世界一最低なGⅠ制覇までのお話   作:クロカワ02

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補足と修正で文章を整えるつもりが、一度自分で完成したと思い込んでしまうとなかなか難しいですね。


世界一最低な一勝目

「さて、部屋も片付いたところで作戦会議と行こう」

 

「待って、ヨルノは顔洗って。晩ごはんとお風呂も行かなきゃ」

 

「そうだった。…いやシロにやられたんだが」

 

 

 

 

 

「病院に搬送されてしまった」

 

「寮長さんに見つかったのが悪かったね…」

 

「私は正直にシロにやられたって言ったのに」

 

『殴られただけでこんなに血が出るわけないわ!まさか、心配をかけまいと病気を隠して…!?ダメよ!今すぐ病院へ行きましょう!』

 

「いい人だよね」

 

「鼻が折れてたことについて何か言うことはないか」

 

「気にしない気にしない。私たちの仲でしょ」

 

「そうだったな、すまないシロ。…うん?」

 

病院の食堂はもう閉店間際。いるのは私たち二人だけ。隅の席で向き合って少し遅くなった晩ごはんを食べながら今後についての話をしていた。

 

私はハンバーグ定食。にんじんは刺さっていない。

 

ヨルノはカレー。これにもにんじんは刺さっていない。

 

いわゆる外の食事というやつは久々だった。彼女も多分そうだろう。

 

病院の食事と侮るなかれメニュー自体はなんら変わらないように思えたがアレルギーや摂取禁止食品に細かく対応しておりどなたでも安心にご利用いただける優良飲食店である。

 

「む。このカレー…」

 

「どうしたの?」

 

「私好みのさらさらカレーだ…素晴らしい」

 

「お願いだからもうちょっと中身のあること喋ろ?」

 

先程成立した私たちの契約。

 

勝てないのが悔しすぎて寝ながら歯軋りまでするようになった今年五年目の限界ウマ娘こと私シロツメクサがあんまりにも見てられないので絶対的天才ヨルノアラシは私をGⅠで勝たせてくれると宣言。

 

条件は誇りとか夢とか希望とかその辺全部投げ捨ててとにかくレースに勝つこと。

 

これから私がやろうとしていることははっきり言って冒涜である。誇りとか夢とか希望とかその辺のものを抱いてレースに臨む全てのウマ娘に唾を吐きかけ泥を塗り冷や水を浴びせるような…最後で全部流れたな。

 

ともかく、バレたら二人揃って永久追放待ったなし。でも勝ちたい。勝ってぐっすり眠りたい私と勝たせてぐっすり眠りたいヨルノの、それは世界一最低な契約。

 

「さて、そろそろ作戦会議といこう。競走ウマ娘シロツメクサ。お前は何か取り柄があるか?」

 

「えー…スピードは並、じゃないかな。まだちょくちょく着内には入るし…スタミナはまあ、気合と根性で…」

 

「ふむ。大したことないスピードといくらかのスタミナに五年目のぬるくなった気合と腐った根性と言ったところか。となると脚質は…追い差しはないな。終盤ずるずる沈んでいく逃げか、まんまと差されるカモの先行か。適正距離は確か中距離だったな?短距離に逃げるにはスピードが足りず、長距離へ挑むにはスタミナが不安…ふむ」

 

ヨルノは力強く頷くと残りのカレーを全てかき込み嚥下した後水を一杯一気に飲み干し子供みたいな汚れ方をしている口の周りをしっかり拭いてから言った。

 

 

 

「レースやめたら?」

 

 

 

私は自分の分の水を注ぎ直す羽目になった。

 

「シロ、冷たいが」

 

「着替えはちゃんと持ってきてるから大丈夫。病室に戻ったらお着替えしてから寝ようね」

 

「んっ」

 

「どうしたの?」

 

「服の中に入った氷を取り出そうとしたら胸の谷間に落ちた…」

 

「これ以上ケンカ売るなら鼻からカレールー注ぐぞ」

 

ともあれ。ステータスという形で自分を言語化すると面白いくらいにまあ…勝てないな…という気分になる。特筆できるところが何もない。辛い。

 

強いて言うなら学校の成績はまあ良い方だが、そんなものは所謂「レースでは、評価されない項目ですからね」というやつでしかない。

 

競走ウマ娘に必要なものは本能と才能だ。

 

努力は誰にだってできる。できるし結果もいずれついてくる。でも壁を越えられるのは星の数ほどいる中のほんの一握りで、誰もが知る名ウマ娘とはその中に輝く太陽や月のことを言う。

 

一等星ですら、遠いのだ。

 

「それでも勝つんだろう」

 

「…うん、勝ちたい」

 

「何かプランはあるのか?」

 

「まあ、一応。…なんだか不思議。やると決めたらあれこれ考えが広がってるんだ」

 

「ふむ。…レースでは評価されない項目、か」

 

そして私たちは病院で一夜を過ごし、翌日には寮へ帰り、学び、走り、食べ、眠る。

 

眠っている時間以外は話し続けた。

 

私たちウマ娘は、勝つために何ができるのか。

 

一ヶ月後、私は一つ答えを出す。

 

契約後、初のレース出走だ。

 

 

 

 

 

『ゴォール!!一着はアタマ差でシロツメクサ!二着はメルトールリッチ!一番人気カーネルフェイス差し切れず!二人の闘志が見事人気差を覆したぁー!!』

 

『序盤からシロツメクサとメルトールリッチが前に出て逃げ同士カチ合った時はカーネルフェイスが差し切ると思ってたんですが、まさかそのまま最後まで猛烈な競り合いに終始するとは思いませんでしたね。後続のウマ娘を割り込ませない、熱い勝負でした』

 

「ぜーっ…ぜっ、ぜっ…ぜーっ…はーっげっほっ」

 

勝者シロツメクサ、全て出し切ったと言わんばかりの青天井。

 

仰向けで喘いでいた私の顔に影が落ちる。

 

「シロツメクサさぁん!やりましたぁ!」

 

「ああリッチ、お疲れ様…ってそんな疲れてなさそうだね…」

 

彼女の手を借り脚の震えを隠しながらなんとか立ち上がると、客席からまた歓声が上がった。

 

さすが重賞、GⅢでもお客さんの多いこと。

 

彼らには今の私たちが健闘した者同士の称え合い、のようにでも見えているのだろうか。

 

…笑えるなぁ。

 

「シロツメクサさん…あたし、あたし二着なんて久しぶりですぅ!」

 

「私も勝ったの久しぶり…でも、これで逃げ方はわかったでしょ?リッチはやれる子なんだよ」

 

「はい!はい!あたし…やれるんですね!」

 

「そ。やれる子やれる子」

 

「うぅ〜…!これからもっ、がんばりますねぇ!!」

 

「うん、がんばれ。応援してるからさ」

 

「はい!!!」

 

レースが終わればライブがある。彼女を促して観客へ一礼しもう一度湧かせた後、私たちはターフを降りてそれぞれの控室へ戻っていく。

 

「上手くやったな」

 

地下バ道に現れたのは、影より濃い漆黒のウマ娘。ヨルノアラシ。

 

壁に背を預ける彼女はこちらを見ていない。

 

ヨルノの視線の先には跳ねるように喜ぶリッチと、同じく感涙さえしながら出迎える若い男のトレーナー。あ、勢い余って壁に叩きつけられた。

 

でも笑っている。勝てなかったのに。

 

「私たちには縁のない景色だな」

 

「眩しくて仕方ないよ」

 

「ふむ。しかし、世の中捨てる神あれば拾う神ありとは本当だな。あの芦毛のウマ娘、どこで捕まえた?」

 

「知り合ったのは偶然だよ。自棄になって学園外ずーっと走ってた時に、同じく学園外走ってて道に迷って帰れなくなったあの子を見つけたんだ」

 

「ほう。それで口説いてみた、と」

 

「その時はまさか、こんな風に利用することになるとは思わなかったけどね…」

 

「先頭に二人立つことで全体のペースをコントロールし、後続のスタミナを腐らせた上で二人がかりで蓋をして逃げ切る、か。まさに性根の腐った作戦だ」

 

「五年も勝てずに走ってれば、まあ、ね。性根くらい腐るよ」

 

 

 

正直逃げるのはしんどかった。先頭を走っていても後から追ってくる子みんなが襲いかかってくるようなあのプレッシャーは何度遭っても耐え難い。それでも今回逃げを選んだのは息も切らさず余裕でついて来られる強い逃げウマ、リッチの存在があればこそだ。

 

レース中はペースの指標になるものが存在しない。時計は見えるところにないしみんながみんなそれぞれの作戦を抱えて走っている以上ハロン棒やコーナーを当てにしていてはそれより早く、あるいは遅く仕掛けてくる子に対応できない。

 

よっぽど正確な体内時計があるか、一切気にせずその時前にいる全員を問答無用でぶち抜いていくような怪物でもない限り周囲の状況を伺い続けるしかないのだ。

 

そんな中で一つ、先頭を走る子だけが全体のペースを司ることができる。

 

当たり前の話だが逃げる子を放置すればそのまま一着でゴールする。それをさせないためにある程度ペースを合わせてついていく。それを逆手に取ったペースの乱高下なんて作戦はあるが…そんな高等テクに頼れるほど器用じゃない。

 

だから私が先頭に立って、横をぴったりついてくるリッチを利用したのだ。

 

私の脚、条件次第で着内に入る程度の大したことないスピードでも序盤からそのペースで走れば速い部類に入る。ついてくる子たちにスタミナの浪費を強いることができる。こっちも疲れるけど。ここまでは前と後ろで同じ条件。

 

しかし私は終盤へろへろになってもリッチが横にいることで後続が前に出てくるのをブロックできる。強引に抜けられるほど強い子がいないのは調べておいた。

 

勝負はレース選びから始まっているのだ。なんて。

 

それでも上手く行くかどうかなんてわからなかったけど。

 

計算通り、みたいな顔をしておく。

 

 

 

「しかし、あのいかにも思い込みが強くて扱いづらそうな、その上完全に実力で上回られているウマ娘をよく利用できたな」

 

「ああ、それは…」

 

メルトールリッチ。彼女もまた落ちこぼれだったから。

 

いや、正しくは、レースの走り方をいまいち理解できていなかった。

 

ウマ娘の少ない環境で育ち競走に慣れていない子にありがちで、それでせっかくの才能を発揮できないことは実はよくある。私は単純に才能がない。言わせんな。

 

トレーナーもまだ新人、リッチ自身も相当不器用な子だったようで最初の二年は残念ながら棒に振ったらしい。

 

それでも勝ちたいとがむしゃらにトレーニングをしていた結果河川敷で迷子になっているところを私が発見したのだが(二年トレーニングしてて学園の近くで迷子になるんだからとても心配になる)、リッチは本当に素質のあるウマ娘だと思う。きっとこの先たくさんのレースを勝って、輝くような笑顔で多くのファンを喜ばせることで自らも喜びを得て…そんな理想のレース人生を送ることだろう。

 

 

だから、一つくらい勝ちをもらってもいいよね?

 

 

『リッチ、同じレースに出よう。そこで私が走り方を教えてあげる。リッチはほんとならもっと勝てるんだから、もったいないよ』

 

『いいんですかぁ!?う、うえぇぇ…嬉しいですぅ!!』

 

『な、泣かなくても…まだ私が役に立てるかどうかわかんないのにさ』

 

『でも嬉しいんですぅぅ!!』

 

『もう…ほら、顔拭いて。後でまた相談しよう。トレーナーには内緒だよ』

 

『はいぃ!!』

 

 

 

 

「悪魔か?」

 

「私をこんな凶行に走らせた悪魔に言われたくないよ」

 

「つまり、今のレースを併走として使ったということだろう?適当に頭数を集めれば練習で再現できるようなことを、実戦で他のウマ娘を巻き込んでまで…いや違うな、そこじゃない。シロ。お前最初から、競ってすらいなかったのか」

 

「横を少しも遅れずついてくるリッチにバレないようスタートから全力で走って最後の最後だけなんとか前のめりになって体勢有利の一着。まあ…上出来じゃない?」

 

「…ははっ」

 

「さて、じゃあライブに行ってくるね」

 

「ああ、後方彼氏面で見ている」

 

「なんかやだな、それ…」

 

 

 

「…まさに、レースでは評価されない項目だな」




・メルトールリッチ
ライバルその1
芦毛の元気いっぱい逃げウマ娘。シロツメクサの詐欺に引っかかり妨害の片棒を担がされるがそんなことには一切気付かず、必死で走る彼女の横顔を見て己の走りを定義することに成功し大逃げに開眼する。
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