偶然の出会いだったが、それは彼の、彼女のこれからの戦いを変えていくきっかけとなるのかもしれない。
ジオン残党のMSは着実に数を減らしていた。
後はより確実な前線構築と射撃戦で制圧できると判断したバランは、ファントムプレデター各員にA地点まで後退を指示した。
「ケイト、下がるぞ。」
ジム・スナイパーカスタムがハンドビームガンで牽制射撃をしながら後退していく。
しかし、ケイトのペイルライダーは依然としてインファイトを繰り広げていた。
「まだ…まだやれます! ペイルライダーが応えてくれるんです!」
息が荒いように聞こえた。
いや、そうでなくとも様子がおかしい。
彼女はここまで好戦的な立ち回りをするようなパイロットではないはずだった。
ふと薬のことが頭をよぎるオールス。
ペイルライダーが、HADESが目覚めつつあるのかもしれない。
そうだとするなら、なおのこと彼女を前線に置き続けるのは危険だった。
「ダメだケイト、
だがケイトは止まらなかった。
むしろ自分が上手く戦えていることを喜んでいるようにも感じれる。
前線に取り残されるペイルライダー。
しかしほとんど無双と言える状態だった。
敵意がペイルライダーに集まっていく。
ヘイトが集まれば集まる程、ペイルライダーの動きが素早く、ケイトの反応も早くなっていった。
「すごいよペイルライダー! これまでとは全然違う。これなら私は、もっと上手に…!」
先ほどまでオールスと連携して1機ずつ相手にしていたが故に、反動のようにペイルライダーの力が急速に増していっているようだった。
嫌な汗がオールスの背中を伝う。
そんな彼の不安をよそに、ケイトは敵をなぎ倒し続けている。
「これで、終わり!」
ついにケイトは最後の1機を撃破した。
多勢相手に単機で制圧してしまった。
しかし安心できないオールスはすぐにケイトの状態を確認した。
駆け寄るジム・スナイパーカスタム。
すると、ペイルライダーは膝から崩れ落ちてしまった。
ケイトの苦しそうな呻き声が聞こえる。
「大丈夫か!?」
「うぅ…ダメ……」
周囲に敵はいない。
しかし何かに怯えているのか、震えた声でそう呟く。
「何か来る…ペイルライダーが震えてる…」
それが恐怖か、はたまた武者震いなのか。
ペイルライダーを抱き起こしならが周囲を索敵する。
オールスがレーダーを注視すると、敵勢MSを表す赤い表示がみるみるうちに数多く現れていた。
ジオンのMSだった。
「まだいたのか。いや、それだけじゃない。」
ジオン残党のMSの一番奥、MS1機分ほどの岩場の上に立つMS。
その顔にはデュアルアイとブレードアンテナが確認できた。
そしてそれは、妖しく赤い光を放っていた。
「どうやらあいつがこの群れの親玉らしいな。」
後退していた3機も合流する。
「立てるかい、ケイト君。」
ペイルライダーとそれを支えるジム・スナイパーカスタムを庇うようにディジェSE-Rが敵の前に立ちふさがる。
ゆっくりと立ち上がるペイルライダー。
彼らは敵部隊に終始睨みを利かせていたが、どうにも敵の様子がおかしい。
自然が作り出した砦のような岩のアーチを越えようとしないのだ。
確かに、そこを越えたMSから叩かれるのは目に見えている。
しかし物量作戦で攻めてきた先の戦闘とは対照的な行動だった。
「どうした。まだ目覚めないのか?」
彼らのもとに通信が入った。
どうやら敵の大将からのようだ。
敵MS群が道を開け、そこを2本のビームサーベルを携えながら歩み寄ってくる。
夜空のように黒く塗られたそのMSは、ガンダムの顔をしていた。
「来ないで!」
ケイトが叫ぶ。
激しい頭痛が彼女を襲う。
「怖いかい。
全身のダクトが排熱で赤熱化している。
その音は唸り声にも聞こえた。
身構えるファントムプレデター。
だがそのMSは止まるどころか、どのMSよりもただペイルライダーだけを見て歩み寄ってくる。
「応えなさいHADES…私の妖刀が血を欲しているんだ。」
夜空色のMS、ストライカー・カスタムの眼が一閃した。
瞬間、その声に応えるように、ペイルライダーの駆動音がその回転数を増していった。
そしてジム・スナイパーカスタムを振り払うと、全身から高熱の排気が吐き出される。
「抑えろケイト!」
「……」
声が聞こえない。
もはやペイルライダーはパイロットの手を離れたのか、はたまたパイロットすらHADESの一部としてしまったのか。
いずれにせよこのまま戦闘を継続するのは危険だった。
「ルネーロ、オールス、ペイルライダーを連れて後退しろ。引きずってでも奴らの殺意から遠ざけるんだ。」
HADESの特性を理解していたバランは、とにかくペイルライダーを敵の視線から離すように指示した。
そして同時に、敵はペイルライダーのHADESを発動させるためにわざと攻撃せずにただこちらを見ていただけだったと理解し、その指揮官機と思しきMSに敵意を向ける。
その瞬間、ストライカー・カスタムが急加速した。
素早い動きでバランを翻弄し、あっという間に突破されてしまう。
奴の狙いはもちろんペイルライダーだった。
しかし、ディジェSE-Rがすぐさま間に入り、侵攻を妨害した。
激しく振るわれるビームサーベルを紙一重で回避し続けながら、こちらもビームナギナタで応戦する。
回り込まれようともすぐに反応し、お互いに一歩も譲らない格闘戦が始まった。
「ここはツェクトに任せよう。お前たちは後退するんだ。」
「おっとそうはさせないよ。」
ストライカー・カスタムが合図すると、静観を続けていた配下のMS達が一斉に動き出し、後退を阻止するように集中砲火してきた。
それも決まって、ペイルライダーに向かってだ。
「システムが呼び合ってるんだ。今は抑えられているみたいだが、いずれ目覚めることになるさね。」
ディジェSE-Rの攻撃を回避しながらも、その視線はペイルライダーに向いていた。
だがその態度がツェクトに火をつけることになった。
ストライカー・カスタムの懐へバルカンを掃射しながら一気に飛び込み猛スピードで突進するディジェSE-R。
ビームナギナタを抜き斬撃の素振りを見せるディジェSE-Rに対し、これまでのように余裕な態度で回避をしようとするストライカー・カスタム。
しかし、その瞬間そのパイロットの脳裏に電撃が走った。
ドッジロールでディジェSE-Rの背後に回り込む。
だがそれを想定していたかのように、顔を上げるストライカー・カスタムを横目で鋭いセンサーアイが睨みつけていた。
クレイバズーカが突き付けられる。
「コイツ…!?」
「舐めてもらっては困る!」
バズーカが頭部へ直撃、続けてビームライフルを撃ち込み、ビームナギナタの二連撃を叩き込む。
ツェクトらしい無駄のない怒涛の攻めだった。
攻撃をまともに受けたストライカー・カスタムがようやく視線を向ける。
「面白い、お前も私と同類というわけか。いいだろう、気に入った。私、エルメダ・エメリッヒが本気で相手してあげよう。」
「温存なんて考えない。僕も全力でいかせてもらうさ。」
ストライカー・カスタムから禍々しい炎にも似た光が放たれる。
妖刀システムが唸る。
「マシンにはホンモノと作り物の区別がつかないと言うが、より強い感脳波を嗅ぎ分けているといったところかい。」
ビームサーベルをバックパックに収め、背中を覆うように背負ったトンファーを取り出した。
そこから発振されるビーム刃はビームサーベルの何倍も大きなものだ。
そしてその形状はより確実に敵の懐を切り裂くためのものだ。
「受け止めきれるかい!」
重心を低くし、一気に踏み込むストライカー・カスタム。
ディジェSE-Rがビームライフルで迎撃するが横方向にスラスターを噴かせて回避されてしまった。
中央にそびえる大きな岩の裏に回り込み射線を切って身を隠すストライカー・カスタム。
ツェクトはレーダーを見て一度視界の開けた場所まで移動しようとしたが、そこにストライカー・カスタムをおびき出せば後退したペイルライダーが視界に入ると判断し、機体を急速に方向転換させて岩場近くの廃屋付近まで深追いしてみせた。
状況としては不利だった。
相手が待ち構える状態の方が攻撃へ転じやすく、また格闘戦に優れるストライカー・カスタムにとって身を隠せる岩場は有利なポジションだ。
しかしディジェSE-Rは猛追する。
普通に考えれば不利になる格闘戦を仕掛けた。
「面白い!」
一定の間合いを保ちながら高速移動する2機。
先に攻撃に転じたのはディジェSE-Rだった。
ビームナギナタを振り上げるが、空振り。
その隙にすかさずトンファーをねじ込んでくるストライカー・カスタム。
スラスターを急点火して体当たりで受け止めようとするが、ストライカー・カスタムの格闘もまた意図的な空振りでのフェイクだった。
とはいえタックルにより動きが止まったストライカー・カスタム。
ディジェSE-Rは素早くビームライフルを取り出すが、既に持ち替えられていたビームサーベルが振り下ろされようとしていた。
「もらったよ!」
「甘い。」
ツェクトは脳裏に電撃が走る感覚を覚えた。
オーバーブーストを発動させて振り下ろされるビームサーベルを紙一重で潜り抜けると、背後からビームライフルを撃ち込んだ。
一瞬よろけるストライカー・カスタムに続けてビームナギナタを横薙ぎする。
が、横方向に転がってその斬撃を回避されてしまう。
お互いの格闘を紙一重で回避し続ける激しい格闘戦が展開された。
高度な読み合いと激しいぶつかり合いだった。
「そろそろ終わらせようかね!」
回避行動を取りながら再びトンファーに持ち替えていたストライカー・カスタムの反撃。
斬撃が脚部を掠めるが、連撃の間を縫って間合いから離脱する。
今度はクレイバズーカを浴びせてストライカー・カスタムをひるませる。
そしてバルカンを放ちながら踵を返して一気に間合いを詰める。
弾幕によろけるストライカー・カスタム。
バックステップで距離を取ろうとするが、それを岩壁が阻んだ。
「舐めてもらっては困ると言った!」
鋭いデュアルアイを光らせながらビームナギナタを引き抜くディジェSE-R。
しかしストライカー・カスタムは迎撃をしようとせず、ただ待ち構えるだけだった。
「だがあんたの負けさ。」
懐へ飛び込み、ビームナギナタを振り上げようとする。
しかし、一歩手前で機体の動きが止まってしまった。
膝を崩し、各部ダクトから強制排熱が行われる。
限界時間だ。
「システムの限界時間か…!」
ブースターのリミッターを外すことで驚異的なマニューバを実現できるオーバーブーストだが、その性質上機体の駆動系に多大な負荷を強いるため深刻なオーバーヒートを起こしてしまう。
それを敵の眼前で迎えることはそれ以上ない最大の隙になってしまう。
歯ぎしりするツェクト。
だが、エルメダは不敵な笑みを浮かべるだけで、すぐに攻撃をしようとはしなかった。
「遊んでいるのか。」
跪くディジェSE-Rにビームサーベルが突き立てられる。
しかし、その切っ先が届くことはなかった。
「あらあら、私の妖刀も限界時間のようだね。残念だが、退くしかないかね。」
笑い交じりの声だった。
ストライカー・カスタムの妖刀システムも限界時間を迎えたことで勝負がつくことはなかった。
しかし、ディジェSE-Rが膝を崩した時、すぐに攻撃していれば間違いなく終わっていただろう。
わざと時間切れを待ったというのは明白だった。
屈辱的だが、意図的に見逃されたのだ。
ディジェSE-Rが立ち上がった頃には、ストライカー・カスタムは既に配下のMSを率いて戦線を離脱し始めていた。
追撃することなく、それをただ眺めるツェクト。
その拳は震えるほど強く握られていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
そこそこ大きく取り上げはじめたので気付いたかもしれませんが、今回の作品は「強化人間」そして「ニュータイプ」をキーワードとしています。
強化人間、ニュータイプの在り方や向き合い方を自分なりに解釈していきたいなぁと思っています。
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