世界一最低なGⅠ制覇の後のお話
前章までのあらすじ!
私、トゥインクル・シリーズを走り続けて四年の間に4勝しかできなかった限界ギリギリウマ娘シロツメクサ!
レースには勝てないしトレーナーともケンカして半ばヤケのまま迎えた現役五年目に寮で同室のめちゃくちゃ最強ウマ娘ヨルノアラシに「ズルしたら?」って言われて「せやな!」と開き直ってあれこれ悪いことしたら案外上手くいって連戦連勝!その過程でトレーナーとか失くしたりもしたけれど念願のGⅠレースに出走したり勝ったりしちゃってレース人生やっと順風満帆って感じ!なんだけど…
「…目標であるGⅠに辿り着くためにも途中でバレたりレース自体に影響するような派手な不正はしなかったものの…ほんとにレース続けていいのかなぁ」
今まで踏み躙ってきたあれこれに対して今更浮かぶ苦悩…絶賛悩める乙女なのでした。ところで何この口調?
「いいんじゃないか?少なくとも私はお前がいないと困る」
人の気も知らないで、と言うか人の気持ちなんて考えたこともないもう一人の最低ウマ娘ヨルノアラシは呑気に新聞を読みふけりつつ宣った。
学園のカフェテリアで駄弁るこんな時間も今やなかなか貴重なものだ。
あの春天以来、私はめちゃめちゃ注目されている。
理由は当然、ヨルノだ。
「『魔王』ヨルノアラシに最も迫ったウマ娘『勇者』シロツメクサ特集企画…また表現が大袈裟になっているな」
「勘弁してくんないかな…」
勝手につけられる恥ずかしい二つ名、本人の目の前で特集記事読むな、という二重の意味で勘弁してほしい。
「大体、ヨルノに一番迫ったのは日本ダービーで3バ身差のダイヤブレイドちゃんでしょ。失礼だよね」
「そうなのか。よく覚えてるな」
「なんで覚えてないんだよ」
まあ私もこの前まで知らなかったけど。
しかしダイヤちゃんは春天のゴール直後、捕縛された私を助け出すためヨルノに突撃してくれた恩人である。とてもじゃないが脚を向けて寝られない。捕縛された私を助け出すためってなんだ。ダイヤちゃんの方がよっぽど勇者じゃないか。
「…む。私を差し置いて誰かを想起するよからぬ気配を察知」
「この場で最もよからぬ存在はヨルノだよ」
「ふむ。…おいシロ、この質問の答えはなんだ」
「え?ああ特集の…どれ?いやいや好きな食べ物はいちごだよ。変じゃないでしょ」
「一番はこの前振る舞った私のカレーだろう」
「そこまでの味じゃなかったよ」
「なん、だと…」
さすがの天才ヨルノアラシも料理はそれほどではなかった。と言うよりは、出来すぎる、と言うべきか。
カレー自体はすごく味わい深くてかなりこだわりを感じる逸品ではあったのだ。
「なんかね、カレー食べてるのにカレーじゃないもの食べてるみたいな違和感があったんだ。多分、味付けが自分本位過ぎるんだよ。ヨルノは凝り性だし鼻や舌もいいんだろうから美味しいって感じる味を人より突き詰めることができちゃうんだ。結果、良くも悪くもヨルノにとってだけ一番美味しい味が出来上がる」
レトルトや市販のカレールーのような大味さの対極。
なんでもできちゃう天性のセンスもなんともまあ、意外なところで不便なものだ。
「天才すぎるせいだなんて初めて言われた…」
「だろうね」
「私はどうしたらいいんだ…」
知らんわ。
とまあ、何に対しても無敵だった気がするヨルノも春天以来少しずつ変わってきている今日この頃。
性懲りもなく私たちはレースを走り続けている。
「シロさぁん!」
「ん、リッチだ」
「私もいますよ」
「モミジちゃん」
「私もいるが」
「ヨルノは最初からいるでしょ」
ヨルノがいて、リッチがいて、モミジちゃんがいて。
そう。
ここからは、世界一最低なGⅠ制覇の後の話。