いつもの平日昼時のお茶の間に流れる、御長寿番組のテーマが流れる。
玉ねぎのようなヘアースタイルである、お年を召された女性がMCを勤める、あの番組である。
トレセン学園の食堂で、ゆっくりと食事を摂っていた、ウマ娘たちの目と耳は食堂に設置してある、大型の液晶テレビへと一斉に向く。
「皆さまこんにちは。柳|永遠子(とわこ)がおおくりする、永遠子の部屋の時間となりました。 本日は宝塚歌劇団が誇る、不動のトップスターと月組のトップスターであります、御二方に来ていただきました」
深々と折目正しく永遠子と、カメラに向かって礼をする、スラリとしており、スーツを着こなしているウマ娘。……本日はトレードマークの王冠はお休みのようであった。
もう一人は200cmを超える身長であり、スーツの上からでも分かるほどに隆々としている筋肉が特徴である、野性味を感じる、ばんえいウマ娘。……そちらは会釈をすると、筋肉の圧に耐えられずにスーツが悲鳴をあげる。
「本日はボクとスーパーペガサスくんを、貴重な場にお招きいただき、感謝いたします」
煌めく笑顔で朗らかに喋るウマ娘、テイエムオペラオー。
「一生に一度あるか、ないかのお招きなので緊張しますね。……連覇が懸かった、ばんえい記念よりも緊張します」
そして憂いのある表情をするが、男前で人気のあるスーパーペガサス。
どちらも飛び抜けての美形であるために、トレセン学園の食堂や、お茶の間からは黄色い声援が上がる。
「テイエムオペラオーさんの笑顔とスーパーペガサスさんの憂い顔を同時に向けられますと、年甲斐もなく胸キュンしてしまいますわね」
口に手を当てお上品に笑う、永遠子。
照明の加減か、微かに頬に紅がさしたように映る。
「オペラオーさんは、皐月賞ウマ娘として、ダービーではアドマイヤベガさん、菊花賞ではナリタトップロードさんと鎬を削り合い、翌年にはメイショウドトウさんが良きライバルとなって、年間8戦無敗を達成という華々しい成績を残されましたね」
何度も首肯するオペラオー。
「クラシックは勝ちきれないレースが多くて、本当に悔しい思いをしたよ。その時期に、リュージとのコンビも解消させられそうになったからね。
まさにラ・トラヴィアータ! ……ヴァイオレッタとアルフレードのように熱い物語だったよ」
このオペラオーの何の気はなかったような例え話に対してファンは真剣に、真面目に、幾度も、オペラオーと当時は新人トレーナーであったリュージのどちらがヴァイオレッタで、アルフレードなのか議論を重ねる事になる。
「その年間8戦無敗のシーズンは、オペラオーさんのレースを北海道からずっとテレビで観てましたね。ドンパ、つまり同い年のウマ娘で凄いのがいると……その年は勝てなかった私に力をくれて、翌年からの大躍進の励みになりましたね」
照れ臭そうに語るスーパーペガサス。
「お二方は同い年だったのですね、スーパーペガサスさんの方が、お年が下かと思ってましたわ」
長く、ばんえいウマ娘の現役を続けた故に、宝塚音楽学校への入学が遅かった。
同い年ではあるが、オペラオーの方が宝塚歌劇団員としては先輩である。
「スーパーペガサスさんは、北海道は帯広で行われます、ばんえい競バでBG1のレース、ばんえい記念を四連覇という偉業をなされましたね。これはトゥインクルでいうところの……」
「そう! つい先日行われた宝塚記念や、有マ記念のばんえい競バ版です。漢字で書くと輓曳って難しいので平仮名が良いですね」
にこにこと笑いながら、ばんえい競バの宣伝も欠かさないスーパーペガサス。
「ボクという太陽と、そしてもう一つの太陽と呼んでもいいスーパーペガサスくんのおかげで、魅力と迫力が上乗せされたからね。スーパーペガサスくんが男役で出演する、ベルサイユのばらや、バラの国の王子は必見だよ!」
その後も裏話や、現役時代のトークが進んでいく番組。
ナカヤマフェスタはポータルテレビで番組を流しながら、彼女の墓前に花を供え、すみれの香りがする線香に火をつける。
「宝塚記念勝ったよ。どうだ? この宝塚記念の優勝レイ」
夏至が過ぎ、小暑がそこまでやってきていた。
「春、すみれ咲き、春を告げる~」
季節外れと言われれば、それまでである……のだが。
ナカヤマフェスタはスミレの花を愛でながら、彼女が好きだった、宝塚歌劇団を象徴する歌を口ずさむ。
「宝塚記念優勝おめでとう、そして娘の為にありがとう」
背後から年季の入った渋い声で声かけられる。
「好きだったからねー、宝塚歌劇団。だから宝塚繋がりでね」
ナカヤマフェスタは振り返り、にっと笑う。
声の主は彼女の父親。
彼女が亡くなった時よりも幾分かマシに見えるが……それでも彼女が元気だった頃に比べると、やつれている。
「あとは自分の為でもあるからね」
「凱旋門賞で走る為に必要な様々なバックアップは私も支援しよう」
突然の申し入れに面食らい、ニット帽を目深にかぶる。
「いや、そこまでしてもらうなんて。仲が良かったとは言ってもさ……」
「フェスタ」
彼女の父親は、ゆっくりとナカヤマフェスタの正面に立つ。
「私はキミのことを血は繋がっていないが、もう一人の娘だと思っている。だからーー」
その言葉を聞き、ナカヤマフェスタの目頭に熱いものが込み上げてくる。
「ああ! もう言わなくていい、わかった……わかったよ。その支援をありがたく受けるよ」
涙を流す顔を見られたくなくて、少々強引に話を切り上げ、横をすり抜ける。
「凱旋門賞のトロフィー掻っ攫ってきて、いっちまったアネキに、どうだ! って自慢してやるよ」
幼馴染であり、姉のように慕っていた彼女。
悪童だった私を見捨てずに手を差し伸べてくれた彼女と、その父親。
先に、いってしまった彼女。
「フェスタなら、強いウマ娘になって凱旋門賞でも勝てるよ! 私を凱旋門賞に連れていってね!」
それが彼女の夢で、約束だった。