金色の暴君は遥かなる夢の旅路を行く   作:豚ドン

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入学と、衝撃と。

 四月。

 日本各地で新たな門出を祝うように、桜が咲き誇る季節。

 出会い、入学、入社など、祝いの季節。

 それは東京都府中市に所在する、日本ウマ娘トレーニングセンター学園。

 通称、トレセン学園でも同じであった。

 

 しかし、入学式の最中にも関わらず、オルフェーヴルは心ここに在らず、といった様子であり。

 次々と壇上に上がる理事長や教諭などの姿などを眺めていた。

 

「では、最後に生徒会会長より祝辞を頂戴したいと思います」

 

 進行役のスリーピーススーツに身を包んだ、男装の麗人と称してよい、青毛のウマ娘が横に座っていたウマ娘に礼をする。

 その腕には赤い生地に生徒会と刺繍された腕章が付いていた。

 

 壇上へとゆっくりと向かう、身長が平均よりも幾分か低い、生徒会長。

 暗い赤褐色の鹿毛ではあるが、手入れが行き届いているのか、毛ヅヤは抜群に良く。照明の当たり具合によっては光って見えた。

 

 ……何で、あの進行役の生徒会の人だけ制服じゃないんだろう?

 生徒会長は、身長が私よりも少し大きいくらいだけど堂々としているな〜。

 ……と、あれこれとオルフェーヴルは考えていた。

 

「諸君。入学おめでとう。……私は生徒会会長を務める、ディープインパクトだ」

 

 マイクとスピーカーを通しても分かるほどに、力強く覇気のある美声。

 彼女は実績に優等生ぶりから、シンボリルドルフの正統なる後継ウマ娘であろうと評されている。

 

「諸君らはウマ娘として、長い旅の入り口にゲートインした。ウマ娘として駆け抜ける青春の先には、無限大の可能性が……」

 

 ディープインパクトはそこまで口にして、何かを考えるように押し黙ってしまう。

 

「ふむ。……月並みで衝撃が足りないな。すまない少し、やり直させていただこう」

 

 教諭達はディープインパクトの予定にない発言に、あたふたしだす。

 対して生徒会メンバーである、男装の麗人ウマ娘と薄幸そうな鹿毛のウマ娘は、またかといった表情をする。

 もう一人の生徒会メンバーの恵体の栗毛ウマ娘は、腕を組みながら首肯する。

 

「うむ。……諸君!

 我らがトレセン学園のスクール・モットーは『唯一抜きん出て並ぶ者なし』だ!

 ……が、しかしだ! 私はこう考えるのだ……」

 

 騒つきが収まるのを待つように、ほんの少し間を取る。

 

「このスクール・モットーをレースだけの枠内に当て嵌めるのは、勿体ないのでは? と考えている!

 一例を挙げれば、屈腱炎の発症により、僅か四戦しか走らずに引退をしてしまった、アグネスタキオンというウマ娘がいた。諸君らの大先輩であり、私の先輩だ」

 

 アグネスタキオン、僅か四戦の現役。……しかし、その四戦のどれもが圧倒的な走りであった。

 その四戦の中で、後のG1ウマ娘である、ジャングルポケットにクロフネ、マンハッタンカフェ、ダンツフレームを下していた為に、幻の三冠ウマ娘とまで評されたウマ娘。

 

「そのアグネスタキオンは引退後も聡明な頭脳を駆使し、諦めず、ありとあらゆる研究を行い、屈腱炎に対する一つの治療法を確立し、効果を飛躍的に高めた。……そう諸君らも知っているだろう。

 ……幹細胞移植、ステムセル療法だ」

 

 最初は期待され、次第に効果が薄いのでは?……と、噂され忘れられかけていた治療法。

 最近では試行錯誤の結果、効果が実証され、効果も高まった治療法である。

 

「これはレース以外でも『唯一抜きん出て並び立つ者なし』を体現した事例である事は明白である!

 故に諸君らにも、レースでも良い、レース以外でも、何でも良い。このスクール・モットーを体現できる何かを見つけ、それを育て、トゥインクルシリーズ内外に大きな衝撃を与えてほしい!

 諸君ら、新世代のウマ娘には無限の可能性が秘められているのだから!」

 

 優等生然とした生徒会長の口から発せられた、圧倒的熱量。

 その熱量はオルフェーヴルの魂に届き、秘められていた、何かを燻らせる。

 火が起こり、燃え上がるには時間がかかりそうではあるが。……オルフェーヴルには、何かが変わりそうな予感がしていた。

 

 

 

 

 入学式が終わり、新入生には軽いオリエンテーションが行われた。

 引率するのは生徒会メンバーの一人であるカネヒキリ。

 近くに立たれただけで、威圧感を感じるほどの恵まれた体格に、威風堂々とした様子。

 同期であるディープインパクトになぞらえて、砂のディープインパクトと呼ばれたのウマ娘。……やはり本物の実力あるウマ娘であるためであろう。

 

「今年の新入生のポニーも良き面構えだ。……もし、ダートのアドバイスが欲しい者がいれば、吾輩を学園内で見かけた時に、いつでも捕まえてくれ。……そのバ体に真髄を刻み込んでやろう」

 

 威圧感のある見た目とは裏腹に、生徒会メンバーの中では一番話しかけやすそうだと、新入生は感じた。

 そしてオルフェーヴルの瞳には、堂々とした佇まいは強く綺麗に映った。

 

 広大な敷地内にはウマ娘にとって、必要な施設が揃えられていた。

 トラック練習場も、トレーニング用ジムも、何もかもが最新鋭、最高峰の設備であり新入生達は輝かしい未来を夢見て、心を躍らせていた。

 

 一通り、オリエンテーションが終わると新入生一行は美浦(みほ)寮と栗東(りっとう)寮の前まで来た。

 

「さて、新入生のポニー達よ。ここが君達の新たな家となる寮だ。……栗東寮の者はダイワスカーレット寮長に、美浦寮の者はキンシャサノキセキ寮長から部屋カギを貰い、今日はゆっくりと休むが良い。同室の者に挨拶を忘れずにな。……では、解散!」

 

 その合図により、新入生達の行動は三者三様であった。

 気の早いウマ娘の一団は一目散に寮へと駆ける者。

 その後ろから、ゆっくりと脚を伸ばす者。

 友達同士で固まり、話しながら気楽に向かう者。

 そして、ウマ娘でごった返す寮前を嫌い、カネヒキリの後ろで、気配を消しポツンと一人オルフェーヴル。

 

「時に吾輩の背後に立つ、ポニーよ。……寮に向かわないのか?」

 

 カネヒキリはオルフェーヴルの気配に気がついたのか、振り向かずにオルフェーヴルに声をかける。

 

「あ……っと、あっいえその」

 

 カネヒキリに急に声をかけられたせいで、口から言葉が出てこない。

 

「ふむ、ポニーよ。二、三度深呼吸してからでよい。……ゆっくりと喋ってみよ」

 

 カネヒキリはオルフェーヴルの方へと振り向き、オルフェーヴルが落ち着くのをしばし待つ。

 

「あのカネヒキリ先輩の……ように自信満々になるにはどうしたらいいですか?

 あとその……カネヒキリ先輩のように逞しいバ体になるにはどうしたら」

 

 カネヒキリはオルフェーヴルの小さな姿を見て、さらにはその発言に頭を悩ませているのか、唸りはじめる。

 

「小さいバ体からくるコンプレックスか。……先ずは、メンタルの方だな。猫背を矯正するところから、徐々にはじめるのが良かろう。そして友とライバルを作り、切磋琢磨するのが良かろう」

 

 オルフェーヴルはカネヒキリの言葉を頭の中で反芻し、首肯する。

 

「バ体の方は。……すまないが月並みの事しかアドバイス出来ないな。よくトレーニングをし、よく食べ、よく寝る。これに尽きる」

 

 カネヒキリは、そう言い切り締め括る。

 

「あの。……カネヒキリ先輩、ありがとうございます。頑張ります」

 

 オルフェーヴルはお辞儀をして、ふらつきながら寮の方へと向かう。

 

「前途多難なポニーだ」

 

 カネヒキリはオルフェーヴルが、栗東寮の前に到着したのを見届けてから、生徒会室へと脚を向ける。

 

「……しかし、得てして、あのようなポニーが成長し、大化けする可能性が。……む、名を聞くのを忘れていたな」

 

 真剣にカネヒキリなりのアドバイスを考えていた為に、うっかりと名を聞くのを忘れていた。

 しかし、広いようで狭いトレセン学園に在籍しているのならば、どこかで名を聞くチャンスもあろう。

 新時代の種子が芽吹き、大輪を咲かせる、その日を見守り待つ。……それは楽しみな事だ。

 

 

 

 

「シャンとしなさいシャンと!

 まっ。アンタも頑張んなさいよ」

 

 ふらふらと歩いていたのを体調不良と誤解した、ダイワスカーレット寮長が大慌てでオルフェーヴルを抱え、保健室に向かおうとするという、一悶着があった。

 オルフェーヴルは抱えられ、しどろもどろになりながらも、普段からこんな感じだと説明し、誤解を解消した。

 最後にダイワスカーレット寮長から、ありがたい小言をいただき解放された。

 

 

 今日は色々な事が一気にありすぎて疲れた。

 久しぶりに姉さんや、ゴルシちゃん以外のウマ娘とも話をした。

 勇気を出して一歩を踏み出して、カネヒキリ先輩から簡単なアドバイスも貰えた。

 同室は誰だろうか?

 あまり怖いウマ娘じゃなければ良いんだけれど。

 色々と考え事をしているうちに自分の部屋へと到達した。

 深呼吸をし、息を整え、ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開ける。

 

「失礼します。……新入生のオルフェーヴルです」

 

 何とか、言葉を捻り出す。

 

「おう。アタシの可愛い妹のオルフェ! アタシが同室だ!」

 

 一体、いつからそこにスタンバイしていたのだろうか。

 部屋のど真ん中で、お立ち台の上に立ち、腕を組み、仁王立ちをしている姉。

 

「姉さんが。……同室で良かった」

 

 オルフェーヴルの顔から、久しぶりに笑顔が溢れた。




最近になって幹細胞移植が、また注目されてきたと思います。
その内に屈腱炎や、様々な病気で泣く泣く引退をせざるを得ない馬が少なくなれば良いですね。

史実通り、九月にドリームジャーニーは引退

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