白銀圭の敬愛   作:おろしぽん酢

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映画と鶏肉

「ババ抜きぃ?俺はお前の脳味噌の中を覗いてみたいよ。勝てないと分かってるんだからそんなもの石上にでも挑めば良いだろう。」

 

「石上君も同じこと言ってました。」

 

 

八雲は自身に悪魔を遣わした男の顔を思い浮かべた。

 

 

「そうか、あいつにスーダンとチリどっちが良いか聞いておいてくれ。それはそうとして、ババ抜きは白銀に挑め。」

 

「分かりましたー!会長、ババ抜きしませんか〜?」

 

「いいぞ。丁度仕事もひと段落したところでな、コーヒーでも飲もうかと思ってたんだ。」

 

「コーヒーなら俺が淹れてやろう。その代わりに四宮、お前もババ抜きに参加しろ。」

 

「私がですか?良いですけど...なぜ?」

 

 

四宮はひとまず疑った。

四宮はいつも心の中で八雲の発言を疑っている。

 

 

「何、良いことを思いついたんだ。藤原!」

 

「何ですか〜八雲君。」

 

「どうせやるなら罰ゲーム付きのババ抜きにしよう。勝者が敗者に何でも一つ命令して良いってのでどうだ?」

 

「良いですねー罰ゲーム!負けませんよ〜!!」

 

 

こうして、八雲の思いつきによるババ抜き(罰ゲーム付き)が始まった。

なお、八雲は藤原がババ抜きを思いついた事には何も思わなかった。

藤原がババ抜きをすると言えば何処かで必ずババ抜きは始まり、被害者が出るのだ。

これは世界の真理であり、八雲にも変えられない事だと考えている。

 

 

「じゃあ、会長からどうぞ。」

 

「そうか、なら藤原書記のを引かせていただこうかな。」

 

 

ババ抜き自体は滞りなく進んだ。

その裏で、天才二名による心理戦が繰り広げられていた。

が、藤原というイレギュラーが居る以上心理戦は無に帰し、考えるのに消費したカロリーは何も為せず死んだ事になる。

 

 

「さてさて、誰が勝ったのか教えてもらおうか。」

 

「俺だ。それで負けたのは四宮だな。」

 

「四宮お前...藤原にも負けたのか。」

 

「言わないで下さい!」

 

「ちょちょちょっと!!藤原にもってなんですか!」

 

 

真っ白になった四宮、膨れっ面の藤原、微妙な顔の白銀。

なぜ誰も勝者たる顔をしていないのか甚だ疑問である。

 

 

「白銀が勝ったのか。だが、どんなお願い事をするつもりだ?」

 

「そうだなぁ...保留、というのはダメか?」

 

「ふむ、それも有りかもしれない。だがな、忘れているかもしれんが、藤原の持ってきた映画のチケットは来週までに使わなければいけないんだぞ。」

 

「あー!ラブ・リフレインですねー!!あれ?でもそれって会長と四宮さんが見に行くんじゃ...まだ行ってないんですか?」

 

 

無神論者八雲は藤原が自身の予定通りに言葉を発した事を神に感謝した。

八雲は自身が藤原から貰った、もしくは捨ててあったものを拾っただけとも言うが、とっとり鳥の助のチケットを見て有効期限に気づいたのだ。

そこから白銀達のチケットの有効期限にも思い当たり、今回の計謀を考えついたのだが、前回自分の手助けを無碍にされた事にも気づいた。

そのため善意で施すのも嫌、だが有効期限は切れる...藤原ルーレットだ!と、自身の才能に恐怖しながら成り行きを見守っていた。

 

 

「そうだよな、有効期限の切れる前に行くべきだ。今回のことは丁度いい、白銀が行こうと言えばそれで済むのだからな。」

 

「私のチケット...無駄にするんですか...??...」

 

「はめやがったな八雲!!!」

 

「何のことやら。それよりも、早く四宮に言ったらどうだ?」

 

 

笑みを浮かべる八雲、問い詰める白銀、緊張する四宮、何処かへ消えた藤原。

 

 

「たかだか数文字に何を言い渋っているんだ。...なんだ、行きたく無いのか。それならそうと言えば良いのに。」

 

「え、会長......」

 

「いやっ違う!違うぞ四宮!俺はただ言うのが恥ずかしk!?!?」

 

「ほうほう、言うのが恥ずかしかったのか。だがそうだな、ここまで言われた以上四宮も返事をする必要があるよな?」

 

「会長...行きましょう...映画。」

 

「四宮...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━ってな具合だ。」

 

「初々しいやり取りも八雲先輩が手を入れると一瞬で終わりますね。何やってくれてるんですか。」

 

 

八雲御用達のラーメン店にてラーメンを食べる八雲と石上。

突然呼び出された石上は当初不機嫌だったが、奢りの一言で笑顔になった。

 

 

「俺は時間の無駄を削っただけだ。やはり正しいことをすると気分が清々しい、こんな気分で食べるラーメンはこれ以上ないほど美味に感じる。」

 

「そうですか。それで、なんか用ですか?」

 

 

石上は学んだ。

八雲の言葉は8割流しても会話できると。

だが決して話を聞かないなどという愚行を犯してはならない。

残りの2割にどんな爆弾が埋め込まれているか分からないのだ。

 

 

「用があるなんてよく分かったな。」

 

「八雲先輩が良い事をする時は大体碌でもないこと考えてますからね。この醤油ラーメン焼豚マシマシの出てきたあたりで悪巧みしてることは分かってましたよ。」

 

「流石天下の名探偵だ。そんなお前に折り入って頼みがある。」

 

「嫌です。」

 

 

八雲の可愛がっていた後輩は薄情だった。

しかし、石上はこれまで八雲の悪巧みについて行っては心臓を止めかけたのだ。

断られるのは概ね八雲の自業自得である。

 

 

「実はとっとり鳥の助っていう映画に興味がないか聞きにきたんだ。」

 

「無視しないで下さい。それに何ですかその明らかに面白くなさそうな名前。嫌ですよ。」

 

 

ラーメン一杯ではとっとり鳥の助鑑賞までは引っ張れないようだ。

 

 

「だよな。俺も嫌だ。でもな、メインはこれじゃないんだ。」

 

「何がメインなんですか?」

 

「白銀と四宮のデート鑑賞だ。」

 

 

二人のデートはとっとり鳥の助と同列である。

いや、見せ物として作られたとっとり鳥の助の方が報われているだろう。

 

 

「なんでそれで行けると思ったんですか。僕もう帰りますよ?」

 

「交渉決裂か、残念だ。今度の焼肉は叙◯苑じゃなくスタ◯ナ太郎にしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━ってことだ。早坂、行くだろ?」

 

「石上君が釣れない時点で気づいてください。デート鑑賞のおまけでもとっとり鳥の助は無理です。」

 

「今なら叙々苑もついてくるぞ。」

 

「何してるんですか、早く詳細を送ってくださいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば白銀、デートの予定は詰めてるのか?」

 

「デートじゃない!それに、予定なんてないぞ。」

 

「...は?」

 

 

自称IQ300の男の間抜けヅラを見たのは白銀が初めてだろう。

 

 

「待て待て、じゃあ見に行かないのか?」

 

「いや、見には行くぞ、でもデートじゃないんだ。」

 

「そうか。俺の知り合いに腕の良い神経外科の医者がいてな、俺とお前の仲だし格安で紹介してやるよ。」

 

「気が狂ったんじゃねーよ!」

 

 

間抜けヅラから一転、哀れみを持った目で白銀を見つめる。

白銀がこの目を見た回数は両手で数え切れない。

 

 

「いや、俺は俺で、四宮は四宮で行ってな。たまたま出会えば隣の席で観る可能性もあるって感じだな。」

 

「そうか、良かったな。お前と四宮が映画館で出会う可能性は100%だ。なぜなら四宮はお前の行動を監視しているから。」

 

「えっ監視されてんの!?怖っ!!」

 

「半分冗談だ。」

 

 

白銀が四宮に監視されているのは事実だ。

四六時中という訳ではないが、登下校中は基本的に監視されている。

 

 

「まぁそこはどうでも良い。俺が知りたいのはいつ、何時からの上映を観るかだ。」

 

「知ってどうするんだ?」

 

「逆に聞くが、お前は俺の手助けなしに上手くいくと思ってるのか?良いから教えろ。」

 

「...今週日曜の13:30からのだ。」

 

「よし、じゃあこれ。」

 

「?何だこれ?」

 

 

超高性能インカム。

耳に入れるサイズで1kmでの通信を可能とさせた四宮家御用達の一品である。

何故一介の家庭教師がこれを持っているかと言うと...世の中には知らない方が幸せな事もあるのだ。

ウインナーやソーセージの皮は生き物の腸だという事のように。

 

 

「これをつけて行け、そうすれば途中途中でアドバイスしてやろう。」

 

「ありがとう、八雲。お前は親友だ!」

 

「なに、気にするな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてそこまで悪人ムーヴが上手いんです?既に崇拝の域に届いてますよ。」

 

「そう褒めてくれるな。照れるだろ。」

 

 

現在八雲は早坂と共に映画館近くのカフェで最終打ち合わせをしている。

このままの状態で二人を発見できる窓側の席も考えたのだが、見つかるリスクを考えて最も奥の席に座っている。

もちろん、変装はしているのだが念には念をということだ。

 

 

『もしもーし。聞こえてるか?』

 

「お、聞こえてるぞ。」

 

 

ちなみに八雲に届いているインカムの内容は早坂の持つスマホにも流れている。

八雲がその気になれば世界中にデートの生配信を晒されることに白銀は気づいていない。

 

 

「白銀、今どこにいる?」

 

『今か。今は映画館近くのカフェだ。』

 

「「!?」」

 

 

初めて貞子を見た時と同じレベルの恐怖をした。

 

 

「そ、そうか、参考までにだがどの席に座っているのか教えてくれ。」

 

『ん?奥側の席だが。』

 

「「!?!?」

 

 

八雲はこの時初めて自分の辞書に失敗という文字があることを知った。

 

 

「よし、今すぐその場所を離れて映画館へ行こう。四宮がくれば見つけられる場所にいた方がいいだろう。」

 

『今すぐにか?ちょっとトイレに行きたいんだが。』

 

 

トイレは店の一番奥だ。

 

 

「トイレだけはいk『ちょっと行ってくる』おーい!」

 

「どうかしましたか?」

 

「「!?!?!?!?」」

 

 

トイレに立った白銀は横を通りかかった瞬間大声を出されたので思わず声をかけてしまった。

これ自体は白銀の素晴らしい人間性の表れであり、讃えられるべきことだろう。

声をかけられた二人が心の底から迷惑に思っていなければ。

もちろん変装中の二人はそんなこと噯にも出さないが。

 

 

「いえ、何でもないですよ。な、ハーサカ。」

 

「大丈夫です。」

 

「そうですか、では自分はこれで。」

 

 

二人して白銀の背中を呪えそうな目で見送った。

そして早坂はそのまま八雲を呪えそうな目で見つめる。

見られた八雲は何も感じていない顔で言う。

 

 

「...今のは中々にスリルがあったな。」 

 

「貴方が叫ぶからでしょう?」

 

「今のは白銀も悪いだろ。人の話は最後まで聞けって習わなかったのかあいつは?」

 

「でも貴方も聞いてないでしょう?」

 

「失敬な。3割は聞いている。」

 

「それは聞いている人の割合であってどうでもいいと思っている人の話は全て聞いていないじゃないですか。」

 

 

八雲が話を聞く人は生徒会メンバーに圭と早坂、それに加えて数人である。

八雲はこれでも多いと感じている。

 

 

「早坂の話は一言一句覚えているぞ。」

 

「えっ...」

 

「嘘だ。」

 

 

嘘じゃない。

 

 

『すまん、帰ってきたぞ。』

 

「いいところに帰ってきたな。じゃあ早速映画館へ行こう。」

 

『え、もうか?予定の時間まで一時間はあるが。』

 

「早坂、四宮の到着予定時刻は。」

 

「12:30です。」

 

 

八雲と早坂は顔を見合わせた。

その時の表情を八雲はのちにこう語る。

ウツボカズラがハエを溶かしてる途中を見た時の顔をしていた。

その時の表情を早坂はのちにこう語る。

餌のミミズが魚に啄まれているところを見た時の顔をしていた。

 

 

「大丈夫だ白銀。四宮ならそろそろ来るはずだ。」

 

『あまり信じられんが家庭教師をしているお前の言うことだ、信じてみよう。』

 

「まぁ約束の一時間前に来る奴はいないよな。」

 

「主人のことながら恥ずかしいです...でも貴方も白銀さんの妹との待ち合わせならそれぐらいに来ますよね。」

 

「馬鹿を言うな。家まで迎えにいくんだ。」

 

「...」

 

 

さしもの早坂といえどこれにはドン引いた。

 

 

「まぁ俺は早坂でも家まで迎えに行くぞ。」

 

 

早坂は微笑んだ。

 

 

「そっちの方が時短になるからな。」

 

 

早坂は失望した。

 

 

 

『なぁ、四宮と合流したがこれからどうすれば...?』

 

「ふむ、このまま映画館に行くかどこかに寄って13:30の映画を見るかの二択だな。」

 

『...このまま映画館に行くことにした。のだが...このチケットを交換して座席の指定をする必要があるんだ。』

 

「皆までいうな白銀、少しの間四宮を引き止めとけ。」

 

『えっ』

 

白銀の戸惑いの声が聞こえたが、八雲はインカムの電源を切った。

早坂は薄情な男を見て、スマホの電源を切った。

 

「どうする。俺には上手く行くビジョンは見えないが。」

 

「そうですね...会長さんがかぐや様の側から離れなければ何とかなると思いますけど。」

 

「正気か?それだけで何とかなるなら既に二人は結婚してるぞ。どうせ心理戦が始まるんだ。そこまで織り込む必要がある。」

 

「と言ってもどうするんです?」

 

「早坂、今すぐ四宮の使用人に連絡して2席以外埋めてこい。こうすれば100%隣になるだろ」

 

 

自称スマートな男は全くスマートでないやり方を提案した。

 

 

「わかりました。」

 

「よし、白銀、もういいぞ。」

 

『何が?ってかお前電源切ってたろ!』

 

「そうか?電波が悪いのかもな。文句は四宮家に言ってくれ。それよりチケットを交換してこい。」

 

『分かった。』

 

 

この日、一本のクレームが四宮家に届いた。

 

 

『無事に交換できたぞ。しかし、丁度二席だけ空いていて助かったな。他の席は全部埋まっていた。』

 

「良かったな。それほど面白い作品なんだろう。」

 

「使用人によると3割が空席でした。」

 

「...とっとり鳥の助は?」

 

「全てが。」

 

 

恐らくこの世の終わりを知った人と同じ顔をしているだろう。

なぜ藤原がこのチケットを持っていたのか問い質したい気分になった。

 

 

「俺たちも行くぞ。空いているなら都合がいい、そこで続きを話そう。」

 

「本当に叙◯苑なんですよね?」

 

「当然だ。今日は叙◯苑で鶏肉だけ食ってやる。」

 

 

この日、ある店舗が鶏肉だけで一日の最高売り上げを更新した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外と面白かったな。」

 

「そうですね。恐らく名前だけで興味を失うのでしょう。全くもって愚かです。」

 

「その通りだ。石上がそうだったぞ。今度叱っておこう。」

 

 

二人は自分のことを棚に置いた。

 

 

『八雲、四宮は帰ったぞ。』

 

「無事に終わったようで何よりだ。ところでその映画は面白かったか?」

 

『初めて四宮と見た映画だから悪く言いたくは無いんだが...金を払ってまで見るものでは無いな。』

 

「そうか。残念だったな。」

 

『...なんか機嫌良いのか?』

 

 

その上面白くない映画を見た白銀を哀れんだ。

白銀は四宮と映画を見たというだけで八雲達より幸せに満ちていることに彼は気付いていない。

 

 

「そのインカムは今度取りに行くから持っておけ。何かあったら連絡して来ても良いぞ。」

 

『分かった。今日はありがとな。』

 

「気にするな。」

 

 

八雲の中ではインカムを取りに行くのを口実に圭に会いに行く予定を立てていた。

 

 

「早坂はこのまま叙◯苑な。車は呼んでおいたから行くぞ。」

 

「そういえば聞いてなかったですけど今日は奢りなんですよね?」

 

「...正面に止まっているようだ。ほら、早く行くぞ。」

 

「奢りですよね?奢りって言ってください、呪いますよ?」

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