世界一最低なGⅠ制覇までのお話   作:クロカワ02

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外伝2つめなので初投稿です


外伝 聖人伝承〜白詰草の乙女〜

外伝 戦乙女シロツメクサの伝説

 

ウマ娘ダイヤブレイドは、強い。

 

どれくらい強いかと言えばトゥインクル・シリーズ現シニア級の中でトップクラスに強い。

 

ちょっとトップが高すぎるだけで。

 

ダイヤブレイド。

 

入学テストの短距離走で卓越したタイムを見せつけ今年一番の有望株として注目され、次に走ったウマ娘が叩き出した入学テストレコードタイムに全て持っていかれた悲劇のウマ娘である。

 

「僕は負けてねーよ。レースに負けたって最後まで芝の上を楽しんだやつの勝ちなんだから」

 

そんな負け惜しみの権化のような彼女がその日訪れたのは、広い広い学園校舎の隅の一室。

 

古びたドアを横に引けば、先に中にいたウマ娘の何人かがこちらを向いた。

 

教室ニつぶんの広い部屋の中を見回して確認するに、既にほとんどのメンバーが集まっているようだ。

 

談笑。携帯。準備。各々が開会までの時間を過ごす中、ダイヤもまた入り口横の壁に背を預けその時を待つ。

 

暇潰しに想起するのはあの耐え難き、そして輝かしきGⅠレース…春の天皇賞。

 

堪えきれないほどの屈辱を味わった。

 

負けず嫌いの彼女が無理矢理負けを認めさせられたあの忌まわしい一幕を。

 

だが、そこで見出した一つの光を…彼女は。

 

ぴん、と寝かけた耳を立たせる。

 

ウマ娘の聴力が足音を捉えたのだ。この部屋へ向かってくる、待望の足音を。

 

壁から背を離し部屋の中の全員に聞こえるよう呼びかけた。

 

「お前ら!『会長』の到着だ、整列しろ」

 

会長。

 

その名を聞いた途端、全員が迅速に動いた。何をしていたウマ娘もすぐさま席を立ち、携帯をしまい、準備をやめ部屋の入り口へと集結する。

 

入り口を挟み向かい合うように二列で並び、姿勢を糺すと静かにその時を待つ。

 

足音はだんだんと近付いてくる。そして誰の耳にも届くようになった時。

 

ドアが開いた。

 

「こんにちはー。あ、もうみんな集まってるね」

 

「おう。レースの前入りで二名欠席だ」

 

「そっかぁ、じゃあ余ったお菓子は少しずつ分けよっか。あんまり日持ちしないやつだからさぁ」

 

「了解。じゃ、机へ」

 

そう言ってダイヤが先を切って歩き出すと、両手いっぱいに紙袋を抱えた栗毛のウマ娘が後をついていく。

 

ダイヤブレイド。

 

彼女はこの会の副会長として、誰よりも栄誉ある会長の先導という役割を担う存在である。

 

居並ぶ会員たちの間を通って二人が向かうのは、部屋の最前へ設置されたテーブル。

 

会長がそこへ紙袋を置くと、それを合図に会員たちは列を崩し部屋内へいくつも設置された同じようなテーブルに分かれていく。

 

会長が部屋を見回し出席者全員が席に着いたことを確認し口を開く。ダイヤブレイドは会長の横に立ったままだ。

 

「えーっと…今日もみんな集まれて嬉しいです。いない子にはまた後日お菓子を渡しておくので、ここでは気にせず盛り上がりましょう!」

 

「「はーい!」」

 

「じゃ、始めようか。ダイヤちゃん」

 

「ん。全員、コップは持ったか?…よし、それじゃ会長、頼む」

 

「ん。それでは…

 

 

 

今日も『ヨルノアラシ被害者の会』、始めるよー!」

 

 

 

 

「「わーっ!!!」」

 

 

 

 

「かんぱーいっ!!」

 

と。

 

音頭を取り、手作りの菓子を各テーブルへ配るのは。

 

ここに集いしヨルノアラシ被害者の会名誉終身伝説的代表総長会長、ウマ娘シロツメクサその人であった。

 

 

 

 

「あいつが!あいつの順番が僕の後ろだったばっかりに!僕の出した記録が吹っ飛んだせいで!」

 

「おおよしよし…でもダイヤちゃんが一番ヨルノに迫ったウマ娘だって私は知ってるからね」

 

「ううっ、かいちょお…!ありがとおなあ…!」

 

「こっちこそ春天でヨルノに捕まった私を助けるためにダイヤちゃんが一番に突っ込んできてくれたの、ほんとに感謝してるんだよ?ありがとね」

 

「かいちょおーっ!」

 

「ヨルノアラシ…全く罪なお方。わたくしの前であんなに熱烈に会長を愛しむなんて…やはり、私の心を奪った罪は必ず償わせなければ」

 

「ヨルノアラシ…will be extinct」

 

「メイセイちゃんジュースまだある?あ、メローちゃんこれ、約束してた漫画ね」

 

「まあ、会長までわたくしの心をお乱しになるなんて…」

 

「会長…love…」

 

会員たちが和やかな雰囲気の中それぞれ口にするのは決まってかの簒奪者ヨルノアラシに関する愚痴であった。

 

正直あまり肯定できない集まりとして生徒会からもマークされているがなにぶん対象があのヨルノアラシである、三秒の議論の末監視継続、実質看過することを決定した。

 

そんな会だから必然ヨルノアラシに対する被害者度の高さはそのまま会内の身分へと繋がる。春天以降入会でどちらかと言えば新参者のシロツメクサが神聖特例英雄的皇帝会長として祭り上げられるのは必然と言える。

 

週に一度、彼女たちはこうして集まりお菓子とジュースで延々語り合う。

 

それはとても平和な空間。潜入と称して入会した生徒会副会長も大満足。

 

だが、平穏な時間は突如轟音と共に打ち壊された。

 

「Open sesame…」

 

ドカァァァン!!!!

 

「ドアを破って…誰だ!!?」

 

「『はじめまして』、諸君。私は…」

 

もうもうと上がる埃の中、『災厄』はその姿を現した。

 

「…ヨルノアラシ。この陰湿にして悪質極まる烏合の衆から、シロを取り戻しにきた」

 

「ふん、どの口が悪質だなんて言いやがる!みんな!」

 

「「おう(sir)!!」」

 

「シロを囲い込んで…何のつもりだ」

 

「会長をお前には渡さねー。彼女は唯一、お前を焦らせて本気を出させた僕らのヒーローだ…彼女は、僕らが守る!」

 

「きゅん…!」

 

「きゅん…!?きゅんだとシロ貴様!私には一度もきゅんしたことないのに!!」

 

「お前のどこにきゅんするポイントがあるんだよ。いいからヨルノは帰って!私たちは楽しくおしゃべりしてるんだから」

 

「この私をハブろうと言うのか!シロ!!ならば力尽くでも…!」

 

ドカァァァン!!!

 

「なんだ!?」

 

「そこまででぇす!!!」

 

「そのふざけた発音、貴様は!」

 

「『シロさんの後輩1号の会』会長…メルトールリッチと仲間たちでぇす!!!」

 

「またとち狂ったような連中が…!」

 

「失礼な!あたしたちは学園のいろんな場所でシロさんに親切にしてもらってシロさんを先輩と崇める健全な集団なので最近シロさんをヤバい目で見てるよっちゃんとは違うんですぅ!!」

 

「聞く限りまあまあ危険な集団じゃないか?」

 

ドカァァァン!!!

 

「今度はなんだ!?」

 

「お取り込み中に失礼します。『シロツメクサライバルの会』会長、モミジガリと会員一同です。シロさんの危機を察知したのでライバルとして「あなたを倒すのはこの私です」をするため馳せ参じました」

 

「なんだかもうあまり聞きたくはないが…何者だ!」

 

「我々はかつてシロさんと模擬レースや本番で戦い「おめでとう!次は負けないから…!」「今回は私の勝ちだね、また走ろう!」などなど濃度の高い青春要素と爽やかな笑顔を受けて彼女のライバルとなった者です。この度はヨルノアラシ、あなたのシロさん占有に対して抗議に参りました」

 

「世間ではお前らのような人間を狂信者と言うんだが知っているか?全く黙って聞いていれば、どいつもこいつも群れた程度で調子に乗るじゃないか…いいだろう。かかってこい、全員まとめて相手をしてやる!!」

 

「なめるな!!ヨルノアラシ被害者の会、総員突撃!!!」

 

「今こそその思い上がったボケヅラを正してやるでぇす!!シロさんの後輩1号の会、射撃用意!!!」

 

「遅れを取らないよう協動します、ですがトドメは我々が。シロツメクサライバルの会、状況開始…!」

 

「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」

 

かくして戦端は切られた。切られてしまった。

 

走り出した野望と欲望が生む争いの連鎖はもう誰にも止められない、ただ。

 

一人を除いて。

 

「…えっ、私がこれ止めなきゃいけないの!?」

 

 

 

 

その日、一つの大きな戦が興り、終わりを迎えた。

 

多くの激突があった。

 

多くの信条が散った。

 

しかしその戦場には裏切りも逃亡も一つたりとなかった。

 

戦いの中で純粋な願いと祈りが積み重なり、ついに奇跡が舞い降りる。

 

その身を犠牲に全てを終戦に導いた聖なるウマ娘の名は、シロツメクサ。

 

彼女が倒れ臥した後には傷ついた誰もが起き上がり笑顔になった。

 

彼女たち当事者が卒業した今も学園では、終戦記念日には戦いを止めた奇跡のメニュー「シロツメクサの手作りカレー」を生徒全員で食べることで平和への祈りが捧げられている。

 

 

 

 

 

「変なモノローグで終わらすなぁっ…!うっ、腕が上がらない…何人前作ったかわかんないけど、間違いなく数日継続級の筋肉痛だぁ…」

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