そんな予感とともにファントムプレデターは氷の大地、北極へ降り立つ。
クレーター型の地形の中央に聳え立つシャトル発射場。
それを中心に構成される北極基地は、既にぱちぱちと電気がはじける音と雪の降る音だけに包まれていた。
基地の外縁部からそれを見下ろす、ガンダムがいた。
「あっけないな。基地と言ってもこんなもんか。」
「たかが傭兵と見くびった結果ですよ。それにしても、奴らが現れなかったのは誤算でしたね。」
スロープからグフ・フライトタイプが合流してきた。
ドミニクのグフだ。
そして傍らは、
「残党集めをしていたエルメダがファントムプレデターと遭遇したという報告があった。奴らも想定通りの動きではなかったんだろう。それにP.M.U.直々の特別任務、あれのせいで各地で戦力が削られているのも事実だ。もはや既に当初の予定通りではないよ。」
中央の発射場へ巨大なコンテナが運び込まれていくのを見下ろす。
ブルファングとその配下にあるクランが集結しつつあるこの北極基地から、彼らは重要なある物資を運び出そうとしていた。
そしてそれこそが彼らの最大のミッションだった。
彼らが起こした反乱ともとれる行為はまだ序章に過ぎないということなのかもしれない。
「準備ができ次第
「了解。エルメダにも本隊合流を急ぐよう伝えます。」
「頼む。」
北極に大規模戦力が集結しつつあった。
これは間違いなくP.M.U.史上最大の内戦であり、激しい戦いの前兆だった。
高高度を飛行する黒いミデア。
最低限の補給と整備を受けたファントムプレデターだ。
本来の作戦へ戻り目標地点へ向け北上している彼らだったが、既に時は遅くブルファングが北極基地を制圧したという報せを受けていた。
今の彼らの任務は北極基地の解放と物資の発射阻止。
しかし戦力が集結しつつある基地に攻め入るとなると、少数精鋭では厳しい戦いになることが予想された。
「今回は流石に旗色が悪いな。すまない、俺のせいで…」
「いいんですよ、自分らも自らの意思で付いていっているわけですし。しかし今回の作戦、勝算はあるんでしょうか?」
オールスが予想される敵勢力配置を眺めながら問う。
望み薄であるということは本人も分かったうえなのだろうが、この問いに素早く答えられる者はいなかった。
「敵は、ニュータイプ部隊かもしれません。」
ツェクトが俯いた視線をそのままに呟いた。
視線が集まる。
「赤いグフ・フライトタイプも、黒いストライカー・カスタムも、どちらのパイロットも実力だけじゃない力の差を感じました。ケイト君のペイルライダーが暴走しかけたのもそのせいでしょう。それにあの電撃が走るような感覚…僕の思考に割り込んでくるように先読みされる感じ…ただのパイロットじゃないと思います。」
ツェクトの拳が震えていた。
普段温厚な性格の彼だが、その内に秘めたプライドが抑えきれないのだろう。
実力以上の能力で敗北したあの感覚が深く傷になってしまったのかもしれない。
「でもあの女の人は、確かホンモノがどうとか言ってました。あれってどういうことなんでしょうか…?」
「ケイトそれは 」
「それは彼女は自分がホンモノのニュータイプ、そしていままで出会ったそれらしき者はニセモノ、つまりは強化人間だってことだろう。」
バランがオールスの声を遮って自分の考察を述べた。
宇宙に上がった人類が環境に適応するように目覚めさせた能力、そしてそれを模倣して人の手で作り出された者。
戦場においてはもはや撃墜王と同義になってしまったニュータイプという概念では、それは区別する必要も無いのかもしれない。
なんにせよ敵はニュータイプとしての能力を持った人材で構成されている可能性が高いということは事実だ。
「ニュータイプ…ペイルライダーが反応したのも、そのニュータイプを感じ取っていたからなんでしょうか?」
「あぁ、おそらくな。ただ乱戦が予想される今度の作戦で、HADESが発動するのは危険だ。」
Hyper Animosity Detect Estimate System
システムが周辺の状況から演算処理を行い、その最適解をパイロットにフィードバックすることで高い戦闘能力を実現するシステム。
それを動かすパイロットとなると、ただの人間では不可能だ。
そのくらいはケイトも理解していた。
自分が、エルメダの言うニセモノに当たる存在だということも、先の戦闘で暗に感じ取ることができてしまった。
「ケイト……」
どこか覚悟を決めたような表情のケイトを見て、オールスは不安を隠しきれずにいた。
そして、彼女が入隊した直後にバランからの受けた命令を思い返し、焦りを感じ始めていた。
その日は室内にいても嫌になるくらいの大雨だった。
オールスはバランから個人的に呼び出され、ブリーフィングルームに訪れていた。
何も知らないオールスと、深刻な表情のバラン。
いや、この時すでに、ペイルライダーの配備に一抹の不安を抱いていただろう。
「オールス、わかっていると思うが…」
バランが口を開く。
「あのMS、ペイルライダーは新米パイロットに扱える代物じゃない。ましてやケイトはまだ若すぎる。お前はこの状況をどう見る?」
「実戦経験無し、元軍人でもない彼女がいきなりこんな特務に就任…何か裏があると見て間違いないと思います。何か明確な目的があって、上層部も彼女とあのMSを選んだんでしょう。」
オールスは素直に、自分の考えを答えた。
「俺も概ね同じ考えだ。彼女の経歴も、ハッキリしない所が多い。しかし疑いたくなる気持ちはあるが、俺はこの隊の隊長だ。作戦の遂行はもちろん、部隊員を護る責任がある。そこでだ…本当はこんなことお前に頼みたくはないんだが、お前がこの部隊では最適任だと見込んで頼みがある。」
バランが一度俯く。
オールスは固唾を飲んで言葉を待った。
「今後お前にはケイト並びにペイルライダーの監視役を任せたい。教育係ってのは建前だ。オールスとケイトはマンツーマンを基本単位として作戦運用する方針でいく。最終的な評価と決断はお前に一任するが、つまり…彼女が怪しい動きをしたら………そのときは 」
それはあまりにも残酷な命令だった。
人のエゴで生み出された存在である彼女の命、それの運命を背中から握らなければいけないのだ。
銃口を突き付けなければならないのだ。
スナイパーである彼にとって、味方の背中ほど簡単な的は無いが故に、彼の引き金は凍り付いたように重くなった。
「ケイト…」
薄暗いコックピットで静かに座っているケイトのもとへオールスが顔を出した。
戦闘配置命令がかかるまであと数十分といったところだろうか、各々作戦前の休息をとっている頃合いだった。
自らの出自について察してしまったと感じ、心配して様子を見に来たオールスだったが、ケイトはいつものように穏やかだった。
「オールスさん、もうすぐ作戦エリアですよ、ちゃんと休まないと。」
「あぁ…ただちょっと顔を見ておきたくてね。邪魔してすまない。」
彼自身に後ろめたい気持ちがあるのか、ケイトの目をちゃんと見ていられなかった。
ペイルライダーが段階的とはいえHADESを解放しつつある以上、彼が一番望まない結果が現実味を帯びてきているのは事実だった。
ケイト自身、それを感じ取っていたのかもしれない。
彼女はその手をそっと彼の頬に添えた。
「大丈夫です、私は…オールスさんとの約束、ちゃんと果たしますから。」
そう、彼らは約束したのだ。
戦わなくていい世界が訪れるまで生き延び、そして世界の広さを見に行くと。
オールス自身の言葉だが、それは祈りであると同時に呪縛にもなってしまった。
恐らくケイトは自分の置かれている状況は少しずつ理解しているのであろう。
そんな彼女の言葉は彼の罪悪感のような心の迷いを刺激した。
それを知ってか知らずか、ケイトはさらに言葉を続けた。
「オールスさん。その銃口は、どこに向けられているんですか…?」
答えられなかった。
嘘で誤魔化すこともできないほどに素直な反応だった。
畳かけるように、訴えかけるように言葉が続けられる。
「何の為に戦っているんですか?」
オールスは謝罪の言葉だけを置いて、ケイトに背中を向けてしまった。
自らの罪と迷いで戦う意味すら見失ってしまっていたのだ。
そんな情けない自分が顔向けできないと、そう感じた。
オールスはそれ以上何も言わず、立ち去ってしまった。
「私、信じてます。オールスさん。」
夜が明けた。
眼下には氷の大地と無機質な構造群、そしてMSたち。
みたところ少数精鋭なのか、数は4機とこれまでの物量戦的なブルファングの性格とは異なる雰囲気だった。
「しかし配置に無駄がない…油断はできないってわけか。」
バランが敵の配置を分析する。
もとより少数精鋭のファントムプレデターにとって数的戦力差が無いのは有難い話だったが、それ故に個々に対する警戒を強く持っていた。
「例のフライトタイプに妖刀もいる。やはり手強そうだな。どう見るツェクト。」
「機動性が高く攪乱ができるグフ・フライトタイプとストライカー・カスタム。堅実でバランスが取れた高機動型ゲルググで威力範囲の穴を埋めつつ、多連装ロケットシステムによる長射程に加えて広範囲の面制圧が可能なガンダム試作2号機で固める。いかにも少数精鋭らしい構成ですね。」
一見アンバランスだが、個々の実力が伴っていれば十分すぎる効力のある構成と配置だった。
上空から確認できるこの4機はどれもエース級であると見て間違いないだろう。
「よし、作戦は予定通りでいく。各員MS投下後、速やかに配置につくように。基地周辺にはMSが潜伏している可能性も高いが、目の前の敵が第一だ。」
MS投下の準備態勢に入った。
外気温が急激に低下する。
「我々の目的は、基地中央のシャトルの発射阻止にある。どうやら上は基地よりもあのデカいコンテナの中身の方が大事らしい。それだけ大層な物なら今後の戦局に大きな影響を及ぼすだろう。各自、一層気を引き締めてかかれ!」
そして、レッドランプと警告音を合図にミデアのハッチが開かれた。
バランの号令と共に、ファントムプレデターが次々と戦場へ降下していく。
4番目、オールスのジム・スナイパーカスタムも投下されようとしていた。
投下の秒読みに入ったとき、オールスはケイトへ通信を入れた。
とても短い、返事をする暇もないほど一瞬、信じている、と告げ、白銀に輝く大地へ飛び出していった。
お久しぶりになってしまいました!
ソロ-です!
かなり更新が遅れてしまいましたね…
今後も無理のない範囲で、マイペースな投稿になると思いますが、よろしくお願いします!