「それで、太ったって?」
「太ったんじゃありません!けどちょっと運動したいだけです!」
「そうだな、太ったんじゃ無いよな。けど俺はお前の検索履歴にダイエットがあるのを知ってるぞ。」
短期間で二度も焼肉を食べた早坂は少し太った。
その原因である八雲にトレーニング施設の定期券を要求しているが未だ貰えていない。
「え、キモ。」
「キモっつったかお前?」
◇
「最近知り合いがダイエットに興味を持っているらしくてな。俺はダイエットなんぞせんから分からんのだが、何か良い方法を知ってるか?」
結局早坂に一ヶ月分の定期券を渡した八雲は翌日生徒会室にいた。
ダイエットをしたことが無いため早坂の手助けになればとやり方を学びに来たのだ。
八雲が初めて自分の意思で人助けをしようとした瞬間である。
「そうですね〜、私は普段走ったりしてますよー!ペスの散歩もありますしね!」
なお藤原書記は収入が支出を上回っている。
その理由はランニング中に食べるラーメンとタピオカミルクティーにある。
「まぁ普通だな。四宮は?」
「私ですか?私はご飯も管理されてますから太ることも無いですしね...」
四宮家お抱えのシェフに作らせる栄養バランスの徹底された食事により四宮は決して太ることはない。
だがそのせいか一部に肉が足りていないが恐らく遺伝だろう。
食事との関係性に気づけば栄養士の首が飛ぶが、その時までは決して太ることだけはないだろう。
「石上なんかはどうだ?気をつけてる事とか。」
「僕はあんまり...ラーメンを食べたりもしますけど家でずっと居ますからね。燃費が悪い体なのかもしれません。会長はバイトで絞れてるんですかね。」
「そうだなぁ。バイトもあるけど太る程食べないと言うのもあると思うぞ。最近は八雲のお陰でいいものを食べることも増えたが。」
関連性にいち早く気付いた八雲は圭への差し入れを増やした。
「やはり食べ過ぎか。何かいい方法は思いつかないか?。」
「その友達が普段何を食べているかにもよるな。一時的に多く食べ過ぎたなら時間の経過で痩せられると思うが。」
「一時的な食べ過ぎではあるんだが...これからもストレスでやけ食いしそうだな。」
「ならストレスの原因を何とかするとか。」
ご存知の通り、ストレスの原因は四宮かぐやであり、それに伴なって白銀御行にも矛先が向いている。
だがそんなことは知らない白銀は純粋に心配した。
「お前の度胸が100倍になればストレスは減るかもな。だがもうしばらくはストレスが続きそうだ。」
「俺の度胸...?」
「それならやけ食いの方をどうにかするしかないですよ。ストレスの解消法を変えましょう。猫カフェなんてどうです?」
「猫カフェ?ってなんです?」
猫カフェ。
その名の通り猫の沢山いるカフェである。
猫好きやそれについていって堕ちた人などが癒しを求めてやってくる。
「今度連れて行ってやろう。他には?」
「まぁバッティングセンターとか。」
「いいじゃないか。やはり頼れるのは石上だな。」
八雲日向、反省のできるお年頃。
前回石上をアフガニスタンに飛ばそうとした事は忘れていた。
「結局、その友達って誰なんです?」
「守秘義務があるが、お前達も一度は会った事があるだろう人物だ。」
早坂も秀知院に通っているので会ったことのある可能性は高い。
「ほう、そう言われると気になってくるな。女性か?」
「人に焼肉を奢らせる事を生きがいに感じている人間を女性というのならそうだ。」
「どんな女性ですか。」
石上の女性像が半壊した。
「それってもしかして...」
「かぐやさん、分かったんですか?」
八雲に焼肉を奢らせることのできる女性は二人しかいない。
四宮は他の情報から恐らく早坂だろうと予想を立てた。
「そうですか、太っていたのですね。だらしない、今度叱っておきます。」
「そうか。また焼肉に連れて行くことになりそうだ。...いや、その前に猫カフェか。」
◇
「きゃ〜かわい〜!!!」
「よかったな。」
早坂を猫カフェに連れて行った八雲はその豹変ぶりに引いていた。
八雲も、別に動物が嫌いという訳では無い。
だがどちらかと言うと可愛がるより眺める派なのだ。
よって猫を撫でては叫ぶ早坂を理解できなかった。
「八雲さん、猫飼いません?」
「やだよ、飼ったら絶対お前来るじゃん。」
「私がお金は払いますから!」
「話聞いてたか?」
八雲は猫派であるが、猫を飼っても三日もあれば飽きるので猫を飼おうとは思わない。
「何がいいですか?ペルシャ?マンチカン?」
「さてはなにも聞いてないな?」
ペルシャも何も、飼うと言ってないのに既に早坂の中ではtoDoリストが完成していた。
ちなみに八雲の希望はアメリカンショートヘアであり、この時点で早坂の予定は遂行不可能である。
「これあとどのぐらい時間余ってるんだ。360°どこ見ても猫、俺はそろそろ猫のゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。あれなんか猫に見えないか?もうあれも猫みたいなもんだろ。」
「3時間コースなのであと1時間半ですね。頑張ってください。」
「頑張る?猫カフェに来て何で頑張る必要があるんだ?お前のために来たとはいえ俺も少しは癒されようと思ってたんだぞ。」
3時間コースを選んだのは八雲であり、早坂に文句をいうのはお門違いである。
早坂は八雲の飽き性に気付いていながら1時間コースを薦めなかったが。
それは決して3時間居たかったなどという理由ではなく、八雲に連れ出されたという理由でサボろうとしたわけでもないはずだ。
「うるさいですね、素直に楽しめないんですか?」
「楽しんでたさ、30分位はな。だが水族館じゃ無いんだから高々数種の猫を永遠に見てられるわけないだろ。」
初めの30分は八雲も猫の行動を見て時間を潰していた。
だが暫くすると、猫も食う寝る遊ぶしかしないことに気づき飽き始めた。
八雲が猫を飼っても3日持つかは怪しいところである。
「じゃあこれから水族館に行きます?」
「意図が伝わらなかったのか?俺は帰りたくてこう言ってるんだ。...分かった。今帰るなら今度猫を飼ってやる。だから帰ろう。」
「ほんとですか!?」
八雲は問題を先送りにした。
「本当だ。俺が嘘をついた事があるか?」
「叙◯苑。」
「あれは...まぁ、嘘ではなかった。だろう?それに結局使ったのは俺の金じゃないか。俺のカードいつの間にパクってたんだ。犯罪だからな。」
八雲と早坂が一日の最高売り上げを更新した日、最初は八雲が払おうとしたのだ。
だが、早坂がどうしてもと言うので会計を任せ外に出た。
これ幸いと八雲のカードを財布から取り出し、自身のポイントカードと共に使用する早坂。
そこに飴を貰いに戻ってきた八雲が現れる。
激昂より先に恐怖を感じ、恐る恐る誰のカードを使用しているか確かめると、そこには八雲の二文字。
八雲は自身の財布に鍵をかけることにした。
「いえ、机に落ちていたのでどうでもいいのかと思って。」
「俺の家の机か?」
「はい。」
「それを落ちてるとは言わないからな。お前はスラムで育ったのか、それとも四宮ではそういう教育してんのか。だとすれば俺はもうあの屋敷に一切の私物を持ち込まないからな。」
「四宮ではそのような教育は行ってませんが。名誉毀損で訴えますよ。」
「そうか。お前だけがおかしい事が分かってよかったよ。お前と過ごした数年間は楽しかった、お前は明日からウズベキスタンに出張だ。」
有事の際すぐ動けるよう取っておいたパスポートと、いつの間に取ったのか航空券を手渡す。
「何をするんですか?」
「そうだな、そこでお前の伴侶を見つけておけ。気が合うようなら一生そこにいてくれて構わんぞ。気が合わんでもそこに住め。」
まだ見ぬ早坂の伴侶に想像を膨らませる。
最終的には7回結婚したがその全てが早坂の手料理を食した瞬間死んだ。
「いやです。」
「嫌ならカードを返せ。あと他にも取ってる物があるならそれもな。」
「もう売ってしまったものはどうしますか?」
「...警察に聞いたらどうだ。」
◇
「皆さーん!聞いてください!」
「分かった。皆、聞いてやれ。俺は今予定が入ったから帰らないといけない。じゃあな。」
八雲は藤原が声を発して僅か1秒足らずで身支度を終えた。
その勢いのまま藤原の死角を通り生徒会室を出ようとする。
「逃しませんよ〜。」
「!?」
八雲は、全国統一体力測定で一位を総ナメしたことさえある。
常人では到底掴むことのできるはずの無い反射神経と運動神経の持ち主。
その自分が腕を掴まれ、さらにそれを解けなかったことで藤原へ強い恐怖を覚えた。
八雲が女性に恐怖を覚えたのはこの短期間で二度目である。
該当する二人のことを女性はおろか人間かどうかも疑っており、然るべき調査機関へ精密検査を依頼している。
「今度は一体何をするんだ?インドに旅行に行くのか?どの便かだけ教えてくれ。」
「違いますよ!というかどの便か知って何するつもりなんですか!!」
「何もしないさ。ところで藤原、飛行機事故で死ぬ確率は1300万分の1程度らしいぞ。」
「何で意味深なこと言うんですか!もういいですよ、私は謎解きがしたいんです!」
八雲は航空会社の並々ならぬ努力を無に帰そうとしていた。
「謎解きか。そのぐらいなら良いだろう。絶対にそれ以外のことはしないからな。」
「じゃあ第一問!『愛上◯菊』この中に入るのは何でしょう?」
「「丘」」
「すごいですねお二人共!正解です!じゃあ次は━━」
◇
「やるじゃないか四宮。」
「あなたこそ。」
二人の戦いはもはや謎解きの体を成していなかった。
二人はもはや、藤原の言葉、目の動き、傾向、全ての要素から考えうる限り最速で答えを出す謎解きモンスターと化していた。
「そういえば、白銀はどうだった?一言も発していなかったが。」
「お、おう。...まぁ、簡単だな!!」
八雲は察した。
この男はただの一問も解けていないのだろうと。
「当たり前だな。この難易度なら解けない方が不思議だ。」
「ですね。私には難易度は分かりませんが、会長も八雲さんも簡単というならそうなのでしょう。」
「藤原、次からは難しい本を借りてくるといい。今度は会長にも参加して頂こうじゃないか。」
「いいですねー!正解数が少ない人には罰ゲームですよー!!」
察した上で弄んだ。
白銀を追い込み、謎解きの勉強を手伝うついでに白銀家へ向かうことも視野に入れていた。
「なぁ、白銀。今日は暇か?暇だろう?」
「...!あぁ暇だ!遊びに来るといい、圭も待っているぞ。」
白銀は躊躇無く妹を餌にした。
◇
「第一問━━。」
「...」
「え、お兄これ分かんないの?」
「言ってやるな圭ちゃん。こいつは自分が小学生と同程度の知能と自覚しているんだから。」
白銀家にて謎解きを始めた八雲は、白銀を勝たせるのは無理だと判断した。
ただでさえ何でも出来てしまう完璧超人に得意の分野以外で勝負を挑むのは分が悪い。
四宮の教師をしている八雲はともかく、一般人である白銀が勉学で勝てるだけでも大変な偉業なのだ。
これ以上勝ちたいというのは望みすぎである。
「そんなわけないだろ!」
「本当に微塵も思ってないのか?一問も解けてないのに?」
「そう言われると自信を失うが...」
「そんな奴がなんで謎解き対決なんてするんだか...」
白銀の嘘に気付いておいて罰ゲームのある謎解き大会の開催を提案した男がいるからである。
その上白銀の参加も先に促して断りづらくさせたのだが、何の責任も感じてない様はいっそ清々しい。
だが自身は責任を感じていなくとも被害者は覚えているものだ。
「そうは言っても藤原を焚き付けたのはお前だろう?」
「いや、俺はあくまでも提案しただけで最終的な決断を下したのは藤原だ。」
「あれを提案とは言えないだろ。思いっきり参加させる気だったじゃねーか!」
「まさかまさか。大体最初にお前が嘘をついたのが悪い。あそこで苦手だって言っていれば今頃こんなことする必要はなかったんじゃないのか?」
「それはそうだが...」
白銀が嘘をついていたとは言え藤原を焚き付けた事実は消えないのだが白銀は流された。
「なんでもいいが、俺は遅くなる前には帰るからな。それまでだけだぞ。」
「大丈夫だ、ある程度出来るようになればあとは自分でやるさ。」
「そうか。じゃあ続いて・・・」
◇
「おい、もう良いだろ。何問解けば気が済むんだ。」
「いや、まだだ。これでは四宮のスピードに追いつけないじゃないか。」
「常識的に考えて一日で追いつくのは不可能だろう。それが嫌なら今日はもう徹夜だな。俺は帰るが。」
「すみません日向さん...」
延々と問題を出させる、まるで機械にも等しい扱いを受けた八雲のストレスはピークに達していた。
そしてそれを横から見ていた圭の申し訳なさもピークに達した。
「せめて夜ご飯だけでも食べていってください...」
「圭ちゃんの手作り?」
「はい、お口に合えば良いんですけど。」
「圭ちゃんがご飯を作ってくれるだけで嬉しいから大丈夫だよ。今度一緒に料理の勉強もしようか。」
圭の料理は同年代の平均に比べればかなり高いレベルにある。
白銀家の普段の料理は圭ではなく兄白銀御行によるものだ。
しかし、バイトや生徒会の用事で遅くなる兄の代わりに作るのも多々ある事。
それにより鍛えられた腕は八雲の胃袋を掴むのには十分すぎた。
「え、これ本当に圭ちゃんが作ったの?どっかの料理人が作ったものを出してる訳じゃないんでしょ?」
「はい、美味しいですか...?」
「めちゃくちゃ美味しいよ。毎日食べたいぐらい。」
「有難うございます!」
「お前も食えよ白銀、10分ぐらいならあってもなくても変わらないだろ。」
八雲と圭が食べているのを横目にひたすら謎解き本を読み込む白銀。
血眼になって謎のオーラを出す白銀を避けて遠い場所に座っている。
「10分を笑うものは10分に泣くんだよ!!!」
「お、おう。すまん。だがそこまで真剣にやると反動がすごそうだな。」
白銀が真っ向から八雲を黙らせた瞬間である。
ただでさえ悪い目つきが、人を殺せそうな程に進化している。
「今日のところはもう帰ろうかな...圭ちゃんは大変だろうけど白銀の介護をよろしくね。それとも今日は残ろうか?」
「残ってくれたら嬉しいですけど寝る場所が...兄は何とかするので日向さんはもう帰って大丈夫ですよ。」
「少し心配だけどお言葉に甘えるね。もし何かあればすぐに電話してきてくれて良いから。」
後日白銀への交渉材料になるかも知れないと今の顔を何枚か撮ってから白銀家を出た。
だが入れているだけで呪われそうだったので処分するかどうか小一時間悩むことになる。
◇
「八雲君、なんか今日の会長様子おかしくないですか...?」
「気のせいじゃないか?いつもこんなもんだろ。」
「いやいやいや、どう見ても負のオーラが漂ってますよね!?」
「俺には見えないな。負のオーラなんて見える方が可笑しいぞ。眼科に行ってきたらどうだ?」
一体どれだけ徹夜をすればこうなるのかと聞きたいほどに白銀はクマができていた。
「そうですよ藤原先輩。会長の目つきはいつもあんなもんですよ。」
「ほんとに!?!?」
「まぁ確かにいつもよりどんよりとしたオーラが漂っている気はしますが。」
「気のせいだろう。それより藤原、そんなに気になるなら声をかけてきたらどうだ?」
「そうですね。会長も男子に気にされるより先輩に気にされた方が嬉しいと思いますよ。」
八雲には爆弾を転がして遊ぶ趣味はないので今の白銀に触れたくなかった。
石上は普段から爆弾である先輩を爆弾に近づかせるのにスリルを感じている。
「え〜、えーっと、会長?どうしたんですか?」
「...藤原書記か......そうだな...聞いてくれるか。」
「は、はい。」
この状況でNOと言えるものがいたなら猛者という他ないだろう。
それほど有無を言わせない声をしていた。
「な..とkは...」
「今なんて?」
「謎解きはどうしたんだぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁああ!!!!」
「ひやぁっ!」
※音量注意と言わんばかりの絶叫。
藤原の居場所は超至近距離、助かる見込みはないだろう。
「まぁ思ってはいたんだ。今日の家庭教師はわざわざ休みの連絡も来てたしな。四宮は休みなんじゃないかって。」
「じゃあなんで会長に言わなかったんですか?」
「まぁ圭ちゃんに会いたかったし。あ、圭ちゃんの手料理おいしかったよ。」
生徒会室に二度目の雄叫びが響いた。
最後が少し適当になった感は否めない。