「「寮合同クリスマスパーティーだーっ!!!」」
と。
今年も終業式が終わって早々に帰省した組を除く多くのウマ娘たちが学園の体育館いくつかを借りて大騒ぎしている。
「これだけはやって帰らねぇとなぁ!」
「やっぱクリスマスはやめられねぇぜぇ!」
「掠奪後の村に火をつける山賊のコメントか?」
セリフの割に治安のいい大盛り上がりの中に、片隅にヨルノアラシはいた。
普段はどこに行っても遠巻きに注目される彼女もこの日ばかりは一人のウマ娘である。
ここ数年で根付いたこのイベントに同室の住人は彼女を引っ張ってでも連れてくる(比喩ではなく本当に引っ張ってでも運搬されるため今年は自分の脚で歩いてきた。逃走防止として手は繋がれた)ので仕方なく参加し、連れてきておきながら自分をほっぽって友人との付き合いに顔を出しに行くシロツメクサを遠目に追いながら数え切れないほど並ぶ料理をつまむだけの一参加者となるのだ。
そんな「年に一度その場の空気となる活動」が特に今年は捗っていると言える。
「お待たせしました、ヨルノアラシ先輩」
給仕がいるのだ。
「カレーチキンです。カレー粉をふって焼いたものですね、皮がぱりぱりで美味しいです」
「ああ」
うまうま。
「こちらチキンカレーです。お肉が柔らかいです」
「うむ」
うまうま。
「次はカレーフライドチキンです」
「さっきから妙に紛らわしいな」
「し、失礼しました。イベント柄チキンが多く…」
「いやどうでもいいんだが…それより、なんで私に付き纏う。エリオットリルビー」
「先輩に指導していただきたいからです」
「しないと言ったが。やはり聞いていないな」
「していただけなくても尊敬する先輩ですので。次の料理を取ってきます」
…しつこい。
全くしつこい。
エリオットリルビー、同じ黒毛の後輩はその怜悧を感じさせる容姿に対してあまりに愚直で前時代的な敬意を向けてくるタイプのウマ娘であることがわかった。
SNS、知己との連絡を駆使しヨルノアラシを見つけるやすぐさま駆け寄ってきて挨拶と再度の名乗りを済ませるとすぐさま立食形式の会場各地から料理を集めてはこの片隅まで戻ってきて献上する機械となり…飽きないのか?
「…強いウマ娘に指導を乞うなら、他の連中のようにシロツメクサはどうだ。現役が長い分経験と知識はあるし、何より断らないぞ」
遠方、後輩に囲まれてまんざらでもない顔をしている彼女は何を考えているのだろう。
囲う側も囲う側でレースの前だからと参加していないウマ娘もいる中レース直前でも堂々参加していることに何も思わないのだろうか。
…いや。これはさすがに八つ当たりか。
それを言えば自分だってどんな顔でカレー味のチキンばかり貪っているのか。
そも自分は、何に悩んでいるんだ。
…くだらん。
「それは…そうなのでしょうね」
そうだろう。シロをもっと評価しろ。
「しかし、私が目指すのはあなたです。故に私は届かないと知りながらあなたを追うことにしました」
「……私を」
「残念です。トゥインクルの舞台であなたと走れないのは」
「……今度は何を持ってきた」
「あ、すみません。こちら今回の目玉料理で、数の少ない高級食材だそうです」
「ほう。カレー味のチキンか?チキン味のカレーか?どちらにせよそう変わらんだろうがな…」
「紫金カレイです」
「…」
「わあ、綺麗なお刺身ですね。私もいただ」
「誰がギャグを披露しろと言った!!!!!」
「ごっごめんなさい!!本当に綺麗だったから先輩に食べてほしくて!!そのような意図は決して!」
「やかましい!!!それにな!私が好きなのはさらさらのあまくちカレーであってお前が運んでくる辛いやつじゃない!!!嫌いではないが!!!」
「カフェテリアでお見掛けする時カレー五種でローテーションしているところまでしか知りませんでした!まさか注文の段階でカレー自体も選べるなんて…!素晴らしい発見ですね!」
「カレーでも煮込んで出直せ!!!!」
「は、はい!!」
…深く、溜息をつく。
怒鳴られれば反射で背筋を伸ばし、去り際まで回れ右の後に走り出すくらいの前時代的徹底ぶり。いつの時代の生まれなんだ。
エリオットリルビーが体育館を出て行くのを見送り、そこで今まで追っていた彼女から目を離したことに気付く。急いで振り返り人混みに目をやるが…いない。
見失ったのは初めてのことだった。
「楽しそうじゃん。よかったね、ヨルノ」
「…シロ」
…シロツメクサに背後を取られたのも初めてだった。盛り上がっていて気分がいいのだろう、わざわざ背中へ回って抱き着きにきたのだ。
当たる感覚は…僅かにある。あるんだな…。
「あるんだな…」
「何が?あ、そうだヨルノ。はいこれ」
手のひらより少し大きいくらいの小箱が肩に置かれた。
手に取ってみると、サイズの割に重量を感じる。包み紙をわざわざリボンで止めてあるということは。
「…交換会は30分後じゃないのか」
「これは個人用だから。さ、開けて開けて」
大きな赤いリボンをほどいた後は市販品と違って剥くだけで紙が外れる。
わざわざ手包みにされていたのは、
「時計…」
「そ。目覚まし時計。私のと同じやつだよ」
「色気のない…」
「でもほら、やっぱり私たちの思い出の品でしょ?」
「嫌な思い出しかないんだが…」
「気のせいじゃない?私はいい思い出だと思ってるけど」
「嫌なやつだ…」
「去年の黒地に白字の最強Tシャツよりは心籠ってるよ。どう?お揃い、嬉しい?」
「…シロ。私、お前が好きかもしれない」
ざわわっ。
「あはは!嫌われてるとは思ってないよ」
すん…。
「…なんだか今屈辱的なリアクションを取られたような」
「?」
まるで、「やっ…やりやがった!!」から「残念でしたはい解散」みたいな…そんな気配が周囲から…
「ちなみにプレゼント交換会には何を出すんだ」
「え?ドラムセット!奮発しちゃった!」
お前は新手のテロリストか?
この後完全ランダムで寮のあの狭い部屋にドラムセットを運び込まれる不幸な誰かに、聖夜の今日ばかりは幸運を祈る。