「シニア期伝統の一戦!
G2京都記念が始まります!
なお、発走直前に4番のホワイトピルグリムが落鉄した為にただ今、発走時刻が遅れております」
有マ記念から年を開けて、ブエナビスタとの再戦。
さらには香港ヴァーズで四着。まさに喰らい付いて意地で、もぎ取り帰ってきた、同期のジャガーメイルとバトルできる。
その為に、気合を高めていたのに。……落鉄で気合が削がれた。
さらには……
「へいよう! ジャーニージャーニーよ〜!
今回は僕様ちゃんが今度こそ勝つよ〜!
大阪杯と春天の借りは青天井、マックス返しするからヨロシクうぇい〜!
瞬き禁止、ブチ上げマックス追込み勝負〜!」
同期ライバルの一人である、サンライズマックスがチャカつき、能天気なラッパー的な喋りをしながら話かけてくる。
「ほう。……ムラっ気マックスの癖に、えらい自信たっぷりじゃねぇか。アタシの夢の旅路について来られるか?」
無視する事もできたが。……同期のウマ娘の一人である。
あまり無碍にするのも悪かろうと思い、軽口を叩き返す。
「僕様ちゃん、マックスの心中に必中、秘策アリ〜!
有マ記念の最強、最高、再演なり〜!」
サンライズマックスは言いたい事を言い切り、ビシッという擬音が聞こえそうなほどに真っ直ぐに指を刺してくる。
「へっ! かかって来い!
グランプリウマ娘の力を魅せてやるぜ!」
ドリームジャーニーは胸を張り、虚勢を張ってでも、自信満々な姿を周りに見せる。
有マ記念がピークであった。……あの時が、あの瞬間が絶好調であり、今は調子が下向いている。
その事は自分自身が一番良く理解している。
だが、泣き言なんて口が裂けても漏らせない。
周りから憎まれ口を叩かれようが、殺気をぶつけられようが、負けようが堂々と走る。
それがグランプリウマ娘の責務であり、次代へと夢の旅路を継がせる為には必須の事である。
観客席で応援してくれている気弱な妹の為にも、負けられない。
「ファンファーレが鳴っております、続々とウマ娘がゲートインしております。
今、京都競バ場に押しかけた二万七千人以上のファンからは唸るような大歓声が上がっております!」
実況も、やや興奮気味であった。
「それもその筈、有マ記念の一着二着のウマ娘の再戦!
さらには香港ヴァーズから帰ってきたジャガーメイルと。
……シニアの有力ウマ娘が多く、G2とは思えない程の豪華な出走メンバーとなっていますからね〜!
実況のこの私、菅野もワクワクソワソワしてきました」
続々とゲートインしていく中、最後の一人である、13番のブエナビスタがゆっくりと力強い足取りでゲートインする。
「スタートを切りました!
綺麗に揃いました。13人のウマ娘です。正面スタンド前の先行争い。ホクトスルタンが行くか?
しかし、セラフィックロンプが行かせません。この二人が行きました!
三番手にはトウショウシロッコ。
おっ……ブエナビスタは今回も好位からです、三番手に変わりました!
ドリームジャーニーは後方から、有マ記念を思い出すような展開です!」
負けない。……負けない。
今度こそ、勝たなければ。
絶対に、あのドリームジャーニーを先に行かせない。
スリーロールスの為にも、年明けに屈腱炎を発症したアンライバルトの為にも!
夢の旅路なんて。……そんな下らないものは、徹底的に踏み潰してやる!
「第一コーナーを駆け抜けました!
人気ウマ娘のドリームジャーニーはいつものように後方から三・四番手のところ、いつも通りのポジションです!
前を逃げるは予想通り1番ホクトスルタン、芦毛を揺らして逃げております!
三バ身ほど離れて3番セラフィックロンプ!
さらに四・五バ身離れて13番ブエナビスタ、好位です!
そこから内に11番トウショウシロッコ!
後は9番アドマイヤコマンド、4番ホワイトピルグリム、12番ジャガーメイルが続いております!
その後ろはごった返している! 最後方には2番サンライズマックス、これは作戦でしょうか?
向正面を駆けていきます。……ああっと!
下がっているウマ娘がいる!
6番か? 6番のトップカミングか?
場内にどよめきが上がります!」
後方に下がってしまったトップカミングの影響で、後方待機を決めていたウマ娘達の進路が塞がれ、中団との差が広がってゆく。
ドリームジャーニーは不測の事態が起こっても対処出来る様に、外目を走っていた為に難を逃れた。……
しかし、後方の内ラチ沿いを走っていた、8番ニホンピロレガーロや5番ミッキーパンプキン、10番シルバーブレイズ、そして2番サンライズマックスが後ろに下がってゆく。
「ごめんなさいー! 下がるつもりなかったのに!
前に行きたくても脚が動かなくて!」
「ノープロブレム! マックス達が外に出ればいい話よ!」
トップカミングが懸命に走りながら周りに謝る。……泣きそうな顔をしながら。
マックス達は外にではじめる。
――が、その判断はちと遅いぜ、マックスよ〜。……そこからじゃ〜、絶対に届かない。追いつけない。
ドリームジャーニーは冷静に分析しながら位置を上げてゆく。
「ま。……アタシも届くか微妙なところだけどね」
ドリームジャーニーは冷静ではあった。……が、トップカミングの姿が有マ記念でのスリーロールスに重なった為に、精神的動揺が誘われる。
その精神的動揺は仕掛けるタイミングを少しだけ遅らせる。
その少しの遅れが、レースで勝てるか、勝てないかの明暗を分ける事になる。
「さあ! ハプニングがありましたが、ハナを進むホクトスルタンが最後の直前に入ろうとしております!
ホクトスルタン逃げる! ホクトスルタン懸命に粘る!
しかし! 外から好位に着けていた、ブエナビスタとジャガーメイルが伸びてくる!
内からはホワイトピルグリムもやってくる!
ホクトスルタン粘る! ドリームジャーニーも猛追してくる!」
ブエナビスタとジャガーメイルの鬼気迫る最後の直線での攻防。
「ジャガーメイル喰らい付いて離さない!
抜け出したブエナビスタに半バ身差と、喰らい付いて離さない!
後ろからジャーニーも末脚を爆発させている!」
ブエナビスタの心の内にドス黒いものが溜まってゆく。
圧倒的な差をつけられず、喰らい付いてくるジャガーメイルに対して。……半バ身前を走る、有マ記念のドリームジャーニーの幻影に対して。
「け。……退け! 私達の! 願いを!
素晴らしい景色を邪魔するなー!!」
吠えるブエナビスタ。
彼女は勝ち続けなければならなかった。
自らが、その期待に応えうる者であると、存在意義を証明するように勝たなければ。……でなければ、勝利を信じて応援してくれるファンやトレーナー、そして戦友達に顔向けができない。
「勝ちたいのが、お前だけだと思うなよ、小娘が!」
呼応するようにジャガーメイルも吠える。
ジャガーメイルは実力はあるが、G1に未だに勝ったことのないウマ娘だった。……次へと、次のG1へと脚を進める為にも、G1で勝利を飾る為にも負けたくない思いは強かった。
「アタシの夢の旅路は終わらない!
アタシの夢を叶える為に負けてたまるものか!」
ドリームジャーニーは外から一気に追い上げる。
ドリームジャーニーの一番の夢。
……今年にトレセン学園に入学してくるであろう妹、オルフェーヴルとグランプリのターフを駆け抜ける夢。
その為には少しでも多くの勝利を、少しでも長く現役を続けなければならない。
ドリームジャーニー自身よりも、圧倒的に強く、速く、なるであろうオルフェーヴルの為にも。
「ブエナビスタか!
ジャガーメイルか!
ブエナビスタか?!
ブエナビスタが今一着でゴール板を駆け抜けました!
ジャガーメイル二着!
ドリームジャーニーは一着にはニバ身ほど届かずに三着!
有マ記念の再戦でブエナビスタが見事に勝利しました!」
死力を尽くした激闘であった。
ターフ上にいる、どのウマ娘も互いに健闘を称え合う。
ドリームジャーニーは息を切らしながらも、一着となったライバルであるブエナビスタの元へと脚を進める。
「よう! ブエナビスタ!
良いバトルだった、今回はアタシの負けだけど、次はアタシが勝つからな〜。またバトろうぜ!」
ドリームジャーニーはそう言いながら、ブエナビスタに握手を求める。
「……っ!」
ブエナビスタは冷め切った目をしながら、その手を握らなかった。
「私は貴女の事を赦しません。……絶対に!」
踵を返し、地下バ道へと向かうブエナビスタ。
ドリームジャーニーの手は中空に残されたままであった。
「へい! ジャーニーよ〜!
僕様ちゃん、負けちったけどよ〜!
また勝負しようぜぇい! うぇいうぇい!」
ドリームジャーニーの横から、ピョコピョコと近づいてきたサンライズマックスがドリームジャーニーの手を取り、強めのハンドシェイクをする。
「ジャーニー。……何か彼女の地雷でも踏んだんじゃないのか? 彼女のニンジンを強奪したとか」
クールな見た目に反して、可愛いものが好きなジャガーメイルはドリームジャーニーの頭を撫でる。
「いんや。有マ記念でアタシが一着になった以外に、特に何もしてないはずなんだけどな〜?」
ドリームジャーニーは頭を悩ましながらも、地下バ道へと帰っていく。
「か〜! ジャーニーの姉御の追い上げ凄かったけど、負けちまったな〜!」
「でも、姉さん強かったよね。アクシデントがあったのに三着だったし」
正面スタンドでレース観戦していたオルフェーヴルとゴールドシップは、レースの感想を語り合っていた。
あの有マ記念から友人となった二人は連絡先を交換して、今日もドリームジャーニーの応援に来ていたのだった。
「おい! そこの芦毛のデカいの隣のチビ助!
お前、チビオルフェだよな!」
乱暴な声が、オルフェーヴル達の背後から聞こえる。
その声を聞いた瞬間にオルフェーヴルは青い表情となり、脚が固まり、動かなくなってしまう。
「やっぱりチビオルフェじゃん!
また特訓で脚が速くなるように、追いかけ回されてぇのんか〜? うん?」
「フェイトちゃん。……やめてよ、そんな事……」
オルフェーヴルよりも、バ体の大きなウェイトフルウォーが、大きな溜息を吐く。
「フェイト様って呼べって言っただろうが! このド低脳のチビが!」
オルフェーヴルは、フェイトフルウォーの声に萎縮してしまい、震える。
「ちっ! まあいいや。で、こっちのデカいのは挨拶もできねぇの?」
そう言い、フェイトフルウォーはゴールドシップの方に視線を向ける。
「ひう」
ゴールドシップは無言であったが、その眼差しがフェイトフルウォーを射抜く。
――ダートに埋めるぞ。
まるで酸素が不足した金魚のように、口をパクパクさせるだけのフェイトフルウォー。
「くそ……が! チビオルフェ、トレセン学園で特訓してやるからな! 楽しみにしておけよ!」
ウェイトフルウォーは、そう言い放つと、そそくさと逃げるように出口へと歩いていった。
「オルフェ〜。あんな奴にビビっちゃうことねぇんだぜ〜。オルフェの方が間違いなく、速くて、強いんだから。……トレセン学園に入ったらレースでボッコボッコにしちまえ〜」
ゴールドシップはオルフェーヴルを励ますように。……恐怖で凝り固まってしまった、オルフェーヴルの体を解すようにオルフェーヴルの背中を軽く叩く。
「ゴルシちゃん、ありがとう。……ゴルシちゃん、今年トレセン学園に入っても友達でいてくれるよね?」
オルフェーヴルは、このただ一人の友人である、ゴールドシップが自分から離れていかないか不安で仕方がなかった。……ついこれからの関係を確認するような言葉が出てしまった。
「いんや〜。ゴルシちゃんトレセン学園に入学するのは来年だぜ? オルフェの方が一つ先輩だな!」
ガッツポーズをしながらドヤ顔をするゴールドシップ。
顔から血の気が引き、真っ青となりながらフラフラとするオルフェーヴル。
桜咲く春は近づいていた。
みなさん、安田記念の馬券取れましたか?
私は外れました。
長期休養明けのダノンキングリーは、私には買えませんでした。
史実通り、九月にドリームジャーニーは引退
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