム……」
そもそもこうなってしまった原因は一体何なのか。
いや、実のところある程度察しはついている。
おそらく彼女が私を避ける原因は、最近私からのスキンシップが異様に増えたことで自身の身の危険を感じてしまっているんだろう。
本当、自分の気持ちを自覚してから彼女への愛情が爆発してしまったせいでこんなことになるなんて。
正直に言うと、私は彼女──クロム・アルレオのことが好きだ。
それは友人としてという意味ではなく、家族のような存在としてという意味でもなく。
私は彼女のことを心から愛している。
人のことをここまで好きになったこと自体初めてなのでこれが世間一般的に言う恋というのかは分からないけど、おそらくそれに近しい感情があることは間違いない。
自身の気持ちを自覚したのは本当につい最近のこと。
一か月ほど前、私が学園で庶民いじめをしている貴族の青年を見つけ、そいつに対してもう金輪際そんなことをしないよう脅し……もとい注意をしていたらカッとなったその貴族の青年に殴られそうになったことがあったのだけれど、その時彼女が身を挺して私を守ってくれたことが恋心を自覚することになった直接の原因。
なんというか、いつもは臆病でずっと私の後ろに隠れているような子が、私が殴られそうになった瞬間勇気を振り絞って私を守ろうとしてくれたことにひどくキュンときた。
これがいわゆるギャップ萌えというヤツなのだろう。
まあそれ以前から彼女の反応を見たいがために特に居もしない架空の好きな人のことで彼女に恋愛相談とかもしてたから前々からその気はあったんだろうけど、明確に彼女への愛情を自覚した直接の原因はその出来事ということになる。
ちなみに私を庇ったクロムに拳を当てたその貴族の青年には、私の名前を聞いただけで足が竦んで立てなくなるくらいの制裁を与えておいた。
可愛い可愛いクロムにほんの少しとはいえ傷をつけたんだから当然と言えば当然だ。むしろそれくらいで勘弁してあげたことを感謝してほしい。
「辛いよークロム……」
とにかくそうして彼女への愛情を自覚してからというもの、私は彼女のことを異様に愛おしく感じるようになった。
今の私は彼女の姿を見ると抱きつきたくなるし、甘やかしたくなるし、キスをしたくなってしまう。
彼女のあったかい体温を肌で感じたい。彼女の匂いを知りたい。彼女の小さくてやわらかい身体を全身で包み込みたい。彼女の可愛らしい顔を間近で見たい。彼女の手を握りたい。彼女の唇と触れ合いたい。彼女の瞳に私だけを映してほしい。彼女が欲しい。彼女を誰にも渡したくない。
そんな彼女への身勝手な想いが日に日に強くなっていき、今や彼女の姿を見ると我慢できなくなってしまいついつい過剰なスキンシップを取ってしまうようになってしまった。
だけどその結果彼女に距離を取られるようになり逆に前より接触が減ってしまったんだから、本末転倒もいいところである。
いつもの私ならそうなってしまうことなんて簡単に気が付きそうなことなのに。どうやら私はクロムのこととなると途端に馬鹿になってしまうらしい。
「はぁ……」
本当、どうしよう。
距離を取られてしまったこともそうだが、それよりも私の身勝手な欲望を抑制できず彼女を怖がらせてしまったであろうことが何よりも辛い。
そりゃずっと一緒にいた幼馴染が突然欲望をむき出しにしながら自分に迫ってきたら怖いに決まってる。そりゃ距離を取るに決まってる。
ちょっと考えれば分かることなのに。なんで自身の感情を抑えるなんて単純なことが出来ないかな私。
傷ついてないかなぁクロム。もし対人恐怖症とかになっちゃってたりしたら私は自分を許せる自信がない。
本当なら今すぐ彼女に謝罪なりなんなりしたいんだけど、仮に今までのことを謝りにいくにしても彼女から避けられてるし、それ以前に私が近づくことで彼女を必要以上に怯えさせちゃったりしたらと考えるとどうしても行動に起こせない。
いつもなら思い立ったらすぐに行動していたのに。いつから私はこんなに臆病になったんだろう。
「ううう……」
失意のあまり机に突っ伏す。
私は一体どうしたらいいんだろう。どうすれば彼女を怖がらせることなく関係を修復することが出来るんだろう。
いくら考えてもいい案は出てこない。
国中から秀才が集まる魔術学園でトップクラスの成績を維持している私の優秀な頭脳は一体どこにいってしまったんだろうか。
今の私の頭は無能もいいところだ。下手したら実家で飼っているペットの頭脳にも負けている気がする。
「お気に入りの本も無くすし……最近の私って本当に駄目駄目……」
結局いい案は出ずひたすら自己嫌悪だけが募る。
ここ最近ずっとこうだ。このままだと自分のことを嫌いになってしまいそう。
「はぁ……ってもうこんな時間かぁ」
ずっと唸っているだけの時間を過ごし気が付けばもう深夜になっていた。時が経つのは早い。
……もうこれ以上考えても多分意味はないかなぁ。どうせどれだけ唸っても今日はもう自己嫌悪が進むだけな気がする。
「寝よ……」
夜更かしは肌に悪いし、明日も早い。もう解決案は明日の私に任せて今日はもう寝ることにしよう。
……毎日『明日の私に任せる』ってやってるけど結局今日までこれといった良い案が出てないんだから、明日の私も多分今日と同じ行動を繰り返すんだろうなぁ。
ま、分かっててもどうしようもないんだけど。
『コンコン』
「……ん?」
少し散らかっていた机の上を軽く掃除し、寝るために部屋の電気を消そうとしたとき、唐突に玄関の扉からノック音が聞こえた。
こんな夜中に誰だろうか。特にこの時間に誰かと会う約束はしてなかったはずだけど。
「はいはーい」
とはいえ誰かが来たのなら無視するわけにはいかない。もしかしたら緊急の要件かもしれないし。
けど一体誰だろう。セリスもジェニーも早寝だからとっくに寝てるだろうし、レイランとスズリは三面魔術実習でハーキンストン教授のところに泊まり込みで行っているはずだからここにいるのはありえない。
……となると寮長さんが追加された寮の要項でも伝えにきたのだろうか。だとしたら何もこんな深夜に来ることはないだろうに。
「一体どちらさ……ま……」
玄関の扉を開け、ノックの主を確認する。
するとそこには、私が最もよく知る人物がいた。
腰ほどまで伸びたつやつやの黒い長髪。
庇護欲をくすぐる小さな身体。
いつも自信なさげに眉を下げている可愛らしい顔。
間違いない。私が彼女を見間違えるはずがない。
「クロ、ム……?」
クロム・アルレオ。
私が最近ずっと恋焦がれていた少女が、私の部屋の前に若干挙動不審ぎみに周りをキョロキョロと見渡しながら申し訳なさそうに立っていた。
「え、えっと、どうしたの?」
いきなり訪れた予想外の出来事に頭の中が困惑で埋め尽くされる。
彼女が一体なぜこんな夜中に突然。
特に彼女と会う予定は……いや、それ以前に彼女は最近私を避けていたはず。
なのにどうして今、深夜の私の部屋の前に彼女がいる?
もしかしてこれは私が彼女を求めすぎるあまり見ている幻覚なのだろうか。だったら合点はいくけど……。
「その……こんな夜中にごめん。エレシア」
目の前のクロムが手をもじもじとさせながら下げていた顔を上げ、その綺麗な瞳で私を見上げる。
あっ可愛い抱きしめたい……じゃなくて、今話したということは今目の前にいるクロムは私の幻覚じゃないってこと?
本当に、正真正銘実物のクロムがいるってこと?
え、まってまって、突然のことで心の準備が。
「ごめん、5秒待って」
「え、うん」
落ち着け、落ち着くんだエレシア・ラヴェリベール。
私は名門貴族ラヴェリベール家の長女にして、十年に一人の逸材とまで言われた人間。
突然目の前にずっと恋焦がれていた人物が現れたからって心を乱してはならない。いつだって私は冷静沈着で余裕を持っていた。
人がいる前では決してその仮面を外してはならない。たとえそれが幼い頃からずっと一緒にいる幼馴染であっても。
落ち着け。私ならできる。
確かに最近はずっと避けられていけど、それより以前はずっと一緒にいた子じゃないかクロムは。
それが突然目の前に現れたからなんだと言うんだ。平常心平常心。
……よし、落ち着いた。
「お待たせクロム。今日もすごく可愛いね。食べちゃいたいくらい」
「エ、エレシア?」
「ごめん忘れて。ただの冗談」
「はぁ……」
駄目だ、ちょっとでも気を抜くとクロムへの愛が暴発してしまう。
いい加減にするんだ私。それで彼女を怖がらせてしまったんだろう。
またそれをやってしまったら今度こそ絶交だなんて言われかねないぞ。
自制だ自制。絶対にそれを彼女の前で出してはいけない。
「で、どうしたのかな急に」
「うん……ちょっと、エレシアと話したいことがあって」
「?」
クロムが話したいこと……なんだろう。
学園の授業で分からないところ──いや、だったら別に明日でいいし、聞くのは今までずっと避けていた私じゃなくたっていい。
恋愛相談──いや、最近のクロムに異性の影は特になかったはず。確かにクロムはその小動物みたいな可愛らしさから密かに一部で人気はあったけど、だからって私と距離を取った瞬間一瞬で男が出来るとは考えにくい。
となるともしかして……私の最近の行動に嫌気がさしてついに絶交を言い渡しにきた?
あ、ありえる。最近の私の彼女への行動は自分でもちょっと引くぐらいのものだったし。
ううう、もしそうだったら嫌だなぁ。本当に嫌だ。
でも好き勝手して彼女を怖がらせた私が絶交を拒絶する権利なんてないし、本当にその話だったら甘んじて受け入れるしかないのだろうか。
「じゃあとりあえず上がる? 廊下で立ち話もなんだし」
「うん。お邪魔します」
廊下のクロムを部屋の中へ招き入れる。流石にここでずっと立って話すのは彼女も辛いだろう。
まあとにかく何の話だったにしても、落ち着いて話を聞かないことには始まらない。
一旦部屋の中で腰を落ち着かせて向かい合ってしっかりと話し合わなければ。
せっかくクロムがずっと避けていた私に勇気を出して会いに来てくれたんだ。
だったら私はたとえどんな話であったとしてもそれに真摯に向き合わないといけない。それが今の私の義務だ。
……うう、でも。
彼女の話したいことが、絶交とかじゃないもっと明るい話題だったらいいなぁ。
ああ、胃が痛い。
1話に纏める予定だったのですが、思ったより長くなってしまったので前後編に分けます。なのでもう少し続きます。