機動戦士ガンダム 雀は紺碧の涙を流す   作:ソロ・アジュール

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ブルファングのエースに撃破されたオールス。
守れなかったと涙を流すケイト。

激動の戦いが少しずつ、しかし確実に動き出していく。


第三話:白と黒

オールスが目を覚ますとそこは医務室だった。

左脚が少し痛む。

少しずつ意識が明瞭になってくると、幸い軽傷で済んでいることがわかった。

 

「そうか、撃墜されて…」

 

ゆっくりと身体を起こす。

脚は少し痛むものの無理をしなければ問題はなさそうだ。

 

「まぁ、スナイパーに脚は必須ではない、なんて話もあるしな。この程度で済んだだけ幸運と思おう。」

 

人類史上最悪の戦争と呼ばれる一年戦争では多くの兵士が重症を負ったが、義肢のパイロットがスナイパーとして活躍したという話もある。

自分の役割を考えるとそこまで重大な怪我ではないと判断したオールスは、担当医に精密検査と鎮痛剤の処方をしてもらうと、早々に宿舎へ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の部屋に着くと、ドアの前にケイトが立っていた。

表情は暗く、落ち込んだ様子だった。

そんな彼女の様子を察したオールスが声をかける。

 

「ただいま、ケイト軍曹。」

 

ケイトは無事に帰ってきたオールスを見て安心したのか、その瞳を少し潤わせた。

 

「あの、ごめんなさい。私が油断したばかりに…」

「あーそうだな。MSが1機中破したんだ、始末書とか書かされなかったか?」

 

オールスは少しとぼけたように機体の心配をしてみせた。

ケイトは戸惑いながらもその点は戦闘による損傷と処理された旨を伝えると、何か言いたげな視線を向ける。

彼女が言葉を発しようとするのを遮るように、オールスが口を開いた。

 

「まぁこんなところで立ち話もなんだから、ちょっと付き合ってくれないか?」

 

返事を待たずに、オールスはMS強化施設へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MS強化施設

P.M.U.の傭兵が一定の金額を支払うことでMSの性能向上を依頼することができる施設だ。

施設の規模だけで言えば、MSを多数同時に扱うということもありP.M.U.内最大級のものになっている。

この日も多くの整備士たちがせわしなく動き回っていた。

オールスとケイトはあるMSのところへやってきていた。

 

「そこのシリンダー、駆動系のレスポンスに関わるから気を付けるっすよ! あ、塗装も気を抜かないでね!」

 

どの整備員よりも若いであろう少女がこのMSの強化を仕切っているようだ。

その少女が2人の訪問に気付くと、オーバーサイズなゴーグルを上げながら振り向いた。

 

「やあ、オールスくん! お待ちかねのやつ、用意できてるっすよ。まぁまだ、最終調整の最中なんだけどね。」

 

彼女はMS強化施設の責任者だった。

整備士としてはまだ若い少女だがその腕は一級品で、P.M.U.にその実力を買われて現在のポストに就いている。

 

「おっと、その人は例の新人さんっすか? キミのMSの調整もボクがしたんだよ! あのMSはシステム面が複雑で大変だったんだけど、戦闘経験がまだ浅くても扱い奴いようにOSを改良して、駆動系も動かしやすさ重視にしたんだ! それと…」

 

嬉しそうにマシンガントークを展開する。

MSのことになると周りが見えなくなる生粋のメカニックオタクなのだ。

そんな彼女の勢いについていけず困惑するケイト。

 

「レオナ、また悪い癖が出てるぞ。」

 

オールスが一旦彼女の話を遮った。

 

「あ、しまった、ついつい自己紹介忘れてた…ボクの名前はレオナ・ルークラフト。ここの責任者やってるっすよ。これから宜しくっ!」

 

レオナが年季の入ったグローブを外し、手を差し出す。

ケイトも自己紹介を返し握手に応えた。

 

「で、俺のMSはどんな感じになってるんだ?」

 

オールスはレオナから差し出された強化計画ファイルを受け取ると、概要に目を通す。

ジム・スナイパーカスタムの強化および改修計画がびっしりと殴り書きされていた。

レオナが誇らしげにMSを見上げ、説明を始めた。

 

「今回はより柔軟で幅広い任務に対応できる汎用性とそれに応じてミドルレンジでの火力強化を中心に手を加えたんだ。駆動系はよりバランスよく調整して、OSには高性能バランサーも付与したよ。対応装備も、より高威力なロケット・バズーカに対応。さらにバックパックのハードポイントに4連装ミサイルランチャーを1対装備して、かなり火力が上がってるんだ! これだけの性能があれば、対艦や対要塞攻略戦闘までこなせるはず!」

 

早口で説明するレオナ。

要は、元々ジムの性能向上型で主に狙撃用に調整されていたものを、より広いレンジに対応できるように調整された、ということだろう。

オールスの手元の資料によると、強化に伴ってコストも上昇しているようだ。

 

「オールスくんのスナカスは元々LV(レベル)2と呼ばれる上位機種だったから、今回の強化でコストは400に相当するMSになってるっすよ。」

「ありがとうレオナ。それにしてもこんな短期間で仕上げるなんて、さすがだな。」

 

オールスはファイルを閉じると、強化された自分のMSを見上げた。

まだ痛む脚に添えられた手に申し訳なさそうに視線を送るケイト。

そんな2人のもとに、ルネーロがやってきた。

 

「MS見学会は終わりや。緊急招集、いくで。」

 

手短に用件だけ言い残し、さっさと立ち去るルネーロ。

オールスとケイトはレオナに挨拶だけ伝えると急いでクラン宿舎に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗いコックピットの中でマチェットを磨くドミニクの姿があった。

ゆっくり揺れる輸送コンテナはかつて多くの人の往来があったであろう都市部の外縁を走っていた。

 

「ドミニク、この前の戦闘は見事だったそうじゃないか。しかしな、お前だけにいい思いはさせないぜ? なぁ兄弟。」

「あぁ、俺たちアドルノ兄弟の奇襲作戦、しっかり見ておいてくれよ!」

 

双子のパイロットが意気込む。

終始聞き流すように相槌すら打たずにドミニクはマチェットを磨いていた。

彼らはブルファングの主要戦力、実力も十分に認められる優れたパイロットだ。

ドミニクはもちろん、この双子、シュヴァルケン・アドルノヴァイスロン・アドルノもまた、小隊指揮を担うほどにブルファング全体からの信頼と実績があった。

 

「今回の二正面作戦は少数精鋭。ボスの期待を裏切れねぇよな。」

「無人都市は任せたぞドミニク。」

 

軽く手を上げて応えると、通信を切った。

 

「二正面作戦か。本格的に始まったな、例の計画が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山々に囲まれ、一本の河を中心に広がる密林地帯。

オールスとケイトは2人でここに来ていた。

先の招集で緊急の指令が下りていたのだ。

 

「予定ポイントへ到達。なるほど、この視界の悪さ、MSを隠すにはピッタリですね。」

「他の部隊が近くで出撃申請を出してる。そっちに被害が出る前に叩く…P.M.U.はブルファングを本格的に潰しにいくつもりみたいだな。」

 

2人のMSは比較的見晴らしのいい河沿いを北上していく。

物資運搬等の目的で切り拓かれたルートを進んでゆき、索敵をする。

 

「それにしても、隊長はなぜ私たち2人にここを任せたんでしょうか?」

 

今回2人は別動隊としての任務に就いていた。

本隊、と言っても3人なのだが、隊長らはブルファングが集結しつつあると言われている無人都市へ向かっている。

ここ密林地帯は山岳地帯と隣接しているということもあり、先の任務である程度敵勢MSは片付いているという想定なのだろう。

実際、そう考えるのも妥当だ。

 

「今回は索敵が任務だ。戦闘もあり得るが、MSの在不在を確認できればそれでいい。同時進行の方が効率がいいし、危険度もそれほど高くはない。だから二手にわかれての作戦なんだろうな。」

 

オールスは強化されたジム・スナイパーカスタムの調子を確認しながら歩みを進めていた。

しかし、後ろに付いていたケイトが突然足を止めた。

 

「どうした?」

 

オールスが尋ねる。

 

「何かいます…こっちを見てるような、そんな気が…」

 

ケイトが周囲を警戒する。

次の瞬間、河から大きな水柱が立ち、ビームが飛んできた。

一瞬早く反応したケイトはペイルライダーのシールドを使ってジム・スナイパーカスタムを庇うが、衝撃で仰け反ってしまった。

バランスを崩したところを狙って、水中からMSが飛び出してきた。

 

「クソッ! 罠か!」

 

咄嗟にロケットバズーカで迎撃するジム・スナイパーカスタム。

 

「黒いズゴック、いや、ラムズゴックか!」

「まだいます!」

 

黒いラムズゴックをビームサーベルで追い払うが、今度は背の高い木が密集する森から、白いラムズゴックがクローシールドを振りかぶって襲い掛かってきた。

寸でのところバックステップで攻撃を回避する。

ケイトが機転を利かせ、脚部のミサイルポッドから地面に向かってミサイルを撃って目くらませをする。

 

「助かったよ、ありがとう。」

「い、いえ。たまたま勘が当たっただけです。」

 

一度体制を立て直すが、2機のラムズゴックの姿が見えなくなっていた。

撤退したとも考えにくく、依然周囲を警戒する2人。

 

「水中、密林…MSの適性を考えるとこちらが不利だ。正攻法で対処していたらジリ貧になる。」

「撤退しますか?」

「いや、敵の姿が見えない状況で背中を向けるのはかえって危険だ。できればこちらから仕掛けたいが…」

 

周囲を見回すが敵の気配が無い。

熱源が感知できない、ということは水中に潜んでいる可能性が高いと踏んだオールスは、ジム・スナイパーカスタムのバックパックに増設されたミサイルランチャーを起動、水中へ掃射した。

爆炎の中で動いた影を見逃さず、ペイルライダーのハイパー・ビームライフルで狙撃する。

しかし水中での機動性にすぐれたラムズゴックを捉えきることはできなかった。

翻弄される2機を挟み込むように、同時に水中から飛び出すラムズゴック。

ビームサーベルでクローを受け止めるが勢いの乗った攻撃に押し負けてしまい、突き飛ばされて背中でぶつかる2機。

 

「俺たちの連撃をここまで凌いだのは大したもんだ。なぁ兄弟。」

「しかし才能は感じるが、まだまだってとこだよな。なぁ兄弟。」

 

ジリジリと歩み寄ってくる2機のラムズゴック。

彼らはブルファングの双子の傭兵、アドルノ兄弟だ。

 

「しかしまぁよくもノコノコと。お前らがこの辺りの調査に来ることは想定内だっての。」

「ブルファングのアドルノ兄弟か。」

 

オールスが白いラムズゴックを睨みつける。

 

「俺たちも有名人になったもんだぜ。」

「だが調べられてんのはあんたらも同じだってことを理解しておいた方がいいぜ。()()()()()()()()()()さんよォ。」

 

秘匿性が高いはずのファントムプレデターの情報がブルファングに渡っている。

既に闇クランの動きはこちらの想定を上回っていることを察することができた。

若干の焦りを抱えつつも反撃の隙を伺うケイトとオールス。

瞬間、ジム・スナイパーカスタムがハンドビームガンを抜いた

それに合わせてペイルライダーも腕部ビームガンで反撃した。

少し怯みながらもクローを抜いて突撃してくるラムズゴックをまたビームサーベルで迎撃する。

しかし今度はそれを躱され、ジム・スナイパーカスタムの脚を掴まれた。

 

「何!?」

「余裕なんだよ、その動き。」

 

そのまま水中へ引きずり込まれるジム・スナイパーカスタム。

ラムズゴックのパワーに勝てるはずもなく、少しずつ水中へ。

しかしペイルライダーがビームライフルでラムズゴックの腕部を狙撃し、動きを止めた隙になんとか脱出した。

 

「舐めるんじゃないぞ。」

 

すかさずロケットバズーカで追撃を入れ、白のラムズゴックの体勢を崩した。

間髪入れずに2本のビームサーベルを抜いて切りかかるペイルライダー。

黒のラムズゴックが間に入ってサーベルを受け止める。

そして背後から白のラムズゴックがクローを振り下ろした。

直撃。

胸部左側を深く切り裂かれたペイルライダー。

 

「ケイト!」

「女の心配をしてる場合かァ!」

 

頭部のヒートラムを赤熱化させて突撃してくる黒のラムズゴック。

ジム・スナイパーカスタムはそれを見てロケットバズーカを投げ捨てると、腕部のユニットからビームサーベルを発振させた。

無謀な行動を馬鹿にするように高笑いしながら突撃してくる。

しかしオールスは冷静だった。

ラムズゴックの突進をコンパクトなサイドステップで躱すと、ビームサーベルでバックパックを斬り上げた。

 

「んな!?」

 

驚くシュヴァルケン。

しかしオールスの視線は白い方を向いていた。

 

「やっとできた後輩なんだ、貴様らなんかにやらせはしないぞ。」

 

力なく倒れるペイルライダーに振り下ろされようとするクローをビームサーベルで穿つ。

爪を切り落とされた白のラムズゴックは咄嗟にスラスターを噴かせて至近距離から離脱する。

しかし離脱した先にミサイルを放ち追撃するジム・スナイパーカスタム。

狙撃タイプとは思えない軽やかな格闘戦だった。

 

「ヤロウ…!」

 

黒のラムズゴックが飛び掛かってくるのを、今度は躱すのではなく逆に体を潜り込ませて攻撃を受け止める。

両腕を封じて蹴り飛ばしたラムズゴックにハンドビームガンを連射する。

ビームは的確に間接を貫き、黒のラムズゴックの四肢を機能停止させた。

トドメを刺そうとビームサーベルを発振し、突き立てる。

しかし、黒のラムズゴックは損傷した背部スラスターを最大出力で噴かせて任意的に爆発させ、反動でヒートラムを突き出した。

 

「調子に乗るんじゃねェぞ!」

「何!?」

 

ヒートラムが頭部を貫いた。

しかし、同時にジム・スナイパーカスタムのビームサーベルは、黒のラムズゴックのコックピットを貫いていた。

 

「兄弟!」

 

動きを止めたジム・スナイパーカスタムに突進する白のラムズゴック。

ジム・スナイパーカスタムはスラスターがオーバーヒートしており対応することができない。

絶体絶命。

しかし、そのヒートラムがMSを貫くことはなかった。

白のラムズゴックが爆散した。

爆煙の向こうには、180㎜キャノンを展開したペイルライダーが立っていた。

 

「決めたんだ、もう二度とあんな失敗はしないって。私が、オールスを…」

 

そのまま気を失ったケイトと共にペイルライダーは機能停止、その場に崩れるように倒れこんだ。

パイロットもMSも、最後の力を振り絞った一撃だったようだ。

半分むき出しになったコックピットからケイトがずり落ちたのが見える。

その光景にオールスはスローモーションのように衝撃を受けた。

嫌な汗が背中を伝う。

 

 

 

 

 

 

オールスは急いでMSから降り、ケイトのもとへ駆け寄る。

 

「ケイト!」

 

彼女を抱き上げるオールス。

しかし過呼吸と不安定な脈拍。

このままでは彼女の命が危ないと感じたオールスは急いで携帯用メディックキットとサバイバルキットを取り出し、即席のキャンプを組み上げた。

 

「頼む、目を覚ましてくれよ…!」

 

陽が傾きだした密林に、河の流れる音と脈を刻む電子音が響いていた。




第三話、最後まで読んでいただきありがとうございます!

書き始めた当初はバトオペ的なチーム戦闘を崩さずに、とか考えてたんですけど、あんまりゲームの方に引っ張られると面白くならない気がしたので、ゲームの設定をどう作品に落とし込むか試行錯誤していこうと思います。

第三話にしてちょっとシリアスな感じになってきましたね、今後にも期待していただけると嬉しいです!
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