「皆さんコーヒー入りましたよ!」
「ちゃんと美味しいんだろうな。」
「失礼な!美味しいに決まってますよ!」
生徒会では普段白銀か八雲がコーヒー、四宮が紅茶を淹れている。
藤原は飲み物にはノータッチ。
既に舌の肥えた八雲は、稚拙な技術では満足いかないのだ。
「まぁ捨てるのは勿体無いか...」
「何てこと言うんですか全く。」
「そう言うなよ八雲。せっかく藤原が淹れてくれたんだ、俺も頂こうかな。」
「八雲君も見習ってくださいよ...はいどうぞって会長!ついにスマホ買ったんですか!」
白銀がスマホを買うだけで驚く藤原。
驚く藤原に渾身のドヤ顔を披露する白銀。
互いが互いを下に見ているのに気付いているのだろうか。
「何を言っても買わないって一点張りだったのに...ようこそ文明社会へ。」
「人を原始人みたいに言うんじゃない。見ろ、ラインだって入れているんだぞ。」
「わ〜!じゃあ交換しましょう!」
今まで白銀はスマホ不要論を唱えていた。
と言うのも、スマホ代の高さがネックになっていたのだ。
その白銀も近年の通信費の低価格化を皮切りに、漸く重い腰をあげる。
「俺も交換しておこう。」
「じゃあ僕も...」
藤原に続き八雲、石上とラインを交換する。
「これで今度から予定を送れるな。」
「お前から予定送ってくる事ないだろ。」
「いや、まぁそうかもしれんが。大抵八雲が予定立ててるしな。」
生徒会には基本的に休日がない。
だが生徒会のメンバーは何かしらの理由で休む日が出てくる。
それゆえ全員が休まないよう簡単にシフトを組む事が必要だ。
その役割を八雲が担っている。
「それでも連絡が簡単になるだろ?」
「まぁ白銀に連絡したいなら圭ちゃん経由で事足りるぞ。」
「え...圭ちゃんとラインしてんの?」
知らぬ間に妹が男と仲良くなっている。
「会長気を付けて下さい。この男殺した方が良いかもしれませんよ。」
「いや、殺しはできないだろ...」
石上の目は憎悪に満ち溢れていた。
彼はリア充を殺す事を生き甲斐にしている。
「かなり前からしてたが知らなかったのか。」
「...だって圭ちゃんラインしてないって言ってたのに...」
白銀圭は現在反抗期真っ只中である。
兄に自分の交友関係を知られるのは恥ずかしいのだ。
「嫌われてるだけだろ。」
だが八雲がそんな事情を汲む筈がない。
的確に白銀が傷つく言葉を突き刺す。
「八雲先輩、会長のこと泣かせないで下さいよ。」
「何で泣くんだよ。...お前シスコンか。」
白銀は重度のシスコンである。
妹に嫌われているという八雲の言葉を受け入れられない。
思わず涙目になり、石上のフォローが入る。
だがその程度で八雲が追撃を怠る筈がなく。
戦艦白銀を撃沈させにかかる。
「気付いてないようだから言うがな、お前実はファッションセンス皆無だぞ。高校生であれはない。」
「本当に?」
「本当に。」
白銀のセンスは中学二年生で止まっている。
そもそも、中二以降に服を買う機会が無かったのだ。
それにしても、ダサいと気づかない当たりセンスがないのは間違いないだろう。
「そんなに疑うなら石上に聞け。まぁお前が泣くだけだろうがな。」
「そうなのか石上...?」
「ええまぁ、隣を歩きたくはないですね。」
「そんなにっ!?」
そんなにである。
「そうなんですねー、子供の頃はそうでもないのに。」
「時というのは残酷なものだ。白銀がいい例だな。」
「子供の頃?藤原さんは会長とお知り合いだった訳じゃないですよね?」
四宮は白銀の生まれてからの出来事を全て調査している。
その気になれば10年前の今日、何を食べたかも知ることが出来るのだ。
何故そこまで調査しているのかは疑問だが。
当時調査を命じられた早坂は主人の脳を疑った。
白銀の調査より主人の健康診断が先じゃないのか。
「いえ、会長のアイコンの子供って...」
白銀のラインのプロフィールは子供の時の写真だ。
その頃はまだ普通の服を着ている。
「それは小さい頃の俺だな。」
「やっぱり!小さな頃から目つき悪ーい!」
八雲が意図的に傷つけるのに対して、天然で刺す藤原。
タチの悪さで言えば本物の方が勝っている。
「それは少しコンプレックスだから触れてくれるな。」
「お前コンプレックス感じられるのか。」
「露骨に食いついてきた。」
八雲の頭は疑問で埋め尽くされている。
白銀は本当にコンプレックスを感じられるのか。
彼は今までにも白銀の苦手分野を解決してきた。
だがその全てにおいてコンプレックスを感じていなかった。
目つきより先に恥じる事はあるだろう。
「じゃあ何でアイコンにしてんだよ。他の写真に変えないのか?」
「そうだな、少し恥ずかしいし変えるとしよう。三分後に変えよう。」
三分後というワード。
例の如く四宮を釣るための罠である。
自身のIDを聞いてこない四宮への牽制。
普通に聞けば良いのではないか。
グループを作ろうと言えば済むのではないか。
彼にはそのような知恵は無かった。
「あぁ...お前、成長しないな。」
「ん?」
当然わざわざ強調された三分により八雲も策に気づく。
今までは人間とは成長する生き物だと思っていた。
白銀によりその考えは否定されたのだ。
「藤原、白銀って人間だと思うか?」
「何の話ですか!?人間ですよ!」
白銀は成長しない人間のようだ。
「四宮先輩は...ヒッ!?」
石上は四宮に交換しないのかと善意で尋ねようとした。
だが余計なことをするなと睨まれ震え上がっている。
「どうした石上。四宮に脅されたのか?」
「失礼な!私はちょっと石上君のことを見ただけです。」
「見ただけで人を怖がらせるなんて四宮は流石だな。是非俺のことを見ないでくれ。」
石上に寝返られることはあれど四宮よりは優先度が高い。
ましてや睨むだけで人を恐怖に陥れる人間を弁護するなど不可能。
目つきが悪いとか見た目が怖いとかでは無いのだ。
人間性が目線に滲み出ているのだろう。
救いようが無い。
八雲が裁判官なら終身刑待った無しである。
「大体なんでそんな目をしてるんだよ。人の殺し方でも考えてんのか?」
「...」
「なんで何も喋らないんだ?殺すなら石上にしてくれ。」
「先輩!?」
人の皮を被った殺人鬼が計画を企てている。
八雲は石上を盾にした。
「違いますよ!」
「じゃあ何でそんな怒ってんだよ!あれか、俺が白銀のアルバム見たのがそんなに癪だったのか!」
「「えっ!?」」
何故人は失敗を犯すのか。
大抵冷静でいられてない時はよく無いことをしでかすものだ。
八雲もまた、自身の生死の分かれ目につい動揺してしまった。
「どうした?俺が何か言ったか?それより今日の放課後の会議について話そうじゃないか。」
「無理があるだろ。いつ見たんだ?」
「そうですよ。何で見たんですか。」
八雲は無かったことにしようとした。
だが誤魔化すには致命的なほど顔から冷や汗が出ている。
「...見てない。」
「もう無理ですよ先輩、自首して下さい。」
石上は先程盾にされたのを覚えている。
躊躇なく八雲を売り飛ばした。
「し、四宮、俺たち友達だろ?」
「いえ、友達になりたいなら気持ちが必要ですよね。」
強欲な女だ。
だがある意味扱い易くもある。
望むものを与えれば良いだけだ。
「四宮、今度アルバム見せてやるよ。」
今四宮にとって最も価値が高いのはアルバムだろう。
別に見せたら減るものでもない、大人しく見せてやる。
「それだけですか?」
「圭ちゃんのアルバムもつけてやるよ。だから助けろ。」
「先輩なんでこの立場で強く出れるんですか。」
この状況でも自分の立場が上だと思っている訳ではない。
素でこうなのだ。
「それなら良いでしょう。」
「それは良かった。お前が簡単な女で助かったよ。」
「はい?」
石上が正気を疑う目で八雲を見ている。
「石上、今度サッカー部の部費減らしといてやる。」
「先輩、一生ついていきます。」
「そんなので良いんだ。」
石上は自身の幸福より他人の不幸を願える男だ。
彼ほどの逸材はそういまい。
「これで邪魔者はいなくなった。」
「言ってること完全に悪役じゃねーか!」
買収の時点で悪役である。
「大体何に怒ってるんだ。アルバム見ただけだぞ。」
「いや、何にも怒ってはいないが...いつの間に見たのか気になっただけだ。」
勝手にアルバムを見られるのは人によっては絶縁までいく問題だ。
それを怒ってないなどあまりにも寛大すぎる。
この調子なら来年あたりには全員が仏の生まれ変わりである白銀を崇めるだろう。
「怒ってなかったのか。それは良かった。じゃあもう今日は怒らないよな?」
「いや、まぁ何もなければ怒ることはないが...」
言い終わるや否や、生徒会室のドアが開く。
「八雲さん!!何ですかこれ!」
「!?捕まえろ!」
八雲は窓から飛び降りた。
◇
「早坂はずるいだろ...」
「念の為外で待機してもらっているんです。」
「どんな労働環境だよ。」
窓から飛び降り着地するも、そこには罠が仕掛けてあった。
おおよそ日本にあってはいけないレベルの恐ろしいものだ。
別に元から仕掛けてある物でない。
八雲が生徒会室にいるときだけ早坂が仕掛けているものである。
「私も思います、女子高生に狩猟用の罠を仕掛けさせる人間がいますか?」
「今すぐ帰ってくると良い。ついでにこの拘束も外してくれると助かる。」
罠に掛かった八雲は同じく窓から飛び降りてきた四宮に縄でまかれた。
ミイラよろしく簀巻きにされたまま秀知院を連行される。
周囲の人間に奇異の目で見られているが秀知院二大関わりたくない人物の八雲と四宮には関係ない。
唯一早坂だけが俯きながらついて来ている。
簀巻きにされている八雲より悲しい顔をしているのは何故なのか。
「連れて来ました。」
「捕まりました。」
四宮が捕まえたことを報告すると一同が湧いた。
「何で逃げたんだ?」
「いや、なんか圭ちゃんが怒ってたから...」
嘘である。
この男、圭が怒っている理由を知っているから逃げたのである。
「嘘ですよね?」
「嘘じゃないよ...」
あの八雲に覇気がない。
それは圭からすればいつもの事。
しかし先程までの八雲を見ている四人はドン引きである。
こいつそんなに嫌われたくないのかよ、と。
「圭は何で怒ってるんです?」
「その...八雲さんが私のファンサイト作ってて...」
「先輩...」
ドン引きから軽蔑の視線に移行する。
「違うんだよ、下衆共が圭ちゃんの事噂してて...早めに制御しとかなきゃって...」
「先輩すごいっすね。被害妄想とかそう言う次元の話じゃありませんよ。」
白銀圭は中等部にて絶大な人気を誇る。
その為中等部生徒に言い寄られることも少なくない。
八雲はそうした害虫を駆除するのに、一纏めにする場所としてファンクラブを作ったのだ。
会員は既にブラックリストに載っている。
「もう解体してくださいね!」
「でも解体したらせっかく捕まえた虫が...」
「今人のこと虫って言いました?」
これでも優しく言った方である。
「八雲お前...」
「白銀お前は怒れないぞ!さっき約束したからな!」
「何もなかったらとも言ったがな...」
これは何事もないと言えるのか。
妹の非公式ファンクラブを友達が運営しているのを何事もないとは言えないだろう。
「八雲さん、あなたがそんな人だとは..」
「おいおい四宮、そうはいかないぞ。」
強烈に嫌な予感がする、四宮かぐやは16年間培って来た経験でそう感じた。
この男はただで死ぬほど潔い男では無い。
恐らく自分に不都合なことを言い、道連れにするつもりだろう。
だが問題ない。
例え何か問題を犯したとしても、この男の耳に入る事の無いよう最大限注意は払ってきた。
はったりに決まっている。
「お前、ファンクラブの会員らしいじゃないか。」
動悸が止まらない。
なぜこの男はそのことを知っているのか。
決して足の付かぬようにして来たはずだ。
このことを知っているのは自分と一緒に見た早坂だけ...早坂....
四宮は早坂を見た。
早坂は目を逸らした。
「四宮先輩...」
「四宮...」
「違うんです!これはあくまでこの男の開いたサイトを調査するためにですね!」
醜く命乞いをする二人組が完成した。
「二人とも、もうこんなことしないで下さいね!」
「「...」」
「妹さん、多分この二人反省して無いですね。」
二人は目を見合わせる。
何故あの男は要らぬことを言うのか。
あの根暗な男から〆る必要があるだろう。
「もうっ、そんな目をしてもだめですよ。」
「そんな目ってどんな目?」
「八雲さん!」
ふざけながらも石上を見る目は変わらない。
石上が帰ろうとしているが早坂に阻止されている。
あの女は最低限の忠誠を持っていたようだ。
決して四宮から溢れ出るオーラに気づいたからでは無いだろう。
「ちょっ、何で捕まえるんですか!?」
「良くやった早坂。俺は初めてお前がいてよかったと思ったよ。」
「ええ良くやったわ早坂。そのまま捕まえておきなさい。」
自らが捕まっている事を無視して他人に指示を出す。
誉高い生徒会室に拘束された人間が二人生まれた。
「ちなみに会員数はどれくらいなんですか?」
早坂に雁字搦めにされた状態でも聞いてくる根性は他のことに活かせないのか。
「この前見たら1000人はいたな。」
「へー、すごいですね。どうやってサーバー維持してるんです?私費ですか?」
「いや、会費を取っているぞ。一万円を端金と思っている馬鹿どものおかげで助かっている。」
非公式ファンクラブにしては中々の値段だが金銭感覚のいかれた秀知院ではこれぐらいが丁度いい。
「あの、一応聞いておくんですけど...」
恐る恐るといった感じに疑問を投げかけてくる。
彼が余計なことをするのはなぜなのか。
そういったところがモテないのではなかろうか。
「もしかしてこれ、利益でてます?」
「出てるぞ。」
もはや隠そうともしない八雲。
「え゛...いくらぐらいですか?」
「お前一人養うのは容易いぞ。」
白銀圭のためならいくらでも貢ぐ男はいるのだ。
だが悲しいかな、その金のほとんどは八雲に回収されている。
その金が回り回って圭に使われることもあるが、それで良いのか。
「今からでも僕が幹部って事になりませんか?」
「お前のクズさを再確認した上で言うが無理だ。」