世界一最低なGⅠ制覇までのお話   作:クロカワ02

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世界一最低な最終回

唯一抜きん出て並ぶものなし。

 

でも、一緒に走るのも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ゴォール!!!一着はヨルノアラシ!最後の最後で意地を見せ凄まじい末脚でなんとあの距離から4バ身差!シロツメクサ敗れましたが二着!遅れてやってきた開花の時!誰もが道見失い風雨に斃れる夜の嵐の中に大輪が咲き誇りまし…おっとヨルノアラシ急制動、精魂尽き果てたシロツメクサを抱き止めに行きました』

 

『おや、これは…』

 

 

 

「よくがんばったな、シロ」

 

「…ぁ…?」

 

「喋るな。喉を痛めたんだろう。全く無茶をする」

 

「……」

 

 

 

『これは…ヨルノアラシひざ枕をしていますね。ライバルの健闘を讃えつつ担架を待っているようです』

 

『優しく頬を撫でています。親愛の表れでしょうか』

 

 

 

「ああそうだ、シロに謝ることがあるな」

 

「ぅ…?」

 

ぼんやりとしていた意識がはっきりしてくると、そこには視界の半分を占めるデカい乳ともう半分を占める美人の顔。

 

半分知らない天井であった。

 

「すまん、シロ。負けなくなかったから、ちょっとだけ本気を出してしまった」

 

「…!?」

 

「この埋め合わせは今度する。私がカレーを作ってやろう」

 

「…!」

 

「ふふ。指一本も動かないんだな、よしよし」

 

「…!…!」

 

「暴れようとしても無駄だぞ。ゆっくり休め…何?担架が来た?待たせておけばいい、担架より私の膝の方がいいだろう」

 

「…!」

 

「今は休んでまた走れ。お前はずっと私と走るんだ。お前は私の…ん、腹の方にゴミが、ああすまん、胸で窒息させてしまった。ボタンも痛いか。ええい外してしまえ…よし、これでいいな。ふふっ、こうしてみるとお前もかわいげのある顔を…担架?いらんと言っている」

 

 

 

『これは…ヨルノアラシが担架を拒否していますね』

 

『親猫のごとく救護班を威嚇しています。どこかで冷静になれればいいのですが』

 

 

 

この後「さあ、ライブに行こう。勝者である私をちゃんと…」「…!」「何?だから、担架は待たせておけ。私が運んでやる」「…!!」という口論(?)の果てに近寄りがたそうにしていた救護班とドン引きしていた他のウマ娘数人がヨルノに突撃、私は見事救助され事なきを得たがぶっ倒れた私に対してライブ出ろってなんだ。横暴すぎる。誰かあいつを止めて。

 

それに比べて救護の人は優しいなぁ。他の子の援護があったとは言えヨルノから私を奪取してくれたし担架全然揺れないし超快適。このまま寝そう。

 

「あの…」

 

「……?」

 

なんだろう、喋れないけど大丈夫かな?

 

「ライブ、出ます?」

 

「……!!!」

 

出るわけねぇだろ!!!

 

こうして私は病院に搬送され即日入院となった。極度の疲労はあるものの故障に繋がるほどのダメージがない、奇跡だと言われたが全身激痛いので今の私には関係ないんだよ。

 

というわけで、私は負けた。

 

世界一最低なGⅠ制覇は、事もあろうに首謀者の手で白紙になった。

 

…そうなんだよね収拾つかないんだよこれ。

 

だからこれからも私の挑戦は続いていくんだ!…って、わけでもなく。

 

GⅠは獲った。

 

『ゴール!!秋の天皇賞、勝者はシロツメクサ!並み居るライバルに打ち勝ち秋の盾を手にしたのはシロツメクサです!』

 

「はっ…はっ…はっ…あれ?」

 

「シロさぁん!!」

 

「シロさん…おめでとうございます。完膚なきまでに、負けました」

 

「リッチ、モミジちゃん、ありがとう。…あの、つかぬことを聞くんだけど」

 

「「はい?」」

 

「私、なんで勝ったんだろうね」

 

「「…はい?」」

 

 

 

 

「昔本で読んだことがある。人間なんらかの拍子に肉体のリミッターが外れるとその後もそのままらしい。ウマ娘もそうなんだろう」

 

「えー…?」

 

「納得いかないなら検査をしてみるか?親がいくつか病院を持っているんだ。私としても興味深い」

 

「いややっぱいいです。…は?病院って持ってるって言わなくない?え?」

 

 

 

さて、さらっと秋まで走っているわけだけど引退の件はどうなったのか。

 

「やめないでくれ!!!」

 

「おお…トレーナーのそんな大声初めて聞いた…」

 

「この通りだ!!!」

 

「おお…トレーナーの土下座初めて見た…」

 

「トレーナーの土下座はさしもの私も一度しか見たことないな」

 

「それごちゃごちゃうるさいから捨てたって言ってた一人目の…」

 

「この二年でわかった、俺の指導が悪かったんだ…本能だけじゃない、GⅠを勝つ才能を俺が腐らせていた…!」

 

「その辺ほんとどうなんだろうね…」

 

「検査するか?親が研究所もいくつか持ってるんだが」

 

「絶対やだ」

 

「トレーナーバッジも返納する。お前の前にも二度と現れない。だから、頼む!あの素晴らしい走りをやめるだなんて、言わないでくれ!!!」

 

「…どうする、シロ」

 

「んー…」

 

この時ばかりは悩んだ。

 

三秒くらい悩んだ。

 

「ちなみに私もやめさせる気はないぞ」

 

「は?」

 

お前が悩ませないのかよ。私としては三日三晩悩むつもりだったのにヨルノは勝手に展望を語り出す。

 

「私たち二人はトゥインクルシリーズを卒業して海外へ行く。そこでもう一人金髪のウマ娘を捕まえてユニットを組むんだ」

 

「初代プリキュアマックスハートじゃねぇかカラーリングだけで決めたろ!!やだよそんな計画!絶対引退してやるからな!」

 

「そんなこと言わずに走り続けてくれ!」

 

「そうだ!お前にはわからないかも知れないがあと少しで追いついてくるシロを振り切るのは楽しいんだぞ!」

 

「絶対いやだーっ!!!!」

 

 

 

 

結果。

 

「ドリームトロフィー・リーグに上がります…」

 

「なら私もそうする」

 

…押し切られたような、誘導されたような。

 

結局、去年まで辟易していたはずのレースを続けることになってしまった。どころか上に上がることになるとは…いやいや、これも何故か私についてくる気満々のヨルノからトゥインクルの子たちを守るためだ。

 

「よかった…本当によかった…」

 

「それで、担当トレーナーはどうするつもりだ?」

 

「…んー。ま、トレーナーはいないと困るか」

 

ちらりと目をやる。そこにはちょうど暇そうなトレーナーが一人。

 

「シロツメクサ、それって…」

 

「いや、トレーナーは別で見つけるから心置きなく辞めてほしい」

 

「うぉぉぉぉ!!!!」

 

こうしてトレーナーとのお別れは済んだ。

 

トレーナー。もう私みたいなダメな女に引っかかっちゃダメだよ。

 

私はというと、モミジちゃんのトレーナーが退院して復帰したのでそちらにお世話になることに。

 

問題はそのモミジちゃんだ。

 

春天直後、入院した私を彼女が訪ねてきてくれた時のこと。

 

私は内心気が気ではなかった!

 

「…好走でしたね。いえ、その程度の言葉では収まりません」

 

「…!!」

 

そりゃそうだ、あのヨルノアラシを最も追い詰めた最強の挑戦者とか世間で言われてるのを私はヨルノに新聞を押し付けられながら聞かされたが、私がクソザコだという前提で八百長したモミジちゃんはどうなる。

 

あの時起きたことは説明できないしこのままだと私は実力を隠していた不可解なクズとして…よく考えればクズ呼ばわりは避けられない所業がバレていないだけで元々バレるのは覚悟の上だったのだが。しかしいざこんないい子にクズ呼ばわりされるとなると…

 

「お見事でした。あの走りも、あなたがGⅠを走ると決めてからの日々の研鑽も…まさに、一念天に通ずといったところでしょうか」

 

「…!?」

 

「そしてこれ以上ない好敵手との戦いがあなたを目覚めさせた。…妬けてしまいますね」

 

「!?」

 

「もし私に負い目があるとお思いでしたら。…そうですね、秋の天皇賞。そこで私と真なる決着を」

 

「…!?」

 

「用件はそれだけです。…では」

 

…武士か?

 

喉の問題で喋れない私に一方的に話して行ったのはもう一人。

 

「シロさぁぁぁん…!!!(小声)」

 

リッチ(小声)である。小声なのにそのエクスクラメーションマークどうやって出してるの?

 

「春天、すごかったですぅ…!!(小声)」

 

「…」

 

「二日くらい涙が止まりませんでしたぁ…!!(小声)」

 

よく生きてたな。

 

「あれを見てあたしぃ…もう一度シロさんと走りたくなりましたぁ…!!!(小声)」

 

「…!?」

 

「秋天でぇ…お待ちしてますぅ…!!!」

 

「…!!?」

 

最後は声小さくしきれてなかったよリッチ。

 

…こうして後輩二人との決戦に至る。

 

と言うか、この分だと有マまで行くことになるよね…?

 

「シロ」

 

「シロさん!」

 

「シロさん」

 

「「次はジャパンカップだ(です!)(ですよ)」」

 

「むっ…無理ーっ!!!!」

 

 

 

おしまい。




シロツメクサ(本編終了後)
色々あった主人公。
結局春天で仕掛けようとしていたイカサマがバレることもなく世間からは簒奪者ヨルノアラシに挑む勇者として認識されることに。出走していたウマ娘からも彼女に冷や汗かかせた女として一目置かれる。 当のヨルノアラシからはべったり付き纏われ学園の寮を出た後も何故か同じ部屋で暮らしている。なんで?

ヨルノアラシ(本編終了後)
色々あった天才。
シロツメクサに追い詰められた時初めてちょっとだけ本気を出すことに成功してとても嬉しかったのでその後もシロツメクサに付き纏うことにした。ウマ娘の中でも彼女は別世界から受け継いだ魂から多くの影響を受けており並外れた競走能力や好奇心もその一端。
好きなものはさらさらのあまくちカレー。

・メルトールリッチ
覚醒後はGⅠ戦線をモミジガリと争う。なんとかヨルノアラシから後輩一号の座を奪取したい。
・モミジガリ
本心からシロツメクサを認めてからは何故かシロツメクサに対するメルトールリッチやヨルノアラシの距離の近さが気になり隙あらば自分もじりじり距離を詰め始める。得意なことは野菜を切ること。料理は苦手。

・トレーナーたち
シロツメクサのトレーナー
年中スーツの大柄な中年。正しい知識と熱意、そして「レースに必要なのは本能と努力」というかっこいい信条を持つ無能。気弱で希望的観測をしがちなところがマズかった。 実は既婚者で娘はウマ娘。嫁と娘はヨルノアラシのファンなので複雑。

ヨルノアラシのトレーナー
一人目は熱意を持ってその才能を導こうとしたものの彼女に嫌われて契約を打ち切られたがめげることなくトレーナーを続け、いつかヨルノアラシを超えるウマ娘を育てようと張り切っている。 二人目は初めて担当したウマ娘が夢に破れ学園を去ってしまい自分もやめようと思っていた新人女性トレーナー。そこをヨルノアラシに拾われ面倒事を丸投げされたが元は優秀なので問題なくこなしている。むしろ仕事をしている間は悩む暇がないのでメンタルが安定しておりむしろ仕事を求める傾向が出てきた。別の意味で心配。

メルトールリッチのトレーナー
新人熱血イケメントレーナーだが指導が感覚的で、波長が合わないと延々互いに首を傾げることになる。しかし一度ピタッと合いさえすれば決して手を抜かない熱血指導でウマ娘との信頼を築く青春系の有能。 柔道三段の有段者で勢いよく突っ込んでくるメルトールリッチをうっかり投げ飛ばしたことがある。でも無傷だった。

モミジガリのトレーナー
いかにも儚げな女性トレーナー。若々しく年齢が分かりづらいがベテラントレーナーであり今までも何度か入院しているがそれを補って余りある有能。唯一シロツメクサの身体に起きた変化のことを察しているが特に注意点やアドバイスもないのでのびのびやらせている。好きなことは相談に乗ること。
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