世界一最低なGⅠ制覇までのお話   作:クロカワ02

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未来のお話なので登場キャラは全員オリジナルです。


世界一最低な契約成立

ヨルノは素直で、本当に容赦がない。

 

「ヨルノに何がわかるの」

 

私とは違う。

 

私とは。希望的観測で次は勝てると悔しさに蓋をし続け何も見えないままがむしゃらに走って、トレーナーとケンカして自棄になってる私とは。

 

「戦績は25戦4勝。メイクデビューと次のオープン戦を勝ったがその後は重賞へ挑戦し続けるも着内負けが嵩む。最高はGⅡ二着だったな。あと少しで勝てる、が続いて立て直す間もなく黒星を重ねに重ね気付いた時には三年が経ち四年目である去年に至ってはとうとう勝ちすらなし。重賞勝ちもないまま今に至る」

 

「…そうだよ。「最初の三年間」を棒に振ってもまだレースにしがみついてるんだ。返す言葉もないくらいに、わかってるじゃん」

 

「いいやわからない。私は13戦12勝してまだわからないことがある。何故だ?どうして勝たない?」

 

どこまでもずけずけとヨルノアラシは宣う。反論を差し挟む余地もない。

 

どうして勝たないだと?そんなのこっちが聞き…勝たない?

 

「勝つ方法を知らないのか?一番最初にゴールすればいい」

 

「ストップ。変な誤解する前に聞いときたいんだけどなんか端折ってない?」

 

「…?おお、本当だ。よくわかったな」

 

「去年ならキレてたかもしれない。じゃあやり直すね」

 

「やり直し?」

 

 

 

「…わかんないだろうね!!走りたい時に走って勝ちたい時に勝って、負けたい時に負ける天才には!!」

 

 

 

「……」

 

「思ったことないでしょ?あと一歩前に出れれば。あと一歩踏み出すのが早ければ。あと一歩、あと一歩って。でもね、足りないのは一歩じゃないんだ。みんな何歩も何歩も先に行く!私より年下の子も!私よりデビュー遅かった子も!」

 

「……」

 

「お前もだ、ヨルノアラシ。私を…」

 

その、なんとも思っちゃいない平静な目で、見下しやがって。

 

沸き上がった激情が一言を経るうちに水気を失い萎びていくのを感じた。恨み言は唇が震え言葉にならないままに、妬み嫉みはきりきりと食い縛った歯を軋ませながら。

 

寝そべったままヨルノはこちらを冷ややかに見ている。

 

「…はぁ。で?」

 

私のベッドの枕元にあった目覚まし時計をその顔面に叩きつけても彼女は表情を変えなかった。

 

涙目になった目の周りは赤くなり鼻血がぼたぼたシーツに垂れても。

 

「私が落ち着くのを待っても無駄だよ。私はこれを何年も抱えてきたんだから」

 

「…そのようだな。話を続けよう」

 

ヨルノは私の目覚ましを拾い上げながら言った。

 

「この時計頑丈だな…シロ。お前の抱えるそれを綺麗さっぱり消し飛ばすために必要なのは勝つことだ。そうだな?」

 

「電池飛び出しちゃった…どこ行ったかな。そうだと思う。勝てればすごく嬉しいし、たくさん勝てればきっと毎日楽しくなる」

 

「隣で寝こけている天才に嫉妬して寝ながら歯軋りせずに済むか?」

 

「えっ…そういうことは早く教えてよ、恥ずかしいなー」

 

「次からそうする。はぁ、こんなに痛い思いをさせてまだ晴れないとは、コンプレックスとは重篤なものだな」

 

「あ、電池あった。…そうだよ、フェブラリーステークスの時も誰かに殴られなかった?」

 

「殴られた。お前たちは、レースに本気なんだな」

 

「そうだね。みっともないほどに」

 

「見習いたいものだ…さて、お前は勝ちたいんだったな。でも勝てない。それで辛がっている」

 

「これ以上生傷ほじくるつもりならその鼻の穴もほじくってやるから」

 

「私はトレーニングや授業、そしてレースと多くの競走を経験した。それでわかったのが、レースとは自分の実力だけで決まるものではないということだ」

 

「…そんなの、当たり前じゃない?ヨルノ以外には」

 

「そう、最強である私以外には。レースには多くの要因が関わる。実力をその場の状況が覆すこともある」

 

「ことも、ね。そんな運任せに期待しちゃいらんないから私たちはトレーニングするんだ」

 

「では、勝つためにその状況を作り出すのはどうだ?」

 

「…それって」

 

「本気で勝ちたいなら、やれることは全てやるべきだというごく当たり前の正論だ。…そう、どんなことでも」

 

「…本気で言ってる?」

 

「本気だ」

 

「それ、だめなことだよ」

 

「今年五年目なのにろくに結果は出せず、もはや成長の余地もなくまだレースにしがみついている限界ウマ娘にこれ以上捨てるものはあるまい」

 

「ないけども…」

 

言葉にされると想像以上に惨めな状況だった。

 

レースで一番人気に推されていても着外へ沈むことはままある、もちろん実力のあるウマ娘が力を出しきれず、ということもあるし無敗のウマ娘だって負けたりする。そういう世界だ。

 

だからって、そこまでして勝つべきなのか?

 

そこまでして、私は勝ちたいのか?

 

「もう一度聞く。シロ。どんな手を使っても勝ちたいか」

 

「勝ちたい」

 

答えた時私は何も考えていなかった。

 

いや、考える段階などとっくに超えていたのだ。今更自問自答なんてバカらしい。

 

勝ちたいに、決まっている。

 

「どんな手を使っても勝ちたい。他人をどんな悔しい目に遭わせても勝ちたい。もう負けたくない。私は…私は!走ってて良かったと思いたい」

 

ヨルノはゆっくり頷く。鼻血はもう止まっていた。

 

「決まりだ。では差し当たっての目標を決めよう」

 

「目標?」

 

「私にはわからないがモチベーションは大事なんだろう?そうだな…GⅠ」

 

「GⅠ?」

 

「ああ。シロ、シロツメクサ。お前が宣言通り本気でどんな手を使っても勝ち続けたなら。好きなレースを勝たせてやる。GⅠでもだ」

 

「……はぁ?」

 

「勝ちたいだろう?わざと負けてやる。私にも失うものなんてないからな」

 

「いや、今度は追放になると思うけど…」

 

「構わん。走りたければ勝手に走る」

 

「はぁ…ヨルノって、そういうこと言う子だったんだね」

 

「もう三年の付き合いになるんだ、もう少し互いを理解しようじゃないか」

 

「初めて会った時に相互理解とかめんどくさいって言ってたけど…」

 

「忘れた」

 

「…信じるよ」

 

「ああ、私は嘘をつかない。強いからな」

 

「私が勝ち続けたら、GⅠを勝たせてくれる」

 

「これは契約だ。決して私から破棄することはない」

 

「…やる。絶対」

 

こうして栗毛の凡百ウマ娘シロツメクサと青鹿毛でついでに血塗れの天才ウマ娘ヨルノアラシの間に世界一最低な契約が成立したのだ。




・シロツメクサ
名前こそ白だが栗毛。

・ヨルノアラシ
名前も毛色もまっくろ。
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