金色の暴君は遥かなる夢の旅路を行く   作:豚ドン

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宝塚記念:祝祭の日 中編

 

 つくづくと思うのだが、私は本当に運の無いウマ娘である。

 そしてこのガラスの様に繊細な肉体が怨めしい。

 私はメイクデビューで、後にクラシック戦線を賑わすことになる同期のトールポピー、ドリームシグナル、キャプテントゥーレに勝った。

 しかし、骨膜炎を発症し長期の離脱。

 復帰してから、また腰椎の捻挫で長期の離脱。

 シニア期に入ってからは快勝と故障の日々。

 グラスワンダー先輩から、一年後輩のセイウンワンダーと共に特別目をかけられていたのに。……

 

 だから今度こそ、私はグラスワンダー先輩の眼が節穴でない事を。

 そして私がガラスの肉体を克服し、強い走りが出来ることを証明して見せる為に。……この宝塚記念という大舞台で勝利を掴み、不死鳥のように華々しくターフへと舞い戻ろう。

 最後の直線で追い比べを制するのは私。……アーネストリーだ。

 

 

 

 

「ファンの願いが通じたのか、薄陽が差し込んでまいりました阪神競バ場。グランプリ、宝塚記念の本バ場入場となります」

 

 拍手で迎えられるウマ娘達の表情は、非常に集中したものであった。

 

「阪神2400のレコードホルダー、この距離は望むところの1番イコピコ!」

 

 イコピコ。その名の「頂上に」という意味を表すように、彼女のトレードマークである、頭上の水色のキャスケットの正面には赤い一等星が登っていた。

 勝負服はハワイの海のようにどこまでも青いアロハシャツ、柄には情熱的な赤のハイビスカスが咲き誇り、下はデニム生地のショーパンであった。

 

「重賞連覇の勢いで、いざ! G1初挑戦。故郷に錦の旗を飾れるか、2番アーネストリー!」

 

 アーネストリーの勝負服は、グラスワンダーの勝負服によく似ていたが、白と青を基調としたものではなく、水色を基調とし、さらに背には赤でクロスした羽根が描かれていた。

 

「マーベラス! と叫んでいる! 香港帰りだが元気いっぱいです。3番ネヴァブション! そしてもう一人、こちらもマーベラス! と叫んでます、4番スマートギア!」

 

 どちらもゴシック調の勝負服であり、ネヴァブションの方は黒のスカートのフリルに白と黄色が交互に入っており、頭には黒い薔薇のコサージュ。

 スマートギアの方はピンクと黒のフリルであり、頭にはゴーグル付きのシルクハットを乗せていた。

 

「個性派。……いえ、意外性の魅力があります。5番ナムラクレセント!」

 

 ナムラクレセントの勝負服はバンカラスタイルというべきか。……高下駄風な靴に、(あざみ)のように薄紫色で擦り切れた学生服に、ツギハギが目立つ短めのマント。

 そして学帽には三日月が付いており、雑に開けられていた、穴から耳がひょっこりと出ていた。

 

「朝日フューチュリティステークスのチャンピオンウマ娘が復調してまいりました! エプソムカップから間隔を詰めてG1二勝目を狙う、6番セイウンワンダー!」

 

 有マ記念での敗北を受け。……ハードなトレーニングに勤しんだ為か、バ体は引き締まっていた。

 

「7番はマイネルアンサー! 初めてのG1で一発解答を得られるか?」

 

 初のG1である為か、少々緊張気味のマイネルアンサー。

 額の流星がどこか、ビックリマークに見えた。

 

「そして、ティアラ路線から歩みを進め、現役最強の存在へと至る為にやってきた! ファンの期待に応える為に、稍重のバ場も関係ありません! 8番ブエナビスタ!」

 

 バ場状態を確かめるように、足裏でしっかりとグリップしながらブエナビスタはパドックから出てくる。

 

「ダービーウマ娘の意地! ダービーウマ娘の底力! 復活に向けて最高の舞台が整いました! 9番ロジユニヴァースです!」

 

 闘争心が滾るのか、獰猛な笑みを浮かべながらも歓声に応えるように腕を高く上げ、ロジユニヴァースはターフの上を流すように走っていく。

 

「今回は今までと出来が違います! 天皇賞ウマ娘としてブエナビスタとドリームジャーニーを迎え撃つ! 10番ジャガーメイルです!」

 

 まさに天皇賞ウマ娘として、マントをはためかせながら、赫赫たる姿での入場にファンから声援が飛ぶ。

 

「11番、トップカミング! 日経新春杯二着ウマ娘! 好調さを武器にグランプリ挑戦です! そして不利を受け、結果がともわなかった春の天皇賞の分までここで爆発! 日経新春杯で一着をもぎ取ったキレ味のある脚をもう一度! 12番メイショウベルーガ!」

 

 駆け足で、次々と本バ場入場していくウマ娘たち。

 どのウマ娘も実力者であり、自信満々な表情をしている。

 競バ場のボルテージは段々と上がってゆく。

 

「メジロマックイーン、ディープインパクトを育て上げた、名トレーナー池雨泰男が、トレーナー人生最後の宝塚記念に送り出す、13番フォゲッタブル! 有マ記念の借りを返せるか?」

 

 周りの熱狂とは裏腹に、観客席からフォゲッタブルを見つめる老齢のトレーナー。

 その表情は芳しくなく、グランプリだというのに重苦しい雰囲気を醸し出していた。

 

「親父。……フォゲッタブルの調子は?」

 

 ドリームジャーニーやオルフェーヴルのトレーナーである池雨は、レジェンドと称される、自らの父に声をかける。

 

「厳しいな。……やる気はある、厳しいトレーニングをも熟す、作戦を十分に理解する頭がある。……しかし、それだけで勝てないのがG1だ。ディープやマックイーン、ジャーニーのように己の限界を超える、何か(・・)を花開かせなければな」

 

 将来を期待され、活躍を渇望されるウマ娘を、どんな名トレーナーが手塩にかけ、育成しても、思うように大輪の花を咲かせないことがある。

 

「で、ジャーニーの方はどうなんだ」

 

 父の問いかけに、涼しげな顔をする池雨。

 

「脚も完治している、トレーニングの質も量も良好、やる気も十分。去年のグランプリ以上の走りを見せてくれると信じている。……怪我なく無事に走りきって、一位をもぎ取ってくれることを祈るだけだよ」

 

 未だかつて、宝塚記念を連覇したウマ娘は存在しない。

 連覇を果たせるのかという、世間の期待がジャーニーと池雨トレーナーに重くのしかかる。

 しかし、池雨は重たさに押し潰されそうでも、ジャーニーの前や、誰かの前では虚勢を張って涼しい顔をし、自信満々に笑う。

 それが担当するウマ娘達の緊張をほぐす為の方法の一つであると。

 

 

 

 

「本日出走のウマ娘で最年長、虎視眈々とトップを狙う、鍛え上げられたバ体はその名を示すかのようです! 14番マキハタサイボーグ!」

 

 負けても負けても、負け続けても、折れず、曲がらず、腐らずに黙々とトレーニングとレースを完走してきた、紫に光るサイバーバイザーをした鹿毛のウマ娘。

 驚異的なのは、怪我もせずに30幾つのレースを走り、無事是名バを地で行くことであった。

 

「屈腱炎により、二年三ヶ月の苦しい日々を送ったが、見事にターフへと舞い戻った、未知の素粒子の名を持つ、16番アクシオン!

そして、凱旋門賞へのチャレンジの為に一次登録をしておりますウマ娘。大外から追い込んだダービーの末脚をもう一度! 17番ナカヤマフェスタ!」

 

 気が立っているせいか、周りのスタッフを威嚇しながら軽めに走るナカヤマフェスタ。

 そして同じ三ノ宮トレーナーに師事するアクシオンは、威嚇するナカヤマフェスタを宥めながらも、自身は自らの脚とバ場状態を確かめながら走る。

 

 最後のウマ娘がパドックから本バ場に入り、返しウマに移ろうとする。

 

 ――大きく阪神競バ場が揺れる。

 競バ場のファン達の大歓声と拍手に迎えられ、ドリームジャーニーがホームストレッチのターフを駆け、歓声に応えるように拳を天に伸ばす。

 

「史上初の宝塚記念連覇をその手に! グランプリ連覇を目指して! 小さなバ体ですが、その追い込みは雄大豪壮! 18番ドリームジャーニーです! 大きな歓声が上がっております!」

 

 

 

 

「「ジャーニーの姉御! 頑張れー!」」

 

 現トレセン学園に在学中の生徒の一団から大きな応援の声が上がる。

 ドリームジャーニーの熱狂的なファンの一団である。

 その一団には、形だけの応援団長として祭り上げられたオルフェーヴル。

 オルフェーヴルを祭り上げた首謀者の一人フェイトフルウォー、そしてもう一人の首謀者である、【姉御しか勝たん】とプリントされた団扇を配りながらゴールドシップが声を張り上げていた。

史実通り、九月にドリームジャーニーは引退

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