ヴェイリフロンセ
「前回までのあらすじ!有馬記念でついにヨルノアラシを討ち果たしたシロツメクサ!その後平穏な日々を送る彼女たちのもとに来訪者が…」
シロツメクサ
「……?」
ヨルノアラシ
「……?」
ヴェイリフロンセ
「……あの、前回までのあらすじなんだけど、こんな感じでいいのかな…」
シロツメクサ
「えっと…なんですかそれ」
ヴェイリフロンセ
「ハァ!?にっ、日本じゃ前回までのあらすじは常識だって…ヨルノアラシ!!!」
ヨルノアラシ
「本気で信じてたとは思わなくて…」
ヴェイリフロンセ
「珍しく本気で動揺してるな君は!!?はぁ、まあいい。というわけで来訪者ことヴェイリフロンセだよ。しばらくぶりだね」
シロツメクサ
「あ、はい!お久しぶりです!年末は応援ありがとうございました!」
ヴェイリフロンセ
「マリオンがどうしても行くって聞かなくてね…あの時は世話になったよ」
ヨルノアラシ
「全くだ。シロがサーマリオンの実年齢に気付いてないのをいいことに甘えまくって…」
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『すごい山盛りラーメンだぁ〜!シロ!一緒に食べよ!』
『今日はホテルに泊まるんだけど別れるの寂しいよ〜!シロ!一緒に泊まろ?』
『あっ、大浴場だって!シロ!一緒にお風呂入ろ!』
『広ーい!母方のおばあちゃんちのお風呂と同じくらい広いよ!ねーシロ!洗いっこしよ!』
『シロ!一緒に寝よ!』
『シロ!あーんてして?』
『シロ!一緒に買い物行こ!』
『シロ!一緒にスコットランド帰ろ!』
『シロ〜!愛してるよー!!』
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ヨルノアラシ
「私だってしてもらったことないのに!!!!!」
シロツメクサ
「半分くらいはしたよ」
ヴェイリフロンセ
「してるのか…」
ヨルノアラシ
「まだ帰りたくないと限界まで粘りシロを連れ去ろうとしたこと忘れてないからな」
シロツメクサ
「でも楽しかったよ?ヨルノよりしっかりしてたし」
ヨルノアラシ
「聞き捨てならんにも程があるが!?と言うかなんでまだサーマリオンの正体に気付いてないんだコイツは…」
ヴェイリフロンセ
「あの時は私も正気を失いかけたね…マリオンの眩しい笑顔の尊さと、何故あそこにいるのが自分じゃないんだという嫉妬で」
シロツメクサ
「マリオンちゃん、今日はいないんですか?」
ヴェイリフロンセ
「ああ、彼女には内緒で来てるんだ。次日本に来たら…物件を買いかねないから…ああいや、今日はそんな話をしに来たんじゃない」
ヴェイリフロンセ
「私が今日このトレセン学園に現れた理由は…君の身体についてだ、シロツメクサ」
シロツメクサ
「……私?」
ヨルノアラシ
「ああ、変わった後のお前の身体を調べるにあたって協力を要請していた。データを渡したりな」
シロツメクサ
「私の個人情報、扱いが軽い…」
ヴェイリフロンセ
「すまないが時間がないので手短にいこう。何せ今のマリオンは3時間以上日本に滞在していたら例えフィッシュ&チップスの揚げ油を被ったって日本臭を感知するからね」
シロツメクサ
「日本臭」
ヨルノアラシ
「残り滞在時間は?」
ヴェイリフロンセ
「ここにいられるのはあと16分。アリバイ作りと行き先の偽装に1時間かかる」
シロツメクサ
「大変だなぁ…」
ヴェイリフロンセ
「他人事みたいな顔を…これは確認なんだが、君の能力は春の天皇賞で覚醒した、合ってるかい?」
ヨルノアラシ
「まず間違いなく。レースの中でシロは壁を破るように限界を超えた」
ヴェイリフロンセ
「ふむ…その後は突然解放された力に困惑してフォームの再設定など、しばらくは慣らすのに時間を使った」
シロツメクサ
「はい。…こうして聞いてると漫画の主人公の修行パートみたいな」
ヨルノアラシ
「修行の途中で敵が現れて実戦の中でコツを掴むやつ」
シロツメクサ
「そうそれそれ」
ヴェイリフロンセ
「あるあるだね。…何の話をしてるんだ」
シロツメクサ
「す、すみません」
ヴェイリフロンセ
「突然上がった身体能力に合わせて調整した結果とりあえずまともに走れるようになったシロツメクサは秋の天皇賞に出走して勝利する。この時はまだ、不安定だったと聞くが」
ヨルノアラシ
「そう。あくまで手の内を知っていたり力だけでねじ伏せられる相手だったからだ」
ヴェイリフロンセ
「ふむ。…ではその後、君はあのジャパンカップでどうやって力を引き出した?」
シロツメクサ
「どうやって、と言われると…遮二無二と言うか、言葉にしづらいと言うか…意識を絞る?」
ヴェイリフロンセ
「と言うと?」
シロツメクサ
「んー……水に顔を浸ける時、息止めるじゃないですか」
ヴェイリフロンセ
「ふむ」
シロツメクサ
「まずは息が止まるんですよ。いや、止めてる感じがするだけで苦しくはないので実際は息してるんだと思うんですけど。で、深く潜っていくにつれ五感がだんだん消えていって…でも、潜れば潜るほど世界は広がっていくんですよ」
ヴェイリフロンセ
「なるほどわかった。ではやってみせてくれ」
シロツメクサ
「えぇ?そんな突然言われても…えっと、こんな感じで…こう」
ヴェイリフロンセ
「それだ!!!!」
シロツメクサ
「!?」
ヴェイリフロンセ
「それだよ!!わざわざ私が手間をかけて直接話に来たのはそれだ!」
ヨルノアラシ
「どういうことだ、話が見えんぞ」
ヴェイリフロンセ
「シロツメクサ!君、『領域』に入っているな!?」
シロツメクサ
「ぞ、ゾーン!?」
ヨルノアラシ
「漫画の話か?」
ヴェイリフロンセ
「違う!漫画脳ならむしろ聞いたことがあるだろ、『運動中に起きる極限の集中状態』だよ!」
シロツメクサ
「漫画脳にわかりやすく言ってくれるね」
ヨルノアラシ
「親切」
ヴェイリフロンセ
「はぁ…それじゃあ、もう一回やってみてくれ」
ヨルノアラシ
「…ん?おい、それは」
シロツメクサ
「こう?」
ヴェイリフロンセ
「それだー!!!!」
シロツメクサ
「うえっ!?ど、どういうこと!?」
ヴェイリフロンセ
「それだよ!!瞳孔がかっ開いて白い光の粒子がきらきら散ってるそれ!!」
シロツメクサ
「私そんな漫画的なエフェクト出てるんですか今!?」
ヴェイリフロンセ
「個人差はあるが間違いない、これは『領域』だ…!」
シロツメクサ
「ああいうのって漫画の演出なんだと思ってました…」
ヨルノアラシ
「いや演出だろう…だって、私には何も見えてないぞ」
シロツメクサ
「へ?」
ヴェイリフロンセ
「あー…『領域』について改めて説明しよう。と言ってもスポーツやバトルを題材にした創作物で有名になったあのゾーン、の元ネタということでおおよそ相違ない」
ヨルノアラシ
「レースの世界においては『時代を創るウマ娘が経験する、己の限界を超えたような力を発揮する』状態と聞く。聞くが、そんな劇的な効果は出ないだろう。それにシロはとてもじゃないが時代を創るウマ娘とは言えないクソザコ存在として生まれてるんだぞ?」
ヴェイリフロンセ
「そうだね。『領域』に入る者とそうでない者の間には必ず不可侵の一線が引かれるとも言われる。だが何より…必要なのは才能ではなく資質だ」
シロツメクサ
「資質…」
ヴェイリフロンセ
「即ち、極限の集中状態に入るほどの強い想いを持てるかどうか。ほとんどのウマ娘はやはり大きなレースでライバルとも呼べる最上の相手を迎え初めてその境地に至る……だからこそ、なんで今の無茶振りであっさり入ってるのか全くわからないわけなんだけど…」
ヨルノアラシ
「私もそれが引っ掛かっていた。そんな簡単に発動できるなら私だって…いや」
ヨルノアラシ
「それに関しては心当たりがある。なあシロ」
シロツメクサ
「へ?そんな強い想いなんて……あー…うん、あるね…」
ヨルノアラシ
「即ち、勝つことへの執念。シロはただそれだけで私の計画に叛逆してみせた」
シロツメクサ
「ずるずる負け犬ライフ送ってきて、ヨルノと組んであれこれやって、勝てるようになったら今度は『勝ち』の味を覚えた。満たされるどころか何度だって経験したくなった」
ヨルノアラシ
「それがこびりついて、平時にまで引き摺るようになって…まさか自分の意思で「領域」に入れるようになっているとは思わなかったがな」
ヴェイリフロンセ
「さらっと言ってるけどなんだか背景がドロドロしてない?その話一体どんな裏があるの?」
ヨルノアラシ
「お前は「領域」に入った経験があるのか?」
ヴェイリフロンセ
「彼女の感覚とは違うけど復帰戦の凱旋門賞と、他にもう2回くらいあったかな。私でさえそんなもんなのにな…君ってやつは…」
シロツメクサ
「お、重みが違うじゃないですか!ね!?」
ヴェイリフロンセ
「こほん、総括しよう。ジャパンカップでシロツメクサは「領域」に入ることで拡張された意識(ソフトウェア)が強化された肉体(ハードウェア)に追いつき真の力を発揮することが可能になったのだ」
ヴェイリフロンセ
「……多分!」
シロツメクサ
「すごい…!それっぽいオチがついた…!」
ヴェイリフロンセ
「そして同時に残念な事実を伝えねばならない」
ヨルノアラシ
「うん?なんで私の顔を見る。なんだその目は。おい。アーニャの顔やめろ。流行りに乗るな」
ヴェイリフロンセ
「ヨルノアラシ。君は…一生「領域」に入れない」
ヨルノアラシ
「……はぁ!?」
ヴェイリフロンセ
「だって君、強い想い無いだろう?」
シロツメクサ
「…!ほ、ホントだ…!特に懸けるものもなく、レースに勝つのが楽しいだけのヨルノは究極の競走エンジョイ勢!」
シロツメクサ
「おまけにクソほど強いから追い詰められたりしないし…強い想いなんて持つきっかけがない!」
ヴェイリフロンセ
「君、なんか当たり前に自分も「領域」に入るみたいな顔してたけどせめて帰国前にその思い上がりは砕いていこうと思ってね!!」
ヨルノアラシ
「おっ、おのれフランス人!ジャパンカップで負かされた復讐のつもりか!!」
ヴェイリフロンセ
「いやいや、そんな過去のことに拘ってはいないとも。こらこらシロツメクサくん、ヨルノアラシがかわいそうだからあまり笑ってはいけないよ」
シロツメクサ
「…っ!……!!」
ヨルノアラシ
「言葉にならないくらい大ウケしやがってシロのくせに!!…強い想いくらい私にだってある!見せてやるから走るぞシロ!」
……お腹を抱えたまま引っ張られていったシロツメクサも、芝の上に並べば勝負に臨むウマ娘の顔だ。
ヴェイリフロンセ
「こう言えばいいんだね?では…位置について!」
ヴェイリフロンセ
「よーい…どん!」
普段見せる和やかな表情から想像できないくらい、粟立つような切れ味のスタートダッシュだった。
「領域」に入り隣の相手だけでなくスタートを宣言する私の呼吸を読み切った彼女のスタートダッシュはあのヨルノアラシが出遅れたのかと錯覚するほどに完璧で。
そのまなこはどこまでも無垢に彼方を見ている。
対して歯を食いしばるヨルノアラシが見るのは目先の…いや、
「目の前の、背中か」
そうだね、君はずっとその背中の話をしていた。
今は見えないその顔の話も。
脚のことも、身体のことも。
彼女の身に起きた異変を案じて友人と呼ぶには少々遠い仲だった私の知見に期待して相談してきたんだったね。特殊すぎてあまり役には立てなかったけれど。
ヨルノアラシ。
焚きつけるようなことを言って悪かった。私は知っていたのにね。
シロツメクサ。
彼女こそが君の持つ唯一にして最高の熱量だ。
そしてそれは、扉を開くに値する────
闇黒が、広がった。
あまねく色彩を、輝きを呑み込むような原初の黒が世界を塗り潰していく。
なんて絶望的な「領域」。
久しく皆の中から薄れたであろうそのイメージはしかし、未だ彼女の中に力として残っているのだ。
全ての他者を等しく平らに「2番目以下」へ墜とす暴威、『簒奪者』ヨルノアラシらしい世界だった。
だが、今そこにいるのは君1人じゃないんだな。
闇を押し返すほどの力はない。
だがその光は燦然と、あふれんばかりの粒子を散らして流れ星のように尾を引く。
シロツメクサ。
勝利への渇望で無理やり扉を開き闇を潜って光を見出した偉大なウマ娘にふさわしい、希望の世界だ。
ぶつかり合う2人の「領域」は闇に光の粒が散る、そう、まるで星空のようで……おや?
3つだけ消えずに輝く星がある…何か、示すものがあるのだろうか?
「いや、よそう」
無粋な考察は今や不要。答えは彼女たちが出すだろう。
「「領域」に入るのは…時代を創るウマ娘」
君たちはたった2人で既存の世界を覆すような力ある存在となった。
君たちの後に新たな時代ができるのなら、それは時代を創ったということでいいんじゃないかな。
2人の前途を見届けて、私はようやく決心することができた。
「マリオンを、ダンスに誘おう」
元よりそのために日本へ来た。
私を破壊した地。私をサーマリオンへ導いた運命の分岐点。
点と言うにはなんとも彼女は横暴で、工業用の大型切断機械くらい大胆な分岐だったが。
日本。不滅の病魔にすら勝ち続けたマリオンに敗北をもたらした地。
サーマリオンに傷をつけることでさらにその輝きを強めた彼女は、元は誰も傷つけられないようなただの四ツ葉だった。
ここには私たちの運命があったよ。
全てが終わったら本当に日本へ移住するのもいいかもしれない。
「マリオンと決着をつける」
欧州三冠。
達成できないのならたとえ三つ揃えても一つだって冠することを認められない、世界最高のレースを踏破した「無冠の皇帝」として挑む。
サーマリオンという太陽に。
常に今が最も強い彼女との戦いはどう足掻いても私の最後のレースになるだろう。
早く仕掛けるのはもったいない。
遅くては彼女に失礼だ。
いつにするか迷っていたがようやく覚悟が決まった。
「マリオン、約束を果たすよ」
君が今年の夏キングジョージを取ればかつての私と同じ無冠の二冠。であればやはり会場は、
「凱旋門で待ってる」
マリオン。私たちも、歴史を創れるかな。