傘下のクランをも引き連れて大規模な作戦行動が確認された。
対するファイントムプレデターは当然ながら行動を起こすのだった。
1週間ほどの時が経った。
ブルファングとその傘下と思しきクランが次々とMSの不正出撃を繰り返していた。
P.M.U.側がペナルティを課そうとも、お構いなしといった様子だ。
事態を重く見たP.M.U.幹部アドミン・グランズマンは信用のあるクランに対して協力を要請し、戦力の増強を急いでいた。
しかしそうしている間にもブルファングは力を蓄え続けているため、ファントムプレデターに指令が下った。
「移動中の目標部隊の殲滅か。随分とシンプルな指令を出してきたな。」
「ベルジュラックのバックアップも、現状十分じゃないですし、余程忙しいんでしょうね。」
バランとツェクトが食堂で指令所に目を通していた。
「ツェクト。奴らの動き、お前ならどう見る?」
ツェクトがムニエルにナイフを入れながら答える。
「無人都市であの規模の部隊を陽動に使ったということを踏まえると、彼らはそれなりに本気で戦争をしようとしてるように感じますね。そうでなければこんな大胆なことはしませんよ。」
バランが差し出された資料を受け取る。
不正行為による被害報告書だ。
中には作戦行動中に背後から侵攻を受けたというものや、調査隊の不正出動まで様々だ。
しかしどれも共通して言えるのは、今までのような偽装工作が浅いという点だ。
もはや隠れる気など無いのだろう。
「戦争か…所詮は傭兵の内輪揉め、軍は静観を続けるんだろうな。」
「いや、そうでもないみたいですよ。」
ツェクトが最新版の特別任務一覧を開いた。
特別任務とは、P.M.U.が任務に対してより高額な報酬をかけるような緊急性の高い任務の総称で、中には軍からの依頼も少なくない。
今回のもそうだった。
「"北極基地周辺に侵攻中の部隊を感知、これを撃退されたし"か。もはや俺たちだけじゃ対処しきれない、ってことだな。」
「実際は北極基地周辺で集結しつつある勢力に与すると推測される分子の各個処理といったところでしょうね。重要になる北極基地が出撃受付に含まれていませんし。」
「雑魚は他の傭兵に任せて、中枢は特務が叩くってことだな。よし、動くとするかね。」
バランは立ち上がって大きく伸びをすると、ブリーフィングルームへ向かった。
ツェクトはバランの分まで食器を片付けてから後に続いた。
高高度を飛行する黒いミデア。
ファントムプレデター一向は目的地へ向かって北上していた。
今回の作戦は北極基地へ進行する部隊の殲滅だ。
目標はブルファングの精鋭たちであることが予想されており、全員がより一層気を引き締めていた。
「作戦エリアに到達したら順次降下し、目標への攻撃を開始する。説明は以上だ。何か質問は----」
バランの声を遮るように突然アラートが鳴った。
作戦区域へはまだまだ距離がある。
確認すると、P.M.U.所属機からの救難信号だった。
発信元の所属はP.M.U.、8人の小人隊。
全員がバランの判断を待つ。
しかし、悩んでいる様子のバラン。
「隊長、僕たちは作戦を優先すべきです。」
「同意します。あの人たちには申し訳ないですけど、俺たちが連邦軍の基地を守らないと
汗を垂らすバラン。
彼は発信元のクラン名を気にしているようだった。
「わかってるさ、俺たちの任務はP.M.U.にとって重要なものだ。」
バランが何かを決めたように顔を上げた。
「すまない、情に流されちまうダメな隊長を許してくれ。」
バランは救援を優先することを提案した。
彼にとっては苦しい判断だった。
オールスとケイトは戸惑ったが、しかしツェクトやルネーロは不思議とすんなりそれを受け入れた。
「隊長ならそうすると思っとったで。」
「別れていたとしても愛する人を護る。そういう人ですからね、僕らファントムプレデターの隊長は。」
2人はバランがファントムプレデターを志願した理由を知っていた。
多くは語らなかったが、ただ一人の愛する人を護るため、暗躍する道を選んだのだ。
「ありがとう。オールス、ケイト、すまない。そういうことだから無理に付き合えとは言わない。だが俺たちは行く。」
「何言ってるんですか隊長。私は付いていきますよ。難しいことは分からないですけど、あなたは私たちの隊長ですから!」
「俺だってあなたに命を預けてる身です。ついていきますよ。」
細かいことは分からなかったが、もとより隊長への信頼が厚かったオールスとケイトも同意した。
予定から外れてしまうが、ファントムプレデターは独自判断での行動がある程度許容される特務部隊。
例えそれが私情であったとしても、信念に従うことが許されている。
それが正しい行動かどうかは、歴史が決めてくれるだろう。
「ではこれよりファントムプレデターは、交戦中のP.M.U.所属部隊の援護に向かう。各員、スクランブル!」
山岳地帯。
入り組んだ地形が故に追い込まれてしまった部隊が防戦一方になっていた。
「くそっ! 相手は傭兵じゃなかったのかよ!」
「こいつらジオン残党だろ? ロンド・ベルは何をやってるんだ!」
「これ以上は持たない…!」
マラサイと複数のネモで構成された部隊に物量で迫るのはザクやグフ、ドムといったジオンのMSたちだった。
特別任務を受けて赴いた先で待ち伏せを受けたようだ。
弾幕にひるむネモⅢにグフのヒートロッドが振り下ろされる。
その瞬間、上空からビームがその攻撃を防いだ。
視線が上空に集まる。
そこにはミデアから降下するガルスJの姿があった。
「これより貴官ら、"8人の小人隊"を援護する。」
増援に際し一度前線を下げるジオン残党軍。
見回すと10機以上いることが確認できた。
マラサイやネモといった性能で上回る機体でもこの数には押されてしまうのも無理はない。
「あ、あなたたちは?」
「悪いな、ちょっと名乗れねぇんだ。」
後退するグフに向かってミサイルを撃ち込むガルスJ。
後方のザクからの弾幕から庇うように立ちふさがり、ネモⅢの後退を援護する。
次々と増える増援に少し守りを固めるような動きを見せるジオン残党軍。
「よし、全員揃ったな。以降は各自判断でジオン残党を撃破しろ。」
バランの掛け声で一気に前線を上げるファントムプレデター。
ディジェSE-Rは持ち前のオーバースペックを武器に単機で複数機を相手取り、ピクシーはその隠密性で戦場をかき乱す。
ジム・スナイパーカスタムとペイルライダーは連携して着実に敵の数を減らしにかかっていった。
「ここは我々が請け負う。貴官らは射程限界まで後退し後方支援を頼む。」
「ま、待って。」
8人の小人隊のMSに後退を指示したバランを引き止める女性の声。
恐らく隊長機と思われるマラサイからの通信だ。
「あなたその声、まさか…」
「人違いさ。」
追及から逃れるように言い捨てると、前線へ猛撃するガルスJ。
バランは決して振り返ることなくザクをなぎ倒していった。
その姿はいつにもまして勇敢だった。
(お前に戦場は似合わない。)
ビームサーベルや強力なアームパンチを駆使してインファイトを繰り広げる。
しかし次々と湧いて出てくる敵MS。
キリが無かった。
敵は露骨な物量戦を仕掛けに来ていた。
「あーしつこい!」
「ケイト、一旦ルネーロさんに群がるやつらを止めるぞ。」
マゼラトップ砲を構える重装備仕様のザクⅡに迫るピクシーとそれを阻止しようとする複数のザク・デザートタイプ。
ペイルライダーの180㎜キャノンとジム・スナイパーカスタムのミサイルでデザートタイプの邪魔をする。
見事に重装備仕様を斬りおとしたピクシーだったが、3人の視点が一方向に向いた隙に、視界の端を高速で走り抜ける黒い影があった。
「隊長! ドム3機、そっちに行きました!」
オールスの警告でドムの方へ向くガルスJ。
だがバランの目に映った機影は数が合わなかった。
「3機? 1機しか見えないぞ。」
迫撃するドム。
一瞬動きが止まったガルスJはスプレッドビームをもろに喰らってしまった。
目のくらんだ隙にヒートサーベルを抜いて斬りかかってくる。
バックステップで回避しサーベルで反撃する。
「浅いか!」
致命打にはならなかった。
しかしすかさず左手でボディブローを入れる。
が、衝撃で膝をついたドムの背後から、もう1機ドムが飛び出してきた。
高くジャンプし、上からジャイアントバズを撃ち込んでくる。
直撃を喰らったガルスJ。
ガルスJの装甲に対しては大きなダメージではなかったが、足を止めるぶんには十分な威力だ。
今度はさらに奥から回り込むように突撃してくるドムが、ヒートサーベールを頭上に大きく振りかぶった。
「しまった!」
迎撃しようとエネルギーガンを取り出すが、発射する前にサーベルが届いてしまう距離まで接近を許していた。
絶体絶命の危機だ。
サーベルが振り下ろされようとした瞬間、間に入ったマラサイがフェダーインライフルから発振させたサーベルでドムのヒートサーベルをはじき返した。
迫る他のドムをライフルで追い返し、ガルスJを庇った。
「お前…!」
「相変わらずね、熱くなると目の前のことしか見えないんだから。」
マラサイのパイロットは呆れた様子で、しかしどこか懐かしそうに言った。
バランはふっと息を漏らすと、再び目の前の3機のドムに視線を向ける。
「私の名前はミロ。あなたの名前は訊かないわ、訊かなくてもわかるもの。」
ミロと名乗ったその女性は落ち着いた様子で反撃を開始した。
マラサイから放たれたウミヘビはドムの動きを止め、それを見たガルスJがすかさずビームを撃ち込む。
間髪入れず同時にサーベルを抜いてスラスターを噴かせるガルスJとマラサイが、左右から同時にドムを斬り抜いた。
爆散するドムを背景に、残りを睨みつける。
構えたジャイアントバズをミサイルで破壊し、フォローに入る片割れのスプレッドビームはマラサイの頭部バルカンにより発射口を潰され不発。
再びウミヘビで足止めをしたドムに、ガルスJが今度は勢いよく拳を振り下ろして胴体を粉砕した。
残りの1機は言うまでもなく、2機からの同時攻撃であっさりと沈んだ。
洗練されたコンビネーションを見せたドムたちだったが、このガルスJとマラサイの連携を崩すことはできなかった。
2人の連携はそれほどに仕上がっていた。
「まったく嫌になっちゃうわね。身体が覚えちゃってるんだもの。」
「だが今はそれが救いだ。よし、お前たちは撤退しろ。」
懐かしい感覚に浸ることなく、バランは撤退を指示した。
ミロはそれ以上何も言うことなく、8人の小人隊を率いて撤退していった。
混乱する戦場と次々と減っていくジオン残党軍を、切り立った山の頂上から見下ろすMSの姿があった。
鎧のように全身にウェラブル・アーマーを纏い、2本のビームサーベルを携える。
「所詮は1年戦争の遺産か。捕獲すらできないとはな。」
そのMSの眼が赤く光りだした。
ガンダムタイプのツインアイが戦場のただ一つの的を追いかけていた。
「我が妖刀が血を求めるか…想定外の獲物、持ち帰らせてもらおう。」
夜空のように黒く塗られたそのMSはまるで疼いているかのようにシステム音を唸らせ、パイロットは冷徹な表情で戦場を見下ろす。
そして背後から現れる配下のMSたち。
その数は10を超える大きな部隊だった。
「さぁ、戦を始めようか。」
ここまで読んでいただきありがとございます!
今回は過去にバトルシミュレーターにあった「ジオンの猛攻」を題材にしてみました。
こんな感じで今後もバトオペ2要素を色々と取り入れたいなぁって考えています!
ジオン残党、ロンド・ベルというワードも出てきて、少し時代背景が垣間見えるようにもしてみましたが、どうだったでしょうか?
個人的には、バトオペ2の方がシャアの反乱に差し掛かっているということでその辺りに狙いを絞りつつ、明確には言及しなくてもいいかなぁとは思ってます。
では、また次回もよろしくお願いします!