金色の暴君は遥かなる夢の旅路を行く   作:豚ドン

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宝塚記念:祝祭の日 後半

 

 仁川の舞台に、高らかに鳴り響くファンファーレ。

 それに合わせて、手拍子を叩く者。

 推しウマ娘の応援バ券を握りしめて祈る者。

 ターフビジョンに映る、ゲート入りをしていく17人のウマ娘の姿を目に焼き付けようとする者。

 レースを走るウマ娘たちの身を案じる者たち。

 コースの内側に待機する、事故などが起きた際の救護業務に携わる人と、ウマ娘たち。……その中でも特に、メリーナイスとサクラスターオーの二人は真剣な眼差しで17人のウマ娘を見ていた。

 事故が起これば、いの一番に駆け付ける彼女たちは、自らが走りきれなかった毎年2回あるグランプリを、コースの内から特別な思いで守っている。

 

 様々な思いを乗せて、始まる。 

 

 

「稍重まで回復したコンディション! 言い訳は出来ません! 力勝負で頂点を目指せ!」

 

 ゲートインした、どのウマ娘も集中していた。

 それでも、不足の事態というものは起こり得る。

 

「各ウマ娘、綺麗にスタート! いや! ドリームジャーニーが体勢を崩している!」

 

 長く伸びてた芝に足を取られたのか、露で濡れた芝で滑ったのかは定かではない。

 体勢を崩し、左外側に大きく傾いていた。

 

(足取られちまった! これは転け……)

 

「「「転けるな! 踏ん張れ!」」」

 

 奇しくも三人が同時に、ドリームジャーニーが体勢を崩した直後に声を上げた。

 

 その面々を見れば必然である。

 ドリームジャーニーの担当である池雨トレーナーは言わずもがな。

 ゲート付近でコース内側に待機していたメリーナイスは、現役時代に有マ記念でスタート直後に転け、苦渋を舐め。

 池雨の父はメジロデュレンの担当トレーナーであり。有マでのサクラスターオーの悲劇と、その後のメジロデュレンの痛ましい姿が、未だに心に残っている。

 

 

 

「終わってたまるか! 道半ばで倒れてたまるかぁ!!」

 

 並のウマ娘であれば転倒するのは必至。 

 

 しかし、ドリームジャーニーは並のウマ娘ではない。

 阪神競バ場に、地震を引き起こすかのような強烈な踏み込み。

 

 ドリームジャーニーは、到底無理な体勢からも柔軟性を生かし、力強く大地を踏み付け、最終直線で末脚を爆発させる要領で加速し、倒れる既の所で体勢を立て直す。

 

「気合いで体勢を立て直した!」

 

「化け物かよ!」

 

 誰かの口から、讃えるような、恐れるような言葉が出る。

 

 その豪脚は体勢を立て直しただけでは止まらず。

 一気に加速し、ホームストレッチに入る頃には、作戦で後方待機を決めていたウマ娘達を追い抜き、中団最後尾である、ナカヤマフェスタの真後ろに付ける。

 

 ターフを走るウマ娘全員が、圧倒的なまでの暴を感じていた。

 時間にすれば、たったの数秒である。

 

(流石グランプリウマ娘。今にも首筋に噛みつかれそうだが……)

 

 ナカヤマフェスタは、真後ろに追走してくるドリームジャーニーの圧に、冷や汗をかきながらも、トレーナーとの事前の作戦通りに、中団・後列・外目のポジションをキープする。

 

(勝つためにはこのポジションは譲れねえ!)

 

 

 ドリームジャーニーはベストポジションの確保が叶わず少々、歯痒い思いをしていた。

 

(ナカヤマフェスタ。……圧をかけ続けているのに、ポジションを上げるか下げるかしねぇな。……良い根性だ!)

 

 

「今、ドリームジャーニーは後方から5、6番手の位置か! その後ろからはフォゲッタブル! 一番後ろからスマートギア! こんな展開になりまして各ウマ娘1コーナーのカーブ。思い思いの位置どりで1コーナーに入っていった17人。大歓声が起こりました! 大歓声が起こった!」

 

 大歓声で揺れる、阪神競バ場。

 

 

(我、天啓を得たり。今までのように中団からレースを進めようとすれば、あのプレッシャーに負けていたはず……逃げが我が道)

 

「1コーナーから2コーナーへ!

先手を取ったのはナムラクレセント、宣言通りの逃げです! ハナを切っていく!

 

向正面に入りました!

2バ身くらい空いて、2番手にはピッタリとアーネストリー!

3番手は外にダービーウマ娘のロジユニヴァース!

内の方に8番のブエナビスタ! 絶好のポジション、内の方でブエナビスタ4番手!

トップカミングが続いて、その後ろからはセイウンワンダーとアクシオンが続きました!

一番内にネヴァブション、真ん中におりました天皇賞ウマ娘ジャガーメイル、外にはフォゲッタブル!」

 

 宝塚記念は内ラチの芝が荒れているが、力が充分であれば伸びると読み、先行して内側を駆けるアーネストリーとブエナビスタ。

 逃げるナムラクレセントを見ながらレースを着々と進めていく。

 

(絶好の展開! あとは最終直線で前を交わすだけ)

 奇しくもアーネストリーとブエナビスタの両名は同じ考えに至っていた。

 

 

「ブエちゃんあとは内でじっと溜めて、前を交わすだけ!」

「アーネストリーさんにセイウンワンダーさん頑張って!」

「差せよ、差せよ! ジャーニー!」

 

 レースは中盤であるにも関わらずに、トレセン学園関係者の席で一際白熱している席があった。

 かつて、鎬を削りあい。同じ舞台である宝塚記念で1着であったグラスワンダー、2着のスペシャルウィーク、そして3着のステイゴールドの3人であった。

 

 

「アホやな」

「デース」

 

 タマモクロスとエルコンドルパサーは横目で3人を見ながら苦笑する。

 

「この勝負に勝つんわ、上がり最速の豪脚を使ったウマ娘や」

 

 

 

 

「ほとんど18人は一団でありますが、前は5番のナムラクレセント、リードは3バ身ほど!

2番手にアーネストリー、3番手ロジユニヴァースが絶好の手応え!」

 

 第3コーナーを周り、第4コーナーに差し掛かろうとしたところで動きが起こる。

 

「外から早い目に動いてくるのはアクシオンだ! ブエナビスタは内で脚を溜めている! トップカミングはずるずると下がりはじめている!」

 

(このタイミングで動けば、勝てる!)

 

 そうアクシオンは判断し、勝利に向けて進出を始めた。

 

 しかし、その瞬間に背後から殺気を感じ、アクシオンとロジユニヴァースは背後をチラリと確認してしまった。

 

(来た!)

 

 鬼気迫る勢いでドリームジャーニーが、ナカヤマフェスタとフォゲッタブルのさらに外から追い込んでくる。

 

「第4コーナーから最終直線に向かって、ドリームジャーニー! 今日も外から追ってきた!

逃げるナムラクレセントは粘るが厳しいか!

先頭は変わってアーネストリーが逃げる!

内に潜り込みました! ブエナビスタ! 内からブエナビスタ!」

 

 第4コーナー入口から少し先から始まる3ハロン600メートル。

 

 勝つのは私だと主張するように、グランプリの王座がある決勝線を目指し18人のウマ娘が最終直線に殺到する。

 

「ここから、ごぼう抜きだ!」

 

 今まで、数多の先行するライバル達を捩じ伏せてきた、ドリームジャーニーの大外からの末脚が炸裂する。

 

 はずであった。

 

 ほんの僅か、ほんの僅かの差ではあるが、ドリームジャーニーの右前を駆けていくナカヤマフェスタに届かない。

 それどころか直線に入ってからジワリジワリと離されてゆく。

 

(クソ! スタートの立て直しに脚を使ったのが響いてきたか……それでも!)

 

 ドリームジャーニーは追うのを止めない。

 

 約束の為にも。

 

 

「外からなんと! ナカヤマフェスタ! ナカヤマフェスタが追ってくる!

いちばん外がドリームジャーニーだ!」

 

 阪神競馬場が揺れる。

 それもそのはず、ほぼノーマークであったナカヤマフェスタが、先行し競り合うブエナビスタとアーネストリーに並びかけようというのだから。

 

 

(ブエナビスタとアーネストリーはバチバチと火花を散らしながら競っている、こっちのことなんかまるで見えていない……ここだ! ここで、オールインだ! 外側に居るアーネストリーに併せて交わす! ひりつくぜ)

 

 ナカヤマフェスタは頭はクールであるが、心とバ体は熱くなっているのを感じ、さらに加速してゆく。

 

 

「前はブエナビスタ! アーネストリー!

ブエナビスタ! アーネストリー!

ナカヤマフェスタ! ナカヤマフェスタ、これは驚いた! 並ばない! 交わした! 交わした!

ナカヤマフェスタ! ブエナビスタ!」

 

 ゴールまで50メートルも無かった。

 その短い距離で勝利を確信したブエナビスタの半バ身前に躍り出るスカジャンを纏ったウマ娘。

 

「なんで?」

 

 ブエナビスタから呆気に取られた声が漏れる。

 

 

「ナカヤマフェスタ勝った!!」

 

 ナカヤマフェスタがゴール板を駆け抜けた瞬間に、スタンドでは大歓声と応援バ券が大量に中を舞う。

 伏兵であったナカヤマフェスタの1着を祝福するかのように。

 

「ブエナビスタ2番手に3番手にはアーネストリー! ドリームジャーニーは懸命に追込みましたが4番手!

なんとなんとナカヤマフェスタ! 大一番でやりました!

上がり3ハロンはメンバー最速の35.8秒……」

 

 

 

 

 レースの熱狂が冷めやらぬなか、宝塚記念の優勝レイを肩から掛けているナカヤマフェスタと、そのトレーナーへのインタビューがターフビジョンに映っていた。

 ドリームジャーニーが4着となって喧しくしている、フェイトフルウォーやゴールドシップとは違い、オルフェーヴルは静かにインタビューを見ていた。

 

「凱旋門賞に一次登録済みとお聞きしましたが、秋は凱旋門賞を目指すのですか?」

 

「目指します。日本に凱旋門のトロフィーを持って帰ります」

 

 堂々と言い放つナカヤマフェスタに、フロックだと……まぐれ勝ちだという声が他のウマ娘のファンから漏れる。

 

「凱旋門賞……か」

 

 オルフェーヴルの耳と心には周りの声など入らず。

 ただただ、姉を負かしたナカヤマフェスタの堂々たる姿と、凱旋門への憧れが刻まれる。

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