前回までのあらすじ!
私、五年間走って5勝もできなかったクソザコ限界ウマ娘シロツメクサ!ある日同室の最強なのにわざと負けて出走停止処分食らったクソバカウマ娘ヨルノアラシにGⅠ勝利をエサにイカサマレースを見せることを迫られる!秒で承諾したけどね!
騙し、いじめ、差し入れ、なんでもやって勝ち続けなんかそのたびに上手いこと転がるから味を占めた私はついにヨルノとの約束のGⅠに挑戦!なんだけど…
なんかヨルノ、約束と違くない?
私は人間同士の両親から生まれ人間の間で人間の常識に触れて育った。
と言っても、自分と他人の違いにはすぐ気付いたし他のウマ娘と出会うこともあった。
だから多分、これは私の面倒な悪癖のせいなのだろう。
悪癖。それは尽きせぬ興味と好奇心。
この世の何もかもが不思議で仕方ない。
余裕のある家だったから両親から多くのものを与えてもらい知識欲を満たし続ける毎日。ウマ娘なのに走りもしないで十数年。
初めてまともに走ったのは、トレセン学園の入学テストだったか。天才として祭り上げられ始めたのもその時から。
入学した理由は親の勧めと、飽き。
本を読み漁ったり実践したりもそろそろ疲れてきたし、気分転換するか程度の動機だった。
人生十数年、初めての休息。
何故か走ることは身体に馴染み日常となったが、気まぐれにスカウトを受けてレースに出てみると驚いた。
勝つとまるで満たされるような感覚があるのだ。
なるほど息抜きで楽しくやれるならそれに越したことはない。妙に意見をつけてくるトレーナーとの契約を打ち切り私の好きに走れるようなトレーナーを見つけた。
適度に楽しくやっていた私の人生に雑音が入り込んだのは何戦目のことだったか。
「舐めんじゃねぇ。お前、本気じゃないだろ」
「…?本気でなければ何か問題があるのか?」
「大アリだよ!マジでやり合ってこそレースだ!勝ち負けなんてオマケでいい!」
「そうか。私は勝ちたいがな」
「いくらでも勝ちゃあいい!ただし本気で走るなら、だ!」
本気。
本気とは?
困ったことに、私は本気、というやつを知らなかった。なにぶんレースで勝つのも誰より先にゴールすればいいだけの話なので必死になったことすらない。ましてや意識する相手もいなかったし、そんなものを求められるとは露ほども思っていない。
言葉の意味を調べた。用法を調べた。聞き取りをやった。漫画を読んだ。アニメを観た。
本気とは?
試しに叫びながら力んで走ったがむしろタイムは悪い。
はて?
本気は難しい。私が初めてぶち当たった壁である。
そうこうしている間にもレースで破ったウマ娘からは本気でやれ、次は本気でやろう、本気なら勝ってたなどクレームが入り続ける。
誤解されがちだが他人からの評価は気にしないということは他人からの文句を気にしないということではない。普通に気にするし恨まれるのは御免だ。
普段はどうしたらいいのかわからないので目下原因解明中だと途方に暮れるところだが、一つ引っかかったものがあった。
本気なら勝ってた?
じゃあ、なんで本気じゃなかったんだ?
後から思えばそれはただの負け惜しみで、意味のある言葉ではなかったように思うが私はここで一つ仮説を立てるに至る。
世の中には本気を出せるやつと出せないやつがいるのでは?
私は天才で最強でなんでもできてたからずっと気付かなかったが、もしかすると私は後者なのではないか。
そうなると困った。私は一生本気について知ることができない。
有マを勝った日にその可能性に思い至った私、レース二年目にして最大のショックを受ける。
こうなると気晴らしだったはずのレースも味気なくなる。
いずれ辿り着けると思っていた答えに一生辿り着けないと知るのは初めての経験だったから。
一着を取れない、イコール満足を得られないレースに走る価値はない。まともに走る気を無くした私は出走停止処分を受け入れしばしレースから離れる。
解決できるかもしれない方法を思いついたのはそれから二ヶ月後。
自分にできないのなら、他人にやらせてみればいいのでは?
なんでも自分で実践してきたがゆえの盲点だった。
思い立ったが吉日、早速サンプルとして一人引っ掛けてみる。
名前はシロツメクサ。同室の先輩にして私とは似ても似つかない凡才。
多くの失敗と負けを積み重ねながら学ばない不毛なやつ。でも、
彼女が私の人生を変えた。
「シロ、お前は本当に面白かったよ。私には絶対知ることのできなかった『本気』をお前は教えてくれたんだ」
他者の足を引っ張ってでも、自分の希望を切り捨ててでも。
勝ちたいという気持ちこそが本気だ。
だからこれで最後。
「追って来い、シロ。お前なら、来るだろう?」
私が約束通りスピードを落とすかどうかに関わらずお前は必ず来る。
ほら、来た。
わけがわからない。
残り1000m、ヨルノはまだ前にいる。当たり前だ、ヨルノが普通に走っている限り追いつけるわけがない。
理由は分からないけど間違いないことが一つ、ヨルノは約束を反故にした。
あのクソガキ絶対許さねぇ!!どんな手を使ってもあのかってぇ脳天かち割ってやる!!
そんな風に意気込むのはタダだが無駄でしかない、どんなゲスパワーでもこの状況を覆すのは不可能。無駄だって。絶対無理!
わかってんのに!
でもなんで!?どうして脚が止まらない!?
今私の身体を動かしてるのは誰だ!?
『本日のメインレースはステイヤーたちの祭典、天皇賞(春)。絶好の晴天でありながら今年の春は大荒れです!権威あるレースにあるまじき、これは彼女の独壇場!
先頭を往き続ける者の名はヨルノアラシ!!帰ってきた嵐が、その名のままに荒れ狂う!!
挑む勇士は数多く!しかしその全てが災厄に呑み込まれました!
しかし!まだ一人残っている!嵐の王の挑発に乗らず、その柔な茎をしならせ暴威を受け流した彼女がいる!
追う者の名はシロツメクサ!夜の嵐が選んだただ一人の勇者がついに挑みかかった!!
残り800m、果たして捉え切れるのか!!!』
…あと何m?ヨルノはいつゴールする?
私が頑張らなくてよくなるまであとどれくらい走ればいい?
いつになったらこの勝負を捨てられる?
もう喉も肺もからっから。酸素の供給が追いつかないから頭はぼーっとしてきたし、心臓の鼓動は逆に聞こえない。いや、止まってるのか?
脚だって感覚がない。無理矢理動かし続けやがる誰かのせいだ。
もういい。二着でも大健闘なんだから。私もきっとヨルノの伝説に名前を添えてもらう形で歴史に名を残すこともワンチャンあるし…
月並みだけど、これ以上何も言うことはないよね。
『残り600m!!私たちは今信じられない光景を目にしています!あの最強ウマ娘ヨルノアラシに…迫る者がいる!!』
…文句はこれでおしまいだ。
弱音もおしまいにするしかない。
今目の前にぶら下がっているのはにんじんじゃなくてイミテーション。紙に書いて写真に撮って一旦保存した後モザイクをかけて保存形式を変えた後にオレンジじゃなくて金色オンリーで印刷した偽物なんだけど。
参ったことに。
その金ぴかが欲しい。
本当は金ぴかですらないけれど!
『残り400m!!シロツメクサ迫ってきた!!何が起きているか私にもさっばりわかりませんが!シロツメクサ猛追!!』
「ははっ…はははははは!!!!」
そうだシロツメクサ。お前が見せるんだ。
誰より速くゴールするためにその本能を曝け出せ。
才能はなくていい。私が欲しいのは本物の本気だ。
スタミナが切れたな?だったら持ち前の気合と根性でなんとかしろ。
勝ちたいという気持ちだけで限界を振り切れ。私を。
私を!その本気で!
「超えてみせろ!!!シロツメクサ!!!」
「だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
よくよく考えれば私このレースで引退するんだった!いくら無茶しようが今後なんて関係ないんだからなんの問題もないしたとえ脚が爆発したってこれからは静かに走ればいい!
「…ぶだ…」
大体誰かが動かしてるってなんだ、私の身体なんだから動かしてるのは私に決まってるし、脚を動かしてるのは私が勝ちたいからだ!
「…うぶだ…!」
そんであの知りたがりのクソガキに教えてやるんだ。
ウマ娘はなぁ!
レース中いきなり親友に裏切られても!
立ち直るのに、一話もかけてらんないんだよ!!!
ヨルノ。私の世界一最低な友達。
「……しょうぶだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
シロ、気付いてるか?
『残り200m!!ついに射程圏内!!!』
今お前、ひどい顔してるぞ。
瞳孔はガン開きで口の端から泡吹いてて、と言うかしばらくまばたきすらしてない。
レースの時、私は視界が切り替わる。
前より横や後ろが見えやすくなるんだ。
この直線で、私の視界に入るところまで来たんだな。
「…ッ!!」
お前の本気、見せてもらった。
「…ぁぁぁああああああ!!!!!」
『3200mの長い戦いが!!今!!ようやく……ゴォール!!!』
次で最終回です。ここまで読んでいただきありがとうございました。