「池雨トレーナー、入るぞ〜」
ドリームジャーニーはトレーナー室の薄い扉を、そこそこの勢いで開ける。
「おう。ジャーニー、お疲れさん。……京都記念は悔しかっただろうが、ゆっくりと寝れたか?」
まだ歳若いが専属トレーナーである池雨は、デスクから座ったまま顔だけ振りかえり、ドリームジャーニーに満面の笑みを見せる。
「ゆっくりと寝れたが。……まだ悔しいし、調子は可もなく不可もなくってところだな」
「そうか。……言い方は悪いが、ピークも過ぎたし、あとはどれだけ騙し騙しでも走れるかだな。トレーニングメニューの方はいくらでも調整するから、不調が少しでもあれば言ってくれよ? トレーナー人生で初めて、G1勝利をくれたのがジャーニーなんだからな。……ジャーニーの事を、ちょっとでも長くターフに立たせてやりたい」
それは池雨の心からの本心であった。
ドリームジャーニーの気性難と、じっくりと付き合い。
勝ちきれなくても、根気良くトレーニングを繰り返し。
二人三脚でG1とグランプリを獲ったウマ娘なのだから。
「アタシもサラサラ引退する気なんてないからね。……それよりも、アタシの妹が今年トレセン学園に入学するんだ」
パソコンにデータ入力をしながら、池雨は指をパチリと鳴らす。
「話に聞く、ジャーニーの妹のオルフェーヴルだな! なんだ? 妹の方も専属トレーナー契約を結んでくれって話か? いいぞ、任せておけ」
「おうよ、打てば響くとはこの事だな〜。池雨トレーナーもコーヒーいるか〜?」
ドリームジャーニーはミル付きのドリップ式コーヒーメーカーを起動させる。
コーヒ豆をミルで挽き、ペーパーをセットして準備を慣れた手つきで済ます。
「サンキュー、淹れてくれ。しかし、話を聞く限りだと。……言っちゃ悪いが本当に姉妹か?っていうほどに性格が違うよな。ジャーニーはヤンキー気質で、オルフェーヴルは気弱で大人しい令嬢みたいな? ジャーニーより楽かもな」
池雨はカラカラと笑いながら、データ入力を続ける。
「いや。……勘の域を出ないが、妹の方が凶暴だぜ?」
ドリームジャーニーの言葉に、池雨はデータ入力を止めて、頭を抱える。
「それまじめに言ってるのか? ジャーニーの勘って、予知能力かって思うほどに的中率が高いからな〜」
ドリームジャーニーの勘というのは非常に鋭い。
オフに一緒に商店街を歩いていると、「アタシの勘が囁いている」……と、言い出したかと思えば、猛ダッシュで福引に向かって、特賞をゲットするし。
レース中も垂れウマが来るな、と勘が働けば、最初から外目のコース取りをし、難無く、垂れウマ直撃コースを抜ける。
……他にも枚挙に遑がない。
「そうか〜。……やっぱり専属トレーナーの話は白紙にしていいか?」
「池雨トレーナー。コーヒーを頭から飲むか? 武士に二言はねぇだろ?」
ドリームジャーニーは池雨の背後でコーヒー入りのマグカップを手に持ち、立ちながら悪い顔をする。
「おお、男に二言はないって台詞の語源だな。分かってるよ、ちゃんと専属になる。だから、その美味いコーヒーを口から飲ませてくれ」
ドリームジャーニーら言質を取って満足そうに、池雨にマグカップを渡すとソファーに腰掛ける。
「だけど、池雨トレーナー。ラッキーだぜ、あんた。……何たってアタシの妹は凶暴だが、その素質は皐月賞ウマ娘。いや、それ以上かもしれねぇ……もしかしたら三冠ウマ娘になれるかもな」
池雨は、その言葉に驚き、コーヒーの一口目が気管に入ってしまい、咽せる。
「……それはジャーニーの勘か?」
「それは勘だ。……けど、妹が、アタシの夢の旅路を継ぐってのは確信だ」
何処までも、青天のように青く透き通るトゥインクルシリーズに霹靂を起こせる。
ドリームジャーニーはそう確信に近いものを感じている。
「ふうん。……あれか、ビワハヤヒデとナリタブライアンみたいな感じか。姉妹だと色々と、魂の部分で繋がっているのかもな」
コーヒーを味わう為に一口含み、ゆっくりと飲み込む。
「美味い。ジャーニーが淹れてくれるコーヒーが一番だよ」
「おうよ。だけど、アタシの匙加減よりも、豆と機械が良いんだよ」
史実通り、九月にドリームジャーニーは引退
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