オルフェーヴルが入学をして六日目。
その日の授業や、HRも全て終わり、束の間の休息をしていた。
クラス内では、既に意気投合した仲の良いウマ娘達が集まり、幾つかのグループを形成しており、楽しそうにしていた。
しかし、オルフェーヴルは元来の気弱さを発揮した為。……ここ数日は誰とも喋らずに窓際の席から、空を眺めるのが日課となっていた。
「明日は楽しい、選抜レースね!」
オルフェーヴルの隣の席である、右耳に龍の髪飾りを付けた、鹿毛のガッシリとしたウマ娘。
彼女は右手を握りしめ、腕を大きく天に突き出し、勢いよく飛び上がる。
その際に椅子と机が倒れ、大きな音がクラス中に響く。
その声と椅子が倒れた音に驚いたオルフェーヴルは、制服の上から羽織っていたパーカーのフードを深く被る。
「おいおい! 横のチビオルフェがビックリしてんじゃねえか! デカい声出すなよ龍王! 声や、動きまで、どデカくドラゴンダンスってるんじゃねえよ!」
フェイトフルウォーは何かの縁であろうか。……トレセン学園でもオルフェーヴルとクラスメイトとなった。
しかし、ゴルシちゃんに睨まれた影響か、トレセン学園に入学して余裕が無くなったのか、はたまた、その他の理由か定かでは無いが。……口の悪さは変わらないが、オルフェーヴルを追いかけ回す事や、必要以上に絡むことは無くなっていた。
「ごめんーフェイトっち〜! 明日の事を思うと、闘争心が湧いてきちゃってね」
キレのあるタヒチアンダンスを披露する、龍王と呼ばれたウマ娘。
「……ハワイアン脳が。こっちじゃなくて、チビオルフェに謝れよ」
フェイトフルウォーの言葉に納得いったのか手を叩き、オルフェの方に振り向く。
「オルフェっち、ビックリさせちゃって、ごめんね〜! 今度、何か奢るね!
何がいい? ロコモコ? ハワイアンパンケーキ? ガーリックシュリンプ? オックステールスープ?
イチオシはオックステールスープね、テールを食べた後に、スープにライスをドボンと入れて食べるのが最高ね!」
スマートフォンを取り出し、料理の写真を次々にスワイプする。
「ろ。……ロードカナロアちゃん、ありがとう。……折角、イチオシを教えてくれたからオックステールスープが良いな〜」
オルフェーヴルは勢いに圧倒され、目を白黒させながらも、何とか勇気を出し、言葉を捻りだす。
「カナロアで良いよ、オルフェっち!
一緒にご飯食べる約束したなら、ヘ・ピリ・ヴェヘナ・オレ!
親友、なんだからね!」
底抜けに明るいロードカナロア。
わいわいとスキンシップしている、ロードカナロアとオルフェーヴルを横目に、フェイトフルウォーはニッと笑いながら、教室を出ようと、部屋の引き戸に手をかけた。
「おいーす! 妹よ〜、オルフェよ〜、いるか〜」
勢いよく開かれる引き戸。
フェイトフルウォーの目線の下の方には、ドリームジャーニーがいた。
「じゃ、じゃ、ジャーニー先輩! 本日は御日柄も。……ああ、違う。オレ、じゃない自分はフェイトフルウォーっていいます! 宝塚記念と有マ記念の走り、痺れました! 憧れのジャーニー先輩のような、スターウマ娘に自分もなります! 握手してください」
フェイトフルウォーは、憧れの存在であるドリームジャーニーを目の前にし、慌てて一気に捲し立てるように喋り、手を出す。
「ほい。……そうか、アタシに憧れちまったか〜、嬉しいな〜。でも、憧れるだけじゃ〜足りねえよ――」
ドリームジャーニーは、フェイトフルウォーの求めるままに握手をし、ほんの少しその手に力を込める。
「必死こいて、アタシと同じターフに立って、アタシの背中を追ってこい、アタシを全力バトルの末に追い越してみろ。一端のウマ娘なら、憧れを超えてみせろ」
ドリームジャーニーは獰猛な笑みを見せる。
年上だろうが、年下だろうが、大きかろうが、小さかろうが。……同じターフに立ち、同じゴールを目指すならば、憧れなど関係無く、ライバルである。
勿論、簡単に超えさせるつもりもないが。……口八丁手八丁で、次代を発奮させるのも先達の役目である。
「ジャーニーの姉御。……さいこー」
フェイトフルウォーは顔を真っ赤にし、腰砕けになり、へたり込む。
「仲良くスキンシップしているところ悪いが、オルフェ連れて行くからな〜。オルフェ、トレーナー室に行くぞ〜」
ドリームジャーニーはオルフェーヴルを軽く持ち上げ、お姫様抱っこをし、教室を出ようとする。
「あ〜。……カナロアちゃんにフェイトちゃん、またね」
オルフェーヴルは、お姫様抱っこされながら、ロードカナロアとフェイトフルウォーに向かって手を振る。
ドリームジャーニーとオルフェーヴルが消えた教室からは、フェイトフルウォーの雄叫びに似た声が鳴り響いた。
トレーナー室の前にやって来た、ドリームジャーニーとオルフェーヴル。
お姫様抱っこされっぱなしのオルフェーヴルがトレーナー室の引き戸を開ける。
「来たか。……なんでお姫様抱っこしてんの? まあいいや、取り敢えずソファに座ってくれ」
二人の姿を見た池雨トレーナーは首を傾げた後に、コーヒーを啜る。
その横には体操服を着た、JK風な髪型とネイルをしたウマ娘が、ファッション雑誌を読みながら座っていた。
「フラフラとあっちに行ったり、こっちに行ったりするオルフェにリード着けて連れて来るよりも、こっちの方が速いからな」
かかっと口を開けて笑うドリームジャーニーはオルフェーヴルを、池雨トレーナーの対面のソファに下ろす。
ドリームジャーニーは、いつものようにコーヒーメーカーのサーバーから、愛用のマグカップにコーヒーを注ぐ。
「オルフェはコーヒーいるか〜?」
「いらない。……苦くて飲めないから」
ドリームジャーニーは短いやりとりをした後に、オルフェーヴルの隣に座る。
「さてと自己紹介から行こうか。俺はジャーニーのトレーナーである池雨だ。よろしくなオルフェーヴル」
そう言いながら池雨は、オルフェーヴルの前に手を出す。
「オルフェーヴルと言います。……えっと、池雨トレーナーさん? よろしくお願いします」
池雨とオルフェーヴルは軽い握手を交わす。
「本題に入ろうか。……ジャーニーのお願いで、俺は君の専属トレーナーになる事を約束した。……オルフェーヴル、君はどうしたい?」
「ええ〜! それってコネ契約じゃん! 何かズルい気がする〜!」
池雨の横に座っていたウマ娘は口を尖らせながら、ぶー垂れる。
「うっせぇぞ〜ジョーダン。金も、若さも、コネも、才能も、全ては勝負する為のカードの一つだろ。だからアタシはコネのカードを適切な状況、適切な相手を選んで使っただけだ」
「ジャーニーの言う通りだぞ、ジョーダン。コネは適切に使えば強力なカードってだけだ。あと休憩ばっかりしてないでトレーニングメニューを熟してこい。有マ記念に出たいんだろ? あと次戦の五稜郭ステークスは七月だが、あっという間にやって来るぞ?」
トーセンジョーダンはドリームジャーニーと池雨の正論の集中砲火に晒され、敢えなく撃沈。
「オルフェちゃん、頑張ろうね」
オルフェーヴルの肩を叩き声を掛け、とぼとぼとトレーナー室を後にするトーセンジョーダン。
「ジョーダンが茶々を入れてきたが。……オルフェーヴル、俺は君をジャーニーのようなスターウマ娘にしたい。だから専属契約を結んで欲しい。……あとは君の気持ち次第だ」
オルフェーヴルは決心がつかないのか、もじもじと落ち着かない様子で
「分かりました。……姉さんもいるなら……安心ですし、専属契約を結びます。よろしくお願いします」
「よし! 改めて、君のトレーナーになる池雨だ。……だけど、専属契約の届出を出すのは、明日の選抜レースが終わってからだな」
「えっと。……それはどうしてですか?」
オルフェーヴルは珍しく、純粋な疑問が生まれ、つい疑問の言葉が出た。
「そうか、新入生だから知らないか。……選抜レースは、専属契約を結んでないウマ娘だけが出れるんだ。選抜レースでオルフェーヴルの実力を測れば、トレーニングメニューも組み立てやすくなる。特にアドバイスなんてないが。……あまり気負わずに楽しんで走ってくれるだけでいい」
池雨はニッカリと笑う。
「そういや。オルフェはどのレースにエントリーしてるんだ? 応援に行くからな〜」
「えっと。……確か芝の2000」
オルフェーヴルの言葉に、ドリームジャーニーと池雨のコーヒーを啜る手が止まる。
「マジか!? オルフェ走り切れるのか?」
「選抜レースの中で一番過酷じゃないか! 気楽どころじゃない!」
年四回、四季に合わせて開催される選抜レース。
どれもが実践さながらのレースであり、速さだけではなく、実践とほぼ同じレース勘や、展開運びのセンスが問われる。
その中で選抜レース芝・2000だけは過酷である。
毎年恒例であるのだが。……春の選抜レース芝・2000では、体が出来上がっておらず、さらにはスタミナが伴わずにレース途中でリタイアする新入生が一定数いる。
実際の競バ場のようにアップダウンが無い、平坦なコースであるにも関わらずにである。
生粋のステイヤーの一族であり、英才教育を施されるメジロ家などであれば、その心配はほぼ無いのだが。……
あれやこれとアドバイスをする二人であるが、当のオルフェーヴルはバ耳東風であった。
ロードカナロア。
未実装ウマ娘。
キングカメハメハ産駒である為、ハワイアンな感じじゃないかな〜と思い。
こんな感じになった。……選抜レースで運命の出会いを果たす。
オルフェーヴルの同期である。
母である、レッドブロッサムにはセクレタリアトと、その全妹であるシリアンシーの3×4の全きょうだいクロスがある。
その為か通常の馬よりも心拍数が凄かったとのこと。心臓がデカいらしい。
史実通り、九月にドリームジャーニーは引退
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