世界一最低なGⅠ制覇までのお話   作:クロカワ02

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世界一最低なので初投稿です


世界一最低なGⅠ制覇までのお話
世界一最低な序章


ヨルノアラシ。災害の名を持つ青鹿毛の天才はまさに災害の如く暴れ回る。

 

距離、地面、天候、相手…彼女の出走するレースは多岐に渡り、その全てで他者を圧倒して勝利した。

 

かと思えば、必死に背を追っていたのがバカらしくなるような失速で負けたりもした。

 

スタミナ切れやペース配分のミスではない、少し走っているウマ娘やトレーナーならまずわざとだと気付くような、あんまりにもあんまりな失速で。

 

それは彼女が逃げだろうと差しだろうとこれまでのレースで自在にこなしていたからこそ余計に際立ち、議論が紛糾した果てにレース出走停止処分を食らった原因にもなった。

 

「眠い」

 

…当の本人がさっぱり気にしていないのはどうかと思うが。まあ、私にはそんなに関わりのないことだ。ことだと思っていた。

 

これは無敗の五冠を戴冠しながら自ら全て捨て去った天才ウマ娘、ヨルノアラシの物語ではない。

 

同室にして凡百のウマ娘、私ことシロツメクサの世界一最低で唾棄すべきGⅠ制覇までのお話である。

 

 

さて、そんなお話の始まりは寮の一室から。

 

なんでもない一日を終え寮の自室へ戻る時、私はなるべく注意を払ってドアを開けるようにしている。

 

「ただいまー…?」

 

声も小さく。おそらくいつものようにすやすやと寝息を立てる同室の彼女を起こさないように。

 

「ぐおー!!」

 

「もうちょっと静かな寝息なかった?」

 

「うぅん…眠い…」

 

「寝ながら眠いって言う人初めて見た…」

 

「ん…?シロ、帰ったのか…」

 

「ああごめんヨルノ、起こしちゃった?」

 

「まだ寝てるから大丈夫だ…」

 

「寝言なのそれ」

 

「おかえり…ぐぅ…」

 

「ほんとに寝てる」

 

寝ながら迎えてくれたヨルノアラシを起こさないよう、今度こそ静かに荷物を置き着替える。

 

ヨルノは天才だ。

 

無敗でクラシック三冠を戴冠し、その年のジャパンカップ、有マをシニア級を差し置いてゴリゴリの一番人気で勝ってみせた。あの伝説の生徒会長シンボリルドルフを超える大偉業の達成は間違いなく歴史に刻まれるはず。はずなんだけど…その戦歴はあまりにも異質だ。

 

ダート1000mでデビューしておいて次走が芝1600mの重賞。その次がレースローテーションでお決まりの弥生賞なんかを全部無視して皐月賞。

 

はっきり言って除外されなかったのがおかしいくらいの暴挙から見せた1着で、ヨルノは全ての流れを強引に変えてしまった。

 

入学試験から見せ続けた圧倒的な走力が世に解き放たれた瞬間である。

 

その次はダート2000mを走って間髪入れず日本ダービー。寄り道のような感覚で方々のレースに出られて他のウマ娘はたまったもんじゃない。こんなことを繰り返してクラシック級を終える頃には全レース場どころか根幹非根幹短距離長距離に関わらず多くのレースを走り、ついた渾名は「嵐」「目のない台風」「簒奪者」など、とても「皇帝」とは比べ物にならないようなものばかり。

 

そんな彼女がシニア級で最初に出走したのはフェブラリーステークス。また突拍子のない、しかし彼女が奪い去ると考えられていた六つめのGⅠレース。

 

そこで彼女はやらかした。

 

その日は調子良く逃げていたヨルノが第3コーナーで突然失速したのだ。

 

1600mレースの第3コーナー。仮にもヨルノアラシがどれだけ飛ばしてもスタミナ切れはありえない。それが故障やトラブルならまだ良かった、本当に世間を驚かしたのは翌日発表された出走停止処分だったのだから。

 

曰く、「彼女が行った故意の失速は悪質な競争妨害にあたり、出走ウマ娘だけではなくレースに携わる全ての人員を侮辱する行為」である、と。

 

同室の私も何が何だかわからないまま事情聴取やインタビューを受けたが当日も何も変わらない様子だったので何も答えようがない。

 

本人も粛々と受け入れてもう二ヶ月もの間授業と食事以外で外に出ず、粛々とお昼寝に励んでいるのだった。

 

いや。

 

前からトレーニングをサボってお昼寝はしていた。

 

「…ん。晩ごはんの時間か」

 

お昼寝の天才は今日も腹時計で目を覚ました。

 

「おはよう、ヨルノ」

 

「シロ、帰ってたのか」

 

「ほんとにさっきは寝てたんだね…」

 

「ああ、さっきまで私は高松宮記念を走っていたからな。電撃イライラ棒芝1200mは過酷だった」

 

「拷問通り越して処刑だよそれは…」

 

お昼寝で見る夢じゃない。

 

夜寝でも見たくない。

 

というかそんなレースの最中に私におかえりを言ってくれたのはどう捉えればいいの。

 

ヨルノが猫のように四つん這いになって伸びをして全身をひとしきりぐきぐき鳴らすのを見守る。

 

「昼寝は疲れるな」

 

「至言だね…」

 

「レースより疲れる」

 

「これ以上炎上しそうなこと言うのやめなって」

 

ヨルノアラシは素直である。口さがないとも言う。

 

でも、それは私も同じかもしれない。

 

「ねぇ、ヨルノ」

 

「なんだ?ハンバーグでいいならおごるが」

 

「昼はカフェテリアで食べ放題だし夜は寮のごはんでしょ…ヨルノ、まだ走らないの?」

 

「走る?」

 

「寝るの、疲れるんでしょ。別に謹慎食らったわけじゃないんだから、ランニングくらいは」

 

「違うな、間違っているぞ」

 

「イライラ棒と言いそのセリフと言いチョイスが古いのは仕様なの?」

 

「お前には通じてるじゃないか」

 

「くっ…」

 

「シロ。私は走るのを我慢してるわけじゃない。走りたければ勝手に走る」

 

「…何それ」

 

「シロこそしばらくレースに出てないがどうした」

 

まずい。露骨に眉を顰めてしまった。

 

「私は…ほら、充電期間だよ。ちょっとひどい負け方したから反省とかさ」

 

「お前のトレーナー、担当を増やしたんだってな」

 

ぎり。

 

良くない。思いきり歯軋りしちゃった。

 

「友達いないくせにどこで聞いてくるのさ」

 

「どこででも。…なるほど、口論の果てに担当に見放され一人で身にならないトレーニングを繰り返しているという点でお前は私以下だな」

 

なんて歯に絹着せぬ物言い。部外者のそれではない。

 

が。

 

全く、言われたまんまその通りだった。




・シロツメクサ
主人公。どこにでもいる半端者。
勝ちたくても勝てなかったので腹を決めた系の凡人ウマ娘。同室で変人のヨルノアラシを唯一寝かしつけられる稀有な人材。

・ヨルノアラシ
天才。
やろうと思えばなんでもできる系天才ウマ娘。呼びやすいからと短絡的にアラシと呼ばれやすいのが嫌。
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