世界一最低なGⅠ制覇までのお話   作:クロカワ02

25 / 32
開幕なので初投稿です


世界一最低な開幕

季節は冬。師走も既に半ば、年末の大レース有マ記念までもう二週間ほどを残すばかりとなった。

 

今年の有マは一味も二味も違う。何故なら近年稀に見る有力なウマ娘二人の決戦の場なのだから。

 

かたや言うまでもないトゥインクル最強にして災厄のウマ娘ヨルノアラシ。まともに走ったレースでは完全無敗、未だその実力の全てを誰も引き出したことのない、まさに規格外の領域から全てを見下ろす簒奪者。

 

かたや最近最も注目されている超奇跡シンデレラ、シロツメクサ。いくつもの試練と長い雌伏の時を経てついに成った晩成の大器が今、荒れ狂う暴風雨の化身にその手を伸ばす。

 

春秋の天皇賞を分け合った二人が選んだ戦場こそが年末の中山、多くの夢を背負って選ばれし者だけが立つ芝の上。

 

それは約束された運命の一戦。

 

世界一最低なGⅠ制覇までのお話ファイナルシーズン『有マ記念編』

 

開…

 

 

 

 

「あ、ヨルノ。私この部屋出るから」

 

「は?????」

 

 

 

……。

 

世界一最低なGⅠ制覇までのお話ファイナルシーズン『有マ記念編』

 

改め

 

『ヨルノアラシ、捨てられる(主観)編』

 

…開幕!!!

 

 

 

 

 

 

「どういうことだシロ!!説明しろ!!」

 

「言うと思った…別に、大したことじゃないよ。外へ部屋借りるってだけ」

 

「なんで出ていく必要がある!女か!女を連れ込むのか!」

 

「お前は妻か?理由…理由って言われると、実は大した理由はないんだけどさぁ」

 

「ぐるるる…」

 

「お前は犬か?いやぁ、私もさ。元はと言えば都会に憧れがちだった田舎者の夢見る少女だったわけですよ」

 

「言い回しが古いな」

 

「突然正気に戻るな。でさ、最近あれこれ有名になってー、グッズバカ売れ取材殺到、モデルの仕事は…なかったけども!まあなんとかやってけそうなくらい稼いでるからさ。思い切って一人暮らし!しちゃおうかなって!」

 

「なんだそのテンションの上がり方。トシ考えろ二十一歳」

 

「まだハタチですけど!?いいだろハタチならまだこれで!!童顔だしよ!!まあとにかく、次の春から学園所属のウマ娘専用のマンションが一部屋空くって言うからそこに移るんだー。楽しみだなぁー!」

 

「そんなことで…そんな理由で私を捨てると言うのか?なんて無責任な女だ…!」

 

「へっ、なんとでも言いやがれ。って言うか捨てるって何?ペットじゃあるまいし」

 

「とにかく私は認めんぞ。お前と私は共犯者だ、これからも一緒に走るんだからな」

 

「いやいや走るのは続けるってば。…ヨルノさぁ、寂しいのはわかったけど、私が出てったらここには多分新入生が来るんだからちゃんと面倒見てあげるんだよ?ヨルノだってもう立派な先輩なんだから」

 

「…私は、いい。私にはお前がいればいいんだ」

 

「ダーメ。早く大人になるんだよ。じゃ、おやすみー」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

シロは成長してしまった。

 

めげてしまって、何もかも前向きには見られなかったあのボロボロの弱者が。

 

勝ちを重ねて、まるでまともな、普通の人間のようなことを言う。

 

…いや、違うな。最初からまともだった。まともだったから思い詰めてイカサマに手を出し挙句トレーナーとも決別したんだ。

 

なんて。

 

なんてバカらしい。

 

「円卓会議を招集する」

 

「このテーブル四角いですよ」

 

「うるさいぞモミジガリ」

 

「いきなり一緒にごはん食べよーって、よっちゃんにしては珍しいですねぇ。どうしたんですかぁ?」

 

「まずは聞け。これはお前たちにも無関係な話ではない…」

 

そう、事は重大事だ。その重みを含めるためたっぷりと溜めてヨルノアラシは言った。

 

「…シロが、寮を出ると言い出した」

 

「「いただきまーす」」

 

「聞け!!!!!」

 

「よっちゃん、見るたびいっつもカレー食べてますけど飽きないんです?」

 

「違いますよ、カレーライスの他にカレーうどん、カレーラーメン、カレーそばの四種でローテーションしてるんです」

 

「ナンも加えて五種だ!ええい、話を聞け!」

 

なんてのんきな連中!憤慨しつつも改めて事態の重大を説こうとした時。

 

「聞けも何も知ってましたしぃ…」

 

「ですよね…」

 

「は?????」

 

ヨルノアラシ。暴風の簒奪者、絶望の象徴…をたまに自分で名乗り周囲に「あのネーミングセンスが許されるのは彼女だけだ…!」と戦慄させるほどの強者を再び絶望の暗雲が襲った。

 

「な、なんでお前らが!って怒るのはわかってるんで先に言っときますけどぉ。あたし一緒にお部屋見に行ったんですよぉ」

 

「な…私抜きでか!?」

 

そんなの聞いていない!まさか、この私が出し抜かれたとでも!?

 

「よっちゃんその日「眠い」ってパスしたじゃないですかぁ」

 

「くっ、覚えてない…!だ、だが結局学園に通う以上は寮を出るメリットはない。大体あいつのことだ、寝坊してにんじんをくわえたまま全力ダッシュして曲がり角で転校生のウマ娘と衝突しパンツを見られるに違いない」

 

「ときめきどころか心臓が動いているかどうかも危うい双方病院送り確定の大事故ですね」

 

「やれやれそそっかしいやつはこれだから…仕方ない、今からでも思い留まるよう説得を…」

 

「いえ、その心配はありませんよ」

 

「…今度はなんだ。車で通学するとでも言うつもりか。だがな、シロには教習に行く暇は確実になかった。免許がない以上この選択肢はあり得ない。違うか?」

 

「ですからシロさん、原付の免許持ってます」

 

「……」

 

「もう何も言えなくなりましたか」

 

「何故だ…何故お前が私の知らないシロ情報を持っているっ…」

 

「シロさんと私、ほとんど形式的なものですが同じトレーナーを仰ぐ『姉妹弟子(心なしか強調)』ですので。師匠…私のトレーナーに免許取得の許可について相談していたんです。原付なら1日の講習と1日の試験、そして合格すれば即日免許発行なので合計2日。いくらあなたでも2日くらいはシロさんの動向を見逃しているしょう?」

 

「ぐぅ…!」

 

ぐうの音しか出なかった。

 

「取った免許も1番に見せてもらいました」

 

「ぐはっ…」

 

ここまで畳み掛けられてはもう限界だった。べしゃ、と顔面からテーブルに突っ伏す。

 

目の前に置かれていたカレーはモミジガリによって避けられたので無事だったがヨルノアラシ本人はぴくりともしない。

 

「あ、死んだ」

 

「シロさんについてマウントを取られたのがよほど堪えたのでしょうね」

 

なんて恥ずかしい死に様だろう。こうはなりたくないものだ。

 

二人はそう括ると一応手だけ合わせて、何事もなかったように席を立つ。

 

「あたしデザート取って来よっと」

 

「あ、私も行きます。冬スイーツ好きなんですよね」

 

「よっちゃーん、何かいりますぅ?」

 

「プリン…」

 

「はーい」

 

「…はぁ」

 

情けない。全く情けない。

 

ヨルノアラシともあろうものが、シロツメクサを執拗に付け狙う連中に相談などと考えたのが間違いだった。

 

伏したまま首を捻り顔を横に向ける。ぶつけた鼻が痛い。時計で殴られた時ほどではないが。

 

…私は。

 

何を考えているのだろうか。

 

「お食事中失礼します。ヨルノアラシ先輩」

 

その来訪者は思索に入ろうとしたタイミングで現れた。

 

顔を向けたのとは逆方向から声がする。姿は当然見えないし、どうも聞き覚えのない声だ。

 

「…誰だ。名乗れ」

 

「中等部3年、エリオットリルビーと申します。デビュー前で何の実績もない身で烏滸がましいとは思いましたが…不躾をお許しください」

 

ぶっきらぼうに突き放すような問いにも彼女…エリオットリルビーは慇懃に応えた。しかし名前も聞いた覚えはない。この分だと顔を見てもわかるまい。

 

それに、今はそんな気分じゃない。

 

「…用件は」

 

「指導をお願いしたいのです。最強のウマ娘、ヨルノアラシ先輩に」

 

「断る。私はそんなに暇じゃない」

 

「…そうですか」

 

「わかったら帰れ。しつこいのは嫌いだ」

 

「…わかりました。また来ます」

 

わかっていないじゃないか、と。

 

呟いた言葉は遠ざかっていく規則的な足音の主には聞こえていないようだったが。

 

シロツメクサ。シロならどうしただろう。

 

一も二もなく安請け合いして面倒を見るだろうな。レースを控える身であっても「教えることで自分も身につく」と本気で言ってしまえる人種だから。

 

このところそういうシーンもよく見かけるのだ。声をかけられては応じトレーニングの時間を削っては他者に施す。まあ、突然変化を引き起こしたあの体質を抜きにしてもこれ以上はそう伸び代もないはずだが。

 

ヨルノアラシもそうだ、生まれながらに優れた肉体を持つものとして己の伸び代を鑑みるに肉体の成熟以上の成長はあまり期待できないと彼女は自分を分析した。まるで筋肉をつけすぎると背が伸びないと言われるあの都市伝説のように。まあそれでも最強だからなんの悩みもない。

 

だから二人にトレーナーは必要ない。シロツメクサとヨルノアラシがつるんで二人でトレーニングをしたり各々自由な時間を過ごしているのはそのためである。

 

自分のことは自分が1番よくわかっている。

 

気楽なものだ。

 

だが、「伸びがない」ことを楽と思わず苦とするのがシロツメクサであり、その苦を知るからこそ少しでも他人に自分の持つものを分け与えてやろうとするのがシロツメクサというウマ娘で。

 

それが基本嫌われ恐れられているが依然最強として君臨するヨルノアラシとの決定的な差…いや。

 

元の性格の問題だな。それに。

 

「今は、それどころじゃない…」

 

「…ああいうの、お姉さん良くないと思うなー」

 

また、顔の向きとは逆方向から声が聞こえた。

 

「その胸のどこがお姉さんだ」

 

「胸は今関係ねぇだろ!!…見てたよ。ヨルノはさ、アンチも多いけどファンもたくさんいるんだから。ちゃんと後輩の面倒見てあげなよ」

 

「お前の面倒を見るだけで精一杯だ、手のかかる女め。春、お前が変わった後の身体能力を自覚できていないせいでフォームをいじるところから始めたのを忘れたか」

 

「…ふーん。まだそんなこと言うんだ」

 

突然、テーブルを回り込んでシロツメクサが顔を覗き込んだ。その近さに一瞬虚を突かれ、思わず顔を引いてしまう。

 

「な、なんだそのにやけ面は」

 

「べっつにー?ただの反省だよ。ヨルノを甘やかしすぎた私も悪かったなぁって。だから、ちゃんと自立するまでアレはナシね」

 

「なっ…!何故だ!アレは関係ないだろう!」

 

「ダメー。アレを解禁してほしかったらちょっとは大人になりなさいー。じゃーねー」

 

「おい、シロ!…くそ、なんだと言うんだ…」

 

自分が頭を抱えるのとは対照的に軽い脚取りで去っていくシロツメクサ。前を歩いていた知り合いらしいウマ娘の二人組の間へ挟まり三人で歩いていくのを、ヨルノアラシは見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…がっちゃん。アレってなんです?)

 

(な、なんだかいかがわしいですね…いやいやシロさんに限ってそんな…)

 

※おやつのカレーパンのことです

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。